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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第四章 闇の人形師編
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第九十三話 予想外の再会

 ソージがそう叫んだ時、屋敷の上に一つの影が見えた。その影は落ちてくる岩に向かって跳び上がる。



 その影の正体に気づけたのはソージとヨヨである。そして彼の姿を見て二人はホッとしたように重荷が急に軽くなった感覚を感じた。



 その彼が岩に向かって右手の人差し指を立てて、岩にトントントントンと目にも止まらない速さで突いていく。そしてすかさず岩を蹴るとその場から逃げるように消える。



 まるで破壊力が認められない彼の仕草で、突いた部分からサラサラと砂状に変化していく。それから瞬く間に巨大な岩石がその密度を失ってバサァァァッと傘を広げたように上空に砂が広がっていく。



 確かに砂化したお蔭で被害の大きさは比べられないほど軽減はされたが、砂の量も多い上に落下の勢いがついているので、このままでは屋敷が崩される可能性が高い。

 だが何の考えも無く彼がそんなことをするとは思えず、ソージはジッと見つめていると、屋根の上にはいつの間にかもう一人の人物が立っていた。



 その者は女性であり、剣を構えていた。彼女の視線は上空から落ちてくる砂へと向けられてあり、そして両手で握っている剣を左から右へと横薙ぎに一閃する。



螺旋風尾(らせんふうび)っ!」



 剣から放たれた圧力が螺旋を描き暴風を生んでいく。回転力が増しながら風が砂に衝突した瞬間、大きく空で広がった砂の塊が再び上空へと吹きさらされ街の外へと霧散していく。

 見事にネオスの置き土産を無傷で回避できたクロウテイルの屋敷であった。



 そこへいつの間にかアクアラプトルとの戦闘を終わらせた刃悟と善慈が、真雪とセイラを伴って戻ってきた。

 さらに上空から一つの影がソージたちのすぐ傍に降り立った。真雪たちは敵かと思ったらしく身構えるが、ソージは手をサッと上げて手出しをしないようにという仕草を示す。



 ソージはヨヨの『調律』のお蔭でナイフに塗られていた毒も回復して、傷は緑炎で治していた。そしてソージは真雪たちに向かって彼の紹介を始める。



「皆さん、ご紹介致します。先代の執事長であり、ヨヨお嬢様のお父上であられるジャスティン様にお仕えされているバルムンク・グリードさんです」



 ソージの紹介を受けると、バルムンクは穏やかな笑みを浮かべると気品良く頭を下げる。



「お初にお目にかかります。ただいまご紹介に預かりましたバルムンクと申します。どうぞ皆様、気軽にバルとお呼び下さいませ」



 ソージと同じような執事服を着込み、白髪をオールバックにしている初老の男性。柔和な表情は大人の男の渋さを熟した安定感を醸し出している。見るからに頼りになりそうな人物である。

 そしてバルムンクはヨヨの前まで行くと再び頭を下げる。



「ご挨拶が遅れましたこと、申し訳ありませんでした」

「いいえ、あなたのお蔭で助かったわ、ありがとうバル。それと……」



 ヨヨが屋根の上へと視線を巡らせる。バルムンクは小さく顎を引くと、屋根に向かって、



「どうぞ、降おりになって下さいませ!」



 そう言うと、屋根からまた人影がスタッと地面へと降りてきた。ソージとヨヨなどはその人物を見て眉をひそめる程度だったが、真雪とセイラが驚愕の表情を示していた。



「ああっ!?」



 真雪の叫びに思わずソージは彼女の方に視線を向ける。だが彼女と同様に驚いて声を上げた人物がいた。それが屋根から下りてきた人物である。



「マ、マユキ……? もしやマユキとセイラなのか!?」



 どうやら三人は知り合いだったようだ。ソージは真雪の知り合いである彼女を見つめる。

 手入れを怠っていては手にできないであろうサラサラとした美しい薄桃色の髪が夜風に揺れている。身長も高くて百七十センチ以上はありそうに見える。



 間違いなくスタイル的にもモデルをすればトップクラスに入るだろうと断ずるほどである。少し吊り上った目も、大人びた顔立ちによく似合っており、健康そうな肌は真雪にも劣らずプリプリと瑞々しそうだ。



 真雪とセイラが彼女の目の前にいき、手を取り合って互いに再会を喜んでいる。ソージは彼女たちを見ながらも、その意識は薄桃色の女性へと向かっていた。



(……どこかで見たような…………いや、それよりもさっきの技は凄かったな)



