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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第四章 闇の人形師編
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第九十話 助太刀

 ソージは空からアクアラプトルを見下ろしているが、そのアクアラプトルの巨大な口がこちらへと開かれる。



「まずい!」



 再びアクアラプトルの口から放射される水の塊。ソージは器用に橙炎を動かして回避する。



(ったく、あんな大量の水で攻撃されたら一溜まりもないぞ!)



 ソージの魔法は火の性質を持っているので、たとえ燃える性質を持ち合わせていない橙炎でも、水には弱くあれほどの量で攻撃されると消失してしまうのだ。



「お嬢様はこのまま屋敷の方へお連れします!」

「ソージ!」



 ヨヨの掛け声と同時にソージは橙炎から跳び下り地面へと落下する。そして上手く橙炎を遠隔操作して、ヨヨをそのまま屋敷へと向かわせ避難させた。

 これで安心して戦えると踏んだソージは鋭い視線でアクアラプトルを睨みつける。



「ずいぶんここを水浸しにしてくれましたが、雨には困っていませんので早々に退場願いますよ」



 ソージは右手から白炎を出す。しかしそんなソージの背後からのっそりと近づく巨大な影。その影がソージの頭上目掛けて腕を振り下ろす。あわや当たるかと思われた瞬間、ソージは紙一重で左にかわして回し蹴りを影に叩き込んだ。



 影の正体はネオスが召喚した《自動人形(オートマタ)》である。まだ全部を倒していなかったので、アクアラプトルだけではなく人形たちにも気を配らなければならない。



「面倒だな……」



 確認すると人形はあと四体ほど活発に動いている。アクアラプトルだけでも面倒な相手なのに、人形も同時に相手をすることになると些か厳しい。

 しかも人形だからなのか、あまり気配を感じ取ることができないのだ。空気の動きなどで悟ることはできるが、もし闇の中でジッとされれば感づけないだろう。

 だから先程も背後への侵入を許してしまった。



「赤髪、俺を忘れていないか?」



 ネオスの声でハッとなり彼を見つめると、いつの間にかまた建物の屋根の上に立っていて、ソージに向けて右手をかざしている。

 何をしているのかと思っていると、不思議なことに彼の右腕の肘から先が消えているのだ。いや、まるで水の中に沈み込ませているかのように、空間の中に手を突っ込んでいる。



 するとソージの右足に違和感を覚える。パッと視線を向けると、空間から肘から先の腕が出現しておりソージの右足を掴んでいたのだ。



「なっ!?」



 咄嗟に足を引いて拘束から逃れようとするが、



「何て力だ!?」



 こんなか細い腕のどこにそんなパワーが秘められているのか、ビクともしない。その間に人形が四体同時に突っ込んでくる。



 このままでは攻撃をまともに受けてしまうと思ったソージは、まずは足元の腕に目掛けて白炎を放つ。ボコッと地面ごと喰らった白炎だが、ネオスを見るとすでに空間から腕を引き抜いている後だった。



 そして迫りくる四体の攻撃。ここは攻撃よりも回避を優先するべきだと判断し後ろへ跳ぼうとするが、今度は左足が掴まれる触感を感じる。見れば今度はネオスの手が左足を掴んでいた。



「しまっ……!?」



 四体のハンマーのように振り下ろされる拳に耐えるべく両腕を頭の上で構えて、橙炎を左手から創り出して盾のような形に形成して防御態勢に入る。



 バキィィィィッととてつもない圧迫感が頭上から押し寄せてきた。ソージの足元の地面は割れてその衝撃の重さが十分に推測できる。



「ぬぎぎぎぎぎぎっ!?」



 さすがに四体の力が全て合わさった攻撃力は凄まじいもので、なかなか抜け出せずにいる。しかもまるで太鼓を叩くように次々とソージの頭上を覆っている橙炎を叩くものだからどんどんソージの足元の地面も亀裂が広がっていく。



 無論ソージの腕も段々と痺れてきてしまい、いくらかなりの硬度を持つ橙炎で破壊はされない自信があるからといって、そのまま力を抜けば炎ごと押し潰されてしまうのだ。



 さらにソージの目には面倒な光景が映る。アクアラプトルが大きな口を開き、狙いをソージに定めていたのだ。そのまま水の塊をぶつけるつもりらしい。



(ぐっ……人形ごとやるきかよ!)



