第56話 2人目の仲間
--- クリスティーナ・クローロン視点 ---
私の名はクリスティーナ……
イスト大陸にはほとんど生息していない亜人族の一種、耳長族だ。
私はかつて奴隷だった……
生まれたのはアム大陸に点在する耳長族の里の一つ、清林の郷フォーオクロック。
私はそこの長の孫娘として生まれた、今から50年程前のことである。
自分で言うのも何だけど私は特別だった。
非常に高い魔力値、弓術では大人でも私に敵うものはいなかった。
フォーオクロックの神童・天才などと呼ばれていた……
あのまま郷にいれば、間違いなく次の代の長になっていただろう、実際自分でも何となくそんな人生を歩むと思っていた。
耳長族の概念では勝ち組と呼べなくもない長の座が約束された未来…… だがそんなモノは簡単には手に入らない、驚くほどアッサリと手の平からこぼれ落ちてしまうものなのだ。
何があったのか…… よくあることだ、私は攫われたのだ。
見た目が美しい者が多い耳長族の、更に子供は奴隷としての人気が非常に高い。
私も郷で一番美しい……とまでは言わない、まだ幼かったし……
だがいずれは郷一番の美人に育っていたのは間違いない、うん。
そんな将来を約束された少女が暮らす郷はある時、ある人族の集団に襲われたのだった。
それは亜人族を専門に襲う集団『新月旅団』だった。
奴らは月のない夜に私の郷を襲い一気に滅ぼしたのだ……
もちろん大人たちは抵抗した、魔術的素養は一般的な人族を遥かに上回る我々耳長族は、例え不意打ちを受けたとしても簡単にヤラレはしない…… そう思っていた。
だが私たちは奴らを甘く見ていた、亜人族を専門に狩る集団が何の対策も立てずに耳長族の郷を襲うはずがなかった。
奴らは神経ガスを使い我々を動けなくした、耐性のお陰でわずかに動けた大人たちも、対魔金属である魔刻銀製の武具で身を包んだ集団に蹂躙されたのだ。
私の郷は朝を待たずに全滅した、半分は捕らえられ残り半分は殺されてしまった……
その後、私たちは全員バラバラに奴隷商へ売られていった。
奴隷にもグレードというものがある、もっとも高く売れるのが美しい種族の少女、次が力仕事ができる種族の若い男、それ以外は特別な能力を持たない限りロクな扱いを受けないらしい。
ちなみに人族の美的感覚的に美男美女揃いの耳長族の少女は非常に高値で売れる、まぁ一番高く売れるのは人魚族の子供らしい…… ちょっと納得がいかないがレアリティの問題だろう。
とにかく郷でもっとも高く売れる私は、もっとも高く買ってくれる客がいるイスト大陸へ連れて行かれた。
魔王軍が海を支配するこのご時世、例え奴隷でも海を渡るには莫大な費用がかかる。
それでも連れて行くということはよほど高値で買ってくれる客がいるのだろう。
…………
と、思っていたのだが私はおよそ10年間売れ残った…… どうやら最低落札価格が高すぎたらしい。
成長のおそい耳長族だからなのか、なかなか値下がりしなかったのも大きな理由だ…… 屈辱だ! この私が! 郷で1番の美少女と言われた私が売れ残りとは!
そうして私は最も売れる期間を奴隷として過ごすこととなった、それは最も若くピチピチした青春の貴重な時間を牢屋で過ごすことと同義だった。
何年も経ち……
私の値段が下がるのと比例するように扱いが雑になっていく……
小さい頃は食事も栄養バランスに気を使ったメニューだったのに、その頃にはシリアルが増えてきた、そして野菜炒めのモヤシ含有量が目に見えて増えた……
まだ貰えるだけマシだったのだろうか?
