第44話 魔王城1 ~入れ替わり~
第2章が長すぎたため、第3章をスリムアップしました。
おかげで初期構想から居た仲間が一人消えた……
--- アリスティア・アグノス・スキアー視点 ---
時は勇者テレスと魔王プラトンの決戦直後……
場所は魔王城上層階……
この場所は限られた者しか立ち入ることを許されない王族フロア。
その奥の最も広い部屋が最終決戦の地、魔王城・謁見の間である。
部屋は無残に破壊されている……
ガレキが散らばり壁は崩れ天井は落ち、魔国特有の瘴気を孕んだ風が吹き抜けていった……
「う…… うぅ……」
そんな部屋には現在二人の男がいる。
倒れていた男が意識を取り戻した。
「うぅ…… 一体何が…… え?」
一言呟いてみたが、その声が自分のモノでないことに気付く。
「この声…… テレス様の……です?」
自分の目の前に自分の手を持ってくる、しかしそれは見慣れた自分の手ではない。
「え? え? え?」
混乱の極みにあるなか、うつ伏せに倒れていた身体を起こす、そして目撃してしまう……
謁見の間の惨状…… ではなく、自分の股間にぶら下がる見慣れないクリーチャーを!
「!?!?」
ブラ~~~ン♪
「らl!なおい??rjが!?hんg;あjn!!!!!!
…………あ…………」
パタ!
彼は再び意識を失った。
―――
――
―
「あぅぅ~~~、一体何がどうなって??」
彼の中の人の名はアリスティア・アグノス・スキアー……
勇者と魔王の娘の中身が入れ替わってしまっていたのだ。
意識を取り戻した彼は身体を起こさずうつ伏せのまま周囲を伺っている。
…………
そして絶望的な現実を突きつけられる!
服がドコにも見当たらない!
「私の身体がテレス様と入れ替わってしまったのは間違いないようです……
でも…… 一体何故こんな事に……」
謁見の間は完全に破壊され、部屋の中心には見覚えのない巨大な水晶の柱が立っている。
でも今はそれどころじゃない。
「こんなトコロにいつまでも全裸で寝転んでたら風を引いてしまうです。
何がなんだか分からないけど、お預かりしたテレス様の身体を病気にするワケにはいきません!
とにかく着るものを探さないと」
とは言え…… 自室に戻ったとしても男であるテレスが着れる服があるとは思えない。
自分の服をテレスが着用している姿を軽く想像してみる、とても痛々しい場面が浮かぶ。
そもそも魔王城でヒトの15歳前後の体型の人物など自分以外いない。
そんな中でテレスが着れそうな服を所持しているヒトなんて……
1人しか心当たりがない。
四つん這いで移動する、真っ直ぐ前だけを見据えて! 絶対に下とか覗かない!
「向かう先は魔王の私室、お父様の部屋です」
―――
誰にも遭わずに辿り着けました、ここは元々王族以外は限られた者しか立ち入ることを許されていないフロア。
いま誰かに見つかったら敵として攻撃されてしまう。
ガチャン!
「う…… うそ……」
鍵がかかってる、考えてみれば当然のことだった。
「どうしよぅ……」
ガチャガチャ…… バキン!!
「あ……
こ…… 壊してしまった、し…… 仕方ない……ですよね?」
特に力を込めたワケでもないのにカギは簡単に壊れてしまった。
謁見の間での戦闘の影響がここまで及んでいたのかもしれない。
「し…… 失礼します……です」
そう言えばお父様の部屋に入るのって初めてのような気が……
キィィィ―――
ゆっくりと開かれた扉の先、今まで魔王以外は誰も立ち入ったことのない魔王の私室、そこに広がっていた光景は……!
「…………ナニコレ?」
壁一面に写真が貼り付けられていた…… かなり広い部屋にも関わらず、隙間なくビッチリとだ。
見上げれば天井にも…… 流石に床にはなかったが……
「これ…… 私の写真……です?」
(気のせいでしょうか? 私の10歳前後の写真が妙に多い気が……)
魔王の私室の異常性はそれだけに留まらない。
写真には1枚1枚「アリスたん10歳記念、可愛さがとどまるところを知らない」等のコメントが書かれている……
大きな長細い枕にはアリスの写真(恐らく10歳前後)がプリントされている……
極めつけはクローゼットを開ければアリスが小さい頃に着用していた服が綺麗にパッキング処理され保管されていた……
クラッ……
思わず倒れそうになる……
「テレス様が仰っていたように、お父様は本当に精神異常をきたした性犯罪者だったのですね……」
唯一の身内の隠された秘密を垣間見たアリスはヒッソリと涙を流す……
クローゼットの中は殆どがアリスの服だった、魔王本人の服が殆ど無い。
それでもわずかに用意されていた魔王の服を手に取る。
「う…… ホントは着たくないけど背に腹は代えられないですし…… はぁ……
そう言えば…… なんでお父様の服は全部黒なのでしょう?」
そして私の服はなんで全部白かったのだろう?
