第33話 脱獄
《 ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーーー!!♪ 》
「ッ!!?」
惰眠を貪ってたら脳内に魔国国歌が響き渡り飛び起きる!
「うっさ!? 何だいきなり……!」
『今すぐ逃げろ!!』
「!?」
目をこすり前を見ると……
そこにはソロプレー真っ最中の見張りゴブリンがいた……
おぅ…… 寝起き直後になんてモノ見せやがる……
「ハァッ! ハァッ! ハァッ! ウゥッ!!」ビクン!!
いッ!!?
ゴブリンはいきなり水鉄砲を撃ってきた、変態同居人が特別早いワケじゃなくゴブリンという種は全てがクイックドローを得意としているのか!
「ヒィィィッ!?」
放たれた弾を必死で避ける、早い上に射程距離もヒトのそれとは比べ物にならない弾丸は真っ直ぐ俺に向かってくる。
あの野郎、アリスの寝顔をオカズにしやがったな! その事実だけでムカつく!
ジャンプして避ける……が、アリスのジャンプ力では大して飛べない…… その結果……
ベチャッ!
ブーツに掛かった!
「―――ッッッ!!!」
「ギャッ♪ ギャッ♪ ギャッ♪」
見張りゴブリンがとても嬉しそうだ…… 俺は殺意を抑えられない!
「ヒ…ヒ…ヒッ『睡死択一』!!」
「ギャッ♪ ギャッ……!? ガフッ!!」
ドシャッ!
ゴブリンはそのまま全身の力が抜けたように倒れた。
「ハァーッ! ハァーッ! ハァーッ!」
『お前…… また詠唱破棄で魔法を使いやがったな……』
「あああああ…… ブーツに…… ブーツに掛かったぁぁぁ!」
アリスの私物にブッカケ…… ゴブリン滅びろ!!
(魔王……)
『なんだ?』
ゴブリンの子孫予備軍の付いたブーツをティッペに向け……
(舐めて)
『!?!? おッ!? お前ェェッ!!? 正気かッ!?!?』
魔王は超常なる者に出会った時のような顔をしている、きっと女神様と謁見した時の俺もこんな顔してただろうな。
(冗談だよ)
『ほ……ほんとか? 目がマジじゃなかったか? 本当に冗談だよね?』
当たり前だろ、魔王に舐めれれてもキレイになるとは思えない、むしろ余計に汚れそう……
「って! そう言えばフィロは!? フィロに掛かってないだろうな?」
フィロは結構遠くにいた……
寝相悪!
「取りあえずフィロは無事か」
『この娘、寝始めてから30分くらいでどっかへ転がって行ってしまったぞ』
(まぁ無事ならそれでいい。
それより魔王、俺達が寝てる間に何かあったか?)
『明け方頃にクロエとかいう女が牢を覗きに来たが、我を枕にして眠るアリスたんを見て若干引いた感じで何もせずに帰っていった』
(そうか、その程度なら何も問題なしだな)
『いやいやいやいや! 盗賊すら引かせるお前の行動が異常だと気づけよ!』
盗賊と勇者の常識は違うんだ、盗賊にいくら引かれても俺は気にしない。
まぁフィロに引かれても気にはしないが……
『後は…… ゴブリン共がいなくなったみたいだな』
(なに?)
『気配も感じられないし、大量のゴブリンが発生させる音が聞こえなくなった』
言われてみればダンジョン内は実に静かだ、ゴブリンの姿も見えない……
と、言うコトは、外では既に戦闘が始まっていると考えて良いだろう。
(この見張りは周りに誰もいなくなったからソロプレーを初めたのか…… 重要な作戦から外されるワケだよ)
「ムニャ…… アリスちゃんおはよ~……」
「あ、フィロ、おは……」
ガン!
「イッタァ~~~ッ!!」
フィロが目を擦ろうとして手枷で鼻を強烈に打ち付けたらしい…… さすがドジッ子。
むしろ手枷があって良かったんじゃないか? イカ臭い手で目を擦らなくて済んだんだから。
あ…… 鼻血出てる……
「あがが…… いたひ……」
「フィロ、ちょっと見せて…… 『上級魔術・生命の祝福』」
「ふぇ? 回復魔法?」
『…………』
淡い緑色の光がフィロを包むと瞬時に傷が癒えていく。
上級魔術なら1/100の威力でも問題無いな、もともと軽傷だし。
「あ……ありがとアリスちゃん、でも魔法使っちゃってよかったの?」
「うん、見張りももういないしね……」
見張りゴブリンは永遠の安らかな眠りについた、できれば苦しみに悶えながら死んで欲しかったが…… あれ?
