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Alice to Teles ~外道勇者と親バカ魔王と魔王の娘とそのペット~  作者: 群青
イスト大陸編 ~グランディア王国~
13/70

第11話 アーポーペン


 そいつは…… 夜の暗い雲の中に居た。

 流れる雲に乗り世界中の空を気ままに旅をしている。


 食事は年に一回、好物は新鮮な人間…… 一度の食事で最低でも500人以上喰らっていく。

 前回の食事から既に3年経っているそいつは腹を空かせていた。


 次に食事の機会があったら限界まで喰ってみたい…… そんな事を思っていた。


 そんな時気が付いた、下に大量の()があることに。



 そいつは歓喜した…… 「今夜は食い放題だぜぇ! ひゃっほぉぅい!!」……と。



―――



「ゴオオオォォオオォオオォォオオオォォォオォォォオオオオオオオ!!!!!!」


「っ!?」

『なんだぁ!?』


 日付の変わった頃、グランディア王国王都ディエスにこの世のモノとは思えない轟音が鳴り響いた!


「こっ……これは!! まさか来てしまったのか!!」


 さっきまで小動物に鼻を噛まれてベソ掻いてた駄王子がテラスに飛び出し空を見上げている、鼻血出てますよ?

 心なしかキリッとした顔をしている気がする、浄化魔法で心の闇を浄化されたのかも知れないな。


 雲の中で煌く稲光が僅かに声の主を照らし出す。

 蛇のような長い身体にオマケの様に出ている手足…… 東方伝説に出てくる龍に酷似した形状。


「ギガントヴルム……」


 アレが例の? 正確なサイズは分からないが相当デカいぞ? 1km以上あるんじゃないか?


「貴女は逃げて下さい! 極力人が少ない方へ行くのが良いですよ、アイツは大量の人間に反応するのです!」


 駄王子がイケメンに見える…… アナタは一体誰ですか?


「僕は王家の者として民を守る責務があります! もし生きて戻れたら…… その時はもう一度会いましょう!」


 王子は爽やかな風を残して走り去った…… さっきまでの奴なら「逃げたな……」と思うトコロだが、一人称が俺様だった駄王子は浄化魔法の光の中で死んだのだ……


 今のアイツになら抱かれてもイイ……ワケねーだろ!


「グオオオオオォォォォオッ!!!!」


「ッ! 降りてきた!」

『見えん~! 我にも見せろぉ~!』



 バキィィィィィン!!



 人間を街ごと丸呑みにしようと大口を開けて降りてきたギガントヴルムは、地上に辿り着く前に弾き返されていた!


「アレが結界か」

『んむ?』


 街全てを覆う結界によりギガントヴルムの一撃は防がれた。

 しかしその一撃で結界自体は弱々しく明滅を繰り返している……

 その光に照らされて、ようやく全貌が明らかになった。

 身体中に細かい傷が数え切れないほど入っている、まさに歴戦の勇士といった風貌だ。


「あれ…… もう2~3発きたら破られるぞ?」


 生まれ変わった第2王子が向かっているが、とても間に合わないだろう。


『おぉお!? アーポーペンッ!!』

「は?」


 魔王が急に壊れた、なんだよアーポーペンって?


『おぉ~い! アーポーペン! アーポーペン!』


 必死に短い前足を振って誰かにアピールしているが、小さすぎて見えるワケない。


「おい、急にどうした? 脳みそを寄生虫にやられたのか? お前には浄化魔法が効かないのか?」

『失礼な事を言うな! あそこにアーポーペンがいるんだ!』

「だからアーポーペンってなんだよ!?」

『さっきからソコにいるだろ! あの龍だ!』


 …………は?


「おいちょっと待て、お前アレを知ってるのか?」

『アレ呼ばわりするんじゃねー! アーポーペンは我が幼少のころ飼ってたペットだ!』


 頭痛が…… いや、落ち着け…… まずは話を聞いてからだ。


「お前はアーポーペン君の飼い主なのか?」

『飼い主では無い! さっきはペットと言ったがもっと深い繋がりがある! 生まれた時から一緒に育った親友! いやさ! 兄弟みたいなモノだ!!』

「兄弟って…… アレ恐ろしくデカいぞ? 何かの間違いじゃ無いのか?」

『いいや我が見間違えるハズも無い! 見ろ! シッポの先がちょっと欠けてるだろ? アレは我が子供の頃に寝ぼけてかじった跡だ!』


 確かに空を飛ぶギガントヴルムのシッポの先は、半月状に欠けている、まるで誰かがかじったように……

 魔王は幼少の頃、身長500メートルくらいあった説…… 無いな。


『おぉぉ…… あんなに大きく元気に育って…… 我、感動!』


 一人感涙している魔王を掴み上げる。


『ん? なんだ?』

「やっぱりお前が元凶じゃねーかッ!!!!」


 ベチン!!


