第37話 緑柱眼 ~スマラグドス~
『よし行け勇者!』
「どうした? 急にやる気になって……
やっぱり魔王だから空き巣とか盗人行為になるとやる気が出るのか?」
『お前と一緒にすんな! 我らのやるべきことは決まってるだろ! このふざけた国名を付けた皇帝を殺しに行くのだ!』
「国名? あぁ、魔王はイボ痔帝国か…… 事実のくせに」
『じ、じ、じ、事実じゃねーよッ!! イボ痔じゃねーよッ!!』
だったらムキになるなよ? ……と、言いたいトコロだが、俺も「テレスは不能帝国」とか作られたら滅ぼしに行くだろうなぁ……
「まぁ、気持ちは分かるが痔主がドコに居るのかわからん、この国、城らしきものが見当たらないから。
それに、さすがに護衛くらいは居るだろうし……」
『ぐぬぬ…… 仕方あるまい、『緑柱眼』を使うんだ』
「………… すまら…… なんだって?」
『『緑柱眼』だ。
アリスたんのオッドアイはただの生まれつきの特徴ではない、それは魔眼なのだ』
「魔眼…… これが?」
『本来、目視することの出来ない魔力とその色を見ることができる魔眼『緑柱眼』…… アリスたんはそれを我から受け継いでいる』
「え? お前も『緑柱眼』ってのを持ってたの?」
『我の目もエメラルドグリーンだっただろ? アリスたんと違って我は両目が魔眼だったから目立たなかったかもしれんが……』
…………いや、問題はそこじゃない、正直に言うと魔王の顔を忘れてしまった、もともとオッサンの顔になんか興味なかったし……
そもそも顔を合わせてた時間だって数時間だ、そんな短時間でおっさんの顔を覚えられるハズない!
目…… 緑だったかな? そう言われればそうだった気がしなくもなくもない…… 気がそこはかとなくするかも知れない。
ま、いいか…… 勇者テレスの記憶領域におっさんの顔を記憶する余裕はない。
「それで? その魔眼をどう使うんだ? 遠くを見ることとかできるのか?」
『『緑柱眼』は魔力を見ると言っただろ、その視界は遮蔽物を無視できる』
遮蔽物を無視……? あ
「今までにもナニか妙なオーラっぽいものが見えたことがあったが、アレが魔力か」
『認識すればよりハッキリ見えるようになるだろう』
「お前もっと早く教えろよ! この目があれば霊獄でゴースト探しが捗ったのに!」
『む…… ホントは教えたくなかったんだよ、お前、魔力コントロールがド下手だからアリスたんに負担が掛かったらやだから』
なんか理由が嘘くさい。
今だってアリスのためとか言いながら、個人的な理由で俺に情報を開示したじゃねーか。
まぁいい、便利な目があれば今後アリスの安全をより完璧に確保できる。
左眼に意識を集中してみる、すると視界が色とりどりの魔力で彩られる……
魔力は生物からだけじゃ無く、植物や一部の鉱石、そして大地からも出ている…… 正直ちょっと前が見づらい…… 普段はもっと抑えておきたいな。
とりあえずすぐ近くにある民家に入ってみる。
外から『緑柱眼』で見た限りではヒトは居ない。
『おい、ドコに行くんだ? この家に痔主がいるんか?』
「いや、ホントに無人かどうか調べる」
『信じてねーのかよ!』
当たり前だろ、俺たちは敵同士なんだから、まして変態ロリコンオヤジの言葉なんか信じろって方が無理だろ?
「ついでにお宝がないかな?と思ってな、魔力を発する道具とかは高値で売れそうな気がする」
『お前はホントにブレないな』
家自体はほったて小屋って感じだが、この家には家族連れが暮らしていた形跡がある。
子供用の小さな椅子がある…… 7~8歳くらいだろうか…… その子供はドコに行った? 戦争が始まる前に逃げたのだろうか?
『粗末な家だな…… コレほんとに家か? 馬小屋にしたって粗末すぎる』
「人口の少ない出来たての国だからな、こんなもんだろ」
確かに馬小屋っぽい…… お宝は期待できないかな?
ゴソゴソ……
俺はおもむろにタンスを漁る。
『おい…… いきなりナニしてんだお前……?』
「魔王を倒す使命を帯びた勇者は、半強制的に物資を供出させることができるんだ。
つまり他所のウチのタンスを漁る権利が与えられる」
『やってること盗賊と一緒じゃねーか』
「アイツ等は犯罪行為、勇者は法律で認められてる、一緒にすんな」
まぁ俺以外の勇者が人様の家のタンスを漁ったって話は聞いたことが無いな。
いくら許されていてもかなり印象が悪いからな、みんなやらないみたいだ……
俺だって家主の前で堂々と漁ったり、ツボやタルを放り投げて壊したりはしない。
そもそも往々にしてロクなモノが入って無い、薬草だったり10ディルだったり何かの木の実だったり…… なんであんな物を後生大事にとっておくのだろうな?