…………死んでる。
…………
まぁ大丈夫だろう、コイツの死因はテクノブレイクってことになるさ。
『どうやら死の方が直撃したらしいな』
(威力1/100なのに?)
『魔法の効果には感情が大きく影響する、お前は殺す気満々だったんだろ?』
(もちろんだ)
『(しかし1/100の威力で、更に詠唱破棄で殺すか?普通)』
「アリスちゃん見張りも眠らせちゃったの? 大丈夫?」
「うん、問題ないと思う、多分上ではもう戦争が始まってるから」
「へぇ~…… えっ!? は、始まっちゃってるの!?」
「恐らく夜明けと同時に攻めたんだと思う、一番注意力が散漫になる時間と言われているから」
「た、大変だ! あわわ! ど……どうしよう!」
そう、コレはチャンスだ。
盗賊の目が外側に向いてる隙に奴らのお宝を頂いて逃げる!
仮にも自分たちのコトを帝国と名乗りテレジアに喧嘩を売るようなイケイケ国家だ、更に軍隊のほとんどをテイムしたモンスター=給料のいらない兵士で構成している、軍資金も余ってるだろう!
これで貧乏旅行から脱出だ、これから資金を気にする必要もなくなる、後は魔王城を目指して俺がかつて通ったルートを一直線に進むだけだ!
その為にはまずココを出ないといけないな。
(魔王、牢屋を吹っ飛ばせる魔法ってないか?)
『そんなコトせんでも鍵開けの魔法で充分だろ? 人類領なら鍵開け魔法対策なんかされてないだろ?』
(鍵開け魔法なんてものが存在するのを今はじめて知ったよ)
―――
「我が歩みを阻むものなし『解錠』」
カチン!
牢屋の鍵はアッサリ開いた、これでいつでも泥棒にジョブチェンジできるな。
『魔国ではこんな簡単にはいかんぞ? 魔族は防犯意識が高いのだ』
防犯意識が高いというよりならず者が多いから対策してるんじゃないのか?
ちなみに俺は魔王城裏口の扉を蹴破って押し入った。
何と言っても魔王さんのお宅だから一切遠慮しなかった。
「アリスちゃん行こう! 人質になってる人たちを助けなきゃ!」
「……うん」
『え? 助けるの? 外道勇者は人質を見殺しにすると思ってた』
(本当は面倒臭いさ、でもコトのついでだ)
『ついで?』
(俺達の装備は馬車ごと持ってかれた、最低でもそれは取り返さなきゃ。
特にフィロの剣「シィル=レイド」、アレはいざって時に高値で売れる高級品だ)
『やっぱりお前はそういう奴だよな、人命より金のほうが大事』
失礼なヤツだな、俺にだって金以上に大事なモノはある、金も大事だけどな。
「でも人質になってる人たちを探すのも大変だなぁ…… 取りあえず上に向かえばイイだろうけど……」
ダンジョンの壁面には数え切れないほどの扉と通路がある、コレを一つずつ確認しながら進むしか無いのだろうか?
そもそも俺達が入ってきた坑道はドコだ? 盗賊から物資を強奪した後に戦場を堂々と突っ切って逃げるワケにはいかないし……
「それは大丈夫だよ、ボクが案内する」
「フィロが?」
「それがボクのチカラだから」
フィロのチカラ…… あ、シーザー・サロスから受け継いだ恩恵か。
「まずは人質になってる人たちだね、ん~~~…… こっち!」
フィロは1秒くらい目を瞑るとすぐに進むべき方向を指し示した。
「ちょっと待って」
「え?」
「フィロの手枷を外すから」
「あ、そっか……」
フィロの手枷を鍵開け魔法で外してやる。
「あと武器が必要だね、全てのゴブリンが出ていったワケでは無い……
私は良いけどフィロは何か用意しないと」
「そっか、確かに見張りも残ってたし用意しておいたほうが良いよね」
視線の先には昇天済みのゴブリンの亡骸が……
近くには粗末な槍とショートソードが立て掛けてあった。
「今すぐ調達できそうなのはコレくらいしか無いけど…… フィロ…… 大丈夫?」
「ゴブリンの使ってた剣……かぁ……」
このダンジョン内でゴブリンの使ってなかった武器を探すほうが難しいと思うぞ?
「これも人助けの為! ガマン……ッ! くっさぁーい!!
何で剣がこんなにクサイの!?」
剣がクサイと言うよりも柄の部分がクサイんだ、きっとロクに手も洗わずにアッチとコッチを交互に握っていたんだろう、多分何年も前から……
フィロガンバレ! 俺ならノーサンキューだが……
フィロは《ゴブリンソード+悪臭付与》を装備した!