『ヘブッ!?!?』


 魔王を全力投球、壁に思いっ切り叩き付けた。


『きゅ……急に何するんじゃワレッ!? 我と兄弟の感動の再会に水を差すんじゃない!』

「言ってる場合かボケッ!! さっさとアレを始末するんだよ!!」

『な……なんて残酷な事を言うんだ! お前悪魔か!?』


 悪魔を使役してる魔王に言われたくない。


「放っておいたらとんでもない数の死人が出る! 一刻も早く排除しないといけない!」

『なに言ってるんだ! アーポーペンはただ食事しようとしてるだけだ! それを殺すだと!? 貴様、血も涙も無いのか!?』

「そんなモノ知るか! 人の命が掛かってるんだよ!」

『お前フザケンナよ! 人間だって魔物を殺しまくってるクセに、逆に人間が殺されるのは許さないとかナメてんのか!? そんな理不尽絶対に認めん!!』


 急に正論で返すなよ。


「お前知らないのか? この世は元々理不尽だらけなんだよ」

『知らん! 我はアーポーペンを殺すことを断固拒否する! どうしても殺したいのならお前が自分でやればいい。

 『天を衝く裁きの火(メギド・レイム)』なら確実に殺せるぞ?』


 コノヤロウ


「魔王、どんなモノにも優先順位というモノがある、俺にとっては「自分の保身 > 無力な人々 > アーポーペン君」だ」

『勇者よ…… よく堂々とそんな事が言えるな?』

「お前にとっての優先順位最上位はなんだ? アーポーペンじゃ無いだろ?」

『うぐっ…… それは……』

「もちろん俺は自分の保身最優先だから死ぬまで戦うような真似はしない、喰われそうになったら逃げる!

 だがあの巨体だ、上手いこと逃げられるとは限らない、その時になってもお前はアーポーペンを殺すことを断固拒否するのか?」

『…………』


 要するにアリスを取るか? アーポーペンを取るか? ってコトだ。

 もう一押しかな?


「お前の一番大切なモノは……」

『皆まで言うな…… 理解っている…… だが! 必ずしも殺す必要は無いハズだ! 違うか!?』

「ん? ドコかに追い払えるのか? それで済むなら確かに最善策だが……」


 ホントは殺した方が良いに決まってるが……


『勇者よ、コレはチャンスだ!』

「チャンス? なんの?」

『気付かんのか? 我の兄弟たるアーポーペンの背中に乗れば魔王城までひとっ飛びできる!』

「!! おぉ!! その手があったか!!」


 今初めて魔王のコトを賢いと思った! その発想は無かった!


『我らは一心同体と言っても過言では無い間柄だ! 我の念話が届けば必ず答えてくれる!』

「俺は魔法に詳しくないからよく分からないんだが、念話ってのはこの距離でも届くのか? かなり遠いぞ?」

『我の念話をアリスたんの魔力で増幅すれば届く! 我をアリスたんの頭に乗せるがいい!』


 変態ロリコン魔王に頭を踏まれるのか…… 何たる屈辱! でもまぁアリスはティッペをよく頭に乗せてたみたいだしイイか……


『ゴメンよアリスたん、頭に乗っかるパパを許して!』


 お前が元の身体だったらぶっ殺してるが、今は小動物なんだから気にするな。

 頭の上に小動物をチョコンと乗せる。


『いくぞ! 念話最大出力!』



『アーポーペン! アーポーペンよ! 我の声が聞こえるか?』



 うわっ!? うるさっ!? こっちにまで届くのかよ!?



