第36話 ひとめぼれ
いきなり現れたのは勇者の一人だった……
勇者イカロス・アエル…… 歳は俺より1つか2つ上、確かバカだった気がする。
「誰だお前は!! 盗賊如きが俺の名を口にするのも気に食わん!!」
「あの…… フィロです、第13勇者のフィロ・アウダークスです!
勇者会議でお会いしました……よね?」
「……………………」ジーーー
イカロスはまばたきもせずにフィロを見つめている、どうやら覚えて無いらしい……
この分だと俺のコトも思えてないだろうな。
「なるほど、アウダークス家の娘か……」キョロキョロ
目が泳いでる…… 確実に覚えてないだろ?
「残念だ…… この勇者の面汚しめ!!」
「えぇッ!!? な、なんで急に怒られてるのボク!?」
「勇者でありながら盗賊に身をやつすとは情けない! せめてもの情けだ! 俺の手で引導を渡してやる!!」
「はい?」
どうやら勇者イカロスは俺達が盗賊の一味だと思ってるらしい。
飛んでるトコロを墜落させたしなぁ…… 敵と認識されるのもムリはない。
「ちっ、違います! ボク達は盗賊の一味なんかじゃありません!」
「問答無用!! 火の裁きを受けよ!
『火炎弾!』」
イカロスはいきなりファイヤーボールを放ってきた、ホントに問答無用だ。
このままだと護衛冒険者たちにも被害が出る…… 勇者の面汚しめ。
「『聖守護壁!』」
バシュゥッ!!
「なにっ!?」
瞬時に防御壁を展開しファイヤーボールを打ち消す。
「落ち着いて下さい勇者イカロス様」
「い…… 今のはキミがやったのか?」
「私はフィロとパーティーを組んでいる魔法使いのアリスティアと申します。
私たちは決して盗賊に与するものではありません」
「…………」
「私たちは攫われた人達を助けるために敢えて盗賊に捕まり潜入したんです。
この行いは勇者の名を貶めることには決してならないと断言できます」
「え?」
大嘘をついた、預言者じゃないんだからどの乗合馬車が襲われるかなんて分かるワケない。
だからと言って本当のことを正直に話すワケにもいかない、勇者が盗賊に攫われて牢屋にブチ込まれたとか勇者的にアウトだ。
だから敢えて捕まったことにする。
そういう事だからさフィロ、ビックリした顔しないで。
「私たちはたった2人だからゴブリンの軍団と戦う力はありません、ですので外の戦闘はイカロス様とテレジア軍におまかせします。
その代わり、手薄になっている帝国内での人質救出は任せて頂けないでしょうか?」
人質救出は護衛冒険者に丸投げしてもいい、それでもこう言っておくだけで勇者の功績になる、口先の力は真実を歪める、スバラシイ!
「うっ…… そ、そうだな…… 確かにゴブリン軍団の数がこちらの予想の10倍以上いたから人質救出まで手が回らないのは事実だ」
10倍? どれだけ見通しが甘かったんだ? それとも俺達が見たよりも遥かに多くのゴブリン兵が存在してたのか?
「………… わかった、人質救出はキミ達に任せる」
あれ? 随分と聞き分けが良いな…… 問答無用でフィロを敵認定してたのに。
「その…… キミの名をもう一度教えて貰えないだろうか?///」
………
……
…
うわぁ…… そういう事か。
こいつ俺に惚れやがったな! やめろホモヤロー! 勇者の面汚しめ! 勇者は後世に血筋を残さなきゃいけないから同性愛は御法度なんだよ!!
あ、そう言えば俺って今アリスの姿をしてるんだった、それでもやっぱりアリスに惚れるな!
「………… アリスティアです」
ホントは教えたくない!
教えたくはないのだが……
教えないと行ってくれなさそうなので仕方なく教える。
「アリスティア…… 美しい名だ……///」
頬を染めるな! キモい!
