第25話 霊獄3 ~逃走~
ピコーン!
『ふむ、イイこと思いついたぞ!』
「いえ…… 結構です……」
『まだ何も言っとらんぞ!?』
魔王が何か思いついたらしい、どうせロクな事じゃないさ……
「お前のイイ考えなんてロクな事じゃないだろ?
11歳の少女を拐ったり、金属ダワシで脱皮手伝ったり、思いつきで25年も部下を僻地へ飛ばしたり……」
『ぐぬぬ! いや! 他はともかくネリスたん誘拐はイイだろ!?』
ダメだよ…… それが一番ダメだよ……
『とにかく聞け! 我はこれ以上アリスたん(の身体)を瘴気に触れさせたくないんだ!!』
「それは俺も同意見だ」
だから身体が元に戻ったらアリスを連れて魔国から出るけどね。
『この作戦が成功すれば旅における資金不足は一気に解消するだろう!』
「………… 一応聞いてやる、本当にそんなことが出来るならありがたい話だからな」
『フフン! 簡単な話だ! 霊獄は未だに誰も最下層に辿り着いていない未攻略ダンジョンなのだろう?』
「………… あぁ、それが?」
『ならば霊獄の瘴気を消して一気に最下層を目指し攻略してお宝を根こそぎ頂いてしまえばいい!』
「霊獄の瘴気を消す? そんなコト出来るハズが……」
『出来る!! 世界級の浄化魔術を使えば容易いことよ!!』
世界級…… あの『天を衝く裁きの火』と同格の魔術か……
確かに出来そうな気がする。
『あのダンジョンは基本的に夜中には誰も近づかない、その時間に浄化して一気に潜れば他の連中を出し抜けるだろう』
「なるほど……」
仮に誰かが瘴気が無くなっていることに気付いても、すぐに底を目指そうとは思わないだろう、霊獄の瘴気が完全に消えるなんて誰も思わない。
「イケるかもしれないな……」
『だろう?だろう?』
魔王のアイデアってトコロが気に食わないが、上手くいけば一気に大金持ちになれる!
「確かに今のままではダンジョンの攻略はアリスの身体に負担がかかる!」
『そうだ!』
「可愛い可愛いアリスに負担をかけるワケにはいかない!」
『そうだ! そうだ!』
「アリスの為ならあのクソッタレな瘴気を消してなにか悪いことがあるだろうか?」
『全く無い!!』
そう、瘴気がなくなれば他の連中にも恩恵がある、結果的にマナポーションの生産効率も上がるハズだ。
その対価として俺達はお宝をゲットする、多少嫉妬されるかもしれないがさっさと旅立ってしまえば問題ない。
「やってみるか、誰も損しないだろうし」
『おう! やったれ~!』
「お待たせ~、アリスちゃん誰と喋ってたの?」
おっと、フィロが戻ってきた。
イカンイカン、魔王と話す時は気を付けないといけないんだった。
「ううん、ヒトリゴト、フィロお疲れ様」
「うん、お疲れ様」
そういえばフィロの稼ぎ次第ではわざわざダンジョン攻略なんてする必要もなかったんだな……
「フィロの方はどうだった? 私は11万ディルになったけど……」
「11万? スゴイ! ボクは1万しか稼げなかったよ」
1万? つまり1匹しか倒せなかったってこと?
「まいっちゃったよ、下の階層も結構人がいてね、しかも皆ベテランでレベルも高いみたいで……
ボクの入り込む余地なんて全く無かったよ…… はぁ~~~……」
そりゃそうか、市場ではかなりお高いけどC級マナポーションだって普通に売ってる。
専門店にいけばB級だって手に入る、それはつまりその階層で稼いでる冒険者が確実にいるってコトだ。
「でもでもアリスちゃんが3階層で11万も稼げるなら2週間くらいこの街で稼げば馬車くらい買えるよね?」
「残念だけどそれは無理」
「無理? なんで? ボクも手伝うよ?」
「私は多分後2~3回霊獄に潜ったら死ぬ」
「ぅえっ!? 死!?」
アリスの瘴気耐性の無さを説明する……
「それは…… ダメだね」
「うん、ダメ、だから一発逆転に賭けようと思う」
「一発逆転?」
「そう、その準備のために明日は1日休みにして、フィロには食料の買い出しや野営の準備を整えて欲しいの。
私は1日掛けて体調を万全に戻しておくから」
「それは構わないけど…… ナニするの?」
「霊獄の完全攻略」
「……は? ……?? はいぃ~~~ぃ!!?」
―――
――
―
翌日、23:59…
たった今、最後の見張りが…… 帰った。
雨は降っていないが天気は悪い、雲がかなりの勢いで流れているように見える…… 好都合だ。
こんな日に空を見上げる奴は滅多に居ない。
場所は霊獄の淵、コレで完全に周囲に人が居なくなった。
なにせ幽霊で溢れかえっている穴だ、好き好んでこんな所に近づくやつは居ない。
コソコソ……
そんな霊獄にコソコソ近づく2人と1匹の影……
「ねぇねぇアリスちゃん」
「しっ! 誰も居ないとは思うけど一応小声でね?」
「う、うん、ゴメンね? それで…… 今からナニをするつもりなの? 霊獄の完全攻略ってナニ?」
「あ、そうか、詳細言ってなかったね、端的にいうと霊獄の瘴気を全部浄化して、その隙に私達だけで最下層まで到達してしまおう……って話よ」
…………
「え? いやいや、ムリでしょ? 最下層が何層かもわからないダンジョンの瘴気を全部浄化するなんて!