「チッ、シケてやがる、ヘソクリの一つもありゃしねー」
『お…… お前…… アリスたんの顔と声で盗賊みたいなセリフを言うな!』
セリフくらいいいじゃねーか、他に誰か聞いてるワケじゃあるまいし……
「しかしホントに何もないな」
『お前はこんな馬小屋に何を期待してたんだ?』
「あ、お宝発見」
『なにッ!?』
「エロ本」
『捨てろ!! アリスたんに相応しくない!!』
確かに…… 今エロ本見ても虚しいだけだからな……
せめてオ○ニーでもデキれば使い道もあるが、お目付け役気取りの親バカ魔王が邪魔で……
この小動物、いつか始末してやる!
「お、コッチのお宝は魔王用だな」
『? 我用?』
「ほら、幼女のパンツ」
『だからロリコンじゃねぇーって言ってんだろぉぉぉ!!』
幼女のパンツは魔王の前足によってはたき落とされた……
なんて事するんだろうね? このロリコン魔王は、他に誰も居ないんだから我慢しなくてもいいのに……
―――
結局何も見つからなかった、金目のものは住民が持ち出したのだろうか。
『えぇい、いつまでも遊んでないで痔主を探せ! そして殺せ!』
命令されると反発したくなるのが人情ってやつだ、しかし痔主を倒してしまって良いものだろうか?
テイマーが死ねばゴブリンの統率が崩れる、仮に30000匹のゴブリンが好き勝手に暴れだしたらかなりヤバイ。
…………
まぁ、そうなった時のために、秘密兵器の勇者イカロスが居るんだ、彼に頑張ってもらえばいい、彼1人でどうにかできる数じゃない気がするけど、俺とフィロは戦争には関与しないと宣言してるし……
ま、いっか。
せいぜい勇者の名を貶めないよう死ぬ気で頑張るが良い!
「よし、探すか…… お宝もそこにある可能性が高いし」
『お前はホントにブレないな』
『緑柱眼』を駆使し痔主を探す、しかしホントに誰もいないな、まるでゴーストタウンだ。
お! 崖の中腹あたりに赤い魔力の塊が見える、アレかな?
そうか、崖を掘って城の代わりを作ってたのか。
「見つけた、多分アレだ」
『よし行け勇者テレスよ! 魔王の名を貶める愚か者に究極の魔が如何なるものかを見せつけてやれ!』
その言い方だと俺が魔王の手下みたいで気に食わないんですが……
―――
魔力の塊が見えた位置のだいたい真下、民家の影に隠れた崖の壁面に岩で作られた扉があった、一見ではそこに扉があるとは気付けないクオリティだ。
『カモフラージュされてるな』
「痔主ってのは基本的にビビリなんだろう」
皇帝を名乗るならもっと堂々としてろよ。
「…………」
『? 入らんのか?』
魔力的な罠が仕掛けられてる形跡はない、しかし盗賊のアジトである以上、警戒して損は無い。
「『初級魔術・水精弾!』」
ドガッ!! バシャアン!!
巨大な水弾により扉は洞窟の奥へと吹っ飛ばされた。
入り口が元のサイズより大きくなってる、オカシイな? 魔法の威力1/100設定はどこへ行った?
『お前…… いきなりなんてコトを……』
「いや、なにか物理的な罠が仕掛けられてる可能性があったから」
『『解錠』は罠の解除も出来る』
「そうなの? そう言うコトは先に言えよ」
『お前がいきなりこんな暴挙に出るとは思わなかったからな…… 時に勇者よ』
「ん?」
『お前…… 我が城へはどうやって潜り込んだ?』
「裏口を破壊して……」
『ぐわぁぁぁっ! やっぱりぃいい!! この脳筋!! 貴様ドアノッカーって知らないのか!?』
だって魔王城の前には魔王護衛軍が大量にいたし、全部倒すの面倒臭かったんだもん。
だいたいノックしたらお前が出て来たのかよ? どうせ中ボスの色違いの兄弟みたいなのが出てくるのが関の山だろ。
『絶対修理代請求するからな!!』
セコイ…… ホントにコイツは魔の王だったのだろうか?
時々不安になる、偽物の魔王だったんじゃないかって。




