第60話 最南端
俺たちはカルトペグニオ王国を出て、パルパナを華麗にスルーし、イスト大陸最南端・カルネアデス神聖国へとやってきた……
ようやくだ…… ようやくココまで辿り着いた…… なにかゴブリンの辺りで物凄く足踏みした気がする。
カルネアデス神聖国はその名の通り女神カルネアデスを祀る世界最大宗教カルネアデス教の総本山だ。
人口は世界で2番めに多く、その全てがカルネアデス教の信徒、信者率100%の国だ……
この国で迂闊なことを口にすると宗教裁判に掛けられる……なんてウワサはよく聞く。
ちなみに第2勇者テレサ・カロスィナトスの故郷でもある。
この国は一応分類すると南部王国連合に含まれているが王国ではない。
王様ではなくカルネアデス教の教皇が政を取り仕切っている。
女神様からの啓示を受けて政治をしているらしいが、ぶっちゃけかつては信じてなかった。
どうせ肥え太った教団幹部が更に贅肉を貯め込むために私腹を肥やしまくってたんだと思ってた……
女神様と謁見するまでは……
まぁこの国の政治の全部が全部女神様のご指示じゃないだろうけど。
俺は別にカルネアデス教の信者になったワケじゃない、俺の求めるモノと教団の教義には…… うん、まぁ…… 多少の乖離が見られるからな。
俺は俺で個人的に女神様を崇拝していくつもりだ、女神を崇めるものは教団に入らなければならない……なんて教えはないからな。
「ふおぉぉぉお~! ここがカルネアデス神聖国・神都シリル…… はじめて来た!」
フィロの実家からは割りと近い神都なのに来たのは初めてらしい。
神都は海沿いの平地に作られた街で、中央に高さ100m程の小山……というより丘がある。
その丘の上に巨大な大聖堂が作られている、大聖堂の大きさは有に200mは超えている。
はっきり言えば魔王城より遥かに大きい、やはりトップの格の違いだな。
『チッ!』
変態魔王のくせに女神様に対抗意識を燃やすなよ。
(つーかお前みたいな邪悪な変態がこの街に入って大丈夫なのか? 邪なものを退ける聖結界があるって聞いてたんだが?)
『誰が邪悪な変態だ!』
だからお前のことだって、いい加減言わなくても理解してくれ。
『特になんともないな、所詮女神の力などこの程度のものなのだ!』
おうおう、俺の前で女神様を愚弄するとはナイス度胸だ。
海を渡る時、クラーケン釣りの餌にしてやろうか?
まぁティッペは魔物ではなく使い魔だからな、アリスの魔力で作られた使い魔…… つまり勇者の使い魔だ、結界に引っかかるワケがないな。
「アリスちゃん! アリスちゃん! まずナニしよっか? 観光? 観光しちゃう?」
うわぁ…… フィロのテンションがすごく上がってる…… 勇者の使命を完全に忘れてる、このお上りさんめ。
「まず一番最初にするべきなのは船団の確認だよ」
「船団?」
イスト大陸からアム大陸へ渡るには船に乗らなければならない。
しかし今の御時世、船一隻で出ていって無事に隣の大陸に着ける可能性はない。
そこで護衛武装船を何隻も同時に出航させ船団を組むのだ。
そうして海を支配しているクラーケンを何とかやり過ごしているのだ。
「船団は毎日定期的に出ているワケじゃない、2~3週間に一度の割合だから確認しておかなくちゃいけないんだよ。
私たちは勇者特権のお陰で、例え明日出発の便でも無理やり席を確保できるけど、仮に3週間後出航予定の船を明日出航させることは出来ない、船団出航には時間とお金がかかるから」
「へぇ~…… アリスちゃん詳しいね?」
「うん……まぁ…… 魔王城目指すならコレくらいは調べておくべきだよね」
「あぅ…… ゴメンナサイ」
そんなワケでまずは港へ向かう。
「うんおぉ~♪ 海だ海ぃ! アリスちゃん海だよ! 泳いじゃう? 泳いじゃう!?」
フィロが勇者の使命を完全に忘れてる、この海無し村民め。
確かに俺もアリスの水着姿とか見たい、つーかアリスに似合う水着をガッツリ選びたい…… 試着と称してあっちこっち触りたい、でも海水浴するにはこの海はちょっと寒い。
だいたい港で泳ぐヤツがいるか? いい見世物だ。
港には多くの船が停泊しており、それを整備する人たち、そして物資が所々に積み上げられてる。
運が良い、次の出航はそんなに遠く無さそうだ。
「ほら、フィロ行くよ」
「え~? 泳がないの?」
泳ぎません。
―――
「海を渡りたい? 許可証はあるのか?」
船舶管理事務所にアポも取らずに突撃し船長っぽい人に直談判する。
「コホン、なにを隠そうこちらに御わすお方はカノ第13勇者フィロ・サロス・アウダークス様です」
「第13勇者ぁ~~~ぁ?」
船長(仮)はとても胡散臭いものを見る目をしている…… 第13勇者は味噌っカスだからなぁ……
「ほらフィロ、アウダークス家の証を」
「あ、うん、そーだね」
フィロが家紋入りのメダルを提示する。
「…………本物…… みたいだな」
「次の便に乗せてほしいんですが?」
「次……か、乗るのは2人だけか?」
「はい」
「ならいいだろう、出航は4日後の朝だ、それまでに準備を整えておいてくれ」
「わっかりましたぁ!」
『おい勇者、一つ聞きたいんだが』
(ん?)