そんな事が出来る人間が存在するとすれば…… テレサお姉様くらいよ……」
あ、テレサお姉様とは懐かしい名前が……
『おい勇者、テレサって誰だ? フィロって長子じゃないのか?』
(フィロは確か一人っ子だ、テレサお姉様ってのは第2勇者のコトだ)
ちなみに勇者はその家系の第一子が継ぐことになっている。
『ケッ! また勇者か!』
(テレサ姉は超優しい女性だった、俺も可愛がって貰ったよ、テレスとテレサで名前が似てるから~って…… よくよく考えるとチョット変わった人だったなぁ)
「まぁダメ元だと思ってくれればいいよ」
「ダメ元…… まぁ……それならイイか……」
別に期待してないって顔だな?
だが今から奇跡を目撃することになるだろう!
(やるぞ魔王!)
『おうさ! くたばれ瘴気!』
(くたばれ瘴気!)
安物の杖を構え詠唱へと移る!
「『清浄なる魂の還る場所!
地に伏せ汚れを纏いし哀れなる亡者に聖女の涙を!
その青き光は全ての者がいずれ還る楽園への導べか!
なれば我は祈らん!
光の先に汝の救いがあらんことを!』」
もちろん小声で詠唱する。
以前の『天を衝く裁きの火』と違って魔法陣が街中に展開されるということはなかった。
あんなのが出たら確実に誰かに気付かれる…… と、思ったら、今回は空に魔法陣が出るらしい、雲の隙間から空を覆い尽くすほど巨大な魔法陣がチラッと見えた。
『世界級魔術・清浄なる世界への導き!』」
キラキラキラ……
光輝く雪のようなものが霊獄に降り注いでいる…… 幻想的で美しい光景だ。
上空は勢い良く風が吹いているのにそんなものは物ともせずに降り注ぐ…… 当然だが普通の雪じゃない。
「キレイ…… これが浄化魔法?」
『天を衝く裁きの火!』に比べれば派手さはないが、それでも世界級魔術だ、効果は絶大なはずだ。
「さて、それじゃ誰かに気付かれる前に行くとしますか」
そういってさっさと潜ろうとすると……
「ちょ! ちょっと待って! ボクが先に行くよ。
万が一、瘴気が残ってたらアリスちゃん死んじゃうよ?」
「あ~…… そうだね、それじゃフィロが先に降りて?」
大丈夫だと思うけどなぁ、魔王がアリスの身体を危険に晒すハズ無いから。
ま、万が一ってこともある、魔王はバカだから。
用心してフォロのあとに続くことにした。
「うぁ…… ここホントに霊獄? まるで聖堂に居るみたいな神聖な空気……」
フィロは霊獄のあまりの変わりように驚いている。
うん、不快指数ゼロ、上の街より空気がキレイだ、思わず深呼吸したくなるレベルだ。
「この空気が霊獄の底まで続いてるの? スゴイ……」
「じゃ、行こっか? 簡単に追いつかれるコトはないだろうけど、途中休みを入れながら行かなきゃならないからネ」
「…………」
「?? フィロ?」
「ねぇアリスちゃん、一つ気になったコトがあるんだけど……」
「ん? どうしたの?」
「この状態ってどれくらい続くの?」
あぁ、下層まで行って高濃度の瘴気が吹き出したら俺は元よりフィロだって危ないからな。
(魔王?)
『世界級魔術だからな、まぁ400~500年ってトコロだろう』
「400~500年…… くらい?」
「400~500年…… それだけの間、瘴気は出てこないって事だよね?」
「うん」
フィロはナニが言いたいんだろう?
「それはつまりゴーストも現れないってコトなんじゃ無いかな?」
「ん? なんで?」
そう言えば今は深夜、ゴーストでごった返しているハズの場所だ。
だが今はゴーストのゴの字も見当たらない…… 当然だ、全部浄化してやったんだから。
「ほら、宿まで案内してくれたお爺さんが言ってたでしょ?「ここのモンスターは瘴気の中でしか存在できない」って……」
…………え?
「そ……そんなコト言ってたっけ?」ダラダラ
「うん……」
少し落ち着いて考えてみましょう。
…………はぁぁぁ~~~。
(落ち着け、まずはスコーンと紅茶を用意してくれたまえ)
『混乱の極みじゃねーか』
うっさい。
え~とつまり、世界級浄化魔法で幽霊たちの憩いの場である霊獄は浄化されました、それはもう隅から隅までピカピカです。
コレにより霊獄に生息? 違う、存在していた幽霊たちは光の中へ消え去りました、どうせなら魂魄珠をドロップして逝ってくれれば良かったのに……
そして…… 霊獄の中でボ~っと突っ立ってるだけなのに、ゴーストは一向に現れない……
…………
そりゃそうだ、この清浄な空間に幽霊なんて出るハズない、モグラが赤道直下で日光浴するくらい有り得ない。
それはつまり……
今後400~500年、霊獄ではゴーストがエンカウントすることはないってコトだ。
そしてそれはマナポーション輸出が主力産業のラビットランド共和国の滅亡を意味する…… だって原材料の魂魄珠が今後取れなくなるんだから。
「…………」
「え~と…… アリスちゃん?」
「ねぇフィロ、私達って急ぎの旅の途中だったよね?」
「え? うん、そうだね」
「だったら一つの街に留まるくらいなら、一歩でも先に進むべきだよね?」
「え? ?? ナニを…… ! う、うん! そう! ボクたちは急ぎの旅の途中だよ!」
「だよね? そのための準備してたもんね?」
「そ、そう! ボクは旅の準備をしたの! ダンジョン攻略なんて時間の掛かることするハズないよね!」
『お前ら…… いや、何も言うまい……』
と、いうワケで……
俺達は逃げ出した。




