表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/70

第59話 廃墟


「盗賊15人で1万ディル…… こんなものかぁ」


『薬草100枚より安いな……』

(前より相場が下がってる、今年は盗賊がよく穫れるらしい)

『おい、盗賊を山菜みたいに言うな』


 俺たちは生け捕った新鮮な盗賊をバカラ警備隊に引き渡した。

 お値段は全員あわせてたったの1万ディル…… ホントに子供の小遣いレベルだ。

 昔は1人2000ディルくらいにはなったんだがなぁ……


「ここ半年くらい盗賊が増えてな、少し相場が下がってるんだ」


 買取手続きをしてくれた兵士が教えてくれた。

 増えてるなら上げろよ、いや、みんな簡単に捕まえてくるから相場が下がったのか……

 要するに豊作だから値段が下がっているわけだ…… 本来豊作は喜ばしいコトなんだが、今回に限っては全く嬉しくない。


「盗賊が増えた原因はたぶんアイツが居なくなったせいだな」

「…………」


『アイツって?』

(俺のことだよ)

『あぁ、なるほど、捕食者が居なくなったから今まで餌になっていた奴らが大量繁殖してしまったのか』


 抑止力がなくなったって言えばいいのに、わざわざ悪意のある言い方をする。

 まぁ魔王の言葉も間違ってないんだけどね……


「さて…… 買い出しは私がするからフィロは観光してていいよ」

「え? アリスちゃんが買い出し? えっと…… 大丈夫なの? 体力的に」

「店の場所は分かってるしマレンゴを連れて行くなら体力的な問題はないよ」

「ん~…… じゃ、じゃあお願いしちゃおっかな?」

「ん、了解、それで待ち合わせ場所はどうしよっか? フィロは行きたい所ある?」

「ボク…… テレスお兄ちゃんのウチに行ってみたい……な」


 え? マジ? 行きたいなら止めないケド、なにもないヨ?


「ん…… それじゃソコで待ち合わせにしよう、ちなみに場所はあっちの丘を上って行った先になるから」

「うん…… え~と…… それじゃまた後でネ」


 フィロと別れた、最後なにか言いたそうな顔をしていた気がする。


「さて、それじゃ買い出しに行くか」

『おい、我も観光したい、名所っぽいトコロを周れ』


 この魔王、緊張感なさすぎだろ……


 俺はフィロと別れて買い出しに出たことをさっそく後悔した。

 だが真の後悔はこの後にやってきた……



―――



――





「……ハァ……」

『…… アゴが疲れた……』


 俺は甘く見ていた…… アリスの美少女っぷりを。

 一人になった途端、次から次へと声を掛けられる、今までフィロがストッパーになってたと初めて知った。

 確かに女騎士然としたフィロが横にいると気軽に声をかけづらいかもしれないな。


「おっ、おおお、お嬢ちゃんお嬢ちゃん」

「?」


 薄暗い路地からハゲ散らかしたオッサンが声を掛けてくる……


「お、お、お小遣いあげるからチョットこっちにおいで? ハァハァ」

「…………」


 似たようなシチュエーションはもう3回目だ…… いい加減にしろよ?


「ティッペ」

『うぅ…… 何が悲しくてあんな汚らしいオッサンの油ギッシュな鼻に噛みつかねばならんのだ?』

(アリスがあの汚いのに近づいていいのか?)

『それはイヤだ…… うがあぁぁぁーーー!!』


「キューーーッ!!」

「うわっ!? 何だコイツッ!? イテッ! イテテテテ!!」


 もちろん最初は無視してた、でもね、無視してると付いてくるんだよ、どこまでも…… どこまでも……

 実際、今もアリスをストーキングしてる奴はいる、試しに振り返ってみると……


「ッ!!?」


 複数の男が立ち止まり明後日の方を見る…… ざっと20人ってトコロか。

 ティッペに攻撃させているのは見せしめの意味もあるのだがあまり効果はないようだ。


「キュ~……」


 オッサンを追い払ったティッペが戻ってきた、見るからにお疲れの様子だ。


(さて、必要な物資は大体揃った、えっと? 観光したいんだっけ?)

