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第61話 大聖堂


「それじゃ私はオークションハウスに依頼を出してくるから、フィロはマレンゴ売ってきてね」

「えっ!? ボ……ボクが売りに行くの?」


 フィロが大きく動揺する、多分仲間を売るみたいな感覚なんだろう。

 実際はすぐに発情する変態馬の売却だ、心が痛む要素はドコにもない。


「マレンゴはアリスちゃんに懐いてたでしょ? ボクが一人で乗ると明らかに機嫌が悪くなって走りも乱暴になってたから…… お尻が腫れたボクが言うんだから間違いないよ」


 そんな恥ずかしい乙女の秘密を告白しなくてもいいのに……


「だから…… アリスちゃんが売りに行ったほうが……

 それにアリスちゃんじゃオブシディアン・ソード持てないでしょ?」

「ん~? 身体強化(ブースト) 身体強化(ブースト) 身体強化(ブースト)

「へ?」


 自分自身に身体強化(ブースト)を重ね掛けする。



 ゴト……



 うん、まぁ重いけど普通に持てる。


「そっか…… アリスちゃんには身体強化(ブースト)があるから、もう虚弱体質キャラじゃなくなったんだね」


 レベルが上って身体機能はだいぶ強化されたが本来の姿はまだまだ貧弱だ、魔法を重ね掛けしてようやく脱・虚弱体質って感じだな。


「フィロが言うようにマレンゴが私に懐いているなら私が売りに行くのは尚のこと残酷でしょ?」

「う…… それは……」

「それにフィロはオークションの代理人との交渉とか出来る?」

「うぅ……」

「もちろん2人で一緒に回ってもいいけど、その場合観光する時間が無くなるかもしれないよ?」

「わ…! わかったよぉ! ボクがマレンゴ売りに行くよ!」


 よろしい、最初から駄々コネなければいいものを。

 まぁ自分が売られると理解したマレンゴが暴れる可能性があるからね、危険だからアリスを行かせたくないんだ、最後だからってアリスに襲い掛かってくるかもしれない、あの駄馬なら。



―――



 巨大な黒曜石の剣を片手で持ちながら街を歩く。

 へんな視線を向けられはするが、声をかけられる事は無い…… て、いうか周囲の人たちが道を明けてくれるから非常に歩きやすい。

 そもそもここはカルネアデス教の聖地だ、もともとナンパヤローが少ないのだろう。


 ちなみにオークションハウスでの身分確認は冒険者カードを使った。

 アルテナ王家の紋章を使ったほうが色々と手っ取り早いだろうけど、迂闊に権力を使うとトラブルの元になる。



「ようこそアリスティア様、わたくしは当オークションハウスの支配人をしておりますエドウィンと申します。

 以後お見知りおきを」


 ちょび髭の支配人が現れた、一介の冒険者に過ぎない小娘にも非常に丁寧な対応だ、1回限りの付き合いだからそんなに畏まらなくてもいいのに……


「本日は出品でオークションに参加したいとの事でしたが……?」

「はい、ただ条件もあるもので…… あ、出品したいのはコレです」



 ゴト



 テーブルにそっと置く、普段は結構雑に扱ってたから少し欠けてるかもしれないなぁ。


「こ……ッ これはッ!」

「オブシディアン・ソードです。

 ゴブリンが稀に落とすオブシディアン・ナイフのおっきい版ですね」

「オブシディアン……ッ! ソードッ!! バカな! アレは初代勇者が持ち帰った世界にたった一つだけのモノのはず! たしかグランディア王国の博物館に……」


 初代勇者が倒したこの世界で最初のゴブリン、ゴブリンエンペラーのドロップアイテムだな。


「これは博物館に展示されてるものとは別のモノです、世界で2本目?ってコトになるのかな?」

「そんな!! このタイミングでゴブリンの秘宝!? そんなバカなッ!!」


 タイミング? なんだろう、タイミング悪かったのかな?


