第49話 魔王の同属
結局ナニも買わずに店を出る、店員の感じが悪かったから500ディルの杖も買わなかった。
ちなみに杖やローブなんかの魔法使い用装備の品揃えは確かに良かった。
ただ上方を見上げると果てしなく頂きが高い、今まで魔法使い用装備とか気にしたことなかったから知らなかったが、あんなに高かったんだな……
あれじゃ騎士鎧と大差ない、それを納得いかないと思うのは俺が脳筋だからだろうか?
最高級の魔術士のローブと最高級の全身鎧がほぼ同額なのがどうしても納得いかない!
だって布と金属だぜ? ナゼ値段に差がつかない!?
『そりゃ材質の問題だろ?』
(だって布だぜ!? 金属と布だぜ!?)
『「印糸」という魔法の力が込められた糸がある、それを使って作られてたんじゃないのか?』
(………… そんなことドコにも書かれてなかったぞ?)
『魔法使いの装備にそれが使われるのは常識なんだろ? お前がモノを知らないだけで』
う~ん、そういうモノなのだろうか? 材質は表示すべきだ、高い理由が分からないのは困る。
こっちは魔法使い初心者なんだから。
「アリスちゃん」
「うん?」
「ボクはこれからギルドに行ってみるよ、望みは薄いけどね……
ついでにクエストも見てくる、アリスちゃんはどうする? 一緒に行く?」
「私は魔術ギルドに行ってみるよ、魔法書が欲しいんだ」
「アリスちゃんに今更必要なの?」
「まぁね……」
魔法を使う度に魔王にお伺いを立てるのが嫌なもので……
そもそも魔王はアリスの身を心配するあまり魔法のチョイスが過剰になりがちだ。
ここに来るまでの間にも何度が大惨事を引き起こしてきた、少なくとも初級や中級くらいまでは自分で選択できるようにしておきたい。
アリスの魔法の威力があれば初級魔法でもイスト大陸は余裕で踏破できる。
「あ、それとオブシディアン・ナイフの売却額も調べてくるよ、高ければナイフだけでもその場で売っちゃうかも知れないけど……」
「うん、それはアリスちゃんに任せるよ」
タダで馬が手に入ったとはいえ資金不足は相変わらずだ、鞘のカスタムメードとかホントは勘弁して欲しい。
既成品ならまだしも特注すれば結構な額が掛かるだろう。
「フィロも良さそうな仕事が無いかついでに見てきて」
「うんわかった、それじゃ後で宿に集合ってコトで……」
―――
――
―
フィロと別れた後、魔術ギルドへ行ってみた。
しかし結局またナニも買わずに出てくるハメになる。
「魔法書って高いな……」
初級の魔法書で10万もするとは思わなかった。
しかも中級を買うには魔術ギルドへの登録が必要になり、上級に至っては上級魔術士免許が必要だとか……
もちろん免許を取るにもカネがかかる…… やってられるか。
『別に今更そんなもの覚える必要なかろう?』
お前がマトモな魔法を常にチョイスしてくれるならな……
しかし魔王に聞けばタダなのに大金出すのはバカバカしい、魔法書は諦めるか、「親切な人」から譲り受けるか…… 馬みたいに。
(とにかく金は必要だ、買取商に行くぞ)
『道具屋とかで売るんじゃないのか?』
(武器や一般的な道具ならそれでいいが、オブシディアン・ナイフは芸術品としての価値がある、そういうのは専門の買取商に持ってかないと相場以下で買い叩かれる。
逆に言えば買取商でなら相場以上の値がつくこともある…… 相場以下になることも有り得るがな)
『ふ~ん…… 人族の世界は色々と面倒臭いな』
―――
カランカラン―
「いらっしゃい……」
買取商に入ると偏屈そうなジジイが出迎えてくれる。
この手の輩は交渉が面倒臭いんだよなぁ…… ツイてない。
「ご用件は?」
「オブシディアン・ナイフを売りたいんだけど、買取額はどれくらいになりますか?」
「モノを拝見しても?」
「はい、こちらです」
ジジイがルーペでナイフの表面をジックリ見てる、俺の見立てではこのナイフは25万ディルはいくはず。
「20…… だな」
チッ! かなり渋い。
「そのサイズなら25は堅いと思いますけど?」
「ほぅ? お嬢ちゃん若いのに良い目利きをするな、だがまだまだ甘い、ここに浅いが大きな傷がある」
そんなモノあったか?
「見せて貰っても?」
「あぁ、かまわんよ、ほら……」
ナイフとルーペを受け取り帽子を脱いでジックリ観察する。
「なぁっ!!?」
ジジイが突然変な声を上げた。
「? ナニか?」
「あ… いや… ス…スマン、ななな何でも無い」
何でも無くないだろ? 明らかに動揺してるじゃねーか。
まぁいい。
「ん~~~……」
『どうだ?』
(……確かに大きめの傷がある、このジジイよくこんな短時間で見つけたな、言われなきゃ気付かないレベルだ、コイツはかなりの目利きだ)
とはいえ20万ディルか~、適正価格だけどコッチの希望価格より低い、売るのはヤメておくべきか…… もっと扱いやすい若造が店主をしている店で……
「ん?」
ジーーーーーーー!