 今にも放射されそうな勢いの状況に、ソージは仕方無く一度ヨヨのもとへ転移して避けようとしたところ、そのアクアラプトルの横っ面に何者かが蹴りを放ち地面に転倒させた。



 さらにソージの周りにいる人形たちの足元から蔦のようなものが生え、人形たちの身体を拘束し始めた。



「へっ! 面白そうなことやってんじゃねえかソージ・アルカーサ!」

「大丈夫! 想くんっ!」



 アクアラプトルを吹き飛ばしたのは刃悟であり、人形たちを拘束してくれたのは真雪だった。ソージはいつの間にか左足の拘束も解けていたので、ソージはその場から抜け出し距離を取った。



「真雪、刃悟!」



 二人の姿を見て名を呼ぶ。真雪が近づいていき心配そうに顔を見つめてくる。



「想くん、無事なの?」

「あ、ああ、ありがとうな真雪。お蔭で助かったよ」

「えへへ、良かったぁ」

「おいコラソージ・アルカーサ! こんな面白えバトルやってんなら俺を呼びやがれ!」

「刃悟……別に楽しんでいるわけではありませんよ?」

「ククク、腕がなるぜ……何だこの水ドラゴンはぁ」



 全く聞いていない様子だ。まるで新しい玩具でも見つけたような感じでアクアラプトルに夢中だ。

 だがハッキリ言って助かった。別段回避する手段はあったのだが、それでも魔法を使わずに回避できたのは喜ばしいことだった。



「真雪、悪いけどあの人形たちのこと頼めるか?」

「うん! セイラもいるしね!」



 見れば真雪の後にセイラも来ていたようで、彼女もソージのことが心配だったようで不安気な表情をしている。



「セイラさんも来てくれたのですね。嬉しいです。ありがとうございます」

「あ、あの……はい……えぅ」



 照れる彼女が可愛くてずっと眺めていてもいいのだが、今はとにかくやるべきことがある。



「……ネオス、先程はよくもやってくれましたね」

「…………虫が湧いたな」

「その虫に止められるあなたの人形たちは、どうやら虫以下みたいですが?」



 ソージとネオスは火花を散らすほど睨み合う。



(奴のあれは恐らく魔法だ。空間系の魔法のようだけど……)



 とてつもなく厄介な魔法だということは分かる。空間に大量の人形を保管して、いつでも取り出すことができるようだし、遠く離れていても空間を繋いで身体の一部を別の空間へと移動させることもできる。かなり万能で凶悪な魔法だ。



 彼が本気になればあの場にいても、ここにいる全員の首にいつでもナイフを突きつけられるということだ。



(早めに決着をつけた方がいいな)



 これ以上、手の付けられない事態を引き起こす前に仕留める。それがソージの出した結論だった。

 ソージは大地を蹴り上げ屋根へと上る。そしてネオスと距離にして五メートルほど離れた場所で対面する。



 下では刃悟がアクアラプトルを、《自動人形(オートマタ)》たちを真雪とセイラが相手をしてくれている。



「アレは確か【英霊器】だったな」



 ネオスは視線だけを真雪に向けている。以前にも真雪が魔法を行使しているところをネオスは見ている。



「魔法は《樹の覇王(ジュピター)》。確かに興味がそそる魔法ではあるが……」



 ゆっくりと視線をソージに戻す。



「お前以上ではないな」

「それはそれは、男に興味を持たれても寒気がするだけですね」

「もう一度言う。俺とともに来い」

「お断りします」

「ふむ、ならベタに人質でもとって脅すか」

「そんなことをするのであれば、そこであなたの命は終わると思って下さいね」



 ソージはにこやかな表情を作るが、無論心からの笑顔ではない。ネオスはそんなソージを一瞥するとチラリと刃悟とアクアラプトルの戦いを見る。



「……ふぅ、鬱陶しい虫どもだな」

「私にとってみればあなたも邪魔な虫ですがね!」



 ソージは白炎を右手から放出しネオスを攻撃する。大口を開けた白炎が真っ直ぐネオスを呑み込むべく突き進むが、ネオスのすぐ目の前に先程上空に開けた時と規模は小さいが同じような穴が空間に開く。



 そしてその空間に白炎が消えていき、ソージの上方に新たな穴が開いて、そこから白炎が出現してソージが屋根ごと呑み込まれてしまう。



「ふむ、死んでしまったか?」





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