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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第四章 闇の人形師編
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第九十五話 花の王国

 ソージ・アルカーサ―――――十歳。



 ヨヨの執事になるためには身も心も未熟なままでは務めることはできない。ソージは十歳になってすぐにバルムンクと、己を鍛えるための修業の旅に出ることになった。

 世界を回り見分を広めることにも繋がり、その経験は間違いなく執事としての格も向上すると皆が寂しさを感じながらも送り出してくれた。



 ソージにとっては、何故修業? と思わないこともなかったが、彼女はよく誘拐にあったりいざこざに巻き込まれたりするのだ。それは宿命なので仕方無いとヨヨも達観していた。



 だがそんな彼女を守るには力が必要だということもソージは分かっていた。もしこの修業の旅で強くなりヨヨのためにもなるのであれば、ヨヨや家族を守ることができる力を得るために奔走してやろうと思った。



 最低でも三年間は世界を回ると言われてさすがに呆気にとられる思いだったが、屋敷の方はバルムンクが信頼できる者を用意したらしく心配しなくても良いとのことだったので、少し不安に思いながらもバルムンクの言葉を信じてソージは彼と一緒に旅に出た。



 ハッキリ言って最初から彼の教育という名の拷問は逸脱していた。毎日一冊は本を必ず読むこと。これはまだいい。時間をかければ読むことは容易いからだ。

 だが本はできるだけ速読しろと言われた。どんな本も十分である程度は把握できるようにしろとも言われた。…………無茶だと思った。



 何故ならバルムンクが渡してくる本は、え? 辞書じゃん! と思われるほどの分厚さで構成された本ばかりだったからだ。しかも専門書ばかりであり、内容もかなり難しい。



 最初は無論一日なんかで読むことはできなかった。さらに身体には常にバルムンク特製成長する重りを装備させられた。リストバンドを両手足に、鉢巻きに腹巻きもあった。



 それはソージが成長するに従って重さが増すというマジックアイテムらしく、どれだけ鍛えても感じる重さが変わらず辛さも変わらないという不変の拷問道具だった。



 しかもそれをつけたまま長い道のりを歩き続け、倒れたら顔に水をかけられて強制覚醒を促されるというどこぞの軍隊訓練かと思わせるほど凶悪な修業だった。

 これはまだ序の口であり、常に魔法を使い続け魔力コントロールと質を向上させるということもさせられた。具体的に言えば、橙炎で髪の毛を覆い、常にオレンジ色の髪をした少年役を演じさせられたというわけだ。体力と魔力を同時に消耗するというスパルタ手段をとらされた。



 さらに早朝と夜にはバルムンクとの実践組手でボロ雑巾にさせられる。それまでに屋敷で受けてきた修業とは比べるのが馬鹿らしくなるほどの高密度な内容だった。最初の三日間で心が折れかけたのも無理はないだろう。



 しかし事あるごとにバルムンクがヨヨのことを持ち出し感情を揺さぶってくる。このまま弱ければ執事になってもすぐにヨヨは賊に攫われて死ぬや、知識が足りなくてヨヨが頼った時に何も答えられず重要な商談で失敗をしてヨヨの信頼が失墜することなど、クドクドクドクドと説教された。



 しかもムチだけではなく、バルムンクは頑張ればそれ相応の褒美もくれた。簡単に言えばソージの願いを聞き入れることだ。修業を楽にしろなどという旅の目的に沿わないもの以外なら何でも聞いてくれた。 



 あの街へ行きたいや、こんな生物を見たいや、美味いものを食べたいと言えば、速攻で頭を縦に振ってくれた。ある日、美人の女性に慰められたいと冗談で言った時、本当にどこからか女性を用意してきたのだから彼の万能スペックには開いた口が塞がらなかった。しかも本当にソージ好みのナイスバディだったので、その時だけはバルムンクを神だと崇めたものだった。



 しばらく旅をしていると、バルムンクが【シューニッヒ王国】へ行くと言った。何でも【シューニッヒ王国】は、【ドルキア大陸】の《アンジャクス地方》を治める王国であり、別名《花の王国》と言われるほど、年中美しい花が咲き乱れている国らしい。



