冒険者ギルド "泡沫の魔女猫"
冒険者ギルドがあるっていうのは嘘か?
ボロボロの建物を見て、
思わずそう思ってしまう。
周りに人気はなく、いるのは
ネズミやカラスぐらい。
下水が溢れ、ひどい匂いがたちこめていた
どうしても、ここがギルドだと思えない。
もう引っ越してしまったのだろうか?
そんな気しかしないが、
ここで仕事を得られなきゃ
もうこの街で働くことはできない
一縷の望みをかけて、中に入る。
「ごめんくださーい、ここは冒険者ギルドですか?」
返事は返ってこない
予想していたこととはいえ、少し落ち込む
宿に戻ろうと外に出ようとした時、
「……冒険者か。今のご時世にまだやってるやつが
いるとは、驚いた」
カウンターの奥から、
一人の男が出てくる。
歳は30前半というとこらか
背は高く、スラっとしているが
筋肉質で線が細いというわけではない。
髪は七三にキッチリ分けられ、
眼鏡の奥には鋭い目が見えている
ロングコートに身を包み、
ビシっときめているが、
神経質そうな顔に浮かぶ疲労感は
隠しきれていていない。
「あんたは一体…?」
そう問うと、
「すまない、自己紹介がまだだったな。
私の名はロッジ 。
ここのギルド長をしている者だ。
といっても、もう私だけだがな…
君は何しにここへ来たのかな?」
俺は、ロッジと名乗る男に
自己紹介とこれまでの事について話した
「……なるほど。ユージといったか、
君が仕事に就けなかったのは、察しの通り
魔導師という職業のせいだ。
街の人は魔導師にいい感情をもってないからな。
というか、君、自分の職業を正直に言ったのか?
"鑑定"されでもしない限り、
自分の職業が知られることなんてないから
正直に言わなくても大丈夫なんだが…」
「えっ…?マジかよ言わなくていいのかよ!
あと、やっぱ魔導師嫌われてのか…
なんでこんなに嫌われてんだ?
奴ら一体何やらかしたんだよ」
そう、それが一番気になっていた。
なんであんな嫌ってんだよ
「簡単に説明するとだな、
魔導師って職業は、
人数が少なく魔法適正も高いから
本来チヤホヤされるようなものなのだが、
何故か魔導師は貴族連中に多くてな…
もともと偉そうだった奴らが、
そんな職業を手に入れ
さらに調子にのるようになって、
しまいには
「魔導師こそ一番優れた者である!」
とかいうようになってしまい、
もう手が付けられなくなった。
戦争では、まだ避難が終わってない街ごと魔族を焼きつくしたり、人質ごと敵を殺したりと
やつら、かなりの事をしでかしたからな」
そりゃ嫌われるわけである。
選民思想を持ち、一般市民も平気で殺す
奴らなんてどうあがいても好かれるはずない。
しかし、全く関係のない俺には
たまったもんじゃない
風評被害もいいところだ
まだ、気になるところがあった。
「なんでこんなボロいところでやってんだ?」
そう質問すると、
ロッジの表情がさらに疲れたものになった。
「……勇者のせいさ」
勇者?どうして世界を救うはずのアイツが
ここででてくるんだ?
「最初は沢山の冒険者でギルドは溢れかえり、
賑やかな声が朝晩鳴り止まなかった。
受付嬢や組員もたくさんいて、
みんなと働く日々は
とても楽しく、充実したものだったよ」
ロッジはどこか遠くを見つめ、
懐かしむように話す。
その姿はどこか楽しそうでもあった。
「だが、勇者が現れてからその日々は一変した。
勇者の絶大な力により、
街の周りの魔物は激減し、
仕事がほぼなくなってしまった。
魔物退治が冒険者の主な仕事だから、
それがなくなると、食っていけなくなる。
多くの冒険者がここから去っていったが、
まだなんとかして切り盛りすることはできた。
しかし、あの勇者は!
魔物を一切寄せ付けない結界なんてものを作り、
街中を覆うように設置した!
とうとう仕事が一切なくなり、
冒険者だけじゃなく受付嬢も組員もみんな辞めていった! 絶望したよ…
そんなとき、大通りで
勇者達がパレードをしているのをみた。
奴らは街の人達から褒め称えられながら、
英雄気取りで大通りを凱旋し、
なにもかもを救ったみたいな顔をしていた!
あの間抜けな面が今も忘れられん…」
ついこの間来たばかりの俺に、
なにかをいう資格は無い。
でも、勇者達、あいつらは確かにみんなを救いたくて行動したんだと思う。
憎くて憎くて仕方ないのに、
ロッジもそれはわかっているから
全てを憎むことはできない
とてももどかしい気持ちだろう。
人々を脅威から救ったはずが、
その行為が別の問題を引き起こす。
皮肉なこった…
「そうか…それじゃあもう仕事はないのか。
他のところでまた頑張って探すとするよ。
じゃあ…」
今度こそ、宿に戻るため外に出ようとするが、
「仕事は、あるにはある」
「あんのかよ!!」
思わずつっこんでしまった
「一つだけ……残ってる仕事がある。
しかしそれは、危険極まりないものだ。
最後まで残っていた冒険者達も、
この依頼の場所に行ったまま
戻ってくることはなかった。
気は進まないが、どうしても行きたいというなら
止めはしない。……どうする?ユージ」
「ああ、行かせてもらう」
迷わずそう答えた。
これ以外選択肢が無いのなら、
受けるしかあるまい
「そうか……わかった。
ではユージ、これを君に頼もう」
俺が覚悟を決めたのを確認すると、
ロッジも覚悟を決め、依頼書を読みあげた。
「"ブエオリスの丘"の調査に向かってくれ」




