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曖昧な5日目 3

5日目終了です。


泣くんなら、やっぱりこう、古典的に、行きたいとは、思いませんか。


「う、みー……」


自分の家とは反対方向の列車に乗って。 2時間。 辺りはすっかり真っ暗だ。

いやね、やっぱり海のバカヤローって叫んでみたいと思って。 でも流石に時間も時間なので自粛。

暗い暗い色をした波が、まるで布のみたいに、ゆらゆら揺れている。 まだまだ寒いなと手をさすりながら、テトラポッドの上から空を見上げた。


「おかーさん、驚いてたなぁ。 まぁ、良いか」


電源を切った携帯を見て苦笑する。 比較的にイイコちゃんだし、家族とはよっぽどの事でもない限り喧嘩もしない。 「コレって『非行』だよね」と小さく口にする。 さっきから独り言が多いのは誰もいないからだ。 誰かいたらこんな恥ずかしい事しやしない。 悶絶ものだ。

波の揺れる音、重たくのし掛かる雲、通り過ぎる風も、何だか世界の全てが冷たくて、鼻先がつんとした。 気付いたら、ポロポロと、目から海が出てきた。


「あ、ほらし……。 なに、やってんだ、か…………」


流れる海はテトラポッドと赤いマフラーに染みを作る。

私にどうしろって云うのかな。 あの状況で彼女の振りしておけって? 笑っておけって? そんな事、できないよ。 苦しいよ。

あんなキタナイ事思ったのに、にっこり笑って君の隣に居れる程、私図太くないよ。苦しい、苦しいよ。

どうしてあんなこと思ったんだろ。レイカさん傷ついてたのに。同じように諦められなくて苦しんでたのに。

どうして。

あぁもう。苦しくて苦しくて身動きできやしない。


(こい)に溺れて、もう、息も出来やしない。


「す、きだ……よ。ばー、か」


叫ぶ事はもう出来ないけど、呟く事なら、許されて欲しい。 そう思う事も、いけないのだろうか。

レイカさんの傷付いた顔が、ぐるぐると回って、それに対して自分がどう思っているのかも解らないぐらい頭の中がゴチャゴチャしてる。 でも、それでも良かった。 訳が解らないままでも良かった。


だって解ってる。


流れる(なみだ)の意味なんか知ってしまったら、まだ諦められない自分に幻滅するって、解ってる。

だから知らない。解らない。もう、これは本能なんだ。

泣きたいから泣くし、苦しいから叫ぶ。愛しくてしょうがないから、だから愛する。

これはきっと、本能だから。だから泣いてるんだ。


「ひ……く、ぅ……も、なん、だ、ろ……これ……ひっ。は、は……キャラ、と、ひぅっ違っ……」


しゃくり上げる自分があんまりにも、女の子っぽくって笑いが漏れた。


「お前は泣いてんのか笑ってんのか、どっちなんだよ」

「うぇ、っく……は、ぁ? ……ぅわ、なん、でっ」


いきなり話しかけられて、びっくりして振り向いた。そしてすぐに下を向いた。

な、なんで、居るかな?誰にも居場所なんか云ってないのに?!


「『神のお告げが、愛の壊れる音が聞こえます! これはいけません。 さぁ貴方は何をぼさっとして居るんです? 早く助けに行きなさいっ』 って電話があってさ。 お前アイツが見てるの気付かなかったのか? 」

「ぜ、んぜん、気付か、なか、た」

「切符買うとこ見てたって云うから相当近くにいたと思うぞ。 まぁだから此処が解ったんだけど、な」


すとんと、私の隣にあったテトラポッドに腰を下ろした奴は私の事をじっと見ている。 私はその視線に耐えられなくって膝の間に顔を埋めた。

レイカさんはどうしたのとか、場所が解ったからって別に来なくて良いじゃないかとか、また頭の中がゴチャゴチャしてて、暫く、出来る限り声を殺して泣いていた。


大分落ち着いてから、隣をちらっと見てみた。

遠くの海を見詰める横顔はやっぱり綺麗で、あぁ好きだな。 とまた(こい)に溺れていく感覚を自覚する。

それでも良い、と思ったのは何時?

もう、耐えられないと思ったのは、ついさっき。

それでもまだまだ沈んでいく自分に、やっぱり幻滅してるのは、今。

頭を膝に間に再度埋めてから、聞いてみた。 数時間ぶりに喋る声は引きつっていて、喉がひりひりした。


「レイカさん、は」

「ん? あぁ、帰らせた。復縁もしてない」

「さ、むい? 」

「そらな。 お前も寒いだろ」

「へ、いき。 早、く帰った、ら? 」

「お前は帰るのか? 」


なんだか、非道く優しい云い方だなとぼぅっと思った。 辛い時に優しくこんな甘い空気醸し出されるなーんて、流石すぎでしょ。 こんなだから女の子は引っかかるんだろうか。 そんな事を思いながら小刻みに首を振った。 帰るんならお1人で。 大体こんな顔で駅をうろついたり出来ない。

まぁすぐに帰るだろうと思っていると、頭に何かが乗っかった感触がした。 それはゆっくりと私の頭の上を動く。 まるで慰めている、みたいに。


「お前と一緒に帰るって、おばさんに云った手前、1人で帰れる訳ないだろうが」

それから、ゆっくりと、私に覆い被さる、大きな、熱いモノ。


「此処で、お前を待つよ。 帰りたくなるまで、傍にいる」

「な、んで・・・・・・っ」

「お前が好きだ。それ以外に、理由なんてない」


それは非道く甘く、鼓膜を震わせた。

頭が真っ白になった。

記憶が飛んだ。

思わず馬鹿みたいに口が開きっぱなしになった。

そして私の思考は冒頭へ帰る。



で、何がどうしてこうなったんだっけ?


今、私を覆っている大きくて熱いモノって、ナニ?




あまり意識していなかったのですが全部で7日になりそうです。

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