子供の頃は教養を学ぶための時間もあったのに、その頃には若い奴隷に教養を教える役目を押し付けられた…… そして私の教え子たちはどんどん売れていった……
いつの頃からか私にはオールドミスというアダ名が付けられていた、意味はよくわからないが何かムカついた。
子供の頃には運動の時間もあったのに、その頃には奴隷商人のペットの犬の散歩係に任命された……
ああいうのが奴隷にふさわしい仕事なのかもしれないなぁ……
そして…… 虐待を受ける様になった……
と言っても身体に傷が残るような虐待じゃない、値下がりしていても私は高級品、他の安物種族とはワケが違う。
慣れない肉体労働で限界まで体力を消耗させられメシ抜き…… 素手でトイレ掃除…… 言葉攻め……
屈辱の極みだった……
郷で最も優秀だった私がこの扱い……
だが何年もこんな扱いを受けていれば案外慣れるモノだ、虐待を受け始めて1年ほどで苦痛を感じなくなり、2年ほどで快感を覚え始め、3年目で完全に目覚めた。
朝一で奴隷商人に罵られないと、その日1日調子が悪いレベルにまで拗らせてしまった。
そんな日々を何年も続けていたある日、私は私が使えるべき存在を知った。
奴隷商人が読んでいた新聞に写真が載っていたのだ、それは世界で最も美しいと言われる存在だった!
そう、アルテナ王国のネリス姫だ!
あの方こそ我が主に相応しい!
しかし王族が個人的に奴隷を買うとも思えない、だいたいココはカルネアデス神聖国、アルテナ王国からは少し離れてる。
そこで私は自分で自分を買い取ることにした、奴隷商人たちもいつになっても売れない私の扱いに困っていた、なので私が自分で金を稼ぎ自分を買い取ることを許可してくれた。
私の魔法技能を使えば金を稼ぐことはさほど難しくない。
ただ…… 私の買い取り額が39800ディルだったのには驚愕した…… この値段でも売れないのかよ…… 屈辱だった…… そしてちょっとだけ快感だった。
私は自分をすぐさま買取、奴隷身分から解放された。
そしてそのままアルテナ王国へと向かった、目的は親衛隊入隊!
才能あふれる私は試験に一発合格! しかし素性の知れない私はすぐにネリス姫のお傍には仕えられなかった…… コレは仕方が無い、だが遠くからでもネリス姫を見る事ができるのは幸せだった、欲を言えばネリス姫に罵って欲しかった…… それがダメなら雑に扱って欲しかった!
いずれ信頼を得てお傍に使えることが叶ったら、私のご主人様になってもらえるよう頼んでみよう、相手は王族だしこれくらいなら許されると思う。
しかし……
私のそんな願いは永遠に叶う事は無かった……
ネリス姫が変態糞ロリコン魔王に攫われたのだ!
ああっ! こんな事なら私が先に攫っておけばっ! いやいや、それじゃご主人様になって貰えない…… あ、でも罵っては貰えたかも…… どちらにしてももはや叶わぬ願いだった!
いつの日かネリス姫が戻られる事を信じてココで待ち続けていた…… だけど姫は戻らなかった……
―――
――
―
虚無……
もはや私のご主人様に相応しい人など永遠に現れないのだと思っていた……
そんなある日、奇跡が起きた!
彼女を見た瞬間、心臓が止まるかと思った!
そこにはネリス姫に瓜二つの少女が居た、本人は否定していたが一目で分かった、彼女はネリス姫の娘だ、間違いない。
しかも彼女には、純真無垢だったネリス姫には無いゲスな魂をその内側に隠している様に見えた!
間違いない! 私はこの御方に使える為に生まれてきたのだ!
―――
「クリスティーナ・クローロンと申します、以後お見知りおきを……」
「彼女は見ての通り耳長族だ、このさきアム大陸に渡った時に案内役としても役に立つ、さらに弓の扱いに関しては右に出る者のいないほどの腕前だ」
ナイス王様!
「ボクは構わないけどアリスちゃんはどう?」
チッ! アウダークスの田舎者め! アリスティア様をちゃん付けで呼ぶとは!
しかしあんな田舎者でも一応勇者、それくらいならギリギリ許してあげよう、これから一緒に旅をする仲なんだし……
「この件に関しては全ての決定権をアリスちゃんに任せるよ、ボクが口出しする事じゃないと思うから」
立場を弁えているようだ、そこはなかなか高ポイントですね。
「いえ、結構です、要りません」
え……? あ、あれ~??