『アリスたんも勇者なんだろ? だったらアリスたんの勇者の証を提示したほうが話が早かったんじゃないのか?』
確かにアルテナ王国を出る時、国王にアルテナ家の証を渡された。
これは元々アリスが持つべき物だったから……
第3分家と第13分家じゃ信頼度が段違いだろう、もっとも借金を残して消えた第7分家の俺には信頼度に関してとやかく言う資格はないが……
(そもそも第3分家は没落扱いだったから証とか出しても偽物扱いされるのがオチだ。
まだこの辺りまで第3勇者のウワサも届いてないだろうし)
『アリスたんの溢れ出る高貴さを見ても理解できないとは…… ヒトとはなんて愚かなんだ』
(それもこれもどこぞの変態ロリコンがネリス姫(当時11歳)を誘拐したせいだ)
『ぐっ! だから! それは……っ!』
魔王の言葉はそれ以上続かない、まぁ言い訳のしようもないからな。
「さて、アリスちゃんどうする? こんどこそ観光?」
どれだけ観光したいんだよ……
「観光の前にやることやっちゃってからね」
「観光より大事なことなの?」
「大事です」
この子、俺と旅してる理由忘れてるんじゃないか? まるで友達と観光旅行してるみたいだ。
しかし盗賊に捕まったり、ゴブリンに捕まったり、旅行記にしては少々波乱万丈過ぎるだろ。
「まずは準備だよ、観光は時間が余ったらね、なにせ出航まで4日しかないんだから」
「そ……そんな…… こんなに大きな街、4日フルに使っても回りきれるかどうかと思ってたのに……」
…………
どれだけこの街を満喫するつもりだったんだよ? 4日フルに使うつもり?
本当に旅の目的がすり替わってないか? 少し心配になってきた。
「まず資金を稼ぎます」
「資金? クエスト受けるの?」
「そうじゃなくて売れるものを全部売っちゃうの」
「あ、オブシディアン・ソード!」
「そう、アレをオークションに賭ける」
すぐに買い手が付けばいいが4日しか無いから最悪の場合は武器屋か古物商、出来れば収集癖のある貴族あたりに売りつけたい。
貴族なら大枚はたいてくれそうだ。
「あとマレンゴも売る」
「えっ!? マレンゴ売っちゃうの!? あの子結構いい馬だよ!?」
美少女に乗られて悦ぶような変態馬だ、元の飼い主にソックリ!
いや…… ある意味正常か、俺だってアリスに乗られれば喜ぶ、悦ぶじゃなくて喜ぶ。
とにかくそんな馬をこれ以上連れて行きたくない!
「アム大陸はイスト大陸と違って街道がほとんど整備されてないし険しい山岳地帯なんかを通らなければならない場合もある、平地を速く走ることに特化した馬は向かないんだよ。
あの大陸にはあの大陸に適した乗用生物がいるから向こうについたら買い直すのがいいの」
「そうなんだ…… ちょっと残念」
乗る度に鼻息が倍くらい荒くなり興奮状態になる馬と別れる…… うん、俺はこれっぽっちも残念じゃない。
「とにかくその資金で必要な物資を購入、あるいは予約しておく。
フィロも鞘を作らなきゃならないでしょ? アム大陸でも作れる場所はあるけど何時になるかはわからないよ?」
「それは困る! うん、イスト大陸に居る内に作っておくべきだよね!
…………あぁ、でも観光したかったなぁ……」
フィロは目に見えて落ち込む、それほどか……
「………… はぁ…… わかった、オークションの代理人選びと鞘の注文だけしたら、今日は残りの時間を自由時間にしよう」
「ッ!! アリスちゃーーん!! 大好き!!」
元々4日間全部を準備に使うつもりはなかったし、まぁいいか。
『なんか…… お前のほうがリーダーっぽいな? フィロがリーダーなんじゃなかったっけ?』
言うなよ…… 俺も前々からそんな気がしてた。




