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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第四章 闇の人形師編
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第九十七話 コーランの決意

 ソージは花畑から国にある宿屋へと向かおうとしたが、少女がそこではダメだと言うので、人気のない裏通りへと入っていった。

 少女の後についていくソージは、彼女をジッと観察していた。水色のドレスだけでも平民だとは思えなかった。そのドレスは金糸の刺繍が施されてあり、とても手が込んだ作りにもなっている高価なドレスだった。

 それに城から出てきたことを考慮しても、



(やっぱそうだよなぁ~)



 綺麗に整えられて女性が羨みそうになるほどの薄桃色の髪が歩く度に風を誘っているかのように踊っている。

 それに耳に付けている向日葵のような形をしたイヤリングがチラチラと視界にちらつく。その横顔を見て、白くきめ細やかなプニッとした肌が見えた。幼いながらもキリッと目立ちは明らかに美人の領域に足を踏み入れている。



 結構歩いたせいで熱が頬にこもっているのか、赤々とした頬はとても可愛らしく保護欲をそそってくる。

 ソージはいくら治安が良い国だとしても、こんな可愛い少女が一人で国内を歩き、あまつさえ外に出るなどとんでもないことだと思った。



 しばらく歩いていると、キョロキョロと周囲を見回し、誰もいないことを確認してから大きく溜め息を吐いた。

 そしてソージの顔をジッと見つめて小さな口を開いた。



「お、お前は強いのだな!」

「え? あ、はあ……一応鍛えていますから」

「そ、そうか! お、男はやはり強くなくてはいけないからな!」

「はあ……」



 いちいち言葉に力が込められているので少々圧倒されるソージ。何故か嬉しげな彼女の様子がよく分からないが。



「じ、実はな、私はこう見えても強いのだ!」

「えっと……そ、そうなのですか?」

「うむ! さ、さっきはこの者がいたから本気は出せなかったがな!」



 そうして少女は腕に抱えているニャンゴロに視線を促してくる。



「ところでお前はどこに住んでいるのだ! 礼をせねばなるまい! 親もとへ案内するのだ!」

「えっと……僕は旅をしてるんですよ。ここに来たのも初めてで」

「そ、そうだったのか……旅か……うらやましいな……」

「そう言えば、何故お姫様ともあろうお方があのような場所へ?」

「む? そ、それはだな……って、私が姫だと何故知ってる!? お前は初めてここに来たのだろう!」

「へ? あ、いや……えっと……」



 城かた逃げ出した瞬間を見ていたと言うのはマズイかもしれないと思ったので、



「そのですね……お、お姫様のように可愛くて綺麗ですし、高価そうなドレスも着用してらっしゃるのでもしかしたらと……ってどうしました?」

「にゃ、にゃにゃにゃにをいっちょる!」

「……はい?」



 何故か顔を真っ赤に染め上げて湯気まで立ち昇らせている少女がそこにいた。



「わ、わわわわちゃしがか、かわ……かわいいにゃんて……しょ、しょんにゃことは……」



 うっわ~めっちゃ可愛い……



 そうソージが思ったのも無理はない。子供が照れる仕草というのはほのぼのとしていて見ていて微笑ましいのだ。

 しかしどうやらあまり可愛いと言われるのは慣れていない様子。姫であるならそんな言葉など腐るほど聞いているだろうと不思議に思ったが、とりあえず彼女を落ち着かせて話を聞くことにした。



 すると彼女は度々城を抜け出しては城下町で遊んだりしているとのこと。その時にどこから紛れ込んできたのか分からないが、今いるここでニャンゴロが怪我をして倒れていたのを発見したらしい。

 そこで彼女は手当てをしたのだが、城では飼うことはできずに匿ってくれる者も見つからない。仕方無く国から一番近い森の中にある花畑へ連れていくことにしたという。



 元々フラワーキャットは森に住む種族なので、恐らくそこから来たのだろうことは彼女にも分かっていたとのこと。元気になるまではあの花畑で様子を見ようと、今日も城を抜け出して向かったのだという。



