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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第四章 闇の人形師編
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第九十八話 バルムンクという執事

「まさかお前がオレンジ髪の少年だとは驚きだったぞ」



 ソージも彼女のことを思い出し、無意識に笑みが零れる。



「すみません。あの時は魔法で髪色を変えていたので。これが本来の私なのです」

「うむ。オレンジも良かったが、赤も見栄えが良い!」

「コーラン様も、ずっとお綺麗になられました。子供の頃も綺麗でしたが、今は別格にお美しいです」

「にゃっ! にゃにゃにゃにゃにをいっちょるにょだおおおおおお前はぁぁっ!」



 突然顔を真っ赤にして立ち上がり指を突きつけてくるコーラン。



「へ? ……あの、何かいけないことを言いましたっけ?」



 ソージは分からず首を傾げながらヨヨに助けを求めるが、彼女も呆れたように溜め息を吐いている。



「ソージ、女性を褒めることは立派だろうけど、少しは自重するということも覚えた方がいいわね」

「えっと……はい。その……コーラン様、申し訳ありません」



 ソージにとっては褒めたのに何故謝らなければならないのだという思いがあるが、もしかしたらそれで気分を害してしまったのであれば謝罪は絶対だと思い頭を下げた。



「い、いや! べ、別に謝らなくとも良いのだ! た、ただその……その……しょの……」



 段々と恥ずかしそうに顔を俯かせていくコーラン。見かねたのか隣に座っているオルルが代弁し始める。



「すみませんソージ様。姫様はとても照れ屋で、実際は心が躍るほど嬉しいのですが、あまり免疫がなくこうして面白いことになってしまうのです」

「オ、オルル! にゃ、にゃにを言うのだっ!」



 コーランはオルルに詰め寄って彼女の言葉を否定しようと試みているようだが、



「ですが姫様、私ももう少しは慣れてもらわないと大変です。もし姫様がソージ様とご結婚成された時、いつまでもこうではさすがに私もいちいち代弁するのは……」

「け、けけけこけこけこけこけこここここけけけっ!?」



 まるで鶏が歌っているかのように声を上げるコーラン。プスプスプスプスと彼女の頭からは湯が沸いた時のように湯気が立ち昇ってしまっている。



「えっと……結婚って何のことでしょうか?」



 キョトンとした表情でソージが尋ねると、ババッと凄まじい速さで顔をソージの方に向けるコーラン。そしてまたボフッとさらに顔を真っ赤に染め上げ、



「ちょ……ちょ……ちょっと剣を振ってくるぅぅぅぅぅぅぅっ!」



 そう言いながら電光石火の勢いで部屋の窓から飛び出して行った。あまりに王女らしくない行動にソージも唖然としてしまった。



「ほほ、ソージ殿も隅におけませんなぁ」



 バルムンクが全てを把握しているかのような言葉を出すと、何故かムッとした表情をするヨヨと真雪。そして二人は刺すような視線を突きつけてくる。



 え~っと…………何で?



 無論そう問い質しても誰も答えを出してはくれないのだが。



「ふふ、バル様にお聞きした通りのお方ですねソージ様は」



 その中で楽しそうに笑みを浮かべているオルルにソージは「そうですか?」と尋ねる。



「はい。それに……」



 オルルはチラリと真雪とセイラを見て、その流れでヨヨに視線を送るとゆっくりと目を閉じた。



「姫様もご苦労しそうです」

「は、はぁ……」



 一体この子は何を悟っているのだろうかと思う。まだ中学生ほどの容姿なのに、まるで人生経験豊富で相手を簡単に手玉にとる雰囲気を持つシーとどことなく似通ったものを感じる。

 簡単に言えば敵にしてはいけない部類ということだ。



「で、でも本当なのオルル? その……コーラン様が探していたのが想くんだったなんて?」

「そうくん? ああ、ソージ様のことですね。はい、以前マユキ様たちとご一緒に情報屋に行きましたよね?」

「あ、うん」

「その時、入手した情報は、オレンジ髪の少年が【日ノ国】に滞在したことがあるという情報だったのです。旅をしていた彼が最後に立ち寄ったらしい場所がそこだと」

「そうなの想くん?」

「う~ん、別に最後ってわけじゃないけど、確かに結構長いこと滞在はしてたよ。そこにはヨヨお嬢様のお父上やお母上もおられたし、修業にももってこいの場所だったからな」

「ふ~ん、そんでオルルたちはそこに行ったってことだね」



 真雪がソージから話を聞くと再びオルルに顔を向け直す。



「はい。そこでお会いしたのがバル様なのです」



 バルムンクは目を閉じたままコクコクと頷きを返していた。



「するとオレンジ髪の少年と一緒に旅をしていたバル様からいろいろなお話をお聞きしました。そしてソージ様が、実は赤い髪をした少年で、クロウテイルの屋敷で執事をなさっていることも分かったのです」

