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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第三章 再会と卵編
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第八十話 フェニーチェ誕生

 本日の業務も終了し、ソージが床に就いて数時間が経過した時、室内が灯りを(とも)したかのように明るくなる。



「う……何だ?」



 ソージは顔をしかめ灯りの正体を探ると簡単に発見できた。それは寝ているベッドの隣に作ったフェニーチェの卵が乗っている簡易式ベッドからだ。

 しかも発光しているのはその卵そのものであり、卵自体が光りを放っているのではなく、中にいる何かが強く発光しているようだ。



「これは……!?」



 思わずソージは立ち上がり卵に近づく。そしてそ~っと卵に手を触れる。



(温かい……)



 卵から命の温かさを感じ、ホッと息をついていると、その瞬間―――――――



 ――――――――――――ピキ。



 卵にヒビが入る。しかし突然発光が弱々しくなり始め、ヒビもそれ以上は生まれない。ソージは卵から急激に生命力が失われていくような力を感じて、死を連想させた。咄嗟に癒しの効果を持つ緑炎で卵を包む。



「諦めるな……フェニーチェ……君の世界はこれからだぞ!」



 言葉を投げかけて魔法を使い続けるが、やはり発光は次第に卵の中心へと小さくなっていき、プツンと水をうったように静寂が支配した。

 ソージは絶望を感じた。やはりフェニーチェの卵を孵らせるのは無理だったのかと…………もう冷たくなってしまった卵を悲しげに見つめる。



「いや、まだできることはある!」



 ソージはヒビが入った場所から緑炎を流し込む。確かにもう卵からは先程感じた強い生の力は感じない。だがまだ中にいるフェニーチェが死んでしまったと決まったわけではない。



「生まれてこい……生まれてくるんだ……そしてオレに君がはばたく姿を見せてくれ!」



 ソージは両手から大量の緑炎を具現化して文字通り卵すべてを温かく包み込む。



 ―――――――――ぽわ。



 刹那、卵の中心に、ほんの小さな灯を感じた。すると目を覆うほどの発光現象が起こり、



「チュイ~~~~~~ッ!」



 卵の殻を破り捨てて、中からバスケットボールほどの大きさである赤い羽毛を身に纏った鳥が姿を現した。まん丸姿でとても愛らしい形をしていて、瞳に一切の曇りなどなく煌めいていて見ているだけで和みを与えてくる。まさに癒しのチャーミングアニマルである。