「ですがやはりお一人では危ないですよ? いつ賊に襲われるとも限りませんし、あのような危険生物だっていますから」

「う……だ、だが私だってちょっとはその……強いもん」



 強いもんと言われても完全にビビッていた姿を見ているので何とも言えなくなる。



「それに、この子だってあなたが自分のせいで傷つけば悲しみますよ?」



 ソージはニャンゴロの頭を擦りながら言うと、ニャンゴロも気持ち良さそうにゴロゴロと喉を鳴らしている。



「…………な、なあ」

「はい?」

「や、やはり……その…………強い女の方がいいのか!」

「へ? えっと……まあ、強い方が良いとは思いますが……」

「そ、そうか……ふむ……なるほど」



 何を納得したのか少女はウンウンと小首を縦に振っている。するとその時、背後でガチャガチャと金属音が擦り合う音が聞こえて、



「ひ、姫様! ようやく見つけましたよ!」



 見れば先程城門に立っていた兵士のような甲冑を来た者が複数現れた。



「み、見つかった!?」



 少女は慌てて逃げようとするが、兵士は彼女をヒョイッと抱える。しかしその時、彼女の腕からニャンゴロが落ちたので、ソージは咄嗟にニャンゴロを腕の中に抱える。



「まったく! 勉強時間をまた抜け出してきたのですね! 今日という今日は王様に叱って頂きますよ!」

「ああ! 待て! こら! 待てというのに! ニャンゴロォォォォ~ッ!」



 ソージの腕の中でニャンゴロも叫ぶが、無情にも少女は兵士に連れ去られて行ってしまった。

 どうやら城を抜けだしたことがバレてこれから王に叱りを受けるようだ。ご愁傷様と言いたいが、ニャンゴロをこのままにしてはおけないので、一応約束通り一週間はこの子の面倒を見ることにした。



 バルムンクにも事情を話すとあっさりと了承を得てくれた。ニャンゴロもソージのことを信用してくれているようで、一週間大人しく過ごしてくれた。

 だがいつまでも少女が宿屋へと迎えに来ないのでさすがにおかしいと思った。もう怪我はすっかりよくなったニャンゴロだが、このまま勝手に森に放つのは些か躊躇される。



 しかしもうすぐ自分はこの国を去る。いつまでも面倒を見るわけにはいかないのだ。バルムンクに一言、少し用事があると言って城へと向かった。

 大きな城をグルリと一周してみると、一つの窓から外を眺めている例の少女を発見した。明らかに外に出たくてウズウズしていそうな表情をしている。

 ソージはキョロキョロと周囲を見回すと、



「……想いを像れ、橙炎」



 小さな呟きが終わると同時に、ソージの右手からオレンジ色の炎が少女が見える窓へと伸びていく。そしてこの一週間で街で買った首輪をニャンゴロにしてやったので、その首輪に手紙と同じく街で買った向日葵型のブローチを挟んだ。












 兵士に連れ帰られ、父である国王に謹慎を命じられて一週間が経ち、さすがに外へと出たくて苛立ちが募っていた第三王女のコーランは、もう何度目になるか窓の外を眺めて街の喧噪を懐かしく思いながら溜め息を吐いていた。



「ニャンゴロ……」



 考えてしまうのは怪我をしたニャンゴロと、そして……



「オレンジ髪の少年……」



 コーランとニャンゴロを危機から救ってくれた恩人。自分と同じ年頃にしか見えないのに、丁寧な口調と態度で接してきて、自分を姫と見抜く眼力。そして何よりも驚くべき強さ。



 あの時、自分を助けてくれた少年のキリッとした横顔を思い出してコーランは頬を染める。



「カッコ良かったなぁ……はっ!? わ、私は一体何を考えているんだ!」



 頭を抱えてブンブンと振っていると、コンコンと窓を叩く音が聞こえる。「え?」となり窓を見てみると、どういうわけかそこにニャンゴロの姿が見えたのだ。



「え? あ? ええ? ニャ、ニャンゴロ!?」



 慌てて窓を開けてニャンゴロを迎え入れるが、奇妙なことにニャンゴロが立ってる場所、何故か細長いオレンジ色の道が繋がっていた。そしてその先を追ってみるとそこには、オレンジ髪の少年が手を振っていた。



 ニャンゴロは窓の縁へと上がると、オレンジの道が霧散して消えていく。一体何がどうなっているのか分からなかったが、少なくともニャンゴロを彼が届けてくれたことだけは理解できた。

 そして彼もそれを見届けた後、再度手を振ってどこかへ去っていった。



「あっ! 待て! 待ってくれ!」



 大声で叫ぶが、声は届かず少年は見えなくなっていった。しっかり礼が言いたかったコーランは肩を落とすが、ニャンゴロが擦り寄ってきて首元をアピールしてくる。



「ニャンゴロ……そうか、もしかしてあの者にもらったのか? ……ん?」



 首輪に紙が挟まっていることに気づき、コーランは紙を手に取る。そして中を開くと可愛い花のブローチとともに、彼が書いたであろう文章を発見した。



『いつかまたお会いできることを楽しみにしております。そしてその時に、強くなられた姫様をお見せ下さい。あと、迷惑かもしれませんが、出会いの記念としてブローチを贈らせて頂きました。ではまた』



 手紙を持つ手が震えた。嬉しさで震えた。そしてブローチを見て恥ずかしさで震えた。

 コーランは、ニャンゴロを抱きしめると花が咲いたような笑顔を浮かべて窓の外に浮かぶ雲を眺める。



「約束だ。私は強くなって、再びお前に会って礼を言う! 待っててくれ!」



 コーランは、自身が強くなることを決意し、勉強も鍛錬も今まで以上に必死に取り組むことになった。王や姉たちは驚愕に包まれていたが、侍女であるオルルだけは全面的に応援してくれていた。



 オレンジ髪の少年からもらったブローチを肌身離さず持ち歩き、そして彼女は強者の道を歩んでいった。




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