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第21話 ラビットランド


 旅立ちの朝……


「そうか、もう行ってしまうのか、少し寂しいが仕方が無いのぅ。

 お嬢ちゃん達には助けられたからの、旅の無事を祈っておるよ」

「お弁当作っておいたから持ってお行き、久しぶりに孫娘が訪ねて来たみたいで嬉しかったよ、またいつでもお出で?」


「グスッ…… おじいさん、おばあさん……」


 世話になったじーさんばーさんに別れを告げていると……

 フィロが泣いてる…… え!? 泣いてる!? なんて感受性豊かなんだ! 俺も泣いた方がイイのかな?


「行ってきます! どうかお元気で!」


 ボロボロと涙をこぼすフィロの手を引き旅立った。



―――



 ……のはイイのだが。


「はぁっ! はぁっ!」

「アリスちゃん大丈夫?」

「だ…… 大丈……ぅぶっ!」


 なんかこのやり取り、2~3日前にもやった気がする。


「アリスちゃんと旅をするなら馬車は必須だね?」

「わ…… 私も…… そう思……うっ!」


 荷物を全部フィロに持って貰っているのにこの体たらく、ジョギングでもして体力つけた方がイイのかな? でも急ぐ旅だし、そんなコトしてたら旅が出来ない。

 やはりできるだけ早く馬車を手に入れるべきだな。


 でも今の手持ちじゃ全然足りない、馬一頭買うコトも出来ない。


「そうだ! 良いコト思いついた!」

「?」

「ボクがおんぶして上げるよ!」

「いや…… それはさすがに…… フィロの方が潰れちゃうよ?」

「大丈夫! ボク体力には自信があるんだ!」


 そう言うとフィロは背負っていた荷物を渡してきて、俺の前に跪き背中を向けた。


「荷物はアリスちゃんが背負っておいてね? ほら、早く!」


 拒否したいトコロだが、今のままじゃまともに進む事も出来ない、少しだけ試してみるか。


「それじゃチョットだけ…… 無理はしないように、キツかったら言ってね?」

「大丈夫だって♪ ボクこう見えても勇者なんだから♪」


 俺も勇者なんだよなぁ…… 中身だけは。


「それじゃ…… お邪魔しま~す」

「どうぞどうぞ♪ 上がって上がって♪」


 フィロは(アリス)を背負うとスッと立ち上がった。

 力を入れる素振りすら見せなかった、足腰がしっかりしてる…… ちゃんと鍛えてるんだなぁ。


「アリスちゃん軽い、ボクよりも小さいもんね? 落ちないようにしっかり掴まって?」

「う…… うん……」



 ムギュ♪



(!? こ……この首筋にズッシリとくる圧力は!?)


「ア……アリスちゃんってボクと同い年……だったよね?」

「へ? そうだけど……?」


(同い年で! ボクよりも体が小さいのに何なんだこの胸囲の格差は!? っくぅ~~~!!)


「だ…… 大丈夫? やっぱりキツイ?」

「んっ! 何でも無い! ちょっと世の無常を噛みしめてただけ!」

「??」

「それじゃ行くよ!」

「わわっ!?」


 フィロは驚いたことにそのまま走り出したのだった!

 時折り回復魔法でサポートを入れていたが、2時間以上も休まずに走り続けていた……

 この子の体力は一体どうなっているんだ? 俺は完全な足手纏いだったんだな。


 もっともこんな移動方法は魔物が殆んどいないこの辺りに限った荒業だ、この先ずっと背負われて旅するワケにもいかない。

 やはり馬車が必要だな、せめて馬一頭でイイから欲しい。



―――


――




 体力が回復したら僅かに歩き、しかし大部分は背負われながら旅をつづけ……

 3日後、次の国に到着した。


『情けない勇者だなぁ、男としてそれで良いのか?』

(うっさい短足! お前だってずぅ~っと運ばれてるだけじゃないか! 男云々言われる筋合い無い)


 …………

 …………


『………… お互い…… 自分の身体じゃないと苦労するな?』

(あぁ…… この話題は止めよう)


