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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第四章 闇の人形師編
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第八十五話 シリアスがすぐにコメディ

 一体何故彼らには見破られたのだろうか。シャイニーを一目見て、彼女がフェニーチェだと分かるわけがない。何故なら彼女は外見が人なのだから。

 またヨヨが教えるわけがない。仮にフェニーチェが人化できることを知っていても、シャイニーをピンポイントで的中させることができるとは思えない。



 だが刃悟と善慈のその表情は自信に満ちている。まるで最初から知っていたみたいに。

 ソージがチラリとヨヨの方を見ると、彼女は溜め息を吐くと何故か真雪の方を指差す。



(……え?)



 真雪の方に顔を向けると、何故か彼女が深々と頭を下げている。そこで悟った。



「ま、まさか真雪……」

「ご、ごめん! だ、だってまさか刃悟くんたちがフェニーチェの卵を想くんと奪い合ってたなんて知らなくて!」



 聞けば、この屋敷へと刃悟たちがやって来た時、最初に出会ったのが真雪だったという。彼女が菜園で仕事をしていたので鉢合わせになったのだ。

 その時に善慈が彼女からいろいろ情報を聞き出し、シャイニーのことも知ったという。



(しまった……そういえば真雪たちには口止めを厳命してなかったな)



 その思いはヨヨも同様だったようで、どことなく意気消沈している雰囲気である。恐らく彼らが現れ、シャイニーのことを聞かされて驚いたことだろう。

 そして真雪から情報を得たことを知り、下手に追い出すわけにはいかなくなって、ソージが帰って来るまでここで待機させていたということだ。



「……なるほど、どうやら隠しても無駄のようですね」

「ようやく分かったか!」

「それで? あなた方はシャイニーを奪いに来たと?」

「む?」



 ソージの醸し出す穏和な雰囲気が消え、明らかに敵意が滲み出ているのを感じたのか、刃悟と善慈の警戒度が高まる。



「もしそうなら……ぶち消しますよ?」



 ソージは殺気を二人に対して迸らせる。すると刃悟が嬉しそうに笑みを浮かべる。



「上等だ! こちとらテメエとやるためにここまでやって来たんだ!」



 やる気の刃悟のようだが、彼の言葉を聞いて逆に冷めていくソージ。



「……は? 私とやる? もしかして戦うためだけに来たと?」

「おうよ!」

「……シャイニーを奪うためではなく?」

「は? そいつはもうテメエのもんだろうが! お蔭で依頼はテメエのせいで失敗しちまったがな!」

「………………そういうことですか」



 ソージは完全に敵意を鎮め、やれやれと肩を竦めると善慈に視線を向ける。会話をするなら彼の方がまともだと思ったからだ。



「つまりあなた方はもうフェニーチェの卵を持ち帰るという依頼を放棄したということですか?」

「そうよ。ここに来たのはさっきも刃悟が言ったけど、あなたと腕試しがしたいだけ。欲求不満なのよ彼」

「その言い方はするなっ!」



 善慈の物言いに刃悟が突っ込む。



「あなたも私と戦うと?」

「へ? 私? そうねぇ~、私は別の舞台で戦いたいわねぇ~」

「別の舞台?」

「そうよ~、た・と・え・ば~ベッドの上とか?」



 凄まじい寒気が全身に走った。まずい! 奴の目は完全に捕食者の目をしている!



「そ、それは是非ともご遠慮願いたいですね!」

「あらん、残念ね。気が向いたらいつでも声をかけてね」



 かけるわけがない。こんな化け物大男に貞操を捧げるなど冗談ではなかった。



「オイコラ、俺と戦えソージ・アルカーサ!」



 シャイニーのことに関しては少し安心できたが、それでも面倒事なのは変わりない。戦うこともヨヨさえ許可すれば問題はないのだが、今はそれよりも重大なことがある。



「ヨヨお嬢様、この方たちの扱いはどうした方が良いですか?」

「ソージの好きにすればいいわ。ただし、今抱えている案件を全て終わらせてからならね」

「よし! テメエの主の許可も出たんだ! 俺と戦え!」

「あなたはバカですか?」

「な、何だとコラッ!」

「今お嬢様は今抱えている案件が終わればと仰ったのです」

「ぐ……な、ならさっさとそれを終わらせたら俺と戦うことを約束しやがれ!」

「…………まあ、善処しましょう」

「絶対だからな! 絶対の絶対だぞ!」

「あはは! 良かったね刃悟くん!」



 真雪よ、喜んでるが、きっとそいつが望んでるのは殺し合いに近い戦いなのだが……。



 いまいち分かってない真雪に呆れながらも、ソージはヨヨに手に入れた【アカトール】の情報を提示した。

 









