表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

前夜

『誰かに愛されたいと、私はずっと思っていた。

 それは誰かを愛したいという気持ちと同じなのだと、気付いたのはいつからでしょう。

 だってそうでしょう?

 愛していれば、相手も自分を愛しているのだと思いこむ。同じことを感じると思いこむ。

 そんな人ばかりだったわ。私の周りは。

 だからね、私はたくさんの人を愛することにした。

 そうすれば、寂しくない。生まれた時から抱える渇望が、癒える日も来る。

 そう信じて、笑っていたの。

 それは、実現したと思っている。

 たくさんの人を愛して、たくさんの人に愛された、そう思っている。

 けどね、ふと思ったの。

 それが『永遠』じゃないなら、なんの意味があるかしら。

 いずれ儚く消えゆくものに、なんの意味があるかしら。

 そんなもの、あってもなくても同じではないか、とそう思った時、私が本当に欲しかったものが、分かってしまった。

 私は永遠が欲しいの。

 決して消えない絆が欲しいの。

 愛する人の一生が、命が欲しいの。

 だから刻んで見せましょう。

 決して消え得ぬ傷痕を。

 生涯を狂わす後悔を。

 永久に冷めぬ夢を。

 だから命をささげましょう。

 悲劇を作るだけの種をまいて、それをそうっと育てて。蕾が花になったと思えたならば。

 私は私を殺しましょう。

 誰かの中で、永遠になるために。

 それだけが、この乾きを癒す。

 生まれた時から感じる空虚を、埋めてくれる。

 幸せになって、自分のためだけに、笑える。』


前夜


 ある屋敷の一室で、少女は机にしまわれていた封筒を取り出し、その中身をじっと眺める。

 そうして、静かにごちた。

 結局、この手紙を託そうと思える相手には、会えなかった。と。

 世の中は、ひどくつまらない。味気ない。簡単すぎる。

 そう気付いた時、したためた遺書。

 誰か―――……渡してもいいと思える相手ができたなら、渡すつもりでいた。託すつもりでいた。

 けれど、いないまま、まき散らした種は芽吹いた。そろそろ、刈り時。潮時だ。

 だから、少女はその羊皮紙にペンを走らせ、ほんの少し言葉を足した。


『だから私は、私を殺すの。

 私を生かす、そのために。』


 足した言葉も確かめ、最初から最後まで読みとおす。

 何を思うでもなく読み返した後、少女はしばしじっと目を閉じて…やがてくすりと笑った。

 愛しいなにかを見るように、うっとりと瞳を細めて、丁寧に封筒にしまう。

 そして、蝋で封をした場所に静かに口づけた。そのまま、白い封筒を油で浸した。


 くすくすと笑いながら、少女は軽やかに封筒を放る。

 ふわと待った封筒は、暖炉の中に吸い込まれて、ぱちぱちと燃えた。そのひどく赤い炎に、彼女は微笑みを向け続ける。

 さぁ―――始めましょう。

 誰にともなく呟いて、彼女は封筒と同じところから取り出した小瓶を眺めた。つい先日、自分で手に入れた、毒を見つめる。

 炎に照らされる微笑は、どこまでも美しく。幸福に輝き続けている。

 いつまでも、どこまでも幸せそうに、その笑声は、止まない。



 誰が彼女を殺したか?

 それは私、と笑う声、一つ。

 いつまでも絶えることなく、笑う少女が、一人。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