「お……おお……おおっ!?」



 思わずソージは喜びに打ち震え生まれたフェニーチェを抱きしめていた。



「チュイチュイ~!」



 フェニーチェも何だか嬉しそうで黄色い(くちばし)をパクパクさせながら喜んでいる。その時、扉をノックする音が聞こえる。



「ソージ? どうかしたの?」



 ヨヨの声だった。ヨヨの寝室とは隣同士なので、ソージの声が大きかったために起こしてしまったのだろう。

 しかしソージは今の感動を一刻も早くヨヨや屋敷の者たちと分かち合いたいと思い、



「入って下さいお嬢様! フェニーチェが! フェニーチェが!」



 カチャリと扉が開き、



「フェニーチェがどうかした……の……」



 ヨヨもソージの腕の中にいるフェニーチェに気づいたようで固まっている。そしてそこに真雪たちも起きたようでやって来た。



「ああ、皆さん、紹介します! この度、産まれたフェニーチェです!」

「……チュイ」



 ソージの紹介に答えるように不安気に小さく鳴くフェニーチェ。大勢の人間が怖いのかもしれない。ソージが身体を擦ってやると気持ち良さそうに「チュイ~」と鳴いていた。



「ソ、ソージ? それじゃ本当に?」

「ええお嬢様、今産まれたんです。新しい家族ですよ!」

「そう、それは良かったわね。でも大声ではしゃぎ過ぎよ」

「あ……す、すみません」



 もう夜更けだったことをすっかり忘れていたソージ。



「わ~可愛い! 小鳥さんだ小鳥さん! ぬいぐるみみたい~」



 真雪は目が覚めるような甲高い声で近づいてくる。そしてソージのように撫でようとするが、フェニーチェは羽をバタバタと動かして真雪の手を払いのける。



「ええ~もしかして嫌われてるの~?」



 どうやらフェニーチェは産まれたばかりなのでソージ以外の人間に触られるのが嫌のようだ。



「フフフ、ここはお母さんである私に任せてマユキ!」



 何の自信があるのか、ソージの母親であるカイナがキメ顔で近づいて来て手を伸ばす。しかし手の甲を嘴でグサッと刺されて、



「ふえぇぇぇんっ! 私の柔肌(やわはだ)がぁぁぁっ!」



 どうやら母親でも無理だったようだ。



「どうやらソージにだけしか心を開いていないようね。俗に言う刷り込みというものかしら」



 ヨヨが腕を組みながらフェニーチェを見つめて説明をする。



「刷り込みぃ……?」



 カイナが涙目で尋ねると、



「刷り込みというのは産まれたばかりの雛が初めて見る存在を親として認識する行為よ」

「へ? つまりはソージはその子のパパになっちゃったってわけですか?」

「そうなるわね。それにフェニーチェは元々猜疑(さいぎ)心が強い生物だから、産まれたばかりで他人に気を許すような行為はしないわ」

「う~ナデナデしたかったよぉ~」

「諦めなさいマユキ……母親の私でもダメだったんだから……ああ、手が痛い」



 カイナが拒絶されたことに相当ショックを受けているのかガックリと落ち込んでいる。するとフェニーチェがソージに向けて口をパクパクと動かし始めた。



「も、もしかしてお腹減ってるんですか?」



 コクコクとフェニーチェが首肯する。



「えっと……確かフェニーチェの主食って……」

「火よ」



 ソージの言葉に追加したのはヨヨだ。続きもヨヨが話す。



「もちろん虫や魚なども食べるけど、彼らの大好物は火よ」

「それならこれでどうですか?」



 ソージは右手から紅蓮の炎を創り出す。するとフェニーチェは目を輝かせて飛びつくように炎を口に吸い込んでいく。

 ドンドンと吸い込まれていく光景は圧巻だった。その小さな身体にどれだけの炎を食べるのかと皆が呆気にとられている。



 また毛並も徐々に艶々と色づいていき、まさにルビーのような輝きを放ち始める。そしてしばらくすると満足したように小さなゲップをして、パタリとソージの腕の中で眠りについた。



「ふふ、お腹がいっぱいになって眠ったようね。でもさすがはフェニーチェね。《大火(たいか)(おおとり)》と呼ばれるだけはあるわね」

「あ、あの想くん、今なら触ってもいいかな?」

「あ、ずるいわよマユキ! ソージの子供に一番先に触るのは私よ! だって母親だもの!」



 母親押すなぁ……と、カイナに呆れるソージ。真雪だけでなく、背後にいるセイラも触りたそうにしているのは分かっていた。しかしヨヨが溜め息混じりに皆に言う。



「いいから今日は解散よ。嫌がっている相手を無理矢理触る行為は認められないわ」

「「え~」」



 真雪とカイナが仲良く不満を声に漏らす。



「あなたたち……給金下げるわよ?」

「さってと、私はメイド長。メイドとして主の命を遂行しますわ! おほほほほ!」

「え? あ、ちょっとカイナさ~ん!」

「ほら行くわよマユキ、朝早いんだからさっさと寝ましょう!」



 やはりヨヨ。カイナの扱いは熟知しているようだ。



「すみませんでしたヨヨお嬢様、騒がしくしてしまって」

「ふふ、いいのよ。私も家族が産まれたのは嬉しいわ。大事にしてあげなさいソージ」

「はい」

「ではね、おやすみ」

「おやすみなさいませ」



 ヨヨは静かに扉を閉めると自分の部屋へと帰っていった。



 ソージは腕の中の温もりに心地好さを感じる。フェニーチェの卵が孵る確率はとても低い。それなのにこうして産まれてきてくれたことに本当に感謝している。

 だからこそ、ソージはこの子が成長して、いつか大空をはばたく姿を見てみたいと思った。



 ソージはベッドに横になり、傍にはフェニーチェを寝かせた。明日から世話が大変かなと思いつつも頬が緩むのを感じる。そしてそのままフェニーチェと一緒に夢の中へと旅立っていった。





 翌朝、窓から射す光を受けて覚醒したソージ。だが何だか身体が重い。もしかしたら風邪でも引いたかもしれないと思いゆっくり身体を起こそうとするが、眼前に入ってきた衝撃的光景に思わず、



「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?」



 屋敷中に轟くような叫び声を上げてしまった。



 それも無理はないだろう。何故ならソージの上にあるものが乗っかっていたからだ。しかもそのあるものが眠たそうに目を(こす)り、そしてソージを視界に捉えると嬉しそうに微笑む。



 そしてギュッと抱きしめてくる。………………真っ裸で。



 そしてにこやかに言葉を発してきた。



「おはよう、パパ」



 …………何が起こった!? 




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