第43話 3代目
リーダーから借りて来たという馬にフィロと二人乗りして、ダンジョン経由で魔王はイボ痔帝国を出国する。
出てきたのは俺たちが入国に使った例の坑道だ、入った時は真っ暗で分からなかったが、森の中に何かの巣穴みたいな穴が開いている。
…………
馬車が通行できるほどの巨大な穴だ、エスト大陸で見た地竜の巣穴を思い出す……
「おおっ! キミ達も無事だったのか」
あ、赤ちゃんプレーヤーが目覚めてる。
「はい、他に人質になってるヒトもいませんでした。
それよりアノ人、クロエって人は捕まりましたか?」
「い…いや、まだ見つかってないみたいだ」
そう言うと彼は悔しそうに顔を歪める……
いや、違うな、アレはもう二度と自分の前に現れるなって思ってる顔だ。
もしくは死んでればいいのにっ!……って感じか?
しかし実際問題彼女を見つけるのは難しいだろう。
あのダンジョンは横穴が腐る程ある、その横穴がドコに繋がっているか知らなければ手当たり次第に調べていかなければならない。
外に通じる横穴を偶然見つけられてもその頃にはとっくに逃げられてるだろうな。
フィロが探せば逃走経路を見つけることはできるだろうが、追い付くのはやはり不可能だろう。
ふむ…… やはりこのネタでいってみるか。
「リーダーさん、ちょっといいですか?」
「うん? なんだい?」
馬から降り、リーダーを呼び出す。
おっと、まだ足元が覚束ないな。
「あ、アリスちゃん大丈夫?」
「うん、大丈夫大丈夫、それよりフィロは私たちの荷物まとめといて」
「え? うん……」
このタイミングで荷物をまとめることを疑問に思ったようだが素直に従ってくれた。
なんか俺の方がリーダーっぽいけど今回だけは我慢してもらおう。
「それで? どうしたんだい?」
「はい、実は折り入ってご相談したいことがあるのですが…… 単刀直入に申し上げます。
アナタの馬、譲って頂けませんか?」
金は無いからタダで。
「は?」
「ここまで乗ってきて思ったんですけど、いい馬ですよね?
体力も走力も十分、言うことも良く聞くし」
「あ、あぁ…… マレンゴは俺の相棒だからな」
マレンゴ? なんだっけ? 英雄の馬だっけ? まぁどーでもいいや。
「はい、そのマレンゴを頂きたいと……」
「い、いや、確かにキミ達には物凄く世話になったが、さすがに相棒を……」
「私たちにくれればメリットも有ります」
「メリット?」
「アナタの秘密が守られますよ?」
「!?!?」
「分かりやすく言うと、貴方とあの裏切り者の女盗賊クロエが2人で楽しんでいた赤ちゃんプレイのコトです」
「ウワーーーッ!! ウワーーーッ!! ウワーーーッ!!」
「そんな大声出して注目集めたらバレますよ?」
「リ……リーダー、どうかしたのか?」
案の定、仲間が寄って来てしまった。
「だッ! 大丈夫だッ! 何も問題ない!!」
「そ……そうか? でも何か顔色が……」
「大丈夫だ! 寝起きで頭がボ~っとしていたから大声で目を覚ましただけだ!」
「そうか、だが急にやらないでくれ、心臓に悪いしゴブリンが寄って来たら危ないからな」
「あぁ、気を付けるよ!」
護衛冒険者仲間は訝しがりながらも離れて行った。
この周囲のゴブリンは既に滅んでいるから騒いでも呼び寄せるコトはないと思うけど……
「そ…… そ、そ、そ、それで、キミは…… い、一体何を……」
すごく動揺してる……
「お二人の会話の最後の部分がたまたま聞こえたんです、他の人には聞こえなかったみたいだけど……
これがバレるとスゴくマズい事になりますよね? 仲間たちは命に変えてでもアナタのお子さんを助け出すとまで言ってくれました、でも助けるべき子供なんてドコにもいない、強いて言えばアナタが赤ちゃんだったんだから、色々な意味で救いようがないですね」
「ッッッ!!」
「それに…… そのせいでゴブリンにヤラれちゃった彼、バレたら殺されても文句は言えない」
視線を馬車の方へ移すと、人の輪から少し離れたトコロに体育座りの目の死んだ青年がいる。
「お…… 脅すのか?」
「いえいえそんなトンデモナイ、情報に対する対価を頂きたいだけです」
『ヒトはそれを恐喝という』
(ウルサイ黙れ)
「馬が手に入れば私たちはテレジアに寄らず、そのまま南へ旅立ちます。
馬が手に入らなければ準備のためにテレジアに寄らねばなりません。
