第15話 伝説のパーティー(予定)
フィロとパーティーを組む事になった。
これでフィロが持つ勇者特権使い放題というワケだ。
だがその為にはしっかりとパーティー登録する必要がある。
なのでフィロと二人、冒険者協会・北ブリジス支部へやって来た。
『パーティー登録?』
(友達のいない魔王には分からないだろうが、きちんとパーティー登録しないと団体割引とか受けられないんだ)
『と……! 友達くらいいるわッ! バカにするなッ!!』
どうだかなぁ、兄弟同然に育った奴に死ぬほど恨まれてた奴が言っても信じられん。
「ようこそ♪ あなたの暮らしに寄り添う冒険者協会・北ブリジス支部へ♪
本日はどういったご用向きでしょうか?」
「は……はひ! パ、パパパ、パーティー登録をしたいんでしゅが!」
「はい♪ パーティー登録ですね?」
フィロ緊張しすぎ、まぁ初めての仲間じゃ無理も無いか……
「畏まりました♪ それではこちらの書類の太枠で囲われた箇所に必要事項をご記入ください♪」
「は……はい! えぇ~っと……」
記入は全てフィロに任せる、名目上リーダーはフィロなんだから、これもリーダーの仕事だ。
「これで…… イイですか?」
「…………………… はい、問題ありません、あら? アナタ勇者なんですか?」
「は……はい! 第13勇者フィロ・サロス・アウダークスです!」
「第13勇者フィロ・サロス・アウダークス……」
受付のお姉さんがフィロの頭の天辺からつま先までをじっくり眺める。
フッ
今一瞬、鼻で笑わなかった?
「それではこちらの魔道具に触れてください」
「はい」
特にコメントなし、フィロも気にして無いようなのでいつもの事らしい。
まぁここは第1勇者の故郷だ、表面上はともかく自国勇者を応援するのも当然と言える。
『またレベル計るのか?』
(冒険者カード更新時にレベル測定が義務付けられてるんだよ)
「はい、出ました、フィロ・サロス・アウダークスさんは…… 21/72…… プッ…… ですね」
今、完全に笑ったぞ。
上限レベル72は一般人に比べればかなり高い、マックスまで鍛えれば魔王と戦う時に足手纏いになるコトも無い。
だが現状レベル21は冒険者としてはイスト大陸が限界、アム大陸では戦力外だ。
勇者がこれでは笑われるのも仕方ないかも知れない…… でもこのお姉さん感じ悪いな。
この分だと俺も笑われる事になる。
「それではお連れの方も魔道具に触れて下さい」
「は~い」
ピタ
「え~と…… アリスティア・アグノス・ティアさんは…… 3/99…… え!? 99!? 3!!?」
「えっ!?」
笑われはしなかったけど驚かれた…… 俺も最初は驚いた。
てかレベル3に上がってたのか。
「盗賊の集団を倒したから上がったみたいですね」
おかしいな? 中級モンスターのサワージェリーとアーポーペンの分が加算されて無い気が……
アーポーペンは封印だから仕方ないかも知れないが、スライムの方は入らないのか? 中級モンスターなら一気に10くらいは上がっててもおかしくないんだが……
やっぱり品種改良で人工的に創られたのがいけないのかな? よくよく考えればアイツと戦っても命の危険は無い、経験にはならないのか。
「え? その…… レベル3?」
フィロが狼狽えている、期待を大きく下回った所為だろう。
「文句は受け付けません」
「あ…… うん…… そういう約束……だもんね……」
大丈夫、期待は裏切らないから…… いや、逆の意味で期待を大きく裏切る事になるかも……
「プッ……! コホン、失礼しました。
パーティーメンバーはお二人で宜しいですか?」
「あ…… はい、この先増えるかも知れませんが、取りあえずは……」
笑われた…… レベル3の女の子じゃ仕方ない。
まぁいい、好きなだけ笑っていれば。
『たった二人でパーティーと呼べるのか? コンビじゃいかんのか?』
(二人組のパーティーの中にはコンビと名乗ってる奴らもいるな、てかそっちの方が多い。
だが別にパーティーと名乗っちゃいけないワケじゃ無い、パーティーとは元々二桁の人数までのグループのコトを指してる)
『それ以上の人数では組めないのか?』
(その場合は別の枠組みになる、クランって呼ばれたりするな、第1勇者はそっち系だった)
「はい、では最後に一応パーティー名を設定してください」
『パーティー名?』
(認識とか把握しやすくするためのモノだろ)
「えっとぉ…… アリスちゃんは何か付けたい名前ってある?」
おっとぉ、いきなりちゃん付けか。
『なんかアリスたんが下に見られてるみたいで気に喰わない、勇者風情がアリスたんを!』
お前の「たん」付けもよっぽどだと思うけどな……
「ん~…… 特にこだわりは無いかな?」
「そうなんだ、ボクこういうの付けるの苦手なんだよねぇ……」
苦手なら俺が付けてやるか…… う~ん……
『はい!はい!はい!はい!はい!はーーーい!』
(五月蠅いぞ魔王)
『はーーーい! 我に一案有り!!』
小動物がキューキュー鳴きながら手を上げている、目立つから止めろ。
あと嫌な予感しかしない。
(はぁ…… はい、魔王君)
『はい「アリスたんと下僕」が良いと思います!』
予想通りのコト言いやがった……
(却下、アリスが自分で自分の事をたん付して、さらにそれを提案するとかあり得ないだろ)
『ぐぬぬ……! だったら「アリスた……」』
(アリスの名前をパーティー名に付けるのは無し)
『なん……だと!?』
魔王のバックに「ガーン!」って文字が見える…… 余程ショックだったらしい、俺そんなにおかしなこと言ったっけ?
