第62話 第五種接近遭遇
《はて? この声どこかで―――》
(女神様! 自分です! 第7勇者テレスであります!)
《第7勇者テレス? あぁ、わたくしの期待と信頼を裏切り魔に身を落とした堕勇者―――》
おぉう…… 女神様の中のテレス株がストップ安だ、心が折れそうになる。
《そもそも何故魔王テレスがこんな所にいるのです? 魔王城で悪事の限りを尽くしているのでは? それにドコにも姿が―――》
(ここです女神様……)
こっそり手を挙げる、周りにいる人達は真剣に祈っているので気付かない。
しかしどれだけ真剣に祈ろうとも女神様からの恩寵を得られる者はいない、何故なら女神様は俺と念話中だから。
《…………? 随分と可愛らしい姿をしていますね…… 貴方にそのような趣味があったとは気付きませんでした―――》
(誤解です女神様! たぶん今女神様が考えられていることは全て誤解です!)
《……いいでしょう、弁明があるなら聞きましょう、わたくしは例えどんな愚か者でも一度は更生の機会を与えるのですから―――》
良かった、話を聞いてもらえるらしい、さすがは慈悲深き女神様だ!
出来れば俺のことをもっと信じてもらいたかったが……
―― 説明中 ――
《つまり…… 話をまとめると勇者テレスと魔王の娘アリスの身体と魂が入れ替わってしまった……と?―――》
(はい、なので三代目魔王を名乗っているのは自分ではありません。
またアリス自身も自分で魔王を名乗るようなタイプではないので、恐らく周りのトドみたいな悪魔に利用されているのだと思います)
《そして何らかの理由でグランディア王国まで飛ばされた―――》
(はい、自分の体を取り戻すためもう一度魔王城を目指し旅をしている途中でした)
《つまり貴方はわたくしへの信仰を失ってはいない……と?―――》
(はい! 失ったことなど一度もありません!)
《…………―――》
(…………)
《やはりわたくしの目は正しかった、わたくしの愛する神の子が魔王などになることはないと―――
信じていましたよ、わたくしの勇者テレスよ―――》
(は! ありがたき幸せ!)
『(なんだこの茶番?)』
《それで貴方と念話をしていた相手は―――
その負の感情が溢れ出してる小動物は―――》
『…………』
(世間では変態とかロリコンとか呼ばれてる先代魔王プラトンです)
『…………』
魔王は珍しく文句を言わない、いつもだったらギャーギャー騒ぐクセに。
やはり女神様の高貴さにアテられたのだろう、うむ。
《テレスはプラトンを殺さなかったのですね?―――》
(はい、女神様が魔王プラトンの処遇を「封印」とお決めになられました。
ならば自分もそれに従うだけです)
『ウソつけ! 何度も殺そうとしたくせに!』
(殺そうと思えばいつでも殺せた。それくらい判らないワケじゃないだろ?)
『むぐ……』
あと元の身体に戻るのに必要になるかもしれないから……
魔法辞書代わりに使ってたから……
更に今では魔法の箒の運転手だ……
困った、殺せない理由ばかり増える…… 全てが終わった時に改めて殺そう。
そしてその時までせいぜい利用させてもらおう。
(女神様、どうかこの哀れなる子羊に救いの手を…… 具体的に言うと魔王城へワープとか出来ないでしょうか?)
《……先月までなら可能でしたが今は無理ですね―――》
(Nooooooo!! えっ!? 先月までなら出来たんですか!? なんという運の悪さ!)
《えぇ…… それどころか今は一時的に神の力を地上に顕現させること自体が禁じられているのです―――
力になれなくてごめんなさいね?―――》
(い、いえ…… すみません、取り乱しました、お気遣い頂き感謝致します)
クソッ! マジで運が悪い! チョット前までならショートカット可能だったと言われると尚のこと悔しい!
いや、切り替えろ、最初から地道に進む予定だったんだ、予定通りに進むだけだ。
(それでは自分とアリスの魂を安全に交換する方法はないでしょうか?)
《魂を入れ替える方法……ですか―――》
『おい! お前まさか! 今この場で我を始末するつもりか!?』
魔王にしてみれば自分の身の安全の担保を失うことに等しい、焦るのも当然だ。
だが……
(落ち着け、今の状態は禁断魔法『魂の円環』の失敗により引き起こされた。
お前は失敗を再現して俺とアリスを安全に元に戻す自信があるのか?)
『うぐっ! そ……それは……』
(心配しなくても魔王城までは連れてく、運転手がいないと箒が飛ばないからな)
もし魔王に頼らずに元に戻る方法があれば、魔王城が見えた時点でコイツを踏み潰して殺すかもしれんが……
(それで女神様…… ど…… どうでしょうか?)
