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第17話 三属性完備


「うわわわわ!!」


 爺さんが暴走する馬をなんとかなだめようとする、しかしいきなり尻をぶっ叩かれた馬も興奮してなかなか落ち着こうとしない。

 そうだろうな、俺だっていきなり美少女にケツをぶっ叩かれたら興奮する。


「ブヒィィィィイン!」


 見通しの悪い森の中を爆走する馬車、乗り心地最悪だ。

 しかし爆走と言ってもそんなに早いワケじゃ無い、結構年寄り馬みたいだな。

 しかしこのまま走り続けたら潰れてしまいそうだ。

 だがそれは困る、馬が潰れたら次の国まで歩かなきゃいけないからな。


「よっと」


 干し草の山から飛び降り、御者台で馬をなだめようと奮闘している爺さんの隣に降りる。


「お、お嬢ちゃん!? 身体はもう良いのかい?」

「はい、おかげ様で結構休めました」

「す……すまん、騎士の子が盗賊の囮になって……」

「知ってます、取りあえず馬を止めましょう」


(よし魔王、今からお前を前へ投げるから体を張って馬の暴走を止めろ)

『出来るかボケェッ! 轢かれて死ぬわ! どんだけ体格差あると思ってんだよ!』

(冗談だよ、なにかいい魔法を教えてくれ)

『攻撃魔法で殺せば手っ取り早いだろ?』

(この速度でそんなことしたら事故る、アリスが怪我する)

『それは困る、しかし馬の暴走を止める魔法など無いぞ?』


 そりゃそうだ、そんなピンポイントの魔法なんてあるハズ無い。


(だったら…… 確かステータスを低下させる魔法があっただろ?)

『なるほど…… 確かにそれならゆっくりとスピードを落とせるな、だが興奮状態はそのままだぞ?』

(スピードさえ落とせれば充分だ)

『そうか、ならば我に続け』


『「万物は運命から逃れるすべを持たず、やがて訪れるその時は直ぐそこに在り」』

『「中級魔術・機能低下(ディ・レイト)」』



 ガクン



 馬の走る速さが急低下する、後ろから見てると急にヨボヨボになった気がする。

 馬車の速度も人の早歩き程度だ。


 御者台から降りて馬の前へ回り込み、頭をポンポンと叩きながら……


「落ち着け」

「ブルル……」


 命令すると馬は大人しくなった。


「ふう、助かったよ、お嬢ちゃんは中級魔術が使えるほどの魔法使いだったのか」


 この辺だと中級魔術が使える魔法使いは結構稀らしい、確かにこの辺りに生息するモンスター相手なら中級でオーバーキル出来る。


「それよりすぐに戻ってやらんと、騎士の子が危ない!」

「いや、安心するのはまだ早いよ」

「え?」


 そう、こっちはまだ危機的状況が続いている。


「おぉ? もう一人お嬢ちゃんが乗ってたのか?」

「ヘヘッ、こいつは運がイイぜ」

「おい、気をつけろ、こっちの嬢ちゃんは見た目と違って中級魔術が使えるぞ」


 両脇の森からゾロゾロと10人位の人影が出てくる。


「こ……これは?」

「最初から誰も逃がす気なんて無かったんですよ、万が一逃げられたときに備えて道の先に仲間を伏せてたんだ」


 盗賊がよくやる手だ、被害者が生き残らないからあまり知られてないけど。


「へへっ、中級魔術士なんか恐れる必要ないだろ? こっちにも魔法使いが3人いるんだ。

 初級魔術の撃ち合いならこっちに分がある」


 魔法ってのは威力と準備時間が比例して伸びていく。

 威力の高い中級魔術より初級魔術のほうが回転率がいい。

 相手が魔法使い1人なら初級魔術を使ったほうが効率的だ、当たればほとんど一発で決着がつくし、当たらなくても詠唱を止められれば充分だ。


「やれ! ちゃんと殺さないように手加減しろよ!」


 リーダー格の男が命令すると、3人の魔法使いが詠唱を始める。


「「「風を司りし精霊よ、我がマナを……」」」


 あ、風精自在(シルフィード)だ、だったらこっちも。


「え~と…… 『風精自在(シルフィード)』!」


 杖を構え魔法名だけを唱えてみる。

 すると杖の先に強烈な風が渦巻いた!


「なっ…… なにぃ!!?」

「バカなっ!!」

「え…… 詠唱破棄だと!!?」


 杖を中心に渦巻いていた風は突然広がり、一つ一つが風の玉になり飛び出した。


「なっ!? なんだこりゃ ゲフッ!!?」

「しまっ……ガハッ!!」

「グハッ!!?」

「ひいぃぃぃ!! うげっ!!」


 放たれた風精霊は縦横無尽に飛び回り、馬車を囲んでいた盗賊たちを残らず叩きのめした。


「な……なんと…… これは……」


 爺さんが口をあんぐり開いたまま驚愕している、アゴ外れた?


