第67話 指名手配
「ア……アリスちゃん…… 今の…… アリスちゃんがやったの?」
あ、フィロも引いてる、適当な理由をでっち上げるか。
「魔王軍が人を探しているからと言ってそれを素直に差し出すことは出来ない、少なくとも勇者がやっちゃいけないでしょ?」
「ハッ!? そうだよ! ボクとしたことがボ~っとしてた! 理由はともかく魔王軍に民間人を差し出すような真似はできない!」
民間人……じゃないんだけどね、モロに先代魔王の関係者だし現魔王の未来の嫁だから。
「それじゃアイツが無茶する前に退治してくるよ」
「え? アリスちゃん??」
それだけ言うとホウキの鞍に腰掛ける。
「飛べるの私だけだから私だけで行くよ、あの程度の相手に第13勇者様が出るまでもないからね」
「えぇ~? あのヒト自分のこと四天王って……」
フィロの言葉を最後まで聞かずに飛び立つ、四天王とかどうでもいいよ。
―――
船を離れ、ウネウネ踊ってる触手を避けてポセに接近する、迎撃とか警告は特になかった。
それはそうだろう、アイツは今それどころじゃないからな……
「ゲホッ! ゴホッ! グガァッ!」
まだノドを押さえてのたうってる。
「コンニチハ~」
「!? 何だおま…… ゴホッ! ゴホッ! ちょ、ちょっと待てっ!
ゲホッ! ゲホゲホッ! ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛~…… ゴホッ!」
(どうやらまだまともに喋れないらしい、はよせぇ)
『自分でやっといてそれはないだろ?』
「ハァッ! ハァッ! よ……よしっ! でば改めで!
何だおばえばッ!」
「オバエバ?」
「お……お前…はっ、だ!」
あれ? 探してる人物がわざわざ目の前にやってきたのに反応が薄い?
もしかして……
「交渉に来ました」
「交渉……だと?」
「はい、そちらがお探しの人物が誰なのか? それ次第では引き渡しに応じることもありますし」
こいつの探してる相手が男なら渡してやってもいい。
ナニ? 勇者が民間人を魔王軍に渡しちゃダメだろって?
いや…… 別にどうでもいいよ、男なら自分の身ぐらい自分で守れ。
「それでどういった人物をお探しなのですか?」
「…………ちょっと待て、あぁ~…… ママ、手配書見せて」
ママ? こいつ母親同伴で来たのか? 魔王軍の人手不足は深刻だな。
モゾモゾ…… ニュルン
触腕の吸盤の一つからナニか出てきた!
ポセがそれを広げて見ている、もしかしてソレが手配書なのか?
うわぁ…… ヌルヌルじゃん、それまともに読めるのかよ?
「えぇ~と…… 髪の色は金、肌の色は白、目は緑と青のオッドアイ、少々幼く見えるが15歳程度の少女……だ」
「なるほど」
どう考えても俺のコトだな、しかし最大の外見的特徴である美少女とロリ巨乳が含まれてないな。
まぁ手配したのがアリス本人ならその項目を加えなかったのも分かる。
「この条件に当てはまる少女を差し出せば船を沈めないでやるぞ?」
「ん?」
こいつはなんで目の前にいる金髪白肌オッドアイ少女を無視するのだろう?
もしかして言葉の意味をわかってないのか?
魔王軍の人手不足は(略)。
「そうですか…… ちなみにその少女を引き渡したら彼女はその後どうなるんですか?」
「生死は問わずと命令されている、抵抗するようなら首だけを持っていくことになるだろうな」
「え?」
いやいやいや! 殺しちゃダメだろ! アリスは自分の死体を取り寄せてどうするつもりだ!?
『あ~、そういうコトか、この命令、多分間にワンクッション挟まってる』
(ワンクッション?)
『多分ウチの嫁が「生死を問わず」ってのを追加したんだ』
あぁ、アリスの事を邪魔に思ってたトド嫁ならこんな指示を出すのも頷ける、手配の対象がアリスだって事も義母なら分かるだろうし……
(こいつに魔国まで連れてってもらうのは無理だな、途中で触手に縛り上げられて慰み者にされるかも)
『っざっけんな! んなこと認められるかッ!!』
(じゃ、殺してもいいよな?)
『待て待て! それは早計だ! 我に話させろ!』
(えぇ~……)
こいつが部下から慕われる上司だったのなら話をさせるのもアリだが……
(ちょっとリサーチしてからな)
『リサーチ?』
「コホン、ちょっと聞きたいことがあるんですが?」
「んあ? なんだ?」
「最近魔王が交代したという噂がイスト大陸に流れてきたけど、それは事実ですか?」
「ほう? もうそっちまで噂が流れていたのか?」
「その新魔王は先代魔王を倒した勇者だったと言われているけど……」
「らしいな」
「もともと不倶戴天の敵だった勇者がいきなり上司になっても素直に言うこと聞くんですか? 魔王軍って?」
「当たり前だろ!」
ポセは躊躇など微塵も見せず澄んだ瞳で堂々と言い放った。
(だってさ)
『え……えぇ~~~っ』
いや予想通りだろ? 驚いてるお前に驚きだよ。
「お前は知らないんだ、先代魔王の酷さを……」
「そんなにヒドかったんですか?」
「ヒドイの一言で言い表せるレベルじゃない! いつか俺の手で殺そうと思ってたくらいだ!!