ジジイが俺の顔を穴が飽きそうな勢いでガン見してくる、まさか奴隷商も兼任しててアリスを値踏みしてるんじゃねーだろーな?
アリスの売却額とか世界中の国の国家予算を残らず出してもまだ足りないからな?
「なにか?」
「い、いや、な……なんでもない……」
じゃあ見るなよ、拝観料とるぞ?
「希望額に届かないので今回は引き上げさせてもらいますね」
「ちょっ! ちょっと待ったぁーーー!! …………40万出そう!」
「…………」
『おい、アヤシイぞ』
(あぁ、物凄くアヤシイ)
いきなり自分の鑑定額を覆し、その倍額を提示してくるとは…… 明らかに何かある。
金額に文句はないが嫌な予感しかしない、勿体無いが……
「いえ、今回は……」
「ろ、60万でどうだぁーーー!!」
「…………」
どう考えてもオブシディアン・ナイフの相場を逸脱している、アリスの顔を見た途端態度を変えたところを見ると……
(コイツ…… お前の仲間かも知れないな)
『なに!? 魔族か!?』
(いや、そっちじゃなくて)
『は? じゃあなんなんだ?』
(ロリコン仲間)
『だからロリコンじゃねぇーって言ってんだろ!!』
しかしロリコンくらいしか理由が思いつかないんだがな、この不自然すぎる増額は……
(お前がロリコンかどうかはこの際置いておくとして、どーするか? ロリコンに借りを作るのは危険だと思うんだ)
『そうだ、ロリコンには近づくな! アイツ等は世界の害悪だ! 近づく時は奴らを滅ぼすときだけでいい!』
自分のことを棚に上げて…… だったらお前も近寄るなよ。
「えぇっと今回は……」
「100万出そうッ!!」
(…………)
『…………』
「すぐに現金を用意できるんですか?」
「あ、ああ! 多少細かくなるが30分で用意する!」
『どうするんだ? カネのことはよく分からんが、この額なら多少のリスクを背負っても取りに行く価値がある気がする』
(そうだな…… 怪しさMAXだが、金を手に入れたら速攻でこの街を出ていけば……)
「ど…… どうだ?」
「ん~~~」
「い……1週間くれればもっと上乗せしても良いぞ?」
それは勘弁、急ぐ旅なもので。
だったらこの店で一番高価な物をおまけにつけて貰った方がいい、他所の街に行って転売だ。
ただそこまでヤルとこの店が潰れて恨まれそうでなぁ、ヒトから恨みを買うのは極力避けておきたい、特にロリコンの怨みとか性犯罪に直結してるから。
「分かりました、100万ディルでお売りします、ただすぐに現金が用意できないようなら今回の話は……」
「よ、用意する! すぐに用意するから待っていてくれ!!」
ジジイは店の奥へと消えていった…… オブシディアン・ナイフ持ってかなくていいんかい?
(なぁ魔王)
『なんだ?』
(なにか周辺警戒に使える魔法ってないか?)
『有るには有るが我には必要ないと思って呪文を覚えておらん』
なんでだよ、お前ロリコンで魔王でロリコンだろ? お前以上に夜道で背後から刺されそうなヤツ他にいないだろ、警戒用の魔法くらい習得しとけよ。
魔王の叡智とやらも大したこと無かったな……
―――
その後、たっぷり1時間待たされた頃にジジイが戻ってきた。
おう、話が違うじゃねーか、追加請求するぞ?
「お待たせして申し訳ございません。
こちらが代金になります、どうぞご確認を……」
ズシ……
うげ、ホントに細かい…… 数えるにも時間が掛かるぞ。
だからといって確認もせずに持って帰るワケにもいかない。
はぁ……
外が完全に暗くなる頃、ようやく確認作業を終える。
「確かに100万ディルですね」
1ディルのズレもなくピッタリ100万ディルだった、少しくらい多く入れといてくれよ。
「それじゃオブシディアン・ナイフを……」
「え? あ、あぁ、そうだった」
ジジイ忘れてた?
オブシディアン・ナイフを引き渡し、その代りに100万ディルの入った金貨袋を持つ。
重…… ズッシリくる。
「それじゃ私はこれで……」
「は、はい、またのお越しを……」
キィィィ…… パタン
「遅くなっちゃったな、フィロが待ってるからさっさと戻ろう」
暗くなった街を大金を抱えて歩く美少女…… トラブルフラグがビンビンだ。
まさに襲ってくれと言わんばかりのシチュエーション……
一抹の不安を感じつつも宿へ向かって歩を進めた。