 ヨヨは難しい表情でソージからの報告を聞いていた。別段秘匿するような情報でもないので、この場に刃悟たちがいても大丈夫だ。



「そう、やはり可能性が高くなってきたわね」

「やはりお嬢様はトランテさんがこの事件を起こしたと?」

「……憶測でしかないけれどね」



 いや、恐らく間違いはないだろう。ソージも街人から話を聞いて、そして姿を眩ましたトランテのことを考えると答えは一つだろう。



「【アカトール】? おい善慈、【アカトール】って言や、近くを通ったよな?」



 刃悟の言葉にソージたちは顔を向ける。



「そうね、たまたま馬車が襲われてたのがその近辺だったかしら?」



 善慈の言葉にソージとヨヨは眉をひそめる。ソージはすぐさま善慈に向かって、



「あの、ちょっとよろしいでしょうか?」

「あらな~にソージくん?」

「今、馬車が襲われていたとお聞きしましたが、まさか馬車を襲っていたのは《金滅族》ではありませんか?」

「そうだけど……え? もしかして見てたのかしら?」

「あ、いえ、見ていたわけではなく……そうか、もしかしてそこで殺害されたナリオス卿を街まで運んでくださった旅人というのはあなた方だったのですか?」

「ナリオス卿? そういえばそんな名前だったかしら?」



 これは驚いた。まさかその時に居合わせた旅人というのが彼らだったとは。



「まあ、放置しておくのも可哀相だし、幸い馬車は潰されていなかったから、遺体を荷台に乗せて街に運んだのよ。まだ少しナリオスって人は息があったから、道案内してもらったけど。でも屋敷に着くと、数分くらいで死んじゃったけどね」



 するとヨヨが善慈と刃悟の前に立ち頭を下げた。



「ナリオス卿を見捨てず、屋敷まで送ってくれて感謝しているわ。どうもありがとう」



 ヨヨに合わせてソージも頭を下げる。



「な、何礼なんか言ってんだよ! 俺は別に大したことはしてねえ!」

「あら、頬が真っ赤。えい」

「ちょ! 突くな変態!?」



 刃悟が照れているのか頬を染めたので、そこを善慈が指先で突いて遊んでいる。せっかくシリアスに礼を言っているのに、この二人がいるとどうもコメディチックになってしまう。



「ですが、屋敷の人たちはお礼をしようと思ったら旅人がどこかへ行ったのでお困りでしたよ?」

「だ、だから言ってんだろ! 俺らは別に礼が欲しくてやったけじゃねえ!」

「ふ~ん、何かそれカッコ良いよね!」

「カ、カカカカカコカコカコ」



 刃悟が先程よりも顔を真っ赤にしてどもっている。余程褒め慣れていないようだ。



「とにかくナリオス卿の家族に代わって礼を言うわ」

「いいわよ。【火ノ原流】を学んだ者は、自分の正義に従って行動してるだけだしね。ところでさっきから聞いてたけど、何か面白そうな問題抱えてるっぽいわね」

「面白いわけではありませんが……」



 ソージは呆れながら口にする。



「あら、ごめんなさい。でもその案件が終わらなれば、刃悟の用事を済ませてあげられないわけよね?」

「え、ええ、まあそうですが」

「それだったら私たちも協力してあげてもいいわよ?」

「え? きょ、協力?」

「そう、ねえ刃悟?」

「ああ、早く戦えるなら何でもしてやらぁ」



 このバトルジャンキーは本当に戦うためなら何でもしそうである。



「う~ん、どうしますかお嬢様?」

「そうね……あなたたちはこの大陸には明るいのかしら?」

「いや、ほとんど知らねえ。ここに来るのも結構迷ったぜ」

「だったら下手に動き回っても意思疎通が図れないわね。でも人手があった方が情報収集は楽になる…………ではあなたたちにはソージのサポートをしてもらってもいいかしら?」

