第58話 故郷
俺たちはアルテナ王国を旅立った、王様がやらかしてくれたお陰で派手な出発になってしまった……
今は全力で王都を離れてる途中だ。
「いや~、それにしても凄い出発だったね、さすがお姫様! ボクの見送りなんて3人しかいなかったんだよ?」
俺の時は0人だったけどね……
「アイドルじゃないんだから……」
「アリスちゃんはアイドルみたいなものでしょ?」
王城から都市門までの約10km、沿道に国中の人が集まってるんじゃないかってほど人で埋め尽くされていた。
勇者シーザーが凱旋した時もあんな感じだったらしいが、出発時にあれ程の見送りを受けた勇者が過去にどれだけいただろう?
第1勇者とかは国を挙げてのお見送りがあったかも知れないが、自主的にあれだけの人が集まるとは……
アイドル…… と言うより神様扱いだった気もする。
半数ぐらいが拝んでたし……
そして案の定、俺たちの後をついてくる連中が大量にいた。
アレだ、パパラッチとストーカーってやつだ。
そんな非戦闘員を連れて旅をするなんてお断りだ、それならまだ魔導騎士団のほうがマシだっただろう。
要するにそいつらを振り切るために俺とフィロは全速力で王都から離れているんだ。
マレンゴはいい馬だ、ココまでは二人乗りだったためそんなにスピードが出せなかったが、俺が『魔女のホウキ』で移動し、フィロが一人でマレンゴに乗れば今まで以上のスピードが出せる。
マレンゴが疲れてきたら回復魔法を掛けてやればいい、この高速移動術にかなう駿馬はなかなかいない。
そしてこの移動法を実践して僅か数分で『魔女のホウキ』の素晴らしさを実感した!
まずなんと言っても揺れない! これが素晴らしい!
1日中馬に乗ってると結構お尻が痛くなる、それに体中筋肉痛にもなる。
回復魔法で無理やり癒やすが精神的にも肉体的にも結構疲れがたまるんだ。
そしてもう一つの利点、それは運転手の存在だ!
『魔女のホウキ』は魔王が操縦している、だから俺はただ乗りながら魔力を供給するだけでいい、ぶっちゃけ寝てたって良いくらいだ!
乗ってるだけで勝手に魔力を持ってってくれるから。
だからホウキの操縦は魔王に全て丸投げしてる、そして俺は優雅に読書している。
揺れないから酔うこともないしね。
(運転手さん、よく冷えたポーション1杯お願い)
『おい、我はお前の召使いじゃないんだぞ? それと結構神経使うんだから余計なツッコミをさせるな!』
どうやら『魔女のホウキ』の操作は結構大変らしい…… まぁ知ったこっちゃないがな。
まったく、アリスの乗るホウキの運転手をしてるクセに微妙に使えないヤツだ、この栄えある役目を拝命しているなら完璧を目指して欲しいモノだ。
「ブルルルッ!」
ただ…… 気のせいだろうか? フィロが一人で乗るようになってからマレンゴが不機嫌になったような気がする。
まぁ元の飼い主が飼い主だからなぁ…… きっと特殊な性癖があるのだろう。
美少女に乗られて喜ぶような性癖が…… しかたない、野営する時に素足で踏んでみよう、これで機嫌が戻るようなら間違いなく飼い主に似た変態馬だ。
―――
――
―
俺たちは今までダラダラ進んでたのが嘘のようにキリキリ進むようになった。
イスト大陸南部は低レベルではあるがそこそこ魔物が生息している。
しかし街道まで出てくることは滅多にない。
そのため街道を旅する限りは障害もなく快適に進めるというわけだ。
しかし一歩街道を外れれば結構高確率で魔物に出くわす、そんな土地柄だから盗賊が少ない。
盗賊は基本的に街道を通らない、そんなトコロを堂々と通ってたら獲物から丸見えになるだけじゃなく、巡回兵にアッサリ見つかってしまう。
これじゃ仕事にならない。
だからといって街道を外れると、こんどは常に魔物に気を配らなければならなくなる。
当然戦闘にもなる…… これじゃ仕事にならない。
もちろんだからと言って盗賊がまったく居ないわけじゃない。
この辺に居る盗賊は、大陸中部に居る変な名前の盗賊団とはレベルが違う、あっちがアマチュアならこっちはプロだ。
ただまぁ…… ソイツらは二人組の旅人など襲わない、もっと大きな商隊なんかを狙うからあまり気にしなくてもいい。
いや…… 俺が盗賊だったら美少女の二人旅なら襲いたくなるかもしれない……
もちろんやらないが、あくまで盗賊だったら……だ。
アルテナの王都を出て1週間、隣国のカルトペグニオ王国に達していた。
今の段階で俺たちを興味本位でストーキングしていた連中の9割は置き去りに出来た、まだ少し残っているみたいだがコイツ等はプロだ、完全に撒くのは難しいかもっしれない……
ま、いいか、プロは必要以上に近づいてこない、そのうち撒ければいいや。
「ねぇアリスちゃん、そろそろ食料の買い足しをしたほうがいいんだけど……」
「あれ? もう?」
「うん、でね? この先にバカラって街があるんだけど、そこでいいかな?」
「バカラ……かぁ……」
「? アリスちゃんってバカラに行ったことあるの? あ…… そっか」
フィロが察してくれた。
『なんだなんだ? 何かあるのかその街に?』
魔王は察しが悪いな。
(バカラは俺の…… 第7勇者テレスの生まれ故郷だ、あんまり寄りたくはないんだが……)
『あぁ~、分かるぞお前の気持ちが』
(は?)