《………… この懐かしい声…… まさかプラトンか……?》


 龍の動きが止まった、本当に通じ合ってるんだな。

 うわ…… こっち見た…… 餌を見るような目をするなよ……


『そうだアーポーペン! 久しいのぅ!』

《……あぁ、実に久しぶりだ……》

『また会えるとは思っていなかった、こんなに大きくなって…… 我は嬉しいぞ!』

《あれから何年経ったか…… まさかこんな日が来ようとはな……》


 あの龍…… ちゃんと自我が存在したのか、喰うコトと寝るコトしか考えて無さそうな顔してるのに……


《プラトン…… 何だお前のその姿は……?》

『う……うむ、色々あってな…… 積もる話もあるが、その前にお前に頼みたい事がある』

《頼みたい事……だと?》

『我を魔王城へ連れて行ってはくれんか? 大至急だ!』

《魔王城へ?》

『そうだ、懐かしいだろう? お前が突然居なくなって数十年…… その間も我はお前の部屋の掃除を欠かした事は無い、いつでも戻ってこれるぞ?』


 いや無理だろ、昔は数十cmだったかも知れないが、今のアイツが魔王城に収まるとはとても思えない。

 だが厄介な龍を魔国で飼ってくれるならむしろ大歓迎だ。


『まぁちょっと拡幅工事が必要かもしれんが……』

《プラトンよ…… 貴様は覚えていないのか?》

『?? ナニがだ?』

《私が出ていく前日の事だ……》


 アレ? なんか雲行きが……? 今魔王のコトを貴様って呼んだよね?


『もちろん覚えている! あの日はお前の生まれて初めての脱皮の日! 一緒に風呂に入ってお前の古皮を金属タワシで剥いてやった日だ!』


 oh…… このバカ魔王ナニやってんだよ……

 もしかしてアイツの身体にある数え切れないほどの傷を付けたのこのバカか?


《そうだ…… あの時負った傷の所為で私の身体は変調をきたし、今もなお無限に成長し続ける様になってしまったのだ……》

『へ?』

《私の種族は最大でも30m程にしかならない…… だが今の私を見てみろ! 既に体長は1000mを超えている! この身体を維持する為には危険を冒して大量の人間を捕食せねばならん! その所為で今まで何度殺されかけた事か!!》

『え…… え~と……』

《私はずーっと考えていたのだよ……》

『な…… 何を?』

《決まっているだろぅ? お前に復讐する事をだ!!!!》



 ガシッ!!



 頭の上に乗っていた魔王を確保する。


「おい、クソプラトン……」

『ヤメテ!! アリスたんの顔で罵倒しないで!!』


 魔王のシッポを掴んでグルグル回す。


『ぅあ~~~…… あ~~~…… あ~~~……』

「やっぱりお前が元凶じゃねーかッ!!!!」


 そして渾身の力を込めて床に叩き付ける!!



 ズドン!!



『プギュルブッ!?!?』


 魔王は床にめり込んだ。

 コイツ無意識に世界滅ぼそうとしてる、やはり封印では生ぬるい気がする。


「グオオオオオォォォォオッ!!!!」


 そしてアーポーペンは積年の恨みを晴らす為にこちらへ突っ込んできた!



 バキィィィィィン!!



 結界により何とか防げたが、コレもう一撃きたら破られるぞ。


「おい魔王、アイツ殺すぞ? 異存は無いな?」

『ぐすっ…… うっ…… はい…… 分かりました……』


 さすがに素直に従った、もしまだグダグダ言ったら耳を切り落としてやる所だったぞ。


『うぅ…… 済まないアーポーペン…… せめて苦しまない様、永遠の眠りにつかせてあげるよ……』

「さっさと始めろ」

『はい…… すみません……』


 魔王の威厳ゼロだな、元々あまり威厳の無い王様だったけど。


『「悠久の時を刻みし永久凍土、青く冷たい棺は汝の物、その封が解かれる刻は未来永劫訪れる事は無いであろう、愚か者にせめて静かで安らかな眠りを」』

『「戦術級魔術・青く透明な氷棺(コフィン)」』



 ビキビキビキッ!! ピシッ!



 長さ1000mを超える長大な龍は、まずその血液を凍らせた。

 そして体表が凍り、全身を永久に溶ける事の無い氷の棺で覆われていった……


 …………って! ちょっと待て!


 アーポーペンが完全に氷漬けになると……



 グラ…… ヒューーー…… バチィィィィィン!!



 街に落ちる寸前に結界で止まった。

 だがコレは……



 バチバチバチッ!!



 アーポーペンの重さで結界は今にも崩壊しそうだ。


「お・ま・え・はぁぁぁぁ!! なんで寄りによって氷の封印魔法を選択した!!」

『だって…… せめて美しい死に様にして上げたかったんだもん……』

「消滅させる方向で行けよ! あんなのが永遠に残ったら大迷惑だろ!!」

『あんなのっていわないでよぉぉぉ~~~…… ぐすっ』


 なんで幼児化してるんだよ!

 ハァ…… コレはマズイな、結界が崩壊するのは時間の問題だ、そうすればあの巨大な氷漬けの龍は街に落ち大きな被害を出すだろう……

 住民が避難する時間があるのは不幸中の幸いだった。


「仕方ない…… ここはいつもの手で行くか」






 俺達は逃げ出した。




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