第1話 森の中
俺の身体がアリスと入れ替わった……
泉を覗き込む…… 次第に波紋が収まり自分の姿が映し出される……
美しく長い金色の髪、雪のように白い肌、長いまつげと左右で色の違うオッドアイ、顔立ちには幼さが残るが紛れもない美少女……
そして身体は小さいのに見事な乳! ロリ巨乳ってやつだよ! 実に素晴らしいね!
視線を泉の外へ戻すと、ちょこんと座ってる小動物……
「確か…… アリスのペット…… じゃなくて使い魔の…… ティッペとかいったっけ?」
「キュ…… キュルゥ~ン」
何かわざとらしい…… さっきから思念波で雑音を垂れ流してたのはお前じゃないのか?
「お前の中身…… ホントにあの使い魔か?」
「キュルル~ン!」
あの時あの場所には俺と魔王とアリスとコイツがいた。
何かが起こって俺とアリスの中身が入れ替わったのなら、残りの一人と一匹にも同様の事態が起こっていても不思議はない。
「お前…… もしかして魔王か?」
「キュルル~ン?」
首を傾げている…… まるで人間のような仕草だ、普通なら小動物の小さな脳でこんな行動は取らないだろう。
だが使い魔って奴は莫大な魔力を持つ者だけが自分の魔力だけで生み出した魔法生物、中には知性を持つ者もいるという……
だが俺の知る限りティッペには知性なんか無かったと思う。
アリスの言うことはよく聞いていたけど、訓練されたペットならアレくらいは出来る気がする……
中身が本当にティッペか魔王か…… まさかアリスってコトは無いだろうけど試してみるか。
「美少女と身体が入れ替わったら人は…… 男は何をすると思う?」
「キュル?」
「取りあえずオシッコしてみようか」
「キュルーーーーー!!」
ティッペはその場でクルクル回り何かを必死に訴えようとしている……様にも見える。
「ナニ? 生理現象なんだから仕方ないだろ? でもどうやってすればいいんだろう? このまま泉の中でしちまうか」
「キュル! キュル! キュルーーー!」
「ウルサイなぁ、ティッペ、おすわり」
「キュルルー!」
ティッペは言うことを聞かずにジタバタと暴れまわってる。
「あ、なんか別のものを催してきた」
「キュ……キュル?」
「ティッペ、少し向こう行ってて、ちょっとオ○ニーするから」
『テメェいい加減にしろぉぉぉお!!!!』
念話で怒鳴られた、かなりウルサイ。
「ようやく本性を現したか魔王プラトン」
「キュル?」
「いまさら遅い、てか最初から分かってたよ、魔王がキュルキュル言って、必死に演技してるのは実に滑稽だったよ」
『この糞ガキ! ぶっ殺すぞ!!』
そのなりで凄まれてもなぁ……
「さて……」
泉から上がる、いつまでも浸かってると風邪ひきそうだ。
「それじゃ尋問するか」
ガシッ!
「キュッ!?」
小動物の首を掴み吊るし上げる。
「念話で話せるなら気道が塞がってても問題ないだろ?」
『問題大アリだ! 死ぬッ!』
死ねばいいのにとは思うが、話を聞く前に死なれても困る。
なのでティッペの首を離してやる。
「何が起こったのかさっさと話せ」
『そ……その前に何か着ろ! いつまでアリスたんの神聖なる裸体を外気に晒しているつもりだ!?」
魔王が神聖とか言うなよ。
「つーか大体なんで全裸なんだよ? 俺が脱がしたんじゃない限り犯人はお前しかいないだろ?」
『副作用だ! 誰がやりたくてやるかコンナコト!!』
いつまでもアリスの裸体を見ていたいのだが、それは小動物を殺したあとでもいいだろう。
「それで? 服は?」
「キュル?」
一人と一匹で周囲を見渡すが、剣も鎧も服もパンツも、身に着けるものは何一つ無かった…… アレかなり高かったんだよな、一応店売り商品最高級品だった、俺の地元ならアレ一式で家が建つほどだ。
それを失くしたとなると結構凹む。
アリスが着てたドレスも同様だ、アレもかなり高かっただろう、金とか宝石とかが散りばめられてた……
コレはもう神が今後の人生を裸族として生きて行けと仰られてるのだろうか?
