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Alice to Teles ~外道勇者と親バカ魔王と魔王の娘とそのペット~  作者: 群青
イスト大陸編 ~グランディア王国~
6/70

第5話 国歌斉唱


 服屋を出ると既に薄暗くなっていた。

 次は宿だ。


 あまり安宿だとセキュリティーに不安が出る、男の時は余り気にしなかったが、今はある程度の宿に泊まらねば…… ゆっくり寝たいからな。


「…………」「…………」

「…………」「…………」

「…………」「…………」


 なんか…… さっきのテーブルクロスドレスの時よりチラチラ見られてる気がする……


『可愛いよアリスたん♪ アリスたん可愛いよぉぉぉ!』'`ァ'`ァ


 さっきから魔王が壊れてる、もともと低め打ちだったけど更に輪をかけてぶっ壊れてる、駄目だこいつ……早くなんとかしないと。


「おっと、ここらへんかな?」

『ん? ナニがだ?』

「今晩泊まる宿」


 商店街を進んだ先、街の中心近くにある宿の前で足を止める。

 この辺りの宿は冒険者向けの安宿と違い、どちらかと言うと商人向けのちょっとだけ高級な宿だ、あくまでチョットだけだけど。

 商人向けの宿はセキュリティーが良いからな。


 しかし魔王様はそうは思わなかったらしい。


『こんな馬小屋みたいな所にアリスたんを泊まらす気か?』

(そりゃ魔王城住みにしてみれば馬小屋レベルかもしれないけど、一般的な宿屋ランクではB~Cってトコなんだぜ? 冒険者からすればかなりの贅沢だ)

『アリスたんをAランク以下に泊めるんじゃねーよ!』

(無茶言うな、そんなとこに泊まったら一泊で金が無くなる。

 ここが妥協できるギリギリなんだよ)

『チッ! 偉大なる王族でありながらこんな馬小屋みたいな所に泊まらざるを得ないとは……

 あぁ! なんて可哀想なアリスたん……の身体!』


 ホントにウルセーなこいつは。

 だったらお前が金稼いでこいよ。

 金も稼がず、歩きもせず、文句ばかり言うとは…… コイツに~との才能に溢れてやがる。


「無い袖は振れないんだよ」

『ちょっ! 待たんか! 置いて行くなー!!』


 カランカラン♪


「いらっしゃ~い!」


 元気のいいオバちゃんが出迎えてくれる、如何にもB~Cランクって感じの宿だな。

 このランクじゃコンシェルジュとかは当然つかない。


「一泊幾ら……ですか?」

「一泊12000ディルだよ」


 うっ、結構高いな、俺がいつも使ってた最低ランクの安宿なら3000ディルくらいなのに。


「結構する……しますね?」

「この代金には夜と朝の分の食事代も含まれてるからね、むしろ割安だと思うよ?」


 夕食・朝食付き……か、このランクでこの値段なら悪くないか。


「それじゃ一泊お願い……します」

「まいど~♪ じゃあ12000ディルね、部屋は3階の一番奥、夕食は6時から10時の間ならこの奥の食堂でいつでも食べれるよ、ちょっと早いけど今すぐ入ってもいいよ」

「そうですね、じゃあ頂こうかな?」


 アリスの身体で長距離歩いたらかなり腹減った。


「はいよ、それじゃ好きな席に座って待って……おや?」

「?」

「そいつはお嬢ちゃんのペットかい?」

「そいつ?」


 おばちゃんの視線の先…… そこにはアリスのスカートの中をガン見している変態エロオヤジが一匹いた。


「ペットは+3000だよ、そのかわりペット用の夕食と朝食も付くよ」

「+3000……」



 ゲシッ!



『グフッ!!』


 カカトで変態エロオヤジを蹴り飛ばす。


「違います、街の外を歩いてたら勝手に着いてきた野生動物です」

『ちょっ!? おぉおい!!』

「そうなのかい? ずいぶん懐いてるようにみえるケド」

「キューキューキュー!!」


 魔王さまは必死にペットアピールしてる…… どうやら本当に魔王の矜持ってヤツを捨ててしまったらしい…… 哀れな……


「イヤだなぁ、ホントにペットならこんな風に足蹴にしたりしませんよ」



 ゲシッ!



『グハッ!!』

「それもそうか……」


『ちょ……ちょっと待て! キサマどういうつもりだ!?』

(偉大なる魔王さまは馬小屋なんかに泊まりたくないんだろ?)

