4話「喧嘩」
強い光を感じる。頭の後ろには暖かく柔らかい枕ではないものがある。
俺は重たい瞼をゆっくりと開く。
「りく、大丈夫?」
優しい声が顔の真ん前から聞こえてくる。その声を聞き意識がはっきりした。
そして気づいた。今の状況に。
「おい、愛莉。なんで膝枕してるんだ。」
俺が抑揚のない声で言うと愛莉は顔を赤くし俺の頭を投げた。そして勢いよく俺はベッドから落ちる。
「イッタッ!いきなり何すんだよ。」
「りくが悪い!」
「はぁ?なんだそれ。」
俺は頭を撫でながら上半身を起こす。
「えっと…」
俺は気絶する前の記憶を思い出す。
「とりあえず何で俺の部屋に?」
俺の記憶が正しければ俺は愛莉の部屋の前で気絶したはず。しかし今、俺の周りには見慣れたラノベ、マンガ、DVDが散乱している。
「もしかして運んでくれたのか?」
俺がそう聞くと愛莉は頬をピンクに染め言う。
「うん。」
俺は立ち上がり、愛莉の視界を隠すようにし言う。
「ありがとう。」
愛莉は嬉しそうな表情をする。
「そして今すぐ部屋から出ていけ。」
愛莉は激怒の表情をする。
そして腹に拳を入れた。
「うっはぁ!!」
俺は床に転がってもがく。
「お前、少女のくせに力が強すぎなんだよ。」
すると愛莉はベッドから降り立ち言う。
「はぁ?それが好きなアイドルへの態度?もういいわ。次のライブからりく立ち入り禁止にするわ。」
俺は顔色を変え言った。
「あのな、別にお前の事が嫌いで出てけって言ったわけじゃないだよ。…周り見てみろ。」
俺に言われ愛莉は辺りを見渡す。
壁にはMainのポスター。
床にはMainのCD。
そしてベッドにはなんと『あいちゃん抱き枕』があった。(手作り)
愛莉はそれを見た瞬間、何かヤバイオーラを放ち始めた。俺は慌てて言う。
「だ、だから言っただろ。お、お願いだからもう終わりにしてご飯にしよう。なぁ?」
俺は冷や汗が止まらない。愛莉は怒るとマジでめんどくさい。
必ず次の日は全身筋肉痛になる。
どうにかその日は許してもらえ、何事もなく明日を迎えた。朝食を済ませ身だしなみを整える。愛莉はもう先に出ており俺は少し焦りながら靴を履く。
そういえばあの抱き枕についてはどう思ったかは知らないが一応、押入れの奥にしまった。
そして俺は今日から『あいちゃん』の兄となって学校に向かった。
遅刻ギリギリで。