第10話 王城での一夜
人類圏最大の都、グランディア王国王都ディエス……
街の中心には丘があり、そこにアホみたいに大きな王城が建てられている。
城の高さは優に500mを越え、そして街中至る所にタケノコみたいにニョキニョキと100m越えの塔が大量に建っている。
初めて見た時は感動したが、冷静に見れば「アレって必要か?」という感想しか出てこない。
「王都へ来るのは初めてですかな?」
キョロキョロしてたら騎士団長に勘違いされてしまった。
「あれらの塔には巨大結界石が配置されており、有事の際に一斉に発動させると都全体をスッポリ覆えるほどの結界が造れるのです」
意味があったのか…… 口に出さなくて良かった。
しかし都全体を覆えるって…… 見える範囲全て、地平線の果てまで街なんですけど?
コレを全部覆えるのか? スゴイな……
「ただこれだけ広いと、所々結界が薄くなる場所があります」
「それを補う為に俺様がわざわざ結界石を取りに行ったってワケだ」
じゃない方の王子様もちゃんと仕事してたんだ…… まぁやってる事は護衛付きのお使いだがな。
運が悪いのはその護衛が弱かったのか、盗賊たちが強すぎたのか……
ギガントヴルム接近の報を聞けば結界強化は必須と言える。
『ぬおおぉぉ~~…… なんと言うコトだ! 魔王城よりデカいじゃないか!
よし! 決めた! 我が復活した暁にはあの城を灰燼に帰そう! 我が居城よりデカいとか許せん!!』
ガキか……
魔王様は叶わぬ夢を思い描いているようだ、まぁ好きなだけ夢見ているがいいさ、お前は復活したらその直後に俺に殺されるんだから。
ガタ ガタ ガタ ……
馬車は王城から八方へ伸びる巨大な水道橋の上を走っている、これは公務専用の「こーそくどーろ」というモノらしい、このバカみたいに広い街中をノンビリ走ってたら日付が変わるまでに王城に辿り着けそうにないからな……
昔会議の時にもこの道を使ったが、相変わらず乗り心地最悪だ。
さっきから揺れがちょっと…… お尻が痛くなる。
(魔王様、魔王様、アリスがお尻痛いって、シッポ貸して)
『は?』
了解を貰う前にティッペのシッポを引っ張りアリスの可愛いお尻の下へ……
そのまま有無も言わさずシッポの上に腰掛けた。
「キューーー!?!?」(ぎゃああああああ!!)
うん、ちょっと小さいけど悪くない座り心地♪
『貴様なんてコトを!! ……いや! これもアリスたんのお尻を守る為!! パパがんばる!!』
うん、パパがんばれ♪
王子と騎士団長が若干引いてたが気にしない気にしない。
―――
――
―
辺りが完全に闇に包まれる頃…… ようやく王城へとたどり着いた。
これで護衛の任務は終わりだな、特に何もしてないけど……
こちらとしてはさっさと貰うモノ貰って出ていきたい気分だ。
だってギガントヴルムが目撃されたとか聞かされたらトラブルの予感しかしない、超古代文明ではこれを「フラグが立つ」と言ったそうだ。
なのでその旨を騎士団長に伝えると……
「明日の朝までには用意させます、今日はどうぞ王城へ泊っていってください」
……とか言われた。
うん、フラグが立ったな。
―――
国王は公務が忙しいとかで謁見できないそうだ。
いや、別にこれっポッチも会いたくないし……
何故か来賓用のやたら豪華な部屋が宛がわれた。
『フフン♪ 我の部屋の方がもっと広くて豪華だぞ? 壁には一面にアリスたんの成長を記した写真がブワーッと張り巡らされて……』
魔王様は自分の部屋と来賓用の部屋を比べて満足してる…… 彼は本当に幸せな男だ。
コイツを殺したらその部屋へ行ってアリスの写真を頂いてしまおう、形見だ形見。
コンコン
「? はい?」
「失礼致します」
現れたのはメイドさん、なんかゾロゾロ入ってくる…… 10人はいるぞ?
「湯殿の準備が整っております、どうぞこちらへ……」
「ユドノ?」
あぁ、風呂か…… イイネ!
『待てぇぇぇぇぇい!! させるかぁぁぁっ!!!!』
「スミマセン、このペットもどこか別のところで適当に洗って欲しいんですが?」
「はい、お預かりいたします」
ヒョイ
『待てぇぇぇ!! お願い待って!! 誰かアイツを止めてくれぇぇぇ!!』
さらば魔王。
『アリスたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!』
悪は去った…… さあ風呂だ風呂!
風呂に入るなんて何ヵ月ぶりかな? 1人で魔王城へ特攻を始めて3ヵ月、その間まともに風呂に入った事など一回も無い。
おっと、勘違いするな? クサイと匂いで魔物に気付かれる可能性があるからな、浄化札というアイテムを使って体を清潔に保ってた。
決してクッサイまま魔王と戦ってたワケじゃない。
俺は決して風呂好きでは無い、むしろ嫌いな方だ、しかし3ヵ月振りの風呂となると話は別だ、ゆっくりと命の洗濯をさせてもらおう、当然エロい事をするつもりも無い。
ただ洗う時に触ってしまうのは許容範囲だよな?
