表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/70

第39話 皇帝


「うん、分かった分かった、お前がイボ痔かどうかは気にしないから」


「イ、イ、イ、イボ痔じゃねーよ!! 魔王と一緒にすんな!!」

『イ、イ、イ、イボ痔じゃねーよ!! まだ確定してねーよ!!』


 アレ? なんか皇帝陛下も語尾が怪しい感じだぞ?

 まさかお前……


 …………


 いや、どうでもいいや、何が悲しくてこんな所でイボ痔談義をしなきゃいけないんだ。


 改めてイボ痔ゴブリンを観察する、かなりデカイ、天幕付きのベッドに座りしゃべる度に肉がプルプル震える。

 見た目は太り過ぎて動けなくなったヤツみたいだが、コイツが万を越えるゴブリン軍団を生み出したのなら脅威だ。

 人類のためにもコイツはここで死んで貰わなければならない。


「お前がイボ痔かどうかはこの際どうでもイイ、それよりこの国の住人をドコへやった?

 まさかとは思うが…… 喰ってないだろうな?」

「ふん、愚かな小娘よ、ヒトよりも上位の種族である我らゴブリンが人族(ヒウマ)など喰らうハズがなかろう!」


 ゴブリンの分際でヒトより上のつもりかよ? お前の種族、床とか鎖とか男のケツにまで欲情する種族だぞ?


「ダンジョンの最下層で我らゴブリンの繁栄のために働かせてる」

「ヒトがゴブリンの奴隷なのか?」

「当然だろう、吾輩よりも劣るのだからな」

「あぁ…… 確かに戦闘力という面において劣っているならそうなっても仕方ないといえる……か」

「フフッ、よく分かってるじゃないか、理解の早い人族(ヒウマ)は嫌いじゃない、見た目もなかなか可愛らしいし特別に吾輩のペットにしてやろうか?」

「…………」


『よし殺せ、あの勘違いした下等生物をこの世から消し去れ』

(落ち着け、俺もそれには同意だが今は我慢しろ)


「はぁ…… お断りします。

 どうしても私を手に入れたいのなら実力で手に入れて下さい」

「ほぅ? 面白い、ではそうさせてもらおう、いでよタイタン!」



 ズシン! ズシン!



 痔主が呼びかけると隣の部屋に控えていたゴブリンが入ってくる。

 通常のゴブリンの20倍くらいはありそうな特大なゴブリンだ、てか、サイクロプスの色違いにしか見えん……

 魔力の塊は見えてはいたが、まさか一個体が放出してたとは、こんなのが居たのか…… 初めて見た。


『コイツは…… 10万匹に1匹生まれるかどうかと言われる突然変異種、ゴブリン・ジャイアントだな』


「どうだ驚いたか! 初代魔王さまが偉大なる我らの始祖を生み出した時、同時に生み出されたとされる伝説のゴブリン・ジャイアントだ!

 コイツはまだ子供で体の大きさも伝説の個体の半分程度しか無いが、戦闘能力はLv.50代の騎士100人を上回るほどだ!」


 Lv.50代の騎士100人を上回る…… もしホントなら相当なものだ、あの大きさでまだ子供ってのも驚きだ。


 だがナニよりも疑問なのが何でこんなトコロにいるのか?だ。

 あのサイズじゃ洞窟に詰まって外に出れないだろ? 壁をぶち壊して飛び降りるしか外に出る手段がないが、この高さから飛び降りて大丈夫なのだろうか?

 今の倍のサイズに成長したらロープで吊るして下ろすことも出来なくなるぞ……


 多分アイツは痔主がココで生み出したんだろう、そして貴重な突然変異種だから護衛にするためにココで育てた……

 バカだ…… 所詮はゴブリン、知能が低い。


「さぁ行けタイタン! 愚かなるヒトの小娘に絶望を与えてやれ!

 あ、でも殺すな、できれば怪我もさせるな! 性奴隷にするならキレイな方がいい!」

「ウォォォォオオオオオッ!!」


 痔主はお優しいことに色々気を使ってくれたらしい、ペットと性奴隷はどっちのほうが下なのだろう?

 でもまぁ全部無駄だけどね。


「『戦術級魔術・睡死択一(ヒュプノタナトス)』」


「ォォォオッ……ッ!!?」



 グラ…… ズドオォォォン!!



 元気よく雄叫びを上げたゴブリン・ジャイアントはアッサリ倒れた。


「は?」


「寝たかな? 死んだかな?」

『どうやら寝たらしい、殺意は込めなかったのか?』

「眠れって思いながら使ったけど、上手いこと寝てくれたな、もしかして使い分けできるんじゃないか?」

『どっちになっても結果は大して変わらんだろ』


「こ…… 小娘、貴様一体何をした?」

「眠らせただけだよ」


 二度と目覚めないけど……


「さて……」

「ま…待てっ! 貴様一体何が目的だ!?」

「目的? そーだなぁ…… 私の目的は旅をするための資金を稼ぐこと、要するにお金だね」

「わ、分かった! 金はないが財宝は渡そう!」

「えぇ? 現金無いの?」

「仕方ないだろ! ゴブリンの集団を動かすのに金は必要ないんだから!」


 ごもっとも。


「それで? その財宝とやらはドコ?」


 先に聞いて置かなければな、殺してから探すのは面倒だ。


「と、隣の部屋が一応宝物庫になっている、そ…そこの扉の先だ、すきに持っていっていい!」


 痔主の指差す先にはクローゼットのような扉がある、ホントに財宝があるのだろうか? ヘソクリレベルの防犯性だ。


「持ってっていいと言うなら遠慮なく持ってきますか」


 ゴブリンの財宝か…… あまり期待は出来ないがそれでも自称皇帝だ、そこそこの金にはなるハズ。


 扉のノブに手をかける……


『おい』

(わかってる)


「グギャギャッ♪ 油断したな!? 我が肉布団に包まれて眠れ! 喰らえエンペラーボディプレス!」


 痔主が飛び掛かってきた、その姿はプルプル震える空飛ぶ肉布団だ…… その身体でよくそんな動きができるな? この身軽さは予想外だ。


「『聖守護壁(ウオルド)』」

「ブギャッ!?」


 展開した光の壁で肉布団が潰れる、うわ…… ほとんど脂身じゃん。



 バイ~ン! ゴロゴロゴロ!