 一瞬、彼女に既視感を感じるものの、それよりも先程の彼女の剣技に称賛していた。あれほどの膨大な量の砂を剣圧だけで吹き飛ばすとは相当の実力の持ち主である。



 恐らく砂にすればあとは彼女が何とかできると聞いて、バルムンクが岩を文字通り粉々にしたのだろう。バルムンクの実力は最初から熟知しているので驚きはそれほどないが、彼女の実力は素直に感嘆する。



 ふと彼女の目がソージと合ったが、一瞬彼女の表情が強張ったように感じた。何故彼女がそのような反応をしたのか分からず、すぐに目線を逸らした彼女の態度に首を傾けているソージ。

 すると突然屋敷の敷地内へと大声を上げながら走ってくる者がいた。



「姫様ぁぁぁぁぁっ!」



 声からして女性だということは分かる。そして真雪がその女性を見つめると嬉しそうに破顔し駆けつけていく。



「オルル~! ひっさしぶりだよぉ~!」

「あ、えっと……ええっ!? マ、マユキさんっ!?」



 真雪が再会の嬉しさが到達点に達したのか、彼女に抱きついてその喜びを堪能している。セイラもまた彼女らしく大人しく微笑みながら見守っている。



 真雪が彼女を連れてきてオルルと呼ばれた少女が薄桃色の女性の傍まで行く。ソージは彼女たちを見てから真雪の方へ顔を向ける。



「えっと、真雪、できれば紹介して……と言いたいけど、今は……お嬢様」

「ええ、まずは街の人に戦いが終わったことを報せなければね」

「はい。トランテさんも治療しなければなりませんし」



 自己紹介などは後回しにして、まずは事態の収拾へとソージとヨヨは動いた。騒ぎのせいで起きてしまった屋敷の者たちはバルムンクたちを屋敷へと迎え入れて客室へと案内した。



 ソージたちが仕事を終えるまでそこで待ってもらうように指示をしておいたのだ。

 そしてヨヨが街人たちに、事情を話してもう安全だということを告げる。街人たちも突然のことに驚いていたが、ヨヨやソージは彼らから絶大な信頼を得ているので、謝罪すればしっかりと許してくれた。



 戦いのせいで壊れた場所や建物などはすぐにでも直すことを約束して、街人たちは自分たちの家へと帰っていった。幸いにも壊れた建物は街の集会所であり、誰かが住んでいる場所ではなかったので助かった。



 地面に転がっている人形の残骸などはソージの白炎で処理をした。あとは身動き一つしないで倒れているトランテだが、彼の変わり果てた姿はヨヨの『調律』魔法なら治せると踏んでヨヨが彼の身体に触れる。



 莫大な魔力がヨヨからトランテへと流れ込んでいく。常人には考えられないほどアンバランスに膨らみ切った筋肉が徐々に元の形へと戻っていく。



 仰向けにしている彼の胸に赤黒く光る物体。それがトランテの身体が元に戻っていくにつれて、胸からニョキッと姿を現していく。それはまるで花びらのようなものであり、おどろおどろしい雰囲気を醸し出している。



 だが彼の胸から出現した部分から、葉っぱが枯れて風化するように散り散りに風で流されていく。そして完全に胸の中に埋め込まれていた赤黒い物体が消えたのか、全てが消失した時には彼の身体は元の細見でひ弱そうなそれへと戻っていた。



 ソージは次に傷ついた彼の傷を緑炎で治した。だがまだ目が覚めない彼を背負って屋敷へと向かった。

 トランテを開いている部屋で寝かせて、ソージとヨヨは真雪たちが待っているであろう客室へと向かっていった。



 気になるのはバルムンクの突然の帰還。無論意味のないことはしない完璧な執事でもあるので、何かしらの理由があることはソージも承知している。



 そしてその理由が、何となく連れてきた者たちにありそうな予感もしている。二人の女性のうち、薄桃色の髪を持つ女性とはどこかで会ったことがあるような気が先程からしているのだが、やはり思い出せないのである。



 最初に会った時に、目が合って逸らされたが、やはりどこかで会ったことがあるのかもしれないと思い始める。



(いや、直接聞けばいいか)



 そう、ここでいくら考えたところで答えが出ない。ならば彼女たちから話を聞けばスッキリするだろうと思い歩くスピードを少し速めた。



 ヨヨとソージが客室の扉の前までやって来ると、中からは明るい真雪の声が聞こえてくる。余程嬉しいのだろうなと頬を緩ませながらソージは扉を開いて中へと入った。





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