曖昧な3日目
結論、貢ぐことにしました。
結局、私はコンビニでバイトを始めた。
笑いたければ笑え。 私は貢ぐ。あぁ高らかに宣言してやろうとも(誰にだなんてツッコミは、ゴミ箱ポイだ!)!
だいぶ板に付いてきたレジ打ちを着々と進める。 飽きっぽい私にしては、2ヶ月もよく持ったもんだ。
店長さんや先輩もいい人で、結構楽しい。 貢ぐ貢がないはおいといて、それなりにお給料も貰っている。 若い女の子が憧れる様なロマンスなんて、欠片もないけれど(店長は40代の普通のオジサンだし、先輩は若い女子大生とオバサマ。別のバイト君はシフトが違うから会った事がない)、それについて何かを云う程、私は贅沢者じゃないから気にならない。
現実ではロマンスどころじゃなくて、貢いでいるからなんだけどね!
ピークも過ぎてお客さんが居なくなってから、レジから離れて商品の補充に行った。
一応A型だから、気になってしまう。特に、立ち読みされた後の雑誌が。
立ち読みは別に良い。 でも、もう少し綺麗にして行けよなぁ。 などとグチグチ考えながら直していると、この時間帯にしては珍しく自動ドアの開く音がして、条件反射で『いらっしゃいませ』と挨拶する。 何気なくドアの方を見て、その次の瞬間バッと顔を背け、即座にお菓子コーナー(死角)に逃げた。
いやいやいやいやいやいや、ないないないないないない。
だってあれだ。 アイツは今日グラマーなセレブ大学生とデート中のハズだ(顔とカラダと金回りは良いんだけどなぁ。 性格がなぁ……。ウザイ。 とかぼやいてたのはつい先週だ)。
「驚いた。 本当に店員やってるんだな。お前」
「お客様ぁ、何かご用がおありでしたらぁ、あたしぃ、アルバイトなんでぇ、カウンターの方へ お願いしますぅ」
うぅ、自分でやっといてなんだけど、気色悪い。 私はなるたけ高い声を出してクラスのギャルっぽい女の子の口調を思い出していた。 『超無理なんですけど―! マジキモイー! 』 が口癖のクラス1のギャルだ。 そんな私の必死の隠蔽工作をアイツはハッと鼻で笑うと後頭部にいきなりデコピンをかましてきた。
「語尾伸ばすなよキモチワリイ。 つーか、アルバイトだろうが何だろうが職務放棄かよ。 そんなんで給料貰って良いのか。 俺に寄越せ」
「うるさいな(云われんでもアンタ用だ! )。 こちとら必死でお仕事中なんだから邪魔しないでよ! 」
「どこが必死なんだよ。 売り上げに貢献しにきてやってんだろうが。 喚くな」
この憎いあんちくしょうは、ニヤニヤ笑いながら私の店員服を眺めている。 畜生、背高いから見下ろされてるだけじゃなくて『見下されてる』様な気がして腹立つんだよなぁ!
「つーかレイカさん、どーしたのさ」
「あー、めんどいから別れた」
「……それで泣かれてウザかったから、取り敢えず自然消滅狙ってるって、確かアンタ一週間前に云ってたよね。 あら?私の記憶違い? それとも幻聴? 」
「いや、今回も泣いた。 だから振り切って逃げてきた」
「……(女の敵だなコイツは!)呆れた。……で、何をお求めでしょーか、お客様?」
「腹減ったから、なんか食いに行こーぜ。 昼まだだろ。 奢ってやるよ」
一瞬の空白。 脳みそが上手くその言葉を租借できなくて、多分3秒ぐらい、思考が停止した。
今までコイツは私に奢ってやるといったことなんかあったろーか。 いやない。 一回もない。 え、なにこれ、何のフラグが立ったんだコレ。 人生のロスタイムとかか。
「…………は? どしたの、急に。 え、熱でもあるの? 」
「失礼なヤツだな。 その制服の似あわなさ加減に免じて、奢ってやろうと思っただけだよ」
確かにオレンジのエプロンは、明るすぎて私には似合わない(分かってても人に云われると腹が立つのは、何故なんだろう! )。
もし、私が此処で断ったら、コイツはどうせ、テコでも動かず営業妨害をするだろう。 そういう男だ(人の不幸を楽しみやがって! )。
ながーくふかーい溜息を吐いて決断する。 しょうがない(そう、しょうがないのだ)。 先輩に云って融通して貰おう。 どうせもう残り30分だし、ピークは過ぎて居るんだし、店長も奥にいるはずだし(確か事務作業中)いいんじゃないかな。 いいだろう。良いとは思うのに、どうしてこんなにも云い訳がましく思えるのだろうか。
宣言しておくけど、これは事実であって云い訳ではないんだよ! などと思いながらスタッフルームへ。 けっして急ぎ足になんかなったりしないように、ゆっくりと歩を進める。
「ちょっと、写メるなそこ! 珍獣じゃないんだから。 自分でも似合わないの分かってんだよこのやろう」
「ってぇな、殴んなよ。 もう取ったし。 待っとくからさっさと行ってこい」
「死ね女の敵! 今までの分さんざん奢らせてやるから、覚悟しとけチャラ男っ」
へいへいと手を振るヤツを横目に、カウンターの先輩に事情を説明して抜けさせて貰う。
「なに、彼氏なの? カッコイー。 あんたも若いわねー」
「違いますよ、 」
苦笑いをするしかない。私はどうせ、アイツの彼女には、なれないのだから。
「唯の、幼馴染みの腐れ縁です」
願わくば、いつかこの立場を変えられるような勇気が、身に付きます様に。




