状況確認2
ここが異世界だとわかっても、俺がいるこの建物については何もわかっていない。召喚されたらしいこの部屋も誰もいないし、それどころか人が出入りしている様子すら伺えないのが不気味でしょうがない。
一応何かないか確かめるが、何もない。
となると、部屋から出るしかないか…
何があるか、全くわからないこの状況。
外に出た瞬間に不審者と間違われて(不審者なのだが)殺される可能性は充分ある。それでも、このままでは一歩も前に進めない。
ええい!男は度胸よ!
思いきって扉を蹴破る。
この扉の先には一体何が……
しかし、なにかを見るより先に感じたのは思わず顔をしかめてしまう 異臭
そして、相手と刺し違う形で倒れこんでいる兵士の骸骨が視界に映る。想像していた光景と余りに違いがあり、考えていたこと全てが吹っ飛んでしまった。
しばらく呆然としていたが、これはいけないと気を取り直し、探索を始めた。
通路には見える限り骸骨が散乱しており、壁は戦闘の爪痕が生々しく残っていて、血痕が至る所に見えた。
一通り建物を捜索し終えたところで、とあることに気づく。建物の構造、死体が白骨化してることから、行われた戦闘から長い時間が経過しているということ。
ここは、激しい戦闘が起こり放棄された廃城だったのだ。
探索した時に気になった場所に向かう。
「これは……図書館だよな?」
そう言って入った部屋は、少し狭いが確かに図書館と呼べるものであり、城にあるものとしては十分なものであると思えた。棚に並ぶ本の背表紙に書かれていたのは、どれもこれもみたことも聞いたこともなく、わけのわからない文字だったが、不思議と理解できる。おそらくスキル 言語理解 のおかげだろう。
これがあるのとないのとじゃ全然違う。
すぐにこの世界について知ることができる!
言語理解様には一生頭が上がらないぜ!
妙にテンションが高くなり、気になった本をかたっぱしからとりだし、読みあさった。
「人魔大戦」「聖王国」「チェルノ=ボグ」
特にこの3冊がこの世界で起こっていることについて詳しく書かれていた。
それらの内容によると、
遠い昔、光の子として人類が、闇の子として魔族が生まれた。人類は邪悪な闇の子である魔族の存在など断じて認められず、また、魔族も同様であり二つの勢力は長い間対立しあった。
その均衡を崩すかのように突如現れたのが、"勇者"と呼ばれる者である。勇者は絶大な力を持ち、それによって魔の勢力を徐々に追い込んでいった。
追い込まれた魔族は一番強い者を魔王とし、統制を取ることで勢力を盛り返していった。
勇者もまた、人類の統制をとるために一つの国を作った。建てられた国の名は"聖王国"
この国が建てられた年には暦もつくられ、聖歴という名で現在まで用いられている。
これにより、また均衡が保たれるようになった。
その後も何度か戦争が行われるが、
今から100年前、史上最大規模の戦争、
"人魔大戦"が勃発。
長きに渡り戦闘がおこなわれ、今に至る。
……これはまた異世界感がすごいなぁ
そう思わざるをえない。だってこんな、厨二病みたいなことが堂々と城の図書室の中にあるのだから。
そして、件の人魔大戦は多分今も続いている。
なにしろそれについて詳しく書いてる「人魔大戦」の状態がとてもいいのだ。長い間放棄されていたとは考えにくい。人が出入りしている様子は見られなかったが、実は出入りしているのでは?これはワンチャン魔法を駆使して俺TUEEEEができるんじゃね?
とか、考えてしまった。
さっき白骨死体をみて青ざめていた奴がなに考えてるんだ、と思う人もいるかもしれない。
でも異世界にきて、勇者とか魔王とか聞くとどうしても興奮してしまう。楽しみに思えてきてしまうのだ。
こうしちゃおれん、さっそく町に出かけるぞ!
廃城の中から衣服や金、地図などの必要なものを探しだし準備を整えた。
そして俺はまだ見ぬ異世界に思いを馳せ、期待を胸に抱いて旅に出たのであった。
……しかし、これらの甘い考えは近いうちに全て消えて無くなってしまうことになる。