『アリスたんの名前も付けられないこんな世の中なんて…… ポイズンッ!!』
なんだよポイズンって? それも案なのか? なんか悪役っぽいから却下。
『だったら「魔王様は偉大なり」!!』
(お前バカだろ?)
『バッ!? なんだとぉぉぉーーー!!』
なんで魔王討伐を目指す勇者パーティーが魔王を崇めないといけないんだよ?
『だったら「世界征服」!!』
(バカ……)
『だったら「アーポーペン」!!』
(個人的過ぎだろ)
『「くたばれ勇者」!!!!』
(もはやただの罵倒だ)
『「勇者テレスは露出狂」!!!!』
(お前もう黙ってろ! 俺が考える暇が無いだろ!)
ガシッ!!
「キュッ!?」
魔王の首根っこを掴むとそのまま窓の外へ投げ捨てた。
「キューーーーーーー…………」
魔王はドップラー効果と共に去った、これでようやく静かになる。
「あの…… アリスちゃん…… ナニしてるの?」
「うん、ティッペはたまに発作的に外の空気に触れないといけない時があるんだ、そんな時は大急ぎで窓の外へ投げ飛ばす。
これから先、たまにこういう事があるかも知れないから覚えといて」
「そ…… そうなんだ、使い魔ってそうなんだ……」
うん、中身が魔王の使い魔特有の症状だ、よその家は知らん。
「それでパーティー名はどうしましょう?」
「う~ん…… そうだなぁ……」
「あ! こんなのはどうでしょうか!」
フィロが何か思いついたらしい…… 何故か嫌な予感がする。
「『運命の女神は無慈悲に微笑む』」
フィロが「ドヤァァァッ!!」って顔してる……
oh…… なんてこった。
超古代文明末期には十代中頃の少年少女たちの間で暗黒の病というモノが流行ったという伝説がある。
フィロはソレに罹ってる、時代遅れにも程がある、いや、今でも罹る奴は後を絶たないらしいが、それはあくまでも少数派だ。
そしてそんな痛々しい名前のパーティー名を歴史に残すワケにはいかない、何故なら俺が参加してるパーティーなんだから。
「ちょっと…… 意味が分からない」
「はうっ! そ…… そうですか……」
わりとアッサリ引いてくれたな、受付のお姉さんは顔を背け肩を震わせている…… てか、完全に笑ってる。
『運命の女神は無慈悲に微笑む』なんて名前になったらみんな同じ反応をするだろう…… 引き下がってくれて良かった!
「もっと単純でイイんだよ、例えば…… 古代の言葉で勇者を意味する『フォルティス』とか……」
「勇者……?」
何故不思議そうな顔をする?
「フィロは第13勇者だからね」
「あ、そっか、でもそれって……」
「じゃあフォルティスで決定」
「えぇ!? ちょ……ちょっと待って! これじゃ完全にボク1人のコトを指してるよ!?」
「それでいいんだよ、私はあくまでもオマケ、このパーティーは第13勇者フィロ・アウダークスのパーティーなんだから」
「!! ボクの……パーティー!!」
……と、言ったが俺なら自分を象徴するパーティー名に付けるのは絶対にお断りだ。
なんでかって? いや、だって、ハズいじゃん。
まぁそもそもパーティー名ってあまり重要じゃないんだよね、どこかの街に腰を据えて活動するパーティーならともかく、街から街へ旅をしながら活動する冒険者には必要ないモノだ。
有名になれば……まぁ…… 呼ばれる事もあるかな? って感じだ。
「……分かりました! ボク達のパーティー名は『フォルティス』で!!」
こうして伝説のパーティー(予定)『フォルティス』が結成された。
フィロが思った以上にチョロい、将来悪い男に騙されそうでお兄ちゃん心配です。
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こうして俺はフィロの勇者特権を使いグランディア王国からの脱出を果たした!
まだ先は長いが次の目標はアム大陸へ渡ること。
イスト大陸中部、都市国家群を抜け、南部王国連合、そして大陸最南端カルネアデス神聖国へ!
第1章 イスト大陸編 ~グランディア王国~ ― 終 ―
3/1より 第2章 イスト大陸編 ~都市国家群~ を開始します。