「ハァ…… 無いものは仕方ないな」
『アリスたんの裸を見るなよ! 見たら話さんぞ!! そうだ目を瞑れ!』
「嫌だよ、魔王を前に目を瞑れるワケ無いだろ? まして全裸で、一体何されることやら……」
『するわけ無いだろ! アリスたんの身体なのに!!」
「でも中身はテレス君だからなぁ、大体魔王の言葉なんか当てにならない」
結局、身に着けるものがないのだからどうしようもない、仕方ないから長い髪で局部だけ隠す、これで18禁をま逃れるだろうか?
―――
「俺は女神様の封神術を使っただけだ、身体が入れ替わるとかありえない、つまりお前が何かしたんだ、さあさっさとゲロれ」
『うぐっ! ぐっ! た……頼むからアリスたんの顔と声で汚い言葉遣いをしないでくれ……!』
…………
アリスから魔王のことを聞き出した時にも思ったんだけど、魔王プラトンはかなりの親バカだ、もはや娘・コンプレックスだ。
「嫌なら知ってる事を包み隠さず全て話せ」
そう言ってあぐらを掻いて座ると……
『やめろぉぉぉ!! アリスたんはあぐらなんか掻かない!!』
マジで五月蠅いなコイツ…… しかし俺自身も何か居心地が悪い、多分アリスは生まれて此の方あぐらなんか掻いたコトないんだろう、身体が慣れてない感じだ。
魔王の願いを叶えるのはナンか癪だが座り方を試行錯誤してみる…… 女の子座りが凄く落ち着いた…… 仕方ないのでコレにする。
「ほれ、これでイイだろ? さっさと話せ」
『言葉使いがそのままじゃないか!!』
「いい加減にしろ、座り方を妥協したんだからお前も妥協しろよ」
『イヤじゃ~~~!! アリスたんが穢される~~~!!』
まるで駄々っ子だ、コレがホントに世界を恐怖に陥れた魔王の本性なのだろうか?
「話さないなら鼻くそほじるぞ?」
『分かった!! 分かったから…… それだけは…… ヤメテくれ……っ!!』
小動物は血の涙を流しながら妥協した……
ただのブラフだったんだが効果てき面だったな。
そして魔王はポツリポツリと語り始める……
今を遡ること500年前……
歴史上最初の魔王が現れた。
その名を『最初の魔王ソクラティウス』といった。
大陸の西にある島に突如発生した魔王はその島をアッという間に支配し、そこを『魔国』と称し世界に戦いを挑んだ。
当時、世界はたった1つの国家『超大国・ゴルディアナ』により統一されていた。
ゴルディアナにとって魔王の発生など一地方の叛乱に過ぎなかった、故に保有していた戦力も叛乱を鎮圧するのに必要最低限の規模だった。
ゴルディアナ王政府は反乱鎮圧の軍を差し向けた、それですべてが終わると思っていた、しかしその認識は甘すぎた。
魔王はその絶大な魔力で生き物の性質を変質させ魔物を生み出し、当時誰もその存在を知り得なかった魔界から悪魔を召喚し使役した。
その戦力は圧倒的で鎮圧に赴いたゴルディアナの総戦力は半日と持たずに壊滅した。
それから魔王は怒涛の勢いで侵略を開始する。
僅か1年で世界の半分を手中に収めたのだった。
その後もゴルディアナは連戦連敗、世界には魔物が溢れ、人類の領域はたった3年で残り1割を切っていた。
ゴルディアナの滅亡は確定的になり、生き残った人類は全て奴隷になるしかない…… 誰もがそう思った時、一人の男が現れた。
『最初の勇者 シーザー・サロス』の登場である。
シーザーは神から13の恩恵を授かっていた。
その力は魔物も悪魔もモノともせず、たった一人で魔王軍を押し返し始めた。
シーザーは人々に魔物と闘う術を与え、反抗軍を組織し、1年で世界の半分を取り返したのだった。
そしてある時、仲間たちに防衛を任せ、単身で魔国へと突入したのだった。
2年後…… いつものように魔王軍と反抗軍が戦っている時、突然魔物たちが戦意を喪失し散り散りに逃げ出した。
時を同じくして魔王に使役されていた悪魔たちも唐突に消えた……
しばらくするとシーザーは生還し、魔王を倒したことを告げたのだった。
「………… 誰が昔話をしろと言った? この世界に暮らす者には常識の話だろ?」
『や、やめろ! 今のは前振りだ! だから鼻に指を突っ込もうとするな!