『我が悪かった、観光とかどうでもイイです……』


 だろうな。


(さて、しかしどうしたものか、ストーカー共をこのまま引き連れて歩くワケにも、魔法で殲滅するワケにもいかないし……)


 こいつ等に今夜泊まる宿を知られるのはマズイ、下手したら集団で襲ってくるかもしれない。


『いや、もう殲滅しちまえよ、この街にはロクなヤツがいないんだから、さすがは勇者テレスの生まれ故郷、変人遭遇率が尋常じゃない』


 同感だけど余計なお世話だ。


(マレンゴで走り回って振り切るか)


 とはいえ…… 一人じゃマレンゴに乗れない、う~ん……


「マレンゴ、伏せ」

「ブルル」


 マレンゴは言われた通り伏せる…… なんて賢いんでしょう。


「それじゃマレンゴ、追跡者を振り切って、うまく逃げ切れたら後でご褒美に踏んであげるから」

「ブルヒヒィィィィィン!!」


 マレンゴは歓喜の雄叫びを上げて風を切るように走り出す!

 徒歩による追跡者は当然誰も追いつけない、この事態に備えて馬を用意していたプロも居るが、やはり追いつかない……


「ブル… ブルル… ブルフィイィィイイィィンッ!!」


 悦び過ぎだろお前! つか、なんで言葉が通じるんだよ!

 この馬、わりとマジでキモい……



―――



 追跡者を振り切って街のはずれにある俺の実家へやってきた、フィロとの待ち合わせの場所だな。


(見えてきた、アレが俺の実家だ)

『はぁ? アレって……』


 そこにはそこそこ大きな屋敷……の残骸があるだけだった。

 フィロはその廃墟と化したティザー家をボ~っと見上げている。


「お待たせフィロ」

「あ…… アリスちゃん…… えっと、あの…… これ……」

「うん、ティザー家は3年くらい前に焼失したの」

「火事?」

「そ」

「でも3年前って…… それじゃテレスお兄ちゃんは旅立つまでドコで暮らしてたの?」


 もちろんココで暮らしてた、中にテント張ってね、野営の訓練にもなったしサバイバルスキルが凄い上がった。


「それでねフィロ、残念ながら宿が取れそうにないんだ」

「え? 宿? いっぱいだった?」

「うん、まぁそんなトコロ……」


 変態がイッパイで下手に宿を取るとかえって休めない状況になりそうで。


「そっかぁ…… 困ったね」

「それでね、ココで野営しちゃったらいいと思うんだけど、どう?」

「え? ココ? テレスお兄ちゃんの家で?」


 山から水を引いてるから今でも上下水道が使えるハズ、加えてこんな廃墟に好き好んで近づいてくるヤツはいない、完璧だ。


「ア…… アリスちゃんがそれでいいなら……」

「ん、決まりだね」


 久々の実家だ、ユックリ出来る…… いや、廃墟なんだけどね。


『おい』

(ん?)

『何があったか説明しろよ、気になるだろ』

(別に…… よくあるコトが起きただけだ)

『よくある? は! わかった! 迫害イベントだな!』

(は?)


 迫害イベント?


『お前のその魔王をも一方的にボコれる悪魔的な力を恐れた民衆からバケモノ扱いされて焼き討ちされたんだろ!』


 ティッペがドヤ顔してる…… 相変わらずの残念魔王だ。


『分かるぞ勇者よ、我も同じだ、幼少の頃より魔王の血族として周囲の者から畏れ敬われていた。

 心を許せる友はせいぜいアーポーペンくらいしか居なかった……』


 でたよアーポーペン、向こうはお前のことを友とは思ってなかったけどな。


『そんなワケでお前は家を焼かれ街を追われたのだろう?』ドヤァ!!

(ぜんぜん違うよ)

『嘘つけぇっ!! じゃあ何でこんな事になってんだよ!?』

(…………)

『ホラ見ろ! 沈黙は肯定の意味だろ!』

(いや間違ってる、勝手に判断するな)


 ただ言い辛いだけだったんだが…… まぁいいか。


(ティザー家炎上の原因は内部犯による犯行だ)

『え?』

(俺のジーサンがカジノで大爆死して三代かかっても返せない借金をこさえた。

 ジーサンバーサンと両親は俺に借金を押し付けて消えた、ちなみにその失踪時に家に火を放ち証拠隠滅していきやがった)

『oh……』

(俺自身は勇者特権のお陰で借金の支払いは真逃れたんだが、借金自体がなくなったワケじゃ無い)

『……おい、まさか』

(うん、魔王を殺せば借金もチャラになるかなぁ? って期待もあった)


『こんな志が低い勇者がいていいのかよぉ!! 神は人選を誤った!!』


 いや、お前は人のコト言えないだろ? こんな小物の魔王がいていいのかよ?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