第3話 勇者の品格
俺の名はテレス。
第7勇者テレス・サロス・ティザーだ。
ちなみに第7勇者の「第7」ってのは7番目の分家の勇者って意味だ。
俺たち勇者の血族は13家に分かれている。
ナゼそんなに細分化されているのか? 理由は初代勇者のご先祖様『シーザー・サロス』の代まで遡る。
魔王討伐から生還した初代勇者は生き残った人々に魔王ソクラティウスが最後に残した言葉を聞かせた。
《よくぞ我を倒した…… だが闇が潰えることは決して無いと知れ、この世界を構成するモノの殆どが本来闇に属するモノなのだからな……
我には見える…… いずれ闇を次ぐ者が現れ世界を染めていくだろう。
お前たち人類は仮初めの平和を享受するがいい……
今がお前たちの最後の平和なのだからな…… クッハッハッハッ…… グフ!》
『それ本当にグフって言ったのか? それ必要か?』
「知らん、そう言い伝えられてるだけだ、余計なツッコミを入れるな、話すのやめるぞ?」
『わかったわかった、黙って聞くから続けろ』
「ったく…… え~と……」
シーザー・サロスの言葉はようやく戦いを終えた人類に絶望を与えるには充分過ぎる衝撃だった。
人々はうなだれ、未来を嘆いたのだった。
だがそこでシーザー・サロスが宣言した。
「案ずるな人類諸君! いずれ再び危機が訪れたとしてもその時は俺が! 俺の子孫たちが立ち向かい、必ずや闇を取り去ってくれる!」……と。
『迷惑な話だのぅ、自分だけならいざしらず、自分の子孫にまで戦いを強いるとは』
「黙れ元凶」
『や……やめて…… アリスたんにそんな冷たい目で見られるとゾクゾクするぅ!』
「………… 変態エロオヤジめ」
シーザー・サロスは人類から絶大な信頼を得ていた、しかし不安視する声も少なくなかった。
シーザーはたった一人しかいない。
子孫たちはシーザーのような絶大な力を使えるのか?
そう言った不安を払拭するためにシーザー・サロスが考え出したたったひとつの冴えたやりかた!
それこそが俺がシーザー・サロスを誰よりも尊敬している理由だ!
その方法…… それは
「自分にだけ一夫多妻制を導入!!!!」
『…………』
シーザー・サロスは有言実行の男!
自分が神より賜った恩恵と同じ数の13人の妻を娶り『勇者13血族』を本当に作り上げたのだった!
それから500年、長い時間の中で幾つかの分家は血が途絶えてしまったと言われているが、それでも勇者の血族は世界を守る法の最後の番人として、世界中の人々の希望なんだ。
『法の番人? 誰が?』
「俺」
『え~とつまり、お前の勇者志望動機ってもしかして……』
「そう! 最初の勇者シーザー・サロスの再現だ!
魔王をぶっ殺して世界公認! 俺だけの一夫多妻制を復活させる!!」
『…………』
「まぁたまたま俺が勇者の血族だったから実行に移せたんだがな、でも苦労したんだぜ?
お前が魔王として登場したのが25年前、当然俺は生まれてない。
8歳の時、一夫多妻制の大志を抱き体を鍛え始める」
『…………』
「だが俺が年齢制限に引っ掛かって旅立つ事も出来ない間に、他の血族から勇者候補たちが続々と旅立っていく。
気が気じゃなかったぜ? 「俺が魔王を殺すまで他の勇者たちが魔王を殺しませんように!」ってサンタさんにお願いしたこともあった」
『…………』
「女神様が俺のお願いを聞き届けてくれたのかな? お前は無事だった、きっと俺の祈りのおかげだな、感謝しろよ?」
『…………』
「そして15歳になり速攻で旅立った、先輩勇者たちがある程度道を切り開いておいてくれたのも助かった、そして一気に魔国を目指し特攻した、この時のために子供の頃からレベルを上げまくっていたのが幸いした!」
『…………』
「そして見事にお前を半殺しにして、俺の大願が成就するまであと僅かってトコロまでこぎ着けた!
ところが運命の悪戯か何か…… こんな事になってしまった、人生ってのはままならないよナ?」
『我は…… こんな奴にやられたのか! こんな志の低いゲス勇者に!』
「ナニ言ってる、俺より高い志を持つ勇者なんて他にいないぜ?
だいたい魔王にゲス呼ばわりされる筋合いはない」
(コイツが我を封印していたら世界は大変なことになってただろうな)
『……ってそうだ!!!!』
「うるさ…… 念話で大声出すな」
『貴様アリスたんにナニを吹き込んだ!!』
「は?」
『あの心優しいアリスたんがお前のようなゲスと手と手を取り合って我に反抗したんだぞ!! 貴様どんな卑劣な手を使った!?』
「卑劣って魔王が言うか? 別にナニも…… 反抗期だったんじゃないの?』
『誤・魔・化・す・ん・じゃ・無い!!
