第7.5話 閑話 とあるギルドマスターの野望
俺の名はテオ……
アイン・ギルドマスター・テオだ。
まぁギルドマスターとか言ってもその実態は地方支店の支店長って感じだ。
俺もかつてはA級冒険者として幾つもの功績を打ち立てた(誇張)、その輝かしい経歴を引っさげて生まれ故郷のアインの街に戻りギルドマスターに就任した。
しかしこの街は生まれ故郷であることは確かだが、ここには5歳までしか住んでいなかった。
当然この街には親も親戚も友達すらいない。
そんな俺を知る者のいない街に、三十代中盤で権力を持ち未婚の男がやってきたらどうなるだろう?
いろいろな奴が居るだろう、街をより良くする為に尽力するヤツ。
私腹を肥やすために悪事に走るヤツ。
何もせずに腐っていくヤツ……
俺はそのどれでもない! 俺は! 俺は!!
俺は堕落した……
そもそもグランディア王国にギルドなんて必要ねーんだよ。
持ち込まれる依頼だってお使いレベルのモノばかり、屋根の修理とか、庭の草むしりとか、犬の散歩とか……
一番マトモでも盗賊からの護衛とかその程度だ、元A級冒険者の俺が管理するようなものじゃない!
まぁ、元A級冒険者とか言ってるけど、ぶっちゃけるとA級クランの荷物持ちだったんだがな。
もちろん俺の運んだポーションのお陰でリーダーは生命を救われたことがある、つまり俺がいなければA級クランのリーダーは死んでいたってことだ、それはひとえに俺がA級クランを救ったってことだろ? だろ?
そんな輝かしい経歴を持つ俺は、事件らしい事件が起こったことがないこの街で俺の好きにギルドを運営しても良いんだよな?
良いに決まってる!
改革だ! この退屈な街の退屈なギルドを俺色に改革してやる!!
俺が真っ先に手を付けたのはギルド加入試験の導入だ。
支部によっては筆記試験に実技試験、面接なんかあったりもする。
だがアインギルドは手数料と必要経費12000ディル払えば誰でも冒険者になれた。
コレはよくない、未熟な者に資格を与え、モンスターに挑み死んだら……
グランディア王国でそんなことを気にするだけ無駄かもしれないが、俺に責任を求められるなど真っ平だ。
ギルドの交付金と技術支援で試験用モンスターを1匹用意できるらしい……
俺の好みを設定できるそうだ…… ならば俺好みのモンスターを生み出してもらおう!
技術者に俺の思い描く能力を伝える、すると技術者達は途端に協力的になった。
それから1年に及ぶ試行錯誤、トライ&エラーを繰り返し、とうとう世界に1匹だけのエロモン…ゲフンゲフン! 試験用突然変異スライムが爆誕した!
今でも初めてアイツに会った日のことは忘れない……
「ようやく会えたな…… よく来てくれた!」
『…………』グジュルグジュル
「お前の名前を決めないといけないな?」
『…………』グジュルグジュル
「ゼリーのような透き通るボディに痺れ属性……」
『…………』グジュルグジュル
「決めた! お前の名前はサワージェリーだ!」
『…………』グジュルグジュル
「そうか、嬉しいか?」
『…………』グジュルグジュル
「お前はこれから数多の女受験者の服を捕食していく事になるだろう、お前の働きに期待しているぞ!」
『…………』グジュルグジュル
俺達は訓練とシミュレーションを欠かさなかった、その過程で俺は何度も捕食されて全裸にされた。
何度も捕食されると快感になってくる……
あぁ、この調子だ、今にこんなおっさん臭い服じゃなく、もっといい匂いのする服を食わせてやるぞ?
だが…… そこからが長かった。
試験を受けに来るのは6割が男、お前らはお呼びじゃない!
1割は女なのだがゴリラみたいな筋肉質女だったり、子育てを終えたオバちゃんだったり、単純にブスだったり…… 要するに好みじゃないんだ!
そして残り3割は……
試験内容を聞くと隣の町まで冒険者資格を取りに行ってしまった……
迂闊!! その手があったか!!
試験導入から10年…… サワージェリー君はいい匂いのする服を食する機会に恵まれなかった……
そして俺は40代半ば…… 加齢臭が気になる年頃になってきた。
最近捕食される機会が減ってきた気がする、やはり加齢臭が気になるのだろうか?
サワージェリー君はこのまま一生いい匂いのする服を食べられないんじゃないだろうか? そんな不安が胸をよぎる!
その為に生み出された生命なのにオッサンの服しか食えないとか不憫過ぎる!
こうなったらギルドの受付嬢にボーナス払って喰われてもらおうかな?
そんな事を本気で考えていたある日……
奇跡が起きた!!
「女の受験者?」
「はい……」
俺に報告に来たオペレーターのキャシー君は俺と目を合わさずにそう答えた。
彼女が俺を見る時の目は常にゴミクズを見る目をしていることを知っている。
もう馴れたものだ。
「年齢は?」
「………… 15歳です」
「!!!?」ガタッ
お、お、お、落ち着け!! 喜ぶのはまだ早い!
「キャ、キャキャキャ、キャシー君!」
「ギルマス…… 動揺しすぎです、キモいです」
「どどどどど同様なんてしてない!!」
お、落ち着け、素数素数!
…………
素数ってなんだっけ?
よし、落ち着いた!
キャシー君が持ってきた受験者の書類を見る…… 今度から顔写真添付を義務付けるかな?
