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第41話 そして誰も居なくなった


--- フィロ・アウダークス視点 ---



 ギィン!!



「うっ!」


 フィロとクロエの戦いは常にフィロの劣勢だった。


「神の恩恵を受けた勇者がどれほどのものかと思ってたけど、この程度なのね…… ちょっと期待はずれね」

「うぐっ!」


 あの人さっきからちょいちょいボクの心のHPを削ってくる。

 どうせ第13分家はみそっかすですよ!


 ただ言い訳をさせて貰うとLv.は向こうのほうが少し上かもしれないけど、ボク達の技量に関してはほぼ互角だ。

 それに加えて相手はゴブリン・ナイト2匹を盾に使っている、この状況で耐えてるだけでも褒めてほしいくらいだ。


「そんなんじゃ大事な剣を取り戻せないわよ?」

「絶対に返してもらいます!!」


 ……とは言ったものの、このままでは難しいと思う。

 護衛冒険者の人たちは残りのゴブリンに掛り切りだ、もしあの人が急に逃げに転じたら今のボクでは追いかけることすらままならない。


「はぁ…… なんか飽きてきちゃった」

「ぅえっ!? チョット待って! ボク頑張るからッ!!」


 今逃げられたらシィル=レイドを持ってかれる! それだけは勘弁!


「え~? 頑張るってことは余計に面倒臭くなるってコトでしょ? それはちょっと付き合いきれないかなぁ?」


 しまった! 逆効果だった!


「私はもう一人の女の子、アリスちゃんだっけ? あの子を探しに行くから、後はゴブリンたちが君たちを死なない程度に痛めつけてもう一度牢屋にぶち込んでくれるよ。

 今度は脱出できないようにしっかり拘束させるから。

 まあ同居人にイタズラされるかもしれないけど…… ま、死ぬワケじゃないから」


 冗談じゃない!


「待って! うっ!?」



 ギィン!!



 クロエを追いかけようとするとゴブリンナイト2匹が立ちふさがる。

 マズイ! このままじゃアリスちゃんだけでなくボクの貞操も危機だ!


「んじゃ、また後でねぇ~♪」


 クロエはボク達に背を向ける、最大のチャンスなのに攻撃する隙がない。

 せめてゴブリン・ナイトが普通のゴブリンだったなら!



 キラキラキラ―――



「ん?」


 その時、ゴブリンのつま先あたりが光って見えた。


「ギャギャ?」


 足が光ると同時に動けなくなったようだ、ゴブリン・ナイト自身も困惑している。

 後ろを振り返ると護衛冒険者が相手していたゴブリン達にも同様の変化が見える。


 一体何が…… いや! それよりも!


 動けなくなったゴブリン・ナイトの脇をすり抜けクロエの背後へ駆け寄る!


「!?」


 ボクが攻撃する前に彼女は気づいた、戦闘音が突然止まったせいだろう。


 振り向いたクロエの顔目掛けてゴブリンソードを投げつける!


「ちぃっ!!」



 ガギン!!



 ゴブリンソードはシィル=レイドで弾かれる。


「バカな子、丸腰で突っ込んでくるの? 組み付けばなんとかなると思ってるの?」


 確かにボクよりあの人のほうが大きい、体術もほとんど習得してないから分が悪い……

 だけど、1つ勘違いしている! ボクは丸腰じゃない!


 彼女はシィル=レイドを振ってゴブリンソードを弾いた、その為、体の前面がガラ空きになっている、そこが狙い目だ!


 そのまま懐に飛び込み……


悪臭を掴む手(ハンズ・オブ・ステンチ)!!」


 顔面目掛けて掌底を放った!


「うっ!?」



 ドガッ!!



 クロエはカウンター気味に膝蹴りを放ってきた、その膝はボクの腹部に当たる、しかし鎧のお陰でダメージはない。



 ペチン



 膝蹴りのせいで勢いを殺されちょっとタッチする程度になってしまった「悪臭を掴む手(ハンズ・オブ・ステンチ)」……

 だがコレで十分だ! ニヤリ


「く……ッ!? く、く、く、くっさぁぁぁあゝあぁぁいいッ!!!」


 クロエはシィル=レイドを放り出し、両手で顔を擦ってる、甘い甘い、その程度じゃニオイは落ちないよ、ボクが言うんだから間違いない。


「ぐぅぅぅ~! なんて事するのよこの子! アンタの手クサイッ! 超クサイ!! うぅ~! 目にしみる!!」


 分かってはいたけどそうハッキリ言われると乙女心が傷つく……


 クロエが動けなくなってる隙にハンカチで輪っかを作ってシィル=レイドを吊るし回収する、せっかくキレイな状態で取り戻したんだし汚したくない。


 その頃になるとゴブリンと戦ってた護衛冒険者たちも集まってくる、どうやら全てのゴブリンが唐突に消えてしまったらしい。


「さあクロエ! 観念しろ! リーダーのお子さんを返せば命だけは助けてやる!」

「うあっ! 臭い!! 呼吸したくない!!」

「………… もう少し待とうか?」

「はひゅー! はひゅー! ゴ……ゴブリンの気配が……消えた?