そういう意味では現魔王様には感謝すらしているほどだ!」
(先代魔王の悪評は底が見えないな、どんだけ嫌われてたんだよお前……)
『…………はは…… ナゼだ?』
(ん?)
『ナゼだァァァ!! そりゃ確かにちょっと地方に飛ばしちゃったりもしたけど、殺したいほど恨むか!? だって我魔王だよ!?』
ウルサ…… 念話で叫ぶな。
「先代魔王のナニがそんなに気に食わないんですか?」
「ふん、それを聞くか? ならば教えてやろう! それはこの海だ!!」
「……?? 海?」
「この海には女がいない!!」
「…………は?」
ナニ言ってんだコイツ?
「俺も結構いい年だ、そろそろ嫁さんが欲しいなぁ…… なんて考えていた矢先に異動命令! こんな僻地に飛ばされたんだ!」
「はぁ……」
「俺だって最初はこっちで可愛い嫁さん見つければいいと思ってたさ!
合コンだって頻繁に参加したし、婚活パーティーにだって何度も出席したさ!」
え? この辺の海で合コンとか婚活パーティーやってるの?
「でもなぁっ! いくらメンズをイケメンだらけにしても! いくら高学歴限定にしても!! いくら女性参加無料にしても!!! やってくるのはイカとかタコとかヒラメばっかなんだよ!」
女性じゃなくてメスじゃねーか、そりゃ海で婚活したって集まるのは魚介類だらけになるさ、根本的に間違ってる。
そもそも魚介類のイケメンとか高学歴ってどんな奴らなんだ?
ちょっと興味をそそられるな…… 参加はしたくないけど。
「その上だ! おい! ちゃんと聞いてるのか!?」
「はいッ! き……聞いてます、聞いてます!」
なんかヨッパライに絡まれてる気分だ……
「俺が結婚できずアラフォーになって焦りを感じている最中に、ヤツは毎年毎年 娘の写真入り年賀状を送ってきてたんだぞ!
自分は幸せですアピールが嫌がらせのレベルを超えて挑発されてる気しかしなかった!!」
(…………)
『…………』
(お前が悪い)
『うぅ……』
「その年賀状ってどうしたんですか?」
「ハァ? そんなものすぐに燃やして捨てた!」
だからアリスの顔を見ても分からないんだ…… 魔王も悪いけどコイツも頭がかなり悪い。
『なんだとぉおおぉぉぉっ!! アリスたんの写真を燃やして捨てただとッ!!?
コイツぶっ殺す!!』
お前がキレるなよ、挑発してた本人のくせに……
「ん? あれ? そういえばお前の顔…… どこかで……」
どうやら毎年律儀に送られてくる年賀状をチラ見はしてたみたいだな。
そうだよな、送られてくる年賀状をすべて燃やすワケにはいかないんだ、挑発されてると感じていても確認は必要だ。
魔王の娘だって気付かれるかも。
「それにお前…… 左右の目の色違う?」
やっとか、今までどこ見て話してたんだ?
「え? あれ? え? んん~~~っ!?」
ポセは手配書を凝視し、アリスの身体をねぶるように見るを繰り返している…… 実に不快だ。
「お前…… 手配されて…… もしかして先代魔王の…… 娘??」
「はいそうです、遺憾ながらあのロリコン魔王の娘です」
『だれがロリコンだ!!』
(くどい)
何度も言わせるな。
「フッ…… フフフッ! フハハハハーーーァ!!
そうか!そうか!そうか! ヤツの娘か!!」
ポセはとっても嬉しそうだ、嫌だなぁ…… 嫌われ者の親を持つと子供が苦労するのか、俺も気をつけよう。
「あの…… 確かにお父様はとんでもないド変態でド外道ですが、私には罪はないと思いますよ?」
『ド外道はお前だろーーー!!』
うっさい。
「そうでもないだろ、魔王の娘なら魔王軍の働きのおかげで幸せな暮らしができていたのだから」
「幸せな暮らし?」
俺の知る限りアリスの人生に幸せな時間などなかったと思う……
「まぁ…… あなたの言うことにも一理あるかもしれないですね」
「そうだ! だからあの野郎の罪を君に償ってもらう!!」
(ヒドイとばっちりだ、可哀相なアリス……)
『うぐ……!』
「それで? 私に一体何をしようというのです?」
「そうだな…… おぉそうだ! 俺の嫁にしてやろう!」
(…………)
『…………』
(『コイツぶっ殺すッ!!』)
この時、勇者と魔王の心は完全に一致した。