『まったく、勇者ってヤツはどいつもこいつも……!』
イカロスはこっちをチラチラ見ながら飛び上がりその場でクルリと一回転してポーズを決め、こちらに爽やかな笑顔を見せた後ウィンク☆をして去っていった…… オエ……
『おい! これでアリスたんがアイツに狙われるなんてことはないだろうな!?』
(大丈夫だろ、もうアイツに会う機会はないだろう)
『なんでじゃい?』
(未だにイスト大陸をウロチョロしてるって事は魔王討伐に出る気がないってことだ。
俺たちが前へ進めば出くわすことも無くなる)
『だとイイんだがな』
嫌なフラグを立てるんじゃねーよ、嫌だぞ? 勇者のストーカー化とか、それこと勇者の面汚しじゃねーか。
「イカロス兄様、急に聞き分けが良くなったね? どうしたんだろう?」
「フィロは…… わからないんだ」
「え? え? ナニが?」
いや、いいんだ…… フィロはそのままで居てくれ……
『ようやく分かった、勇者ってアホしか居ないんだろ?』
(そうだな、俺以外はアホばっかだ)
『そうだな、お前はアホというよりゲスだからな』
(フッ、そんなに褒めるなよ)
『カケラほども褒めとらんわ』
とにかく第12勇者との遭遇戦を口八丁で切り抜けた、さっさと次の行動に移らねば。
「とにかく敵の姿も見当たらないので手分けして人質になってる人たちを探しましょう」
「チョット待ってくれ、君たちは…… 勇者なのか?」
赤ちゃんプレーヤーが余計な関心を持った、お前は人のことを気にしてる場合じゃないだろ?
「そうですよ、フィロは第13勇者です」
「ワザと捕まった……と言うのは?」
チッ! そこに触れるなよ。
「あの乗合馬車が盗賊に襲われることを事前に察知した私たちは偶然を装ってあなた達に接触したんです」
「どうやってそれを?」
「それがフィロの恩恵だからです」
恩恵…… 勇者にのみ受け継がれる神からの贈り物……
一般人は勇者の恩恵にどんな能力があるか知らないから、こう言っておけば誤魔化せる。
だからフィロ! ビックリした顔しない!
「そ…… そうだったのか……」
「そうだったんだぁ……」ボソ
はい! そこ! フィロ! 初めて知ったって顔しない!
―――
「おぉい! 居たぞ! こっちだ!」
手分けをして探すこと僅か10分、人質たちを無事発見した。
予想通り南門の近くに牢屋があった、正確には外壁に登るための階段の側……と、いえるかもしれない。
「『解錠』」
特に罠もなかったので魔法で解錠し人質を助け出す。
「おおっ! もうダメかと思った!」
「た…… 助かった……ッ!」
人質たちも全員無傷らしい、とくに拷問もされていない、まぁ拷問したって得られる情報はないからな。
今回の件の犠牲者はゴブリンに掘られ死んだ目をしていた冒険者の青年だけだみたいだ。
…………
それと俺のブーツがブッカケられて死んだ…… 今思い出しても腸が煮えくり返る!
「よしっ! すぐに全員を国の外に逃がすぞ!」
「だ……だがリーダー、まだリーダーのお子さんが……」
「俺たちは護衛だ! たとえ身内に危機が訪れようと護衛任務を果たさなければならない!!
それがプロってもんだろ?」
デイビスの言葉からは「1秒でも早くこの場を離れたい」感が溢れ出してる……
偉そうなこと言ってるけどみんなが捕まった原因はお前にあるんだからな? 犠牲者がブランディッシュのメンバー1人だけだったから良かった様なものを。
「それじゃ皆さんは生存者を全員連れて脱出して下さい。
フィロはみんなを案内してあげて」
「え? アリスちゃんは? まさか残るの?」
「うん、他に捕まってる人が居ないか調べないといけないし、それに気になることもあるんだ……」
「気になること?」
「地下のダンジョンを含め、この国に来てから1人もヒトを見かけてない、ちょっと気になるんだ」
寝てる間にクロエが覗きに来たらしいが、ダンジョンでも街でも盗賊はおろか住民の1人も見かけない…… これはちょっとおかしい。
「でも……」
「私なら大丈夫、フィロはみんなを外へ案内したら戻ってきて、道順が分かるのフィロだけだからね」
「そっか、ボクは行かなきゃいけないんだね、だったら護衛の人たちに何人か残ってもらって……」
いえ、結構です。
邪魔だから…… 色んな意味で。
「護衛の仕事は乗合馬車と乗客を守ること、私に付き合わせるワケにはいかない」
「う~~~ん…… 分かった! なるべく早く戻ってくるからアリスちゃんも気を付けてね!」
こうしてフィロと護衛と乗合馬車を送り出す。
残ったのは俺と魔王だけだ。
『どうしたんだ勇者? まさかホントに正義の心に目覚めて他の人質を探す気か?』
「ナニ言ってるの? そんなの方便に決まってるだろ。
もちろんヒトも探すが、真の目的は…… 宝物庫だ!」
『……だよな』
当たり前だろ! だれが無償で人助けなんかするか! そういうのは勇者に頼め……ッ!
…………
あ、俺勇者じゃん。