 情けなさと不甲斐なさが身に沁みる。



「見えた! 次の国に到着したよアリスちゃん!」

「ん?」


 フィロに降ろしてもらい一歩前へ出る。

 森を抜けた先にある高台から広大な草原が見え、その遥か先に壁に囲まれた街がある。


「………… かなり大きい、ハオネス王国の100倍くらいあるんじゃないか……な?」

「んふふ~♪ あの国はね? ラビットランド共和国だよ」

「ラビットランド? ソレって確か……」

「そう! 都市国家群3大国の1つだよ♪」


 おぉ、久しぶりの大きな街だ。


「アソコでなら割のいい仕事が見つかるかも知れない、上手く稼げば馬車くらい買えるかも……」

「ふふ、アリスちゃん知ってる? ラビットランドは冒険者にとって都合の良い街なんだよ?」

「都合が良い?」

「うん、あの街の地下にはイスト大陸最大と言われるダンジョンがあるんだよ」


 あぁ、そう言えば聞いたコトがある気がする、確か……



― ダンジョン ―


 それは数々の財宝が眠ると言われる冒険者垂涎の地、そこは不思議で満たされてる。

 ダンジョンはある日突然現れ、そのメカニズムは何一つ解明されていない。

 その形状も様々で、自然洞窟風のモノもあれば神殿風のモノもある、中には壁一面に意味不明な光る幾何学模様が浮き出ているダンジョンもある。

 共通して言える事は「誰も足を踏み入れた事が無いのに、明らかに人の手が加わった痕跡がある」という事だ。

 だが往々にしてそれらは人の手で創れるレベルを逸脱している……

 一説には超古代文明の名残…… 等とも言われているが、その真相は定かでは無い。


(ダンジョンと言えばお宝だよなぁ、ダンジョンから発見されるアイテムは神話に出てくる神器や現代魔学では再現できないオーパーツが殆んどだ。

 ただまぁ…… デキたてか超高難易度のダンジョンでもない限りそういったお宝が残ってる可能性はほぼゼロだ)

『それじゃココで一攫千金は?』

(一攫千金は…… ムリだろうな)


「あの国にあるダンジョンは「霊獄」って呼ばれてるんだよ」

「フィロはダンジョンに詳しいの?」

「フフッ♪ ボクもいつかは世界3大ダンジョンを攻略したいと思ってるんだ♪ ちなみにその一つがココの「霊獄」だよ」


 あの大人しかったフィロがこんな事を思うようになったとは…… この5年で彼女に何があったのだろうか?


「霊獄は特殊なダンジョンでね、中は常に瘴気で満たされていて出現する魔物もゴースト系だけなの。

 ただそのゴースト系から「魂魄珠」っていう特殊な素材が手に入るんだけど、それが魔力回復薬として有名な「マナポーション」の原料なんだって。

 そしてラビットランドは世界中に流通しているマナポーションの95%を製造してる国、よく「魔術師はラビットランドに足を向けて寝れない」なんて言われてるんだけど、アリスちゃんもやっぱりそうなの?」

「それは比喩だよ、でもフィロはダンジョンにスゴク詳しいんだ……」

「アハハ、昔チョットだけ本読んだことがあるだけだよ」


 フィロはいつになく饒舌だ、もしかしてダンジョンマニア?


「そう言えばマナポーションってすごく高かった気がする」

「そうなんだ、この国はマナポーションをほとんど独占販売してるから……」

「つまり…… 金がある」

「そういうこと」


 勇者やってた頃は魔法が苦手でマナポーションのお世話になった事は無かったが、今は魔法使いやってるしアリスの為にも少し用意しておくべきかな?

 でも世界級魔術使っても魔力枯渇状態にはならなかったし、必要ないかな?


「そうそう、それでさっきの話だけど魂魄珠が冒険者にとって良い稼ぎになるんだよ。

 純度にもよるけど結構いい値段で買い取ってくれるんだって、それにダンジョンは街の地下にあるからね、行って戻るのも簡単、非常に冒険者にとって都合の良い街なんだよ」

「純度?」

「うん、階層が深ければ深いほど純度の高い魂魄珠が取れるらしいけど、さっきも言ったようにココのダンジョンは瘴気に満たされてるからね、深く潜るのが難しいんだ。

 100年くらい前に瘴気の影響を押さえられるプリーストをたくさん含めた大規模な調査団が結成されて霊獄の底を目指したらしいけど、その時でも地下30階層くらいまでしか行けなかったそうだよ?

 だからこのダンジョンの最下層が何層なのかはいまだに不明なんだ。

 ま、世界3大ダンジョンはどこもそんな感じだけどね」

「へ~~~、じゃあ最下層は31階層かもしれないんだ? それなのに「世界3大」に数えられるの?」

「うん、まぁ実際の所、他の二つがスゴイ有名で、この国の人が箔付けのために無理やり世界3大に含むよう広めたらしいんだよね?

 だから難易度なんかも他の二つに比べたら格段に低いらしいし…… それでも30階層までしか行けないんだから…… まぁ……ね?」


 ね? って言われてもなぁ…… 1つだけショボイ世界3大かぁ。




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