第57話 拡散
今日はアルテナの王城で一泊することになった。
嫌な予感がしたのでフィロと同室にしてもらった…… 一人で寝て夜中に拘束とかされたらヤダから。
自力脱出も出来るだろうけどココは魔法王国だ、魔法を封じられたらアリスはただの虚弱体質美少女に成り下がってしまう、念の為フィロにくっついていたほうが安全だろうと判断した。
「ねぇアリスちゃん、良かったの?」
「うん? ナニが?」
夜、それぞれのベッドに入り明かりを消して寝ようとすると、暗闇の向こうからフィロが話しかけてきた。
「あの耳長族のヒト仲間にしなくて?」
「ん、いいのいいの」
だってあの娘、絶対監視だもん。
この旅が終わったら有無も言わさずこの国に連れ戻すためのスパイみたいなものだ。
遠くからコッソリこっちを観察するスパイならまだいい、邪魔に感じたら撒けばいい、最悪事故に見せかけて始末するだけだから。
だが味方のフリして近くから観察されるのは勘弁して欲しい、そんな鬱陶しい存在は魔王1匹で十分だ。
もちろんすべてが終わったら国に戻ると口約束はしている、そうしないと『魔女のホウキ』を貸して貰えないかもしれないから。
だが実際にこの国に戻るかどうかを決めるのは俺じゃない、その頃にはこの身体はアリスのモノに戻っているはずだからな。
「でも耳長族ならアム大陸を旅するのにも有利になったと思うよ?」
「かもね、まぁメリットよりデメリットのほうが上回ったんだよ」
「??」
アム大陸はイスト大陸とは比べ物にならないほど魔物が強く数が多い、普通に考えればレンジャーの能力が高く案内にもなる耳長族は喉から手が出るほど欲しい人材だ。
しかし俺は既に一度魔王城まで至っている、さらに決して道に迷う事のない能力を持つフィロまでいる……
…………
な? 案内役は不要だろ?
―――
――
―
翌日、朝イチで王様から『魔女のホウキ』のレクチャーを受ける。
果たしてうまく乗れるだろうか? 俺って魔力操作へったくそだからなぁ……
「腰を掛けて魔力を流してやるだけでいい、後は自由に操作できる。
操作方法を口で説明するのは難しい、一度飛ばしてみて慣れてもらうしかないな」
レクチャーと言っても随分適当だ、やはり空を飛ぶ感覚を飛んだことのない者に説明するのは困難なようだ。
「とにかく一度やってみろ……ってコトですね」
「ああ、一つだけ忠告しておこう」
「?」
「ホウキに座る時、横座りで乗ることをオススメする。
私は若い頃、跨いで乗ろうとして地獄を見た」
あぁ、たしかにそれは地獄だろう。
もしかしたらこの鞍、コイツが付けたのかも知れないな。
「とにかくやってみます」
忠告通り鞍に跨がらず、横座りで乗ってみる。
「これで魔力を流す……ッとおぉぉーーー~~~ぉっ!?!?」
ドギュン!!!!
凄まじい勢いで一気に王城の上空、雲の近くまで飛び上がった!?
「くそっ! 操作ムズッ!!」
進みたい方向への操作は意外に出来る、だが少し魔力を込めるだけで何百mも一気に進んでしまう、スピードも早すぎだ。
こんな使い方してたらすぐに魔力が枯渇するんじゃないか?
『まったく見ておれん、世話の焼けるヤツめ』
「あれ? お前いたの?」
『いたよ、正直こうなる気がしてたからついて来たんだ』
そう言うとティッペが器用にホウキの柄に乗る。
「お前は魔力吸われないのか?」
『我の身体はアリスたんと同じ魔力の塊だ、アリスたんが無事なら我も無事に決まってる』
そうなのか…… 魔力を座れてペラペラになったティッペが見たかったのに…… 残念だ。
『ムンッ!』
グググ……
「お?」
ギュンギュン ハヤブサみたいに飛び回ってたホウキの速度が蝶々レベルにまで落ちた。
勢いでふっとばされるなんてコトはなかった、そう言えば飛び出した時も特に勢いは感じなかったな……
「ナニやったんだ?」
『我が制御を引き継いだんだ、お前は下手くそ過ぎ』
「魔力操作の引き継ぎなんて出来るのか?」
『我がティッペの身体だからこそ出来る芸当だな』
それはつまり魔王がいないと『魔女のホウキ』は使えないってことか?
