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第51話 現人神


 とある安宿の一室……


 キュルルル~


「う……/// まだ8時なのに鳴らないでよ」


 フィロは食事も取らず、一人アリスの帰りを待っていた。


「それにしても遅い…… アリスちゃんカワイイし人攫いにでも拉致られちゃったかな?」


 冗談のつもりで口に出したけど、ホントにありそうだから困る。


「なにか…… あったのかな?」


 さっき一時的に全ての音が消失した、ここが魔法王国だとしてもあんな事が頻繁に起こるとは思えない、正直アリスちゃんの仕業だと思ってる。


 …………


 アリスちゃんって時々…… いや、わりと頻繁にとんでもない事するからなぁ……


「探しに行こうかな? 入れ違いになっちゃうかも知れないけど、無事だったらそれくらいどうでもイイことだし……」



 キシ―



「!?」


 廊下の方から僅かな音がした…… アリスちゃんが帰ってきた?



 コン……


    コン……



「誰? アリスちゃん?」

「…………」


 返事はない、その時点で嫌な予感が止まらない、しかしこのまま放置しておくワケにもいかない、意を決して廊下を確認する。



 キィィィ~……



 少し建付けの悪い部屋の扉を開き外の様子を窺う。

 もちろんシィル=レイドを片手に持ち……


 しかしそこには誰もいない。


「アリスちゃん? いないの?」


 返事はなかった。



―――



『おい、返事しないのか?』

(いや、だって…… 抜き身の剣を構えてるんだぜ? 今声を掛けたら斬られそうで)


 別に声を掛けなかったのはイタズラ目的じゃない、もし黒尽くめの集団に俺の素性がバレてたらここにも既に監視がついてる可能性を考慮したからだ。


 フィロが廊下を確認している間にドアの隙間から部屋の中に入る。


(…………)


 このまま黙ってたらエロイベントでも発生するかな?

 もっとも今後の旅に支障を来たすからイベント発生は阻止するけど……


「誰もいない…… なんだろう、なんかちょっと怖い」



 パタン



 扉が閉じられた…… フィロから十分に距離をとって……


「フィロ」

「うきゃあああぁぁああ!?!?」


 フィロがパニックを起こし剣を振り回している、怖ーよ。


「にゃ! にゃにもにょだッ!!」

「落ち着いてフィロ」

「ふへ? アリスちゃんの声? ドコ? まさか生霊?」


 なんでそうなる?


「透明化してるだけだよ、ちょっと落ち着いて」


 フィロにいきなり斬られない距離を取り透明化を解除する。



 ス―――



「は…… ア…… アリスちゃん? はぁぁぁぁああ…… 驚かせないでよぉ~」

「ゴ…… ゴメンね、別に脅かすつもりはなかったんだけど」


 フィロにナニがあったのかを説明する、決してドッキリではない。



―――



「襲われた?」

「うん、かなり手練れの集団だった」

「もしかして…… アリスちゃんを奴隷にしようとしてたのかな?」

「う~ん…… そんな感じじゃ無かったんだけど…… それでね、早急にこの街を出ようと思うんだ」

「そうだね、ここに留まってたらまた襲われるかも知れないし……」

「えっと…… フィロはそれでいい?」

「うん、アリスちゃんの安全のほうが大事だから、それにこの街では鞘のカスタムメードは出来そうにないし……」


 やっぱり売店レベルじゃ鞘作成は請け負ってくれなかったか。


「それでどうする? 今すぐ出る?」

「ううん、相手は暗闇での戦闘を得意としてるみたいだったから明るくなるのを待とう、昼のほうが安全だと思う」


 もちろん追跡されて人けの無い所で襲撃を受ける可能性はある……

 だがそれで有利になるのは向こうだけじゃない、人の目がなければコッチも遠慮無用でブチかませる、返り討ちにしてやるぜ! 俺のアリスに手を出そうとする愚か者には血の制裁を!


 まぁ、フィロと2人で透明化すれば今すぐ出ていけるんだが、マレンゴが言うこと聞くか分からないからな。


「あ~…… あのねアリスちゃん」

「ん?」

「すぐに出て行くとなると少し困った問題が…… そろそろね…… 資金が底をつきそうなんだけど……」

「あ、それならしばらく大丈夫」

「?」

「オブシディアン・ナイフが100万ディルで売れたから」

「ひゃ…ひゃ… ひゃッくまんッ!?」


 フィロ…… 声大きい……


「シ~~~、落ち着いて」

「う、うん、ゴメンね? でもそんな高値で売れたんだ、ソ…ソ…ソードの方もココで売っちゃえば……」


 あれ? いつも純真なフィロの笑顔がちょっと黒く見える……?