さぁ! レッツバスタイム♪
―――
――
―
至れり尽くせりのバスタイムだった…… もう何から何まで至れり尽くせりだ。
侍女10人がかりで体中を磨き上げられた…… エロい事? オッパイに触るチャンスすら無かったよ!
彼女たちにとっては俺とティッペに違いなど無かったのかも知れない……
まるでペットでも洗うように機械的に洗浄作業をこなしてた…… 終始無言で…… せめて「どこか痒いところはありませんか?」くらいの声は掛けて欲しかった。
『どうやらお前の思っていた風呂とは違ったようだな?』
シッポにリボンを付けられたサラッサラ体毛の魔王がいる……
『王族の風呂とはそういうモノだ! 自由など無い!!』
そういうモノらしい…… 魔王のサラサラの体毛は風になびいてキラキラ輝いて見える……
お前も俺と同じ目に遭ったみたいだな? 俺…… 王族に生まれなくて良かったよ……
『貴様、今回は許すが次に同じような真似をしたら本当にぶっ殺すからな?』
「…………」
俺は「やれるモノならやってみろ!」と言い返す元気も無いよ……
食事は部屋へ運んで貰ってその場で摂る、もう疲れたからこのまま寝たい……
なんて思ってたんだけど、案の定、敵が来た。
「よう♪」
明かりを消してさあ寝よう、って時に駄王子襲来!
開いたドアに寄りかかりカッコつけてる…… どうしよう…… また殺したくなってきた。
「兄貴の事なんか忘れて俺様の女になっちゃいなYO♪」
「…………」
彼は酔っているのだろうか? シラフでそんなセリフが言えるなら勇者になれるよ、さすがは『勇者13血族』に連なる者、二男でも大した勇気だ。
「ま、拒んだ所で俺様からは逃れられないぜ? 強引に俺のモノにしてしまえばイイだけさ♪
実は食事に一服盛らせてもらった」
「は?」
「おっと、心配しなくていいゼ? タダの痺れ薬さ♪ そろそろ効果が出る頃だろう♪
フフッ、兄貴の悔しがる顔が目に浮かぶぜ、大事な物を手元に置いとかないからこんな事になるんだ! もっとも兄貴が旅立ったのは3年前、当時は今ほどの器量が無かったのかも知れないがな?」
『3年前だろうと我のアリスたんは聖女で天使で女神だったに決まってんだろ!! このヘタレ王子がぁぁぁぁぁあああ!!!!』
コラコラ、魔王が聖女とか天使とか女神を崇めるんじゃない。
「たとえ泣き喚こうが兄貴は地の果て! そしてココは王城! 俺様はその王子! お前には味方など一人もいない! 誰も助けには来ない! さあ! 俺様と二人で夢の世界へランデヴーしようゼ♪」
イタタタタ、駄王子が痛々しくて見てられない。
アリスをお前の劣等感と兄貴への対抗心の為に犠牲になど出来ん。
「………… ティッペ、GO!」
「キュゥーーー!!」
「ぎゃぁあ!? ヤメロ小動物!! ギャッ!! 鼻を噛むな!!」
王族ならどんなワガママも叶うと思ってないか? 一般人相手ならそういう事もあるだろう。
だが俺には通用しない、例え王族でも気に入らなければぶん殴る。
俺は勇者だ、魔の王を半殺しにした実績を持つ男だぞ? 相手が悪かったな。
「それにしても痺れ毒……ねぇ……」
グランディア王国では女の子を痺れさせて好き放題するのが最近の流行なのか? アインの街でも大流行してたみたいだし……
痺れ薬を盛るとか男の屑だな、俺なら媚薬を盛ってた。
俺は一人旅が長いから毒には常に気を付けてる、食事に毒は含まれて無かった気もするが、王家御用達の未知の毒素って可能性もある。
(魔王、解毒魔法って知ってるか?)
『当然だろ! 後に続け!』
実に頼りになる魔法辞書だ、ただあまり頼るべきじゃないんだよなぁ、こいつアリスの事になると見境が無くなるから……
『「清浄なる癒し、その身を蝕まれ地に倒れ伏した者に救いを、浄化の光よ此処に在れ」』
『「上級魔術・清廉大浄化」』
部屋中が暖かく柔らかな黄緑色の光に包まれた……
『浄化の光だ、一般的に言われる状態異常やステータス異常、回復魔法では治せない心の病、精神支配なんかもすべて解除できる。
ちなみにアンデッドも浄化できるぞ』
(ほうほう、それはなかなか高性能、さすがは上級魔術)
『………… お主変わらんな?』
(?)
『その性格の悪さは精神疾患では無かったのか』
ほっとけ




