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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第一章 転生執事編
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第八話 探し人を求めて

 【ラスティア王国】では盛大なパレードが開かれていた。それは魔族の統率者を倒した英傑を祝ってのことだった。

 民たちは皆が大手を振って、真雪たちの凱旋を喜んでいた。しかし真実を知っている真雪は正直にそれに応えることはできなかった。 



 何故なら統率者を倒したのは自分たちではないからだ。行ったら全てが終わっていたのだ。確かに平和になるのは嬉しいが、自分たちの功労でもないのに、素直に喜べるはずもない。



 それはセイラも同様のようで、不安そうに真雪の傍にずっと居た。ただ一人、和斗だけは、棚からぼた餅、だと思っているのか、上機嫌に微笑み観衆に手を振って応えていた。主に女性に向けてだが。



「ほら、君たちも皆に応えてあげなよ!」



 和斗は言うが、二人は顔を見合わせ苦笑気味に笑みを浮かべると、仕方無く手を上げた。するとさらに大きくなる歓声。

 出迎えてくれたラスティア七世は見るからに気分が良さそうだった。それはそうだろう、何といっても自国が召喚した英傑が、見事皇帝の勅命を遂行したのだから。



 これで皇帝からの信頼も更に厚くなるに違いない。ラスティア七世が嬉々とした表情をするのは至極当然だった。

 ラスティア七世は真雪たちもパーティに参加してほしいと言ったが、真雪は長旅で疲れているからとまた今度と言って部屋へと帰らせてもらった。その後にはセイラもついていった。



 ラスティア七世