第18話 ハオネス王国
「ん……う……ん? うわっ!?」
ボクが目を覚ました時、辺りは暗くドコかの地下室にでも閉じ込められてるのかと思った。
だがそれが違うことはすぐに分かった、開けっ放しの大きな扉から外の景色が見える、ドコかの牧場っぽい風景……
すぐに自分がいる場所が馬小屋の干し草の上だと気付いた。
「こ…… ここドコ!? 一体何が!?」
ボクは確か盗賊と戦って…… アレ? 戦ってたっけ?
「んん…… ぅるしゃぃ……」
「え?」
すぐ隣にはアリスちゃんが寝てた、更にその向こうにはアリスちゃんの使い魔がいて胡散臭いものを見る目をしている……
ヤメテ、そんな目で見ないで……
「一体何が? まさかアリスちゃんも一緒に捕まったの? でもココってどう考えても監禁場所じゃないよね? 普通に外が見えるし……」
?? 一体何が起こったの?
「おや? 気が付かれたかな?」
「!?」
そこに居たのはボク達を馬車に乗せてくれたあのお爺さんだった。
「あの…… えっと…… あれ?」
「ふふふ、お仲間の魔法使いの女の子に感謝なされよ? 彼女が盗賊たちを倒しワシらを助けてくれたんだからね」
「え…… アリスちゃんが?」
隣で丸くなって眠る少女を見る……
寝顔が超カワイイ。
現レベルがたったの3しか無く、恐ろしいほどに体力がない女の子が一体どうやって?
「ここはハオネス王国のワシの家じゃ、狭い家で馬小屋くらいしか提供できなかったんじゃがせめてゆっくり休んでおくれ」
「え? あ…… はい、ありがとうございます」
「それじゃおやすみ」
そう言うとお爺さんは行ってしまった、しかし今の今まで寝ていたボクはちっとも眠くない。
「アリスちゃん…… 強いの?」
「キュ~~~」
「あ、ゴメンナサイ、起こさないように静かにしてます」
使い魔に睨まれて思わず謝っちゃった。
…………
正直、利用されてるだけなんじゃないかって気がしてたんだけど…… ボクのこと助けてくれたんだ。
「これも女神様の思し召しか……
或いはボクの恩恵か……」
「キュ?」
「ゴメンナサイ、黙ります」
きっと運が良かったんだ、また明日きちんとアリガトウって言おう。
―――
――
―
朝…… 馬小屋で目が覚めた…… くちゃい…… 寝る前に浄化魔法を使ったんだが、朝にはすっかり臭くなっていた。
ふと、隣で寝ていたハズのフィロを見ると……
土下座してた。
「え!?!? ナニしてるの!?」
ヤメて欲しい、俺には女の子に土下座させる趣味はない。
「この度は助けて頂き誠にありがとうございます!
お爺さんに聞きました、アリス様が盗賊団を倒してくれたと!
そしてボクを助けてくれたと!」
「え? あ、はい」
「生憎ボクには払える対価がありません、なので感謝の気持ちを土下座に乗せてお届けしてみました! ボクに出来ることがあったらなんでも言ってください!」
何でもするとか迂闊に口にしないほうが良いよ? 俺が男の身体だったらエロい事してた。
「取りあえず「様」呼びはヤメて。
あとその変な敬語も」
「そ…… そんな事でいいの?」
「いいんです」
フィロは根本的に仲間というモノを分かっていない、俺も一人旅が多かったがココまで非常識じゃない。
感謝や謝罪は人間関係を円滑にすすめるためには重要な要素だが、限度ってものがある。
だから俺が掛ける言葉は一つだけだ。
「そんな気にしなくていいよ、仲間なんだから」
「仲……間!」
なんか感動してる…… 今まで仲間募集でよほど苦労したみたいだ。
「おぉ、2人とも起きたかい?」
昨日の爺さんが馬小屋へ入ってきた。
「もう昼前だけど食事を用意したよ」
「昼前…… そんなに寝てたのか」
この身体は疲れが溜まりやすいな。
「それが済んだら城へ行っておくれ、王様が会いたいそうだよ」
「…………はい? 王様?」
―――
都市国家群
都市国家群とはイスト大陸の1/3を占める広大な領域を指す言葉である。
この領域には大小様々な国が存在し、それらの国にはある一つの共通の特徴がある。
それは全ての国が壁に囲まれておりその壁の内側だけが自国の領土なのだ。
一つの都市それぞれが独立した国家なのである。
そしてそれ以外の土地はドコの国にも属さない「自由土地」と呼ばれ、都市国家群全ての共有財産みたいな扱いなのだ。
自国の領土を示す壁は自由に広げることが認められており、国力に余裕のある都市はどんどん領土を拡大している。
中には大国同士の壁がぶつかり戦争に発展したケースもある。
また、規定以上の広さと人口が確保さえすれば、個人でも国家を樹立できる。
過去には地下資源が豊富な場所を自力で見つけ国を立ち上げた男がいた、現在では都市国家3大国の一角にまで伸し上がった王も存在した。
ハオネス王国はそんな都市国家群の中ではかなり小規模な国の一つである。
広さはおよそ50,000平方メートル、主要産業は畜産、人口は300人程度である。
…………
そう、はっきり言えば「村」だ。
「へぇ~、こんなちっちゃい国もあったんだ、ボク初めて見たよ」
フィロさん、そういう事は思ってても口に出さないで、せめてボリュームは落として。
国民が沈んだ顔して俯いてるから……
「でもお城へお呼ばれするのなんて5年降りくらいかな? 楽しみ~♪
ね! ね! アリスちゃん! ボクの格好変じゃないかな? こんな格好で行ってもイイのかな? ドレスとか用意した方がいいのかな? 買うお金はないけどレンタルくらいなら……」
フィロは興奮してるなぁ、なんか居た堪れないよ……
「大丈夫だよ、フィロはいつも通りカワイイし、その格好だってちっとも変じゃない」
「あ……ありがと、でもアリスちゃんにカワイイって言われると自信なくしちゃうな……」
なんでやねん、俺は本当にカワイイと思ってるぞ?
『貴様、アリスたんという世界一の美少女がありがら他の女をカワイイなどと言うか!! その目玉を抉り出してくれようか!!』
魔王は魔王でよくわからん怒り方をする、アリスの目をくり抜いたら俺がお前を殺す。
「まぁアリスちゃんが大丈夫って言うなら大丈夫だよね?
それでお城ってドコかな?」
「ココ」
「ここ? ドコ?」
「目の前にあるコレ」
「え?」
2人と1匹の目の前には2階建てで石造りの民家がある……
「コレ?」
「コレ」
コンコン
ノッカーでドアを叩くと中から……
「1分後に中に入ってまいれ」
との声が聞こえた。
なぜ1分待たされるのか? 何となく予想はつくが……
律儀に1分待って中へ入る。
「し…… 失礼しまス!」
中は普通の民家だ、暖炉があり、奥にはキッチンがあり、太った猫がロッキングチェアで寝てる。
「こちらへまいれ」
隣の部屋から声が聞こえる。
その部屋へ入ると……
「よくぞ来た勇者一行よ」
王様がいた。
床には真っ赤な絨毯がひかれ、部屋の奥には一段高くなった床、そこにはくすんだ色の玉座、多分手作りして自分で色を塗ったんだろう。
そこに座るのはこの部屋に不釣り合いなほど豪華な王冠と真っ赤なマントを纏った前髪が後退したオッサン。
「ワシがハオネス王国国王リチャード・ハオネスⅢ世じゃ」
「…………」
「…………」
『…………』
目が点になったね、いや、予想はしてたんだけどさ……