「あ、そっか。そんでバルムンクさんに案内がてらやって来たとか?」



 真雪にしては理解力が早かったのでソージは心の中で感心していた。



「その通りです。場所さえ分かれば二人でも大丈夫だと申し上げたのですが、バル様は親切にも案内役を買って出て下さいました」

「ほほ、私もソージ殿に用事がございましたから」



 すると会話の中を割って入った人物がいた。



「ちょっと待て、さっきから聞いてれば、バルムンクって、あのバルムンクか?」



 刃悟だった。その隣には善慈もいる。彼らもまた話に興味が惹かれて集まっているのだ。



「刃悟くん、知ってるの?」



 真雪が尋ねると、刃悟は疑わしそうな目でジッとバルムンクを見つめている。



「いや……まさかそんなわけねえか。なあ善慈?」

「どうかしら。少なくとも私もバルムンク・グリードの名は聞いたことがあるわよ」



 二人は顔を見合わせ、一緒にバルムンクを観察するように見つめる。バルムンクは微笑を浮かべながら目を閉じている。まるで彼らが疑問に思っていることは正しいですよと言っているかのようだ。

 刃悟もその様子に気づいたのかゴクリと喉を鳴らすと、



「き、聞くがアンタ……《伐鬼(ばっき)》のバルムンクか?」



 慎重に言葉を選ぶようにして問う刃悟。知らない者は眉をひそめているだけだったが、ソージとヨヨ、カイナは知っているので涼しい顔だ。

 するとバルムンクがニッコリと微笑むと刃悟に視線を向ける。



「ずいぶん懐かしい名前ですなぁ。時にお二方、多音(たね)殿はお元気ですか?」

「バ、ババアを知ってんのかよっ!?」

「こ、こら刃悟! 師匠をそんなふうに呼ばないの! も、もももしかしたらどこかでお聞きになられているかもしれないのよ!」



 目に見えて二人は動揺を示す。しかし刃悟は顔を引き攣らせながらもバルムンクに、



「ホ、ホントに知り合いか!」

「ええ、ともに切磋琢磨した間柄でございますよ。いや~懐かしいですなぁ。またお会いしたいものです」



 懐かしげに遠くを見るような表情を浮かべるバルムンクに対し、呆然と彼を見つめる刃悟斗善慈。



「ね、ねえねえ想くん、ばっきって何? それとたねどのっていうのは?」



 真雪が興味をそそられたようで尋ねてくる。ソージは一つ咳払いをすると、彼女に分かるように説明する。



「まず《伐鬼》というのはバルさんの通り名だよ。オレも昔のことは知らないけど、バルさんも昔はやんちゃしてたらしくてね、世界各地を回り次々と強者を叩きのめしていたらしいんだよ。その強さがあまりにも規格外らしくて、まるで木を伐採するかのように簡単に人を薙ぎ倒していく様子を称えて伐採する鬼……つまり《伐鬼》って呼ばれたんだ」

「ほわ~そんじゃ想くんよりも強いの?」

「とんでもないよ。オレなんてまだまだバルさんと比べたら可愛いもんだよ。さっきも見たろ? あの巨大岩を指先一つで木端微塵だぞ?」

「た、確かに凄かったよね……うんうん」



 あんなことができるのはここではバルムンクしかいない。同じ行動をソージがしたら、間違いなく人差し指があらぬ方向へと曲がってしまう自信百パーセントだ。



「ほほ、まああの程度は曲芸の一種ですがね」



 そう、誰もバルムンクの全力を見たことはない。一度本気になったバルムンクを見たことはある。その時は複数の巨大生物に囲まれた状況だったが、ソージはただ震えることしかできなかった。

 しかしバルムンクは鬼のような顔をすると僅か数分ほどで全てを塵に変えた。あの時はあまりにもバルムンクの迫力がソージを圧迫し過ぎて思わず失禁しそうになったのを覚えている。それでもまだ全力ではないのだ。



「ほへ~すっごいね想くん! やっぱり執事さんは強いんだね!」

「マンガの読み過ぎだ真雪」



 何を勘違いしているのか分からないが、普通の執事は戦わないし、決して指先一つで巨大岩を粉砕することなどできない。



「それと、多音殿とバルさんが言ったのは、多音・火ノ原、刃悟たちが教わっている武術流派の師範だよ」

「え? そうなの刃悟くん!」

「ちっ、やっぱテメエも知ってたかソージ・アルカーサ」



 不愉快そうに舌打ちをして睨みつけてくる刃悟。



「ええ、存じ上げていましたよ。かつて手合せさせて頂いたこともありますし」

「はあ? そんなの初耳だぞ? け、結果は?」

「見事に惨敗。というより勝負にもならなかったですね」

「ハハハ! ざま~みやがれっ! テメエごときがババアに勝てるわけねえだろうが!」



 嬉しそうに笑う刃悟の身体をツンツンと人差し指で善慈が叩くので、



「な、何だよ善慈?」

「あのね、私たちだっていつも瞬殺されるじゃない。もって十秒よ?」

「う……」



 図星のようで言葉に詰まっている刃悟。



「あれ? 十秒なのですか? 私が最後に戦った時は二十秒ほど持ちましたよ?」

「なっ!? バ、バカにすんなっ! ババアとはもう結構やりあってねえんだよ! 今だったら絶対一分は持つ自信はあるぜ!」

「おやおや、私だってあの時とは違いますよ。今なら三分はもちますよ?」

「何だとぉぉぉ……」



 ついついソージも刃悟には何故か張り合ってしまう。二人で視線をぶつけ合い火花を散らしていると、バルムンクがゴホンと咳を一つする。



「ほほ、どちらも勝てなければ同じでございますよ? いわゆるどんぐりの背比べですな」

「五十歩百歩とも言うわね」

「目くそ鼻くそともいうわよ~」



 バルムンクとヨヨ、そしてカイナの波状攻撃。まさに言葉の凶器がソージと刃悟の胸を抉った。




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