 国というものを見てみたかったソージも楽しみだったので文句なく了承した。



 国に入るとまず様式美に驚いた。とても心地好い花の香りがあちこちから漂ってくる。左を見ようが右を見ようが、必ず視界に花が映るのである。

 色とりどりの花が咲き、日本にある桜の木のような木々がたくさん植えられてもあり、花吹雪が風に舞っていてとても綺麗な場所だった。



 どことなく国民たちも気品が感じられ、おしゃれな国という印象も受けた。麗らかな日差しの中、外でティータイムを楽しんでいる様がその思いをより加速させた。



「ここが《花の王国》ですか……凄いですね!」

「そうでございましょう? かつてこの国を建国した初代国王は《花王(かおう)》とも呼ばれ、誰よりも花を愛した人物だったと言います」

「へぇ~でもこれだけの花なら育てることも、維持することも大変なのでは?」

「無論簡単ではございませんね。ですが国民の方々はどの方も花が大好きな方ばかりなのです。ここに住む条件として、まず第一に花を愛せるかどうかですから」

「なるほど。皆さんが手を取り合って花を育てているというわけですね」

「その通りでございます。またここで作られる花は皇帝様にも評価されている皇帝印(こうていじるし)と呼ばれる花もあります」

「その一つが、あの大きな花ですね!」



 ソージは国の中心にある広場。そしてその広場の中心にある花壇を指差す。そこにはまるで国を代表するかのように巨大な花が太陽の方向を向いていた。

 様々に美しく咲く花に囲まれて中心にその存在感を放つ巨大花。ピンクの花びら一枚だけでも大人一人分以上はあるだろうか。その花びらが数えると十枚あった。



「《月花美人(げっかびじん)》。月の光を浴びると、透き通るような蒼い光を放つ国花でございますね」

「何かついつい拝みたくなってしまいますね」

「ほほ、実は私もそう思います」



 二人は広場へと歩きながらそのような会話をしていた。そしてふとバルムンクが足を止めると、



「では宿は私がとっておきます。昨日も申し上げましたが、しばらくはここで滞在することにしますので、存分に見聞を広めることでございます」

「はい。バルさんはこの国で用事があるんですよね?」

「ええ、私事にはなりますがね」

「分かりました! いろんな人たちと交流するのも勉強ということですから!」

「ほほ、では夜に宿で」

「はい!」



 バルムンクは微笑みながら頷くとどこかへと去っていった。一人なったソージはズシズシと身体に重りの重さを感じながら額に汗を垂らし国を見回る。



「どこかしこも花ばかりだ。ホントに花好きなんだなこの国は」



 すると眼前に大きな城が映る。



「シューニッヒ城かぁ、やっぱ本物の城っておっきいよなぁ!」



 広大な白亜の城。しかもところどころに花で着飾っている。まるで城自体が花を身に付けているようだ。



「どうせなら城の中も見たいけど……やっぱ勝手に入ったらダメだよなぁ……」



 城門には兵士が立っており、普通に考えたら十歳の子供が入れるとは思えなかった。諦めるしかないかなと思ったその時、視界の端に何かが動いたのを確認する。



「ん……あれは……」



 塀の上に誰かがいた。塀の上にも花があるので、それに隠れるように周りを窺っている少女らしき人物を発見。そしてその少女が塀から蔦を伝ってこちら側へと降りてくる。

 それはさながら囚人が刑務所を脱走するかのような画ではあった。



「誰だろう……あれ」



 水色のドレスらしき服を着込んでいるので、ソージの中ではなかなかに身分の高い者だと推測した。見事彼女は門番に気づかれないように外へ脱出すると、またも周囲を窺いながらどこかへと去った。



 ソージは何だか興味が惹かれて彼女の後をついていくことにした。すると段々と国の外れへと向かっていく。



「どこに行くんだろ?」



 尾行には全然気づかれていないようだが、彼女はどんどん進んでいき国の出口付近にまで来た。そして驚いたことにそのまま外へと出て行ってしまったのだ。

 ここら辺は他と比べると治安が良い方だが、それでも外には賊がいる可能性だってあるし、危険な生物だって出現するかもしれない。



「ん~ちょっとマズイんじゃないかなぁ」



 ソージは放っておくと危険な気がして、彼女の後を追い同じように国から外へと出ていった。




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