『お……おい、勇者…… お前いつの間に……?』

(この間、適当詠唱でも風精自在(シルフィード)が使えたんだ、その時から感覚的に詠唱破棄でも魔法が使える気がしてたんだ)


 だが……


「グハッ……」

「うっ…… うぅ……」

「…………」


 盗賊の半分くらいは意識を刈り取るには至らなかった。


(やっぱり詠唱を破棄すると威力も落ちるな)

『そりゃそうだろ』


 しかしアリスは最初からアホみたいに魔法の威力が高い、手加減するって意味ではちょうど良いかもな。


(魔王、適当な封印魔法を知らないか?)

『封印? ナニする気だ?』

(こいつ等を閉じ込めといて後で近くの国に引き渡す、運が良ければ報奨金が貰えるかもしれない)

『なるほど…… ならばこいつ等を一箇所に集めろ』


 ここは道のど真ん中だ、確かに一人一人封印なんかしたら往来の邪魔だな。

 しかしアリスの腕力でこいつ等をまとめるコトなんか出来るのだろうか?


 泡を吹いて白目を剥いてる盗賊…… う~ん、触りたくない…… でも仕方ないか。


「う~~~ん!!」


 盗賊の腕を掴み引っ張ろうとしたがビクともしない。

 駄目だこりゃ。


(アリス非力すぎ!)

『仕方ない、ステータスアップ魔法を使うか』


 おぉ、そうだよな、ステータスダウン魔法があるんだからステータスアップ魔法だってあるよな。


『「世界が汝を祝福するであろう、その輝きを持ちて更なる高みへと至らん」』

『「中級魔術・身体強化(ブースト)」』


 なんかキラキラが体を覆う、こんなの無くてもアリスはいつでもキラキラしてるけどな。


『うぅっ! アリスたんがいつも以上に神々しくて直視できない!』


 魔王と似たようなこと考えてた…… ナンかヤダ。

 気を取り直して…… よし、コレで俺も全盛期(魔王半殺し時)の力を取り戻したな。


「よいしょっと」



 シーン……



 盗賊は殆ど動かなかった。


(おい)

『いや、ちゃんと効いてるぞ、さっきはピクリとも動かなかったが、今は少しだけ動いただろ?』


 つまりアリスの腕力が元から1しか無かったのなら『身体強化(ブースト)』で腕力を2倍に上げても、2にしかならない。

 まさに焼け石に水だ。


 結局、爺さんにも手伝ってもらって…… てか、ほとんど丸投げで盗賊を一纏めにして一括封印した。


「ヒィ…… フゥ…… ヒィ…… フゥ……」


 お疲れ様です。


「き……騎士の子が心配じゃ…… すぐに戻ろう……」


 あ、俺のセリフを取られた。

 確かにいくら勇者でもレベル21で二十数人の盗賊の相手は厳しいだろう。



―――


――




 馬車を走らせ大急ぎで元の場所へ戻る。

 するとそこには……


「…………」


「へっへっへっ、ジジイから金を奪うつもりが若い女に変わるとはない」

「きっと俺の日頃の行いが良かったからだな」

「ハハハッ、言ってろ」


 地面に倒れ縛り上げられてるフィロがいた、さすがに多勢に無勢過ぎたか。



 ガラガラガラ……



「ん? なんだぁ?」


 盗賊たちは馬車の音でこちらの存在に気づく。


「ジジイが戻ってきた? 封鎖組の奴らはナニやってんだ? まさか自分の意思で戻って来たのか?

 …………お?」


 盗賊の1人と目が合う……


「おぉい! ジジイがまた女を連れてきたぞ!」

「マジかよ! 今夜は宴会だぜ!」

「あのジジイもしかしてサンタさんか? ギャハハハ!」


 サンタさんは俺みたいな良い子の願いしか叶えてくれないんだよ、全く……


「フィロを倒したのは誰だ?」

「フィロ? あぁ、この嬢ちゃんか、お前さんコイツの仲間だったのか?

 仇討ちも結構だが誰も倒してないぞ?」

「はい?」

「勝手に転んで気絶した」


 oh…… ボクっ子の上にアホの子の上にドジっ子とか…… 属性盛りすぎだろ?


『おい勇者、この娘と旅をして本当に魔王城まで辿り着けるのか?』

(言うな、俺もちょっと不安になってきたトコロだ)


 しかしこんな所で勇者(特権)を失うワケにはいかない。

 何より俺は最近盗賊が大嫌いになった、こんな奴らに美少女の人生をメチャクチャにされるのは我慢ならん!




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