「ぬおおぉぉぉお!?!?」


 痔主は跳ね返されて転がっていった。

 あ~あ~、転がった場所にあったガレキやホコリが奴の肉布団に吸着されてるよ。

 コロコロクリーナーみたいなヤツだな。


 痔主は一瞬で汚くなった、その代わりに部屋がキレイになったかというとそうでもない、何故なら奴が転がった後には脂汗みたいなものがベッタリついてるからだ……

 見ようによってはワックスのように見えないことも無い……かな?


 いや、ゴブリン臭いしなんかニチャニチャしてるか。


『愚か者め!! 我の目の黒いうちはアリスたんに襲いかかることなどできると思うな!!』


 よし、じゃあ俺は魔王を殺してからアリスに襲いかかろう。


「さぁ~て、お宝お宝」

『お前…… 少しくらい我に感謝してもいいんじゃないか?』


 してるしてる、いっつも感謝してるからこれからも俺のために働け。


 宝物庫の中にあったのは特注サイズの真っ赤なガウンだ、やっぱりクローゼットじゃねーか。

 確かに高そうだけど……


「クンクン…… ! クサッ!!」


 案の定ゴブリン臭い、こんなもん売れねーよ。

 他には…… うわっ? 何だこれ? アリスの身体が10人分くらい入れそうな巨大なパンツが!?

 匂いを嗅ぐ気にもなれない……

 こっちは…… 同じくらい大きな白ランニングシャツ……


 おい! ろくなものがねーぞ!


「お? コレは……」


 壁に立てかけてあったのは巨大なオブシディアン・ナイフ…… いや、もはやソードだ、これは結構な値段で売れそうだな。


「しかし…… 重いっ! フィロを呼んできたほうが良いかな?」


 オブシディアン・ソードを引き摺りながら宝物庫(クローゼット)を出ると……


「ざ、財宝は渡したぞ! それで満足だろ!?」


 ナニが財宝だよ、普通のゴブリンのドロップアイテムじゃねーか。

 そもそも財宝寄こせば見逃すとか一言も言ってね~し。


「おい、ホントにろくなモノがねーぞ、仮にも国なんだから少しくらい価値の高い美術品とかは無かったのか?」

「ヒトの金に関しては全てクロエに任せていた、詳しい事は知らん!」


 クロエ…… 赤ちゃんプレイにも付き合ってくれる心優しい裏切り者か…… アイツがディルを管理してたのか?


「さあ! これで用は済んだだろ?」


 痔主はオブシディアン・ソード1本で見逃してもらえると思っているらしい、オメデタイな。


『勇者よ、我の言葉を奴に伝えろ』

(ん~…… まぁいいか、分かった)


「コホン、え~…… ゴブリンを統べる者よ」

「な……何だ改まって?」

「お前は初代魔王によって生み出された種族の末裔だ、ならばこそ魔王ソクラティウスの正統なる後継者の今世代の魔王にも恭順すべきではないのか?」


(おい、まさかコイツを勧誘するつもりじゃ無いだろうな?)

『不愉快極まりない奴だがイスト大陸を征服するのには役に立つかもしれんだろ?』


 それをされると非常に困るんだけどな……


「ハッ!」

「ん?」

「何を言い出すかと思えば、お前はバカか?」

「あん?」

「崇高なる初代魔王様と今のイボ痔魔王を同列で語るな! あんな小物と比べるのも烏滸がましい!」


『ほ…… ほぅ?』


 今度は魔王がプルプル震えてる……

 怒りを噛みしめてる為、言葉も出ないって感じだ、代わりに質問してみよう。


「お前は魔王プラトンに会ったことがあるのか? そもそも魔王ソクラティウスにだって会ったことはないだろ?

 確かに現魔王は小物だけど、会ったこともない人物をナゼそこまで嫌悪するんだ?」

「あのイボ痔魔王は吾輩の美学に反する!」


 ゴブリン風情が美学を語るか……


「美学って?」

「奴は世界で最も憎むべき性犯罪者だ!!」


 あ~……


「あのイボ痔ヤローは17年前に当時世界で最も美しいと言われていたアルテナ王国のネリス姫(当時11歳)を誘拐した史上最悪のロリコンだ!!」


『うっ!!』


「キミは生まれる前だから知らないだろうが、ネリス姫(当時11歳)は世界中から愛されていた!

 彼女の周りにはやわらかな光が降り注ぎ、心地よい風が吹き、冷たい雨はさけて通る!

 誰もが彼女を慈しみ、健やかなる成長を望んでいた!

 ところがだ!!

 あの空気の読めないクソ魔王が空気を読まずにネリス姫(当時11歳)を攫いやがった!!

 クソにも劣る外道の所業! あんな魔王の下につくなら死んだほうが遥かにマシだ!!」


『…………』チ~ン

(ゴブリン如きが言いたい放題だな)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