曖昧な5日目 2
名前がないと予想以上にキツイです。ヒロインだけでも作ろうかな。
眉根を寄せた綺麗なお姉様と、幼馴染みのイケメンに挟まれて、私は今、スタバにいます。
話に聴くレイカさんを実際に見るのは初めてだったので思わずしげしげと観察してしまう。 長い睫に薔薇色の頬。 モデルばりの美しさでさっきから店内の男性の視線はレイカさんに釘付けだ。
全く、本当に毎回毎回思うけど、どうやってこんな綺麗な人をゲットしたんだこのタラシは。と呆れながらもアイスティーを啜る。
店内の視線は店員さん含め、このテーブル一直線だ。だってこの図は明らかに、こう、修羅場的だし。私が第3者だったらやっぱり見ちゃうし。 でもできれば見ないでほしい。
私の右側にいる馬鹿は、無言でコーヒーを飲んでいる。 レイカさんは運ばれてきたレモンティーに手も付けずに元彼氏を睨み付けている。 2人の間には嵐が渦巻いていて、何故か私は、その真ん中にいる。
「2人は、付き合っているのかしら?」
「え?いいぇ 「そうだよ。今日はなんでわざわざ呼び止めたりしたんだよ」
「……な……!だって、だって私、私は貴方がっ」
「そんな事云われても、俺はもう別にレイカを見てる訳じゃないから」
ちょっと待て。私の返答まるで無視? しかもコイツ速攻で嘘付いたよ。 付き合ってないよ! コイツ今フリーです! フリーなんですよと周りのギャラリーに云いたい。 寧ろ叫びたい。 明らかに 「あの美人からあのイケメンを奪ったのがアレ?! 」的な顔だよ! 無理だよ! と心中では大絶叫だ。
お願いだからもうほんとこっち見ないでクダサイ!
しかし無情にも私の願いは届かずだんだんと周りのテーブルの囁き声が大きくなり私の耳にもちらほらと飛び込んでくる。
「略奪愛か」「うそー! 明らかあっちのがブスじゃん」 本当そうだよ。アリエナイ! てかコラ、そこで今ブスとか云った奴表出ろや表ェ! と内心で怒ったり冷や汗を流しまくったりしていると、全ての元凶が口を開いた。
「大体、俺の愛を信じれないって云ったのは、そっちだろ」
「そ、んな・・・」
ぐっとレイカさんが唇を噛み締めた。 うーん、修羅場って初めて見たけど、本当に居たたまれないな。 と一応彼女役だというのに緊張感無く思ってしまう。
ふと、どうして私はこんなに冷静でいられるのだろうかとぼんやりと考える。
いつもの私なら此処であの馬鹿の頭を思いっきり叩いて「謝りやがれこのやろう! 女の子はなぁ、総じてみんなデリケートなんだよ!! そりゃあもうプリン並に傷付いちゃうんだよ! プッチンに失敗するよりも惨たらしい事すんな! 」とか云ってしまいそうなのに(なんでプリンなのかというと、ブスとか云いやがったテーブルにあったからだ)。
なんでだろう、と思ってから、ハッと気が付いた。
今にも泣き出しそうなレイカを見て、多分私は今 「ざまぁみろ」 て、思ってる。
それはあまりにも衝撃的で、あまりにも納得出来た。
なんて、汚いんだろう。 なんて薄汚い、浅ましい感情。
今彼が『彼女』と私に云っているのはこの場を切り抜けるための仮初めでの物で、決して私の物になったりしない、の、に。
憧れて憧れて、焦がれて焦がれて、欲しくって欲しくって、でも、決して私の所には来たりしない。
貴方の所へは来たんでしょう?それが例え遊びだったとしても。
数ヶ月でも、彼を自分のモノにしたんでしょう? それが例えカネヅルだったとしても。
汚くって、浅ましくって、本当に嫌になった。 グルグルと渦巻くのは、激しい嫌悪。 最低な自分への、とっても醜くて汚い感情。 目の前ではレイカさんが何か云っていて、アイツが淡々と答えてて。 何て云っているのかなんてもう、頭に、耳に、心に、入ってこない。
「ねぇ、もう、もう、無理、なの……? 私、私っ、貴方を忘れられないの……」
「何度も云うけど 「お前はいい加減黙れこのタラシ」
今自分が何て云ってるのか、もう解んない。 唯、此処から今すぐ逃げ出したかった。
「あんたは、人を利用すんな。 私はあんたと同じクラスで、変える方向が一緒の唯の幼馴染みであってそれ以上でもそれ以下でもない! 逃げる為だけに勝手に彼女にすんな馬鹿っ。 後、何度も云うけど女の子は繊細で傷付きやすいんだからもうちょっと言葉を選べ! 代金は全ての元凶であるあんたが払え。 以上! 」
「うわ、相変わらずのマシンガントーいってぇ! だ、か、ら、蹴んなって云ってんだろうがっ」
「脚が滑った。 帰る! 」
店内の視線を十二分に浴びて普通に出て行った(店員さんも良く聞いていたらしく、お金を払わず帰る私に何も云わなかった)。
あの2人が又くっついたらどうしようとか、アイツ弁解するの大変だろうなとか、これからどうしようとか、思う事は一杯で、頭の中ゴチャゴチャしてて、なんだか、なんだか急に、
「やばい。 泣きたい」
雑踏の中で、心の中の醜さに引きずられた様に顔が歪んだ私に、誰が気付くというのだろう。
そして続く。