肝心なのはその最初の魔王ソクラティウスなのだ!』
「?」
『如何に無知な人間でも知っておろう? 魔王ソクラティウスは魔法の天才であり、幾つもの禁断魔法を生み出した事を』
「いちいち人類をディスるな、それで?」
『我があの時使ったのもソクラティウスが生み出した禁断魔法の1つ『魂の円環』だ』
「禁断魔法『魂の円環』…… それはどういった魔法なんだ?」
『それは……』
急にキョロキョロしだし挙動が不審になった、余程の魔法なんだろう、そりゃそうか、禁断ってのは決して使っちゃいけないから禁断なんだ。
『あ~~~…… 魂を取り出して身体を入れ替える魔法だ』
「ほ~…… つまりお前はあの時、俺と身体を入れ替えようとしてたってワケか」
『その通り! たった一人で我を圧倒するそのバケモノ染みた肉体から魂を引きずりだし、我の代わりに永遠の闇の牢獄にご招待しようと思っておった!
そして我の魂をお前の身体に入れて……ハッ!?』
ガシッ!
「それだけ聞ければ十分だ、お礼にお前に永遠なる安らかな眠りをプレゼントしよう」
『それ殺すって意味だろ!? 待て待て待て!! 我を殺したらお前は元の身体に戻れんぞ!!』
「お前を生かしておいても元に戻れる見込みは無い、それにお前に禁断魔法が使えるならアリスにも使えるだろ?」
『覚えるのに何年掛かったと思っておる!? それにアリスたんが今どういう状態になってるか分からん! もしかしたら我の代わりに封印されてるかもしれんだろ!? もしそうなっていたら助けるのも元に戻るのも永遠にムリだ!!』
ちっ! 確かに魔法が暴走した所為で俺達は本来意図していない形で入れ替わってしまった、アリスが俺の身体に入っているとは限らない、もしかしたら俺の身体には小動物が入り込み、世界のどこかで全裸で元気に走り回ってるかも知れない!
ヤバイ…… 俺の社会的地位が……!
「アリスは? つーか、俺の身体はドコに行った? この近くに飛ばされてるのか?」
『分からん…… 女神の封神術には空間断裂の術式が含まれておった、それが暴走したために転移事故が起こりココへ飛ばされたのだ。
本来なら全員バラバラに飛ばされてたハズだ、我とお前が同じ場所へ飛ばされたのはアリスたんとティッペが接触していたからにすぎん』
するってーとナニかい? 俺の身体は中身がアリスか小動物かは分からないが、どちらにしても全裸で世界のどこかに飛ばされたってのか…… 場所によっては殺されかねんぞ?
「テメェ…… なんてコトしてくれたんだ!!」ギリギリ
『ヤメッ! 首締まってる! 死ぬ! 我が死んだら元に戻れんと言っとるだろーが!!』
「チッ!」ポイ
『アーーー!!』
ボチャーン!
小動物を泉に投げ捨て考える。
これは由々しき事態だ、このままでは未来の歴史書に最強勇者のストリーキング伝説が乗ってしまう事になる!
それ以前にアリスは無事なのだろうか? アリスの安否確認は最優先課題だ。
「これは…… なんとしてもアリスを探し出さなければならないな」
『ならば魔王城へ向かうがいい』
「あ?」
泉から這い上がって来た小動物(魔王)が偉そうに美少女(勇者)に指図する。
『我らと同様にアリスたんも世界のどこかへ飛ばされたのなら現場へ戻るハズだ、即ち魔王城だ』
一理ある、別れた時に落ち合う場所を決めていなかったのなら現場に戻るのも道理だ。
俺達の出会いは最初の街の酒場じゃ無く、ラストダンジョンの魔王城だったからな、酒場に行ったって会えないだろう。
「しかしココが何処だか分からない以上、ドコか人里へ行く必要がある…… 全裸で行けってか?」
『許さんぞ!! これ以上下等な人族如きにアリスたんの柔肌を晒すことは許容できん!!』
俺だってアリスの裸をそこらの男に見せてやる気は無い、アリスの裸を見て良いのは俺だけなんだから。
『そうだ! 葉っぱだ! そこら辺の大きめの葉で胸と腰回りだけでも隠せ!!』
「えぇ~、チクチクしそう、肌荒れとか大丈夫かな? アリスって肌が弱そうだし……」
『ゴチャゴチャ言うな!! 全裸よりマシだ!!』
まぁ仕方ないか、全裸で人里へなどいったら襲ってくれと言ってるようなモノだからな。
アリスティアは葉っぱを装備した、防御力が1上がった。