嫌々ながら魔王の服を着用した。
―――
――
―
服を着てようやく落ち着いた。
やはりヒトは衣服を纏って初めてヒトになるんだ。
「これからどうすれば……」
原因の究明も大事だけど、それよりも何よりもテレス様と自分の身体の行方だ。
恐らく私たちは入れ替わっている…… それはつまり……
「私がテレス様の全部を見てしまったのと同じように、テレス様も私の全部を見ている可能性がある……です」
もうお嫁にいけない……
思わず挫けそうになる。
「ううん、しっかりしなさいアリス、世を儚んで自殺するより先にするべき事があります」
とにかく私の身体を探さなければ。
もう一度、謁見の間へ向かう、何か手掛かりがあるかもしれない。
…………
「もしあの戦いで発生した衝撃で城の外へ吹き飛ばされていたとしたら…… 城の上層階から落ちたら私の身体なら確実に死んでる……」
イヤな予感がし走って謁見の間へ戻る、そのまま崩れ落ちた壁から下を覗いてみる。
「………… 墜落死した跡は…… 無いですね」
取り合えずホッと一息、しかしすぐに別の疑問が浮かんでくる。
テレス様はどこへ行ってしまったのか?
それだけじゃない、あの時あの場に居たお父様とティッペもだ。
仮にテレス様が私より先に目覚めたとして、全裸で倒れている自分の身体を放置してどこかへ言ってしまうだろうか?
それもたぶん私の身体で……
「?」
ボロボロの謁見の間を見渡す、すると先ほども気になった巨大な水晶の柱が眼に映る。
「そういえば…… こんな大きなモノ一体ドコから……
…………ん?
…………
…………
…………
キャアアアァァァァァーーー!?!?」
巨大な水晶の柱、自分の目線よりちょっと上あたり、そこにはヒトが埋め込まれていた!
……と、言うか、顔見知り…… 身内だった。
「お…… お、お、お、お父様!?」
あの時の封印術…… 完成してたのかな?
いや…… 明らかに失敗してる。
だって……
全裸で封印されてるから……
「うぅ…… なんでちょっと誇らしげな顔してるんですか?///」
水晶の中に封印されてるお父様はうっすら笑みを浮かべ、大の字でちょっと反り返ってる……
まるで股間を突き出すように……
これはヒドイ……
こんなモノが堂々と鎮座している謁見の間とか有り得ない。
「でも古代の彫刻と考えればアリかもしれない……かな?」
テレス様の股間にはグロテスクなクリーチャーがくっついてたけど、お父様の股間のそれは小さい、グロテスク度はコッチのほうが低い。
なにか弛んでる皮膚を纏っている…… だからといって堂々と晒していいものではない。
「とにかく人目に触れないトコロに移動させましょう。
封印されたお父様を放置しておくのはあまりにも忍びないから。
『戦術級魔術・念動』」
…………
アレ?
「魔法が…… 使えない?」
そう言えばテレス様は魔法が苦手だと言っていた、もしかして身体が入れ替わると私も魔法が苦手になる?
「そんな…… テレス様にとってここは敵地、テレス様の身体で魔王城に1人取り残されるって…… これ、かなりマズイ状態なのでは?」
どうしよう、逃げるべきか?
でも私は魔王城の外に出たこと無いですし、魔法も使えない状態で敵だらけの外に出た所で……
そもそも瘴気を吸い込むと体調崩すし……
「そうだ! ティッペ!」
もし仮にテレス様が何らかの原因でどこかに転移したのだとしたら、私の肩に乗ってたティッペも同じ場所へ転移しているハズ!
私の使い魔のティッペならどんなに離れていても場所がわかるハズ!
…………
魔法が使えないってことは念話も魔力検知も使えないってことだった!
あぁ…… コレもうダメかも……




