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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第四章 闇の人形師編
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第九十九話 目覚めたトランテ

 容赦のない三人の物言いに、他の者は頬を引き攣らせていたが、話が脱線し過ぎていたのでソージが軌道修正を施す。



「えっと、つまりはバルさんと多音さんはとても強いということ。分かったか真雪?」

「うん! ありがと想くん!」



 笑顔で応えてくれる彼女に頷きを一つ返すと、今度は刃悟に質問をする。



「ところでバルさんのことは多音さんからお聞きしたのですか?」

「ああ? まあな、ババアと同等の化け物はいるかって聞いたら教えてくれたぜ」

「鉄拳のおまけつきでね~」

「うるせえ!」



 きっとババアと言ったことが余程気に障ったのだろう。ソージも多音のことを思い出しながら苦笑を浮かべる。確かに見た目は上品な老人という感じの女性なのだが、その実力は驚天動地。まさに万夫不当の強者である。



「ババアは言ってたぜ。《伐鬼》に会ったら敵に回すなってな。まさかこんなとこで会えるとは思わなかったけどよ」

「でもその実力の一端はまさしく鬼そのものだったわね~」



 巨大岩を粉砕したことを善慈は言っているのだろう。



「まあまあ、私などのことよりソージ殿、オルル殿のお話を拝聴してはいかがかな?」

「あ、そうですねバルさん。すみませんオルルさん。話が脱線してしまって」

「いいえ、こうして皆様のお話をお聞きしているだけでも楽しいですから」

「あはは、それなら良かったです……って母さん、何してるんですか?」



 いつの間にかオルルの背後に忍び寄っていたカイナ。そして背もたれがない椅子なので、そのままカイナはオルルを後ろから抱きしめた。



「きゃっ!?」



 無論オルルは驚いて声を上げるが、カイナの性格を熟知している者たちは溜め息しか出てこない。



「う~ん! あなたもかわゆいわ~!」

「か、かわ……えっと、でも私そばかすとかあって!」

「ううん! そばかすもステータスよ! とてもプリチーよオルル! ねえソージ、あなたもそう思うわよね!」

「そうですね。オルルさんもそばかすなんて気になさらない方が良いですよ。とても可愛らしい顔立ちをなさっておられるのですから」

「ふぇ……あ、あの……えと……あ、ありがとうございます」



 オルルは今までに見せたこともない照れた顔見せる。



(へぇ、ああいう照れた顔も可愛い……って何だろう、二つの視線がとっても心に突き刺さる……)



 顔を向けてはいないが、その視線がヨヨと真雪のものだということは明白だった。ただ突き刺さるほどではないが、セイラもジッと疑わしそうな目を向けてきている。



 シーはシーで、頬に手を当てながら困った感じで「あらあら、またライバル?」なんて意味の分からないことを言っている始末。カイナはオルルを堪能するのに夢中であり、バルムンクは静かに茶をすすっている。