『そ……それは…… いや! アリスたんの身体に入ったお前を1人にする方がもっとイヤだ!』

(お前の心情など知るか、+3000は結構デカい、偉大なる王族にはわからんだろうがな。

 と、言うワケで……)



 ガシッ!



「キュッ!?」

「野生動物は……」


 魔王の首を掴み窓を開けて……


「野生に帰れ!!」

「キューーー!?!?」(Noーーーーー!!!!)


 薄暗くなってきた空に向かってロングスロー!

 星に成れ。



 キラーーーン!



 魔王さまはお星様になった。

 アタタ…… 全力投球したら肩が痛い、後で回復魔法かけよ。


「と、言うワケです」

「た……確かにペットじゃ無さそうだね?

 でもお嬢ちゃん、可愛い顔して結構エグいね?」

「ヲホホ、イヤですワ、私ったらハシタナイ♪」


 ココまでやればオバちゃんも疑いの目を向けることはないだろう。

 +3000は切実なのだ。



―――



 食事を取り自分に宛てがわれた部屋へ入る。


「うっぷ……」


 かなり満腹になった、男の頃はあの量では全然足りなかっただろうが、アリスは胃も小さいらしい、食費は抑えられそうだ…… その分体力も少ないんだが……


「はぁ……」


 帽子を脱いでそのままベッドに横になり天井を見上げる……


「たった1日…… 色々あったな……」


 本当なら今日俺は英雄になってたハズだ…… ところがあの死に損ないの変態ロリコン魔王のせいでとんでもない事になってしまった。


「身体が入れ替わるって…… これじゃ勇者時代に積み上げたコネクションが一つも使えないじゃないか……」


 それだけじゃ無い、銀行に預けてある武器や防具、レアリティの高い便利アイテム、つーか現金すら引き出すことが出来ない……

 ナニもない状態でもう一回魔王城まで行くのはかなり大変だ。

 それもこれも全部あの変態ロリコンの所為だ!

 女神様も甘いよ、やっぱりアイツは殺すべきだったんだ。


「アリス…… どうか無事でいてくれ……」


 俺の身体はかなり頑丈だ、スチールゴーレムのボディプレスを喰らったって大したダメージにはならない。

 だが中のアリスはあの変態の娘とは思えないほど純粋で繊細だ、大丈夫だろうか? 悪い大人に騙されたりとかしてないだろうか?

 今は祈ることしかできない…… 残念ながら他に出来るコトが何も無い。


「何も出来るコトが無いのなら……」


 …………


「よし、ちょっとオ○ニーでもしてみよう♪」




《 ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーーー!!♪ 》

《 ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーーー!!♪ 》



 なんだろう? 地獄の亡者が叫んでるような声が聞こえる……



《 地獄!! 暴力!! 残虐!! 悪魔!! お前の目玉を抉り出し!! 潰して硝子体で喉を潤す!!♪ 》



 これ歌? とんでもない歌詞だ。

 この聞くに堪えない雑音の発生源を探すと…… 部屋の窓にベッタリ張り付く小動物の姿を発見。

 目が合うと歌が止んだ。


『やらせはせん!! やらせはせん!! やらせはせんぞぉおおおおお!!!』


 悪魔のようなオーラを纏い、変態エロオヤジがシャウトする……

 あぁ、これが魔国国歌か…… 酷い国歌もあったモノだ。


 カーテンを閉めると……



《 ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーーー!!♪ 》



 またしてもイントロ部分の絶叫が念話で届く。

 カーテンを開けると止む。

 つまり目の届く所に居ないと一晩中でも脳内にデスメタル風の国歌が響き渡るというワケだ。


 俺は今初めて魔王の恐ろしさを知った気がする、人類の敵と呼ばれるのも納得だな。


 仕方ない…… 今日は諦めるか、なぁにチャンスは幾らでもあるさ。

 それに今日はいっぱい歩いて疲れてる、早く寝たいってのが正直な気持ちだ。


 ランタンの火を消してさっさと寝ることにする、もちろん小動物を部屋に入れる様なことはしない。

 アイツ分の金は払ってないし、バレたら違約金を取られるかも知れない。


 そんなワケで今日は素直に寝ることにした、おやすみなさい。


 ちなみに…… 明かりを消しても窓から入る月の光で辛うじて部屋の中が確認できるからだろうか? デスメタルは配信されなかった。




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