正直に話さなければ夜な夜な魔国国歌を大音量でシャウトし続けるぞ!!」
魔国国歌ってヘビメタなの? それは鬱陶しそうだ。
「正直にって…… 俺は歴史的事実をただ聞かせただけだぞ? 嘘はついてない」
『れ……歴史的事実……だと?』
「うむ、今からおよそ25年前、魔国で魔王が発生、世界を滅ぼそうとした」
『滅ぼそうとなどしとらん! 征服しようとしただけだ!』
「どっちも大して変わんねーよ。
それで17年程前に当時世界で最も美しいと言われていたアルテナ王国のネリス姫(当時11歳)を誘拐した」
『うっ!!』
「アリスってネリス姫(当時11歳)の忘れ形見だろ? 顔見た瞬間に気付いたよ、前に見たネリス姫(当時11歳)の肖像画にうり二つだった。
つーかお前の遺伝子弱え~な、アリスの成分の99%はネリス姫(当時11歳)じゃねーか」
『いちいち「当時11歳」を付けるな!!』
「でも事実だろ?」
『事実……だけどさぁ……』
「つまりロリコンだな」
『ロ、ロ、ロ、ロリコンじゃねーよ!! ア…アリスたんを産んだ時はネリスたんは14歳だった!!』
「やっぱり立派なロリコンじゃねーか、この性犯罪者が」
『ま……まさか……?』
「うん、魔王が世界で最も忌むべき性犯罪者だって教えてあげた」
『ぐわああぁぁぁ!! この糞ガキなんて事してくれたんだぁぁぁ!!!』
自業自得だな、ロリコンは死ね。
アリスをコイツの側に置いておいたらいずれ性犯罪が発生するだろう、だから俺が囚われの姫君を救ったというワケだ。
その結果、アリスは俺に惚れて現代版勇者ハーレムの正妻になるって寸法だ。
あと少しだったのにコイツが余計なことをしたせいで!
まぁそれ以前にアリスの魔王城における立場には色々問題があった、コイツは馬鹿だから気付いてなかったみたいだが……
『ぬおおぉぉぉお!! 今まで優しいパパのイメージでやってきたのにぃぃぃ!!』
「身から出た錆だな、甘んじて受け入れろロリコン」
『ロリコン言うな!! ぶっ殺すぞ!!』
その後も魔王は念話でキャンキャン咆えてた、実に鬱陶しい、やはり旅は一人に限るな。
―――
歩き始めて約3時間、日が傾きだした頃ようやく遠くに街が見えてきた……
しかし俺はアソコまで辿り着けそうにない……
「ゼハァ! ゼハァ! つ……疲れた! もう歩けない!」
『おい! 街まで後2~3kmだろ? 野宿なんか許さんぞ?』
「無理だ! アリス体力無さすぎ! 足が棒みたいになってる、こんな感覚初めてだよ!」
よくよく考えればアリスの行動範囲は極めて狭い、魔王城から出た事が無かったんだからな。
その上、道なき道を即席の靴で歩いてきたんだ、こうなるのも無理はない、足が痛いよぉ!
『法の番人様のクセに泣き語と言うな』
「お前がアリスを箱入りにし過ぎた所為だろ?」
大体お前はさっきから歩いてないだろ? 俺がずっと首の後ろを摘まんでたんだから。
放置したら短足過ぎて全然スピードでなかっただろ? 本物のティッペはもっと素早かったのに……
その背中の羽は飾りか?
『うぅむ…… 疲れに効くかどうかわからんが回復魔法を使ってみろ』
「回復魔法? 効くのか?」
『わからん、だが少なくとも足の痛みは取れるハズだ』
「で? 呪文は?」
『ハァ…… 脳筋バカ勇者は世話が焼ける。
命霊の癒しは万物に降りる、その慈悲深き御手に感謝を、大いなる祝福を』
「え~…… 命霊の癒しは万物に降りる…… その慈悲深き御手に感謝を…… 大いなる祝福を」
『上級魔術・生命の祝福』
「上級魔術・生命の祝福」
パアァァァァ!
柔らかな光が全身を包み込み、疲れも痛みも一気に消えていく…… これが回復魔法。
てか上級魔術使うんだ…… さすがドタコン。
「おぉ、治った! 回復魔法スゲーな! さすがに体力までは回復してないが街までは辿り着けそうだ」
『お前この呪文ちゃんと憶えておけよ? アリスたんの身体を疲れさせるな、あと日が暮れる前に街に入れ』
「言われなくても分かってる」
気を取り直して歩き出す。
アインの街まであと少しだ。