『我がいなければ『魔女のホウキ』は使えんなぁ?』
チッ! 心を読まれた。
つまり肥料代わりに花壇に挿して立ち去ることも、コイツがネリス姫誘拐の主犯とバラして生贄に捧げることもできなくなるワケだ……
バカ魔王が増長しそうだな……
『だいたい勇者のくせに人類最底辺レベルの魔力制御しか出来ないとか出来損ないにも程がある……』
さっそく初めやがったな、だったら……
ググ…… ギュンッ!!
ちょっと魔力を盛ってみる、絞るのは苦手だが盛るのは得意だ。
『ぬおっ!? や、やめろ! 我が制御してる時に魔力出力を上げるな!!』
「人類最底辺レベルにムチャ言うな、そんな高度な魔力制御できるワケ無いだろ? ホラホラしっかり制御してみろ魔の王様」
『グヌヌ! この糞ガキ!』
「ほ~らほ~ら♪」
―――
「うわぁ~、アリスちゃん凄い、あんなスピードなのに全然ブレてない」
「うんうん、さすがは私の孫だな♪」
―――
試運転終了。
これで魔王城までほぼ歩かずに辿り着けそうだ。
『ゼハァー! ゼハァー!』
魔王が念話で息切れしてる…… 呼吸を必要としない念話でどうして息が切れる?
いちいちわざとらしいんだよなコイツは……
(おめでとう魔王、コレでお前はアリスのペットからホウキ運転手に昇格だな、今までずっと運んでもらってたんだからこれからはちゃんと働けよ)
『お…… お前は分かってない…… アリスたんの…… 大魔力を制御する苦労をッ!』
分かるわけねーだろ、人類最底辺って評価したのはお前だ、そんな俺に魔力操作の大変さなど想像もつかん。
つーかお前はもう少し苦労すべきだ、今までは魔法辞書くらいしかしてなかったクセに。
すべての元凶にして諸悪の根源なんだから。
「お疲れ様アリスちゃん」
城の中庭に下りるとフィロと国王が寄ってくる。
「凄いね、これでイカロス兄様みたいに上から一方的に魔法攻撃が出来るよ♪」
「…………」
ヤメてくれイメージ悪い……
「あ、アリスちゃんが嫌そうな顔してる……」
おっと、顔に出てしまった…… いや、出るに決まってるだろ。
「コホン、とにかく『魔女のホウキ』があればこれからの旅をより素早く、より快適に、より安全にできますね、それでは国王陛下、コレ、お預かり致しますね?」
これは俺のモノだ、もう返さん、どうせアリスにしか使えないんだから。
「むぅ…… あぁ、もともとそれは第3勇者が持つべき物、アリスたんが必要だというのなら渡さないワケにはいかない……」
なかなか聞き分けが宜しい、孫に激甘だな。
「いかない……のだが……ッ!」
「?」
「アリスたぁぁ~~ん!! ホントにもう行ってしまうのかぁ!? まだ会ったばかりじゃないかぁ!!」
「国王陛下…… 何度も申し上げましたが急ぐ旅なんです」
「聞いたけど! 確かに急ぐ旅って聞いたけど!」
王様ウザ~い…… しかしそれも仕方ないか。
「国王陛下、約束します。
全てが終わった時にはこの国に戻ってくることを……」
「ほ……本当か? 絶対?」
「えぇ…… 全てが終わった時には私の身内はココにしか居ませんから……」
『おぉ~い、我!我! アリスたんの身内はココにも居るだろ!』
全てが終わった時にはお前は死んでるだろ? まさか生き残るつもりか? どんだけ見通し甘いんだよ。
『だいたいお前勝手な約束するな! 全てが終わった時はその身体をアリスたんに返した後だろ!』
(いいんだよ、こう言っておけば相手は満足するんだから、それに全てが終わった時ってのは主観だ、俺やアリスがまだ終わってないって思えばそれは終わりじゃない)
『お前…… 屁理屈じゃねーか』
なんとでも言え。
「あ、そうだ国王陛下、一つお願いが……」
「なんだなんだ? お小遣いか?」
「いえ、私自身の事についてです」
「ん?」
「第3勇者のコトは人々に知られないようにしたいんです」
せっかく没落扱いだったんだから、余計な柵は背負いたくない。
それに当然、父親は誰だって疑問が湧くだろうから。
「あ~~~……」
「?」
「ゴメン…… もう手遅れだ」
「は?」
「国民や周辺国、新聞・週刊誌、魔導ネットワークのコミュニティ、SNS…… 全力で拡散しちゃった」
ウソだろ? 昨日の今日でそれだけ情報をバラ撒いたってのか!?
なんでどいつもこいつも俺の思惑の逆方向へ突っ走るんだよ!