「もっと高値がつくだろうけど現金化するのに時間が掛かると思う」


 それにあの店にはもう近づきたくない、今度はお茶に睡眠薬でも入れられそうで。


「そ、そうだよね、仮に数日掛かると言われたらずっとこの街に留まらなきゃいけないからね」

「まぁ100万ディルあればイスト大陸を旅する分にはお釣りが来る額だから、ソードは神聖国でオークションに懸けよう」

「そ…そうだね、うん、そうしよウ」

「え~と…… 小銭が多いからちょっと整理しようと思うんだけど…… フィロも手伝ってくれる?」

「ひゃい! フィロ・アウダークス、手伝わせていちゃちゃきまッス!

 ふぉぉぉお! 100万……!」


 …………


『どうしたんだフィロは?』

(大金見るの初めてなんじゃない?)



 その晩、襲撃者に備えて寝ずの番でもしようかと思ったけど、フィロが一睡もせずに金貨袋を睨んでいた……

 なので見張りはフィロに任せて休ませてもらう。


 フィロはきっと通帳とか見てニヤニヤするタイプだな、今までよほど苦労してきたのだろう。



―――


――




 翌日……

 目の下に酷いクマを作っていたフィロに回復魔法を掛けて宿を出る。

 時間は朝10時、ヒトが多く出歩く時間を待っていた。


 ……のだが……


「なんか…… 混みすぎじゃない?」


 動けない程……と、言うワケではないが、通りには人が溢れていた。

 それになにか……


 ジロ……

   ジロ……

  ジロ……

    ジロ……


 めっちゃ見られてる気がする! てか完全に見られてる!

 周囲に居る一般市民と思しき人達がめっちゃ見てくる!


 確かに女騎士の格好をしたフィロが引く馬に横座りしている美少女はお姫様に見えないこともない。

 しかしこんな童貞殺しみたいな格好したお姫様がいるだろうか?


 …………


 いや、アリスは正真正銘お姫様なんだけどさ…… 魔の国のお姫様。

 つーか何でこんなに見られてるの!? ほら! あそこのおばーちゃんはコッチ見ながら拝んでる! 仏様じゃねーよ?


「アリスちゃん…… これどういうこと?」

「こっちが聞きたいよ」

『…………』


 なんか魔王が妙に静かだ、普段ならこんな時アリスを褒め称えるように騒いでるのに……

 そう言えばコイツはこの街に入った頃から時々妙に静かになっていた。

 コイツがこういう時は絶対にナニかを隠している。


(おい魔王)

『なっ! ななな、ナニかな!?』


 隠し事できないヤツだなコイツは……


(お前ナニか知ってるだろ?)

『な! なんのことだ!?』

(もしかして…… 昨日アリスが狙われた理由が判ってるんじゃないか?)

『そ… そんなのアリスたんが美しすぎるからに決まってるだろ!』


 まぁ間違ってはいないと思うが……


『それよりも一刻も早く国を出ろ! 民衆がいつ暴徒となってアリスたんに襲いかかるか!』


 アヤシイ…… 1秒でもはやくこの国から出たいという意志が透けて見える。


「そこの2人、止まってくれ」


「ん?」


 俺たちを呼び止めたのは紋章とかマントとか装飾過剰なフルプレートアーマーに身を包んだ騎士だった。


『逃げろ勇者! 強行突破だ!!』

(いやいや、そういうワケにもいかんだろ、アレどう見てもこの国の国家騎士だ、昨日の不審者集団とは違う。

 下手に逃げたら捕まる、それにこう人でごった返していると馬を走らせることも出来ない)


「失礼、そちらの女性…… 顔を見せて頂いても宜しいでしょうか?」

「顔?」


 なんで顔を見せなきゃならないんだよ、しかし断ったら拘束されそうな雰囲気だ。

 ならば素直に見せるか? 素直に従ったところでトラブルに巻き込まれるのは確定的だ。


(最悪の時は強行突破するか、けが人が出るかも知れないが…… まぁ…… 仕方ない)

『今すぐ強行突破しろよ!』


 魔王の願いを切って捨てて帽子を脱ぎ顔を見せてやる。

 さあ! 美しさにひれ伏すがいい!



 ザザァッ



「え?」


 騎士だけじゃなく、周囲に居る一般市民までホントにひれ伏した。


「えぇ~……」


 ナンダコレ……




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