「? レベル1?
キャシー君、世の中には付いていい嘘といけない嘘がある、私を謀って楽しいのか? ねぇ? 楽しい?」
「えぇ、それはスゴく楽しそうですね? でもそれは事実です、私も驚きました」
本当にレベル1? 15歳でレベル1?
何かの病気……だったのなら有り得なくもない……か。
「キャシー君…… キミの主観で構わない、受験者は…… 可愛いか?」
「こんなこと言いたくないですけど…… 1000年に一人レベルの美少女です」
「~~~ッ!!!!」
思わず拳を高く突き上げる!
「ギルマス…… なんですかその生涯に悔いなしみたいなガッツポーズは?」
「な……なんでもない、虫がいたから殴っただけだ」
「はぁ…… そうですか」
よし! バレてない!
「では私は準備があるので……」
「待たまえキャシー君」
「………… 何か?」
「コホン、キミが潔癖症の気があることは知っている、疑問なのだが…… キミはこの少女のことを止めなかったのかい?」
「もちろん止めたに決まってるでしょッ!! でも彼女にも急ぎの事情があったみたいで……」
ビ……ビビった! 急に怒鳴るんだもん! ドキドキ
「そ……そうか、うむ、もう下がってよい」
「ちっ…… 失礼しました」
キャシー君は舌打ちを残して去っていった。
いや、彼女のことはどうでもイイ!
「フッ…… フフフッ! ついに来たぜこの時が!!」
カーテンの中に隠してあった秘密のヒモを思いっきり引く。
「設置してから早10年、もうコレを使う機会は訪れないかと思ってたぜ!」
ヒュルルルルル~~~…… ドーーーンッ!!
祭りを知らせる花火が打ち上がった!
―――
――
―
闘技場は既に超満員! この日を今か今かと待ちわびた男たちで溢れかえっている!
中には女性の姿も見えるが大体がキャシー君と同じ目をしてる。
その時、開かれた扉から挑戦者…… もといい、受験者が姿を現す。
背は150cm無いな、服は魔女っ娘っぽい可愛らしいモノ…… うぉっ!? この子背の割に胸デケーな!?
目を見張るような美しく長い金髪と白い肌…… そして絶世の美少女!!
来たぜ俺の時代が!! サワージェリー君じゃ無く俺が直接襲いかかりたくなる衝動に駆られるぜ!
「ほう、ずいぶん可愛らしいお嬢ちゃんが今回の挑戦者なのか?」
興奮を押さえ極めて冷静に話を始める、ぐへへ……♪
「俺がアイン・ギルドのマスターをやってるテオだ」
「はぁ…… アリスティアです」
つめかけた観客の多さに驚いているのだろう、今から自分に降りかかる運命など微塵も知る由も無いといった表情だ。
「おぉぉ! 挑戦者が来たぞ!」
「若い女だ! 若い女の挑戦者だ!」
「何年ぶりだよ! くぅぅ!」
「美少女の生贄キターーーッ!!」
フッ…… 落ち着け同志たちよ、長いコト待たせて済まなかったな。
「さあ! 本日の対戦モンスターをさっそく紹介しよう!!」
「「「うおおおぉぉぉぉお!!!!」」」
ルールを手早く説明し、本日のヒーローを紹介する!
「本日のモンスターは……
我らがアイン・ギルド・コロシアムのアイドル!!
中級モンスター! 痺れスライムのサワージェリー君だ!!!!」
「「「うおおおぉぉぉぉお!!!!」」」
ズルズルズル……
少女の対面の入り口からサワージェリー君が威風堂々と入場してくる! 心なしかその表情は晴れやかなモノだ! いや、顔は無いんだけどそんな気がする。
「うおおぉぉぉおおお!!」
「頑張れサワージェリーくーん!!」
「ヤレーー!! 全裸にしろーー!!」
同志たちは待ちきれないといった感じだ、正直俺自身、これ以上は待てない…… 暴走しそうだ。
「さあ! 試験開始だ!!」
バアアァァァ~~~ン!!
ショータイムの始まりだゼ!! ひゃっほぉぉ~うっ!
「さあ行け! サワージェリー君!! お前の実力を見せてくれ!! そして俺達に夢を見せてくれ!!」
サワージェリー君はゆっくりと少女に近づいて行く、一方少女は魔法の詠唱を始めた、見た目通り魔法使いのようだがサワージェリー君はそう簡単には倒せないぜ?
「世界級魔術・天を衝く裁きの火!」
聞きなれない呪文を唱える少女…… 世界? メギ? ナンダッテ?
次の瞬間、通常ではあり得ないほどの大きさの魔法陣が闘技場一杯に…… いや、闘技場の外に溢れだして広がっていった!? ナンダコレは!!?
カッ!!!!!!!!
街全てが真っ白な光に飲み込まれた……
―――
――
―
目の前には全く理解でいない光景が広がっている……
オオォォ…… ォォ…… オォォオォォォ…… オォオォォ……
光の柱だ…… サワージェリー君はどこへ行った?
腰を抜かした俺に少女は近寄りカードを取ると……
「この光の柱に触れると死にますんで、誰も近づけないようにしてください」
それだけ言うとさっさと去ってしまった…… いや…… あの…… え?
その後……
光の柱は300年以上燃え続け、それそのものがアインの街の観光資源になったらしい……
ただ最初の内は昼夜を問わず強烈な光を発し続ける柱に住民たちは難儀したそうだ。
しばらくしたら慣れたようだが……