「はあ? 俺がコイツの下につくのか? それだけは勘弁だぜ!」



 刃悟が心底嫌そうにソージに指を差してくる。



「下につくわけではないわよ。ただソージの言うことに従って動いてもらうだけ」

「部下みたいじゃねえかそれじゃ!」

「いいじゃないの刃悟。ちょうど暇してたし」

「あのな! そもそも俺はコイツが嫌いでぶっ飛ばしたくてここまで来たんだぜ! それなのにパシリ扱いはゴメンだ!」



 刃悟は口を尖らせ不貞腐れたように腕を組み顔を背ける。どうやらこのままでは話が進まないようだ。しかしその時、真雪が彼の前までやって来て、顔を見上げる。



「ねえ刃悟くん?」

「あ? 何だよ……って真雪っ!?」

「うん、私だよ」

「な、ななななな何か用か? つうか顔近えって!」



 刃悟は後ずさりをして真雪から距離を取る。



「あ、ごめんね。でも刃悟くん、お願い!」

「は? な、何が?」

「想くんの力になってあげて!」

「いや、だから俺は……」

「何で刃悟くんが想くんのこと嫌いなのか分からない! でもきっとそれって誤解だよ! 想くんは上に馬鹿がつくほどお人好しだもん!」



 それはお前なんじゃ……とソージは思わず心の中で突っ込む。しかし、できれば馬鹿ではなく超と言ってほしかった。



「う……ぐ……」



 ウルウルと捨てられた子犬のような眼差しが真っ直ぐ刃悟へと向けられている。周囲は静寂が包み、もう雰囲気は刃悟が断れる雰囲気ではなかった。



「う……だ、だあぁぁぁもう! わ~ったよ! わ~ったからさっさとやることを話しやがれ!」

「あは! ありがとう刃悟くん!」



 真雪の太陽の笑顔に見惚れない男などいないのだろう。刃悟は照れ臭そうに彼女の顔を見て耳まで真っ赤にしている。



(ホント、キラースマイルだよなアレって……)



 小さい頃から真雪の笑顔は全てを肯定にしてきた。いや、平和にしてきたといっても過言ではないだろう。

 喧嘩していても、真雪が仲裁に入り笑顔を浮かべるとたちまち争いが収まったのだ。それは大人から子供まで幅広い。ただし、男限定によるが……。



「ということでソージくん、これからよろしくね~」

「仕方ねえから手伝ってやらぁ」



 二人のパシリ……もとい、お手伝いさんを手に入れたソージが、真雪に顔を向けてニッコリと微笑む。



「ありがとな真雪」

「えへへ! みんな仲良しが一番だよ! ね、シャイニーちゃん!」



 しかしシャイニーはいまだに真雪が苦手なのか、ササッとソージの後ろへ隠れる。



「ええっ!? まだダメなの! そんなぁぁぁぁっ!」



 大分ショックなのだろう。基本的に子供には男女問わず人気がある真雪なので、こうして拒絶されることには慣れていない。



「ではこちらをお読み下さい」



 ソージは一枚の紙を刃悟たちに手渡す。そこには今回の事件に関することが記述されてある。一通り目を通した彼らはソージに紙を返してきた。



「つうことは何か? そのトランテっつう奴をとっ捕まえりゃいいのか?」

「いいえ、まだトランテさんが起こした事件だと決まったわけではありません」

「けど間違いねえだろうが。いくら憎んでるっつってもやったことは犯罪だ。捕まえるのは当然じゃねえか?」

「確かに刃悟さんの言う通りですが」

「おいちょっと待て」

「はい?」

「その刃悟さんっつうのは止めろ。寒気がする」

「では何てお呼びすれば?」

「呼び捨てでいい」

「あ、私も呼び捨てでいいわよ。でもできれば善ちゃんって呼んでほしいかも」



 善慈が頬に手を当ててモジモジする姿は吐き気しか催さない。



「で、では刃悟にぜ、善ちゃん……で」

「きゃ~っ! いいわその響き~!」

「うっせえ騒ぐな変態!」

「あら刃悟ったらもしかしてヤキモチなの!? 大丈夫よ! あなたの善慈はいつでもフル稼働だから!」

「意味わかんねえよ!」

「あはは、二人とも仲良いんだね~」

「ち、違うぞ真雪! 俺はコイツとは仲良くねえ! ただの同僚だ!」

「へ? そうなの?」

「違うわよ真雪ちゃん。私と刃悟はね、幼い頃からずっと一緒だったの。最初は貧乏でね……暑い日も寒い日も、互いに身体を寄せ合って汗をかいて温め合ってたわ」

「うぅ……そうだったんだぁ」



 何故か真雪が感動して涙をしている。



「ちょ、おいこら善慈! 誰と誰が身体を寄せ合って汗かいてんだよ! ありゃテメエが勝手に抱きついてきただけじゃねえか!」

「そんなことないわよ! 今でもあなたが寝静まった頃、そ~っとあなたの隣に行くとあなたは力強く私を抱きしめて……あ、これ秘密だったヤベエ」

「テメエ! 人が寝てる間に何してくれてんだゴルアァァッ!」

「あはは! やっぱり二人とも仲良いね!」



 刃悟が善慈の胸倉を掴んで振り回しているのを、どう見たら仲が良く見えるのだろうか。



(もしかして真雪の目って腐ってるんじゃ……)



 心底幼馴染の感性と視力が心配になってきたソージ。



「…………いつになったら話が進むのかしら……?」



 カオスに近い現場に辟易して溜め息が多くなるヨヨであった。





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