『アレだろ? 悪ガキだったお前は地元に顔を出し辛いんだろ?』
(まぁ間違っちゃいないんだが、その理由は正確じゃない、問題なのはテレスが魔王になったってウワサの方だ。
なにせ俺の先輩魔王は世界に名を轟かせる変態で、魔王の社会的地位を底辺まで貶めたヤツだからな。
まったく、あとを継ぐヤツの身にもなってほしいよ)
『誰が変態魔王だぁあッ!!』
お前だよ、お前以外に誰が居る?
もちろん今の俺はアリスの姿をしているからあまり関係ないんだがな。
「分かった、ちょっと寄ってこうか」
「イイの? アリスちゃん、嫌な目に会うかもしれないよ?」
「買い物だけしてすぐに出ていけば大丈夫でしょ」
バカラのコトは知り尽くしてる、ドコに行けばご禁制の品物が買えるかも知ってるくらいだ。
念の為ホウキを降りてマレンゴに乗り換える、さすがに空飛ぶほうきに乗ってたら目立つからな。
「ブヒィィィン♪」
マレンゴの速度が目に見えて落ちる……
コイツわざと遅く歩いてないか? まぁ街はすぐそこだからいいけど……
『おい勇者、話が違うぞ』
(あ? どうした?)
『前を見てみろ、お客さんだぞ』
(客?)
魔王に言われて前を見ると、冒険者風の男たちが道を塞ぐように立っていた。
「お~っと、ここから先は有料だ、無事に通りたければ通行料を払ってもらおうか?」
「へぇ? 護衛も雇わずに女の子二人で旅か、よほどの世間知らずと見える」
「金が無いなら特別に仕事を紹介してやるぜ? へっへっへっ」
盗賊だ……
『この辺は盗賊が居ないんじゃなかったのか?』
(あ~…… 忘れてた、イスト大陸南部は小規模な盗賊団が少ないだけで、ゼロってワケじゃないんだが…… この辺は特別なんだ)
『特別?』
(この周辺にはモンスターが生息してないからな、すぐに盗賊が集まってくる)
『魔物が寄りつきにくい土地柄なのか?』
(そうだな、7年前から俺が周辺のモンスターを根こそぎ絶滅させて回ってたから、おかげでモンスターがまったく寄り付かない土地になった)
『…………』
(…………)
『はぁあッ!?』
(ちなみに近くにあった小迷宮を2つ停止させ、近隣に生息していたモンスター約10種の内8種を絶滅させた。
そうそう、イスト大陸に生息していたオークを絶滅させたのも俺だ。
ここから10kmほど山奥に行った所にオークキングダムとか作ってたから滅ぼした)
『コイツさらっと…… お前の手は一体どれだけの血で汚れてるんだ!』
魔王が常識人っぽいこと言ってる…… 世界で一番非常識なくせに。
「よし、フィロ、盗賊は生け捕りにしよう」
「え? うん…… 結構数多いけど大丈夫かな?」
「大丈夫大丈夫」
『なんだ皆殺しにしないのか?』
(ん~、生きたまま軍の詰め所に持ってくとお金に変えられるんだ、昔はよく盗賊で小遣い稼ぎしたもんだ)
『………… 時に勇者よ』
(ん?)
『お前…… 我と戦った時、レベルいくつだったんだ?』
(…………)
「ナ・イ・ショ☆」
『ヤメロ! アリスたんの真似するな! 中身がゲスヤローだと分かっててもやっぱりカワイイんじゃ~!!』