その場合、この戦争の関係者として当局に調書を取られるかもしれません、そこで真偽判別の魔道具を使われたら私の知ってることをすべて正直に話さなければならない……
そう、全てです。
例えば護衛冒険者のリーダーの性癖が赤ちゃんプレイでそれを隠すために私たちは盗賊に捕まった……とか」
「わ…… 分かった…… マレンゴは渡そう…… いや! 是非使ってくれ!!」
「アリガトウございます♪
いい取引ができて良かったです、お互いにね?」
「そ…… そうだね……」
ため息混じりに答えるリーダーは一気に老け込んだ気がする…… もうあかちゃんというよりおっちゃんだ。
「アリスちゃ~ん、荷物まとめたよ~」
「ありがとフィロ、それじゃその荷物、さっき私たちが乗ってた馬に乗せておいて」
「え?」
「その馬、貰ったから」
「………… へ?」
「なっ!? マレンゴを!? 正気かリーダー?」
「そんな…… リーダーの相棒だろ? いいのかよ?」
あらら、冒険者たちが騒ぎ出しちゃった。
「い…… いいんだ、彼女たちには何度も助けられた、牢を出れたのも、ダンジョンを脱出できたのも、何より乗客に被害を出さずに済んだのも、全て彼女たちのお陰と言っていい。
せめてもの感謝の気持ち…… なんだ」
確かに乗客は無事だったが仲間の一人は心とケツに深い深い傷をおったがな…… まぁそれはどうでもイイか、俺には関係ない。
これだけ助けてやったんだから馬の一頭や二頭くれてもいいじゃん……って思うんだけど、一応フォローしておくか。
「えぇと…… 私たち、とある理由からテレジアにはあまり寄りたくないんです、それを話したらリーダーさんが快く馬を提供してくれました」
「いや、戦争の後にテレジアに寄らないのは問題になるんじゃ……?」
「実はさっき勇者イカロス様をこっ酷くフッてしまったんですよね。
テレジアに行けば顔を合わせざるを得ないですし、お互い気まずいと思うんです。
それに下手をすれば何日も拘束されることになります。
私たち急ぎの旅の途中なもので……」
俺とフィロは正規の手続きを経ずに乗合馬車に乗った、つまり途中でいなくなっても当局から特別追求されることはない、なにせ書類上では存在しない客だからな。
呆然としている護衛冒険者と客を無視して馬に乗……れない。
「フィロ~……」
「あぁ、はいはい、ボクが押し上げるからここに足置いて、3でいくよ?
1、2、3っ!」
フィロに介助してもらってようやく馬に乗る。
情けないことこの上ないな…… いや、これは魔力枯渇の影響だ、そうに違いない。
「それじゃボク達は行きますね?」
「あ…… あぁ、キミ達には世話になった、旅の無事を祈ってるよ」
こうして俺たちは馬車の客と冒険者たちに見送られながら旅立った。
金持ちそうな客にお礼を要求したかったが、勇者フィロがいるからヤメておいた、オレ一人ならケツ毛の一本も残さず全て毟り取ってただろう。
―――
――
―
そこからテレジアを迂回して直接南を目指す。
5日ほどで都市国家群と南部王国連合の境界、通称「ロドルの抜け道」へたどり着いた。
馬がいると非常に快適だ。
ここで俺はとうとうあのウワサを耳にすることになった!
それは……っ!
第7勇者テレスが魔王プラトンを討ち取ったというウワサだ。
ふっ…… やっと俺の時代が来たな、早く自分の体を取り戻し、英雄として凱旋せねば!
…………などと思っていた時期が俺にもありました。
南部王国連合に入るとウワサは正反対のものに変わっていました。
それは……っ!
勇者テレスが闇落ちして3代目魔王に就任したというウワサだった……
『な~んで我が死んだことになっておるんだ?
な~んでお前が我の後継者みたいに言われてるんだ?
不愉快極まりないぞ』
(お…… おぉお…… おぉ……)
意味がわからない…… だが一つだけ判明したことがある。
今、俺の体とアリスの精神は間違いなく魔王城に居るってコトだ。
少なくとも使い魔が俺の体に入り全裸で走り回ったとしても、さすがにそれだけで魔王認定されることはないからな……
しかしそれはそれで新たな問題が発生する、俺の身体を得たアリスがトンデモナイ事をしてくれた。
(ア…… アリスさん何してくれてんのォォぉおおォォおぉお~~~ォッ!!??)
第2章 イスト大陸編 ~都市国家群~ ― 終 ―
NEXT 第3章 イスト大陸編 ~南部王国連合~