 このままじゃ…… どうしようもないわね……!」


 クロエは突然、すり鉢状になっているダンジョンの中心部目掛けて飛び降りた!

 え? あの呼吸状態で逃げた!?


 ……って!


「さ…… 鞘も返してぇーーーーっ!」


 叫んでは見たものの、クロエの姿は既に見えない、どこかの横穴に入ってしまったみたいだ…… え、逃げられた?


「…………」

「…………」

「…………えぇと…… と、とにかく隊を2つに分けよう、片方はこのまま乗合馬車を護衛してダンジョンを出る。

 もう片方はクロエを追うんだ、本当にゴブリンがいなくなったのならその人数でも問題ない」

「あ、それじゃボクも上に戻ります、アリスちゃんが心配だし……

 この坑道を真っ直ぐ進めば外に出られますから」


 取りあえず三方に分かれる、しかし…… あぁ…… 鞘が……



―――


――




 馬を一頭(リーダーが乗ってた奴を)貸してもらい街に戻る。

 心なしかダンジョン内に充満していたゴブリン臭も和らいだ気がする。

 ここに来る間にもゴブリンは現れなかった、ホントにドコかに消えてしまったようだ。


「え~と、アリスちゃんは……」




「……ィロ~~~……」




「ん?」


 上の方からアリスちゃんの声が聞こえた気が……




「フィロ~~~…… こっちこっち~~~……」




「あ」


 崖の中腹あたりにの小さな穴からアリスちゃんが顔を出し手を降ってる。

 あんな所でナニしてるんだろ?



―――



 フィロに上まで登ってきてもらった、体がダルくて歩くのも億劫だから……


「どうしたのアリスちゃん、いつもダルそうにしてるけど今日は格別だね?」


 俺っていつもそんなふうに思われてたの? 結構ガンバってたと思うんだけど……


「それより大変なんだよ! ゴブリンが一斉に消えちゃったんだよ!」

「ダンジョン内のゴブリンも?」

「も? ってコトはこっちでも?」

「うん…… まぁ……」


 神格級のコトは伏せといたほうがイイか。


「痔主のゴブリン・エンペラーを倒したせいかもしれないね」

「? ゴブリン・エンペラー? 痔主の?」

「痔主はヒトじゃなくゴブリンだったんだよ」

「え…… そんな事ってあり得るの?」

「魔物使いじゃなくって人間を操って国を創ったみたい、知能があったからね」


 知能があっても所詮はゴブリン、バカだったけどね……


「証拠も残さず全部消えちゃったから、このことは秘密にしておこうね」

「……う~ん、アリスちゃんがそれでいいなら……」




 その後、いつものようにフィロに背負ってもらう、もちろんその前に浄化魔法でフィロの身を清めてから……

 フィロがなにか言いたそうにしてたけど自分で気付けなかったからかな? 特に不満を洩らすことはなかった。


「そう言えばシィル=レイド取り返せたんだ、良かった」


 緊急時の資金って意味で……


「うん、あのクロエって人が持ってたの、おかげでゴブリン臭くならずに済んだんだけど鞘を持ってかれちゃってね……」

「え? 逃げられたの?」

「うん、護衛冒険者さんたちが探してる…… 見つかれば良いんだけど……」


 まぁあの鞘は神聖銀(シルラル)製じゃ無かったし、最悪作り直せばいい、痛い出費ではあるけど……

 それよりも…… そ~か、逃がしちゃったのか…… あの女が帝国の資金管理をしてたんだから是非とっつ構えて口座番号を吐かせたかったんだが……

 そもそもアイツはなんだったんだろうな? 人族(ヒウマ)のクセにゴブリンに協力してたのか?

 捕まればいいんだが……


「そう言えばフィロが乗ってた馬はどうしたの?」


 もしかして盗んだ? ワケないか、俺じゃあるまいし。


「うん、貸してもらったの、リーダーさんまだ寝てたしね」

「そっか……」


 何とかこの馬ゲットできないかな?

 このまま乗合馬車と合流しないで旅に戻るか?

 俺一人ならそうしたが、フィロが一緒だとなぁ……




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