「コホン! 失礼致しました、こちらをお預かりして真偽鑑定に掛けてもよろしいですかな?」

「はい、構いません、ただあまり時間を掛けられないんです」

「……とおっしゃいますと?」

「私と仲間は4日後の船団でアム大陸へ渡ります、3日以内に現金化出来ないのならオークションには出品できません」

「そんなッ!? た……たったの3日!?」


 目玉商品なら事前に宣伝しておかなければならないから3日じゃ厳しいだろうな。

 これじゃオークションに掛けられても値段はあまり上がらないかもしれないなぁ。


「もしダメそうならこの方面の収集家を紹介して頂けませんか? 直接交渉します、出来れば貴族の方がいいですね」


 直接交渉はかなり危険な手段だ、値段・期限をこちらで自由にコントロールできる半面、仲介人を挟まないため売り手がモロバレになる。

 直接交渉なんだ、当たり前だな。


 相手はこんな小娘だ、高い金だして買うより暗殺者でも送って殺して奪い取ったほうがかなり安上がりだろう。


 …………


 ただまぁ…… 勇者特権もあるし、アルテナ王家の威光もあるし、不眠不休で不審者を監視する不審者(まおう)も居るし、大した危険もないだろう。


「わかりました、明日中に結論を出します、オークションに掛けられない場合は相場で買い取れる財力を持つ収集家をご紹介致します。

 それでよろしいですか?」

「……はい、それで結構です」



―――



――





 その後、いろいろな手続でかなり時間を使った。

 特に入手した状況の説明に苦労した、嘘だけで誤魔化すにも限界があったから結構本当のことを語ってしまった……

 まぁ、もうじきイスト大陸を出ていくんだからイイか……


「アリスちゃ~ん!」

「フィロ、おまたせ……」

「アリスちゃんの方はだいぶ時間かかったね?」

「うん、色々とね…… その代り売り値には期待が持てそう。

 そっちは? マレンゴ売れた?」

「あぁ…… うん……」


 フィロは目をそらした。

 まさか売ったフリをして本当は部屋の押し入れに隠して飼うつもりじゃないだろうな?


「マレンゴがね…… まるで売られていく仔牛みたいな目をしてて、その姿が脳裏に焼き付いていて……」


 馬なのに仔牛みたいってどんな感じだろう?

 つまり罪の意識に苛まれているのか……

 ま、気にすんな。


「ふぅ…… 切り替えよう! ちなみにアリスちゃんを待ってる間に鞘の注文もしてあるから」


 あれ? 既に切り替えできてたんじゃ……


「ちょっと遅くなっちゃったけど観光の時間だよ!」


 午後2時……か、観光の前に宿を決めるべきなんだけど…… まぁ後でもイイか。


「アリスちゃんはドコか行きたいトコロある?」

「ん? 私は……」


 町の中央、斜め上の方を見上げる。

 そこにあるのは……


「大聖堂かな」



―――



――





「ぅんわぁ~~~! キッレイだなぁ~~~!」


 フィロが田舎者丸出しです……


「やっぱりカルネアデス神聖国の観光スポットと言ったらココだよね!」

「私は観光目的で来たワケじゃないんだけどね」

「え? もしかしてアリスちゃんってカルネアデス教の信者なの?」

「ううん、信者じゃないよ、ただ個人的に女神カルネアデスを崇拝してるの」

「そうなんだ…… えっと、ゴメンね、ウチの田舎には土着宗教があってボクは……」

「気にしないで、信仰は自由だから」


 俺が女神様を信仰しているのは実際に会ったことがあるからだ、しかしこの感覚を共有できる人はこの世に他にいない。

 神の存在を感じたことのない人に信仰を強要するつもりはない。


「私は祈りを捧げているからフィロは中を見て回ってていいよ、大聖堂内は一般観光客にも公開されてるからね」

「…………いいの?」

「うん」

「よしッ! 実は大聖堂の尖塔に登ってみたかったんだ! そこから海に沈む夕日の光景はイスト大陸三景に選ばれてるんだって!」


 詳しいな……


「それじゃ行ってくるね! また後でね!」


 フィロは走っていってしまった…… あ、シスターに捕まって怒られてる。

 大聖堂内は走るの禁止だから。


 …………


 早歩きで行ってしまった……


『ナントカとケムリは……』

(オイやめろ)

『しかし聖堂内に満ちるこの神聖な空気…… 反吐が出るな』


 コイツ言うに事欠いて……


(気に入らないなら出ていけばいいだろ? どっかで仔猫ちゃんでも追いかけてこいよ)

『だからロリコンじゃねーって言ってるだろ! ちなみにケモナーでもない! 毛深いのは好かんッ!!』


 いや…… お前の性癖とかどうでもイイから……


『アリスたんの身体を一人っきりに出来るか! お前は一人になった途端その身体でオ○ニーする気だろ!』

(おい、いくら俺でも大聖堂でそんなコトしねーよ。

 大聖堂じゃなきゃしたかもしれないが……)

『ホラみろーーーッ! お前はそういう男なんだよ! 大体ナニが「私は祈りを捧げているから」……だ! 似合わねーんだよ! ゲスがそんなこと言っても新手のプレイにしか聞こえねーよ!』

(お前は人のコトとやかく言える性癖じゃないだろ! それに俺は結構本気で祈りを捧げるつもりだぞ?)

『それが似合わねーって言ってんだよ! ゲスはゲスらしくしてろよ!』

(アリスの身体でゲス行為をするのを嫌がるくせに、なんなんだお前は? 発言がブレブレだぞ?)




《静かになさい―――》




(ん?)

『んん?』


《まったく、神聖な聖堂で聞くに堪えない罵詈雑言―――

 いったい誰です? 念話で騒いでいるのは―――》


(お…… おぉお……)

『うげ…… まさか……』


 この声…… 女神様じゃん!!




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