 刃悟はイライラした様子でそっぽを向き、善慈はニヤニヤしながらソージを見つめている。どうやらここにはソージの味方がいないようだ。

 唯一の味方であるシャイニーも、今はソージの膝の上でぐっすりと眠ってしまっている。ここは自分で何とかしなければならないようだ。



「……み、皆さん、夜も遅いですし、お話はまた翌日……といってもすでに今日ですが、一旦お休み頂いて起きてからに致しませんか?」



 ソージにとっては逃亡するための口実でもあったが、実際オルルたちは長旅をしてきたはずなので疲れていると考慮しての発言でもある。

 それに真雪や刃悟たちもネオスとの一件で疲労感も感じているだろう。



「そうね。一応互いに自己紹介は終わったから、ここはソージの意見を採用しましょうか。たとえそれが逃げでもね」



 うっわ~気づかれてるぅ~。



 ソージはヨヨの言葉に、背中に冷たいものを感じながらも笑みを崩さない。



「カイナ、お客様にはお部屋を案内してあげて」

「任せて下さい!」

「あ、あの! よろしいのですか!」



 オルルが慌てて立ち上がりヨヨに尋ねる。



「もちろんよ。あなたの主であるコーラン様は、屋敷を救ってくれた恩人でもあるもの。ゆっくりと疲れを癒してもらいたいわ。ではカイナ、頼むわね」

「あ、ありがとうございます!」



 ヨヨはそのまま自室へと帰っていく。ソージはこの部屋の後片付けをするために残り、真雪とセイラは外で剣を振り続けているコーランを呼びに行った。

 何はともあれ、ネオス襲来はひとまず一件落着した。







 翌日、ネオスに操られていたトランテが目を覚ましたとの報告があったので、ソージは彼のもとへヨヨとともに駆けつけた。

 ベッドに寝かされたトランテは確かに目を覚まして意識もハッキリしていたが、その表情は暗く悲痛さが滲み出ていた。



「すみません……すみません……すみません」



 メイドに聞くと、目を覚ましてからずっとお経のようにその言葉を繰り返しているとのこと。ヨヨはソージと自分以外を部屋から出して、いまだ謝り続けているトランテに近づく。



「トランテさん?」

「すみません……すみません」



 ヨヨの言葉に耳を貸そうともせずに布団を頭から被ったまま、やはり態度は変わらない。ソージはもしかしてと思い、彼に尋ねる。



「トランテさん、もしかして、記憶があるのですか?」



 すると謝罪が一瞬ピタッと止まる。そしてガタガタガタガタと身体を小刻みに震わせ始めた。その様子で一目瞭然。彼には操られていた間の記憶が残っているのだ。



 ソージはヨヨと自分の椅子をベッドの近くへと持ってきて一緒に座った。そしてなるべく穏やかな空気を醸し出し優しく尋ねる。



「トランテさん、何があったか、教えてもらえますか?」

「……すみません」

「謝罪はもう構いません。私たちはトランテさんのお力になりたいだけです。一体どこでネオスと知り合い、ああいう結果になったのですか?」

「う……うぅ……」

「恐ろしいのは理解できます。ただいつまでもあなた一人で抱え込んでいては解決しません。……ナリオス卿だって、そう仰るはずです」

「じ……じいちゃん……」

「そうです。あなたのお爺さまなら、笑いながらいつまでクヨクヨしてるんだって背中を叩いてきますよ?」



 ソージが微笑みながら言うと、布団を頭に被っていたトランテが、ゆっくりと顔を出してソージをヨヨに視線を向ける。視点が定まらずキョロキョロとどうすればいいか彷徨っている感じだが、ようやく顔を見ることができた。



「ヨヨさん……ソージくん……」

「話して頂けますね、トランテさん」

「…………うん」



 彼から聞いた話は大体ソージが予想していたものだった。



 まずトランテが急に姿を眩ましたのは、ナリオス卿の死の真相を明らかにするためだった。ヨヨと同じくナリオス卿が《金滅賊》に襲われた状況に疑問を抱いた彼は、独自に調べてその《金滅賊》が、どうやら【アカトール】に住むハブリ・デンドー・シャーキンに雇われていたことを突き止めたという。



「ううん、突き止めたっていうより、可能性が高かったんだ。じいちゃんの商売敵のような人だったし、それに前に彼が商談へ来た時、じいちゃんは彼の行き過ぎた商売方針に嫌気をさして文句言ってたしね。けどその時、ハブリの目が言ってたんだ。いつか殺してやるって……」



 ナリオス卿とハブリは同じマジックアイテムを扱う商売人だった。だがナリオス卿は、ハブリの強引なまでの商売手段に人はついてこないと言って断ったらしい。事実、ハブリは商売向上のためならどんな卑劣な手段も使ってきていた人物だった。



 それこそ脅迫に恐喝などは当たり前で、陰では殺し屋を雇って商売敵を殺したりもしていた。それはソージも調べて分かったことだ。



「《金滅賊》と懇意にしてるって専らの噂でさ、だからずっと調べてたんだ。そん時に出会ったのがあのネオスだよ」





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