《……『二律契約指輪』という一対の神器があります、色々と条件はありますがコレでなら安全かつ完全に元の身体に戻れるでしょう―――》
(おぉっ! してそれはドコに!?)
出来ればアム大陸かエスト大陸にあると嬉しい、もしグランディア王国とか言われたら文字通りフリダシに戻るだ、それは勘弁してほしい。
《神器自体は神界にあります、ですが―――》
(ですが?)
《先ほどと同じ理由で神界のモノを直接貴方に下賜できないのです―――》
oh……
《貴方が直接取りに来るしかありません―――》
(それは…… 要するにもう一度天獄に登れ……と、言うことですか)
《そうなります―――》
無理だ…… アレは俺の身体だからこそデキた芸当だ、アリスの身体で10000階の塔を登り切るなど不可能…… いや……
(女神様、天獄を飛んで登ることは許されるのでしょうか?)
《飛んで? ………… 本来なら許されない所ですが貴方は既に一度踏破していますからね、それに関しては黙認しましょう、ただし塔の外側を飛んで天を目指すことは許しません―――》
(はっ! 仰せのままに!)
よし! 言質は取った、まだ厳しいが登頂確率はかなり上がった!
《それにしても…… 勇者と魔王が同じ目的のために旅…… ですか―――》
(はい、不本意ながら)
『それはこっちのセリフだ、お前がアリスたんの身体を乗っ取ってなかったら今すぐにでも殺しているぞ? アリスたんの身体に感謝するんだな?』
やかましい! すべての元凶が!
《魔王プラトン、悔いを改める気はありますか?―――》
『愚問だな! 我は必ず世界を統べる!』
《そうですか…… 残念です―――》
(女神様がお望みとあらば今すぐにでもこの小動物を縊り殺す準備がありますが?)
『うぉい! 余計なこと言うな!』
《いえ…… 貴方達の旅が終わる時までこの判断は保留としましょう―――》
あ、魔王城の目前で殺せなくなった……
『ふん、どういった理由かは判らんが、今は女神にも直接我を害するコトは出来ないようだな?』
(そう言えば…… 何故ですか女神様、こんなロリコン今すぐ殺した方が世界のためですよ?)
《神界にも色々あるのですよ、テレスはご存じないですか? 先月ゴブリンが消滅した事件を?―――》
ッ!?
(そのッ…… 話は聞いています、テレジア軍を囲んでいたゴブリンが突然消えたって……)
《そうです、しかしそれはそんな単純な事件ではないのです―――》
(い…… 一体何が?)
え?? 神界に影響を及ぼす程のことだったの? アレって……?
《あの事件で消えたのはテレジア軍を囲んでいたゴブリンだけではありません、それこそ大陸中、世界中、いえ宇宙中の全てのゴブリン種が消滅したのです―――》
宇宙!? ってナニ!?
(そ…… それは良い事なのではないですか? 元々ゴブリンは初代魔王が生み出した下等魔物、それが完全に駆除されたのなら……)
《ですからそんな単純な話ではないのです、ゴブリンは既に生態系の一部として定着していました、この先どんな影響が出るか未知数なのです―――》
(ほ…… ほほぅ?)
《そして一番の問題はこの凶行が『創世中枢』を用いて行われたということです―――》
(『創世中枢』?)
《全ての因果…… いえ、この宇宙の全てを司っている中枢です―――》
これって神格級魔術の事だよね?
ちょっと…… いや! かなりマズイことになってるぞ!!
《何者かがこの『創世中枢』に不正アクセスを行い宇宙を書き換えてしまったのです、このような凶行はまさに前代未聞―――》
『……ッッ!!?!?!』ガタガタダラダラ
うぉい!小動物! そのフルマラソン後みたいな汗と、寒中水泳後みたいな震えを止めろ! まるで自分が犯人ですって言ってるみたいだぞ!!
《そして何よりも問題なのは未だに犯人を特定できないことです―――
この件が解決しない限り、神々の力を地上に顕現することは出来ません―――》
(そ…… そうですか…… ちなみに犯人が見つかったらどうされるのですか?)
《犯人が見つかったら? そうですね…… ゴブリンと同じ運命を辿ってもらいます―――》
(? ゴブリンと同じ?)
《つまり種族ごと宇宙から消えてもらいます、2度とこのような事が起こらないようにしなければなりませんから―――》
知らない内に人類は滅亡の瀬戸際に立たされていた……
(…………)
『…………』
コクリ
一瞬だけ魔王と目を合わせ小さく頷く。
忘れよう、無かったことにしよう、知らぬ存ぜぬで通そう。
この秘密は墓まで持っていこう、当然遺書とかでカミングアウトもしない。
神格級魔術が行使された事実を宇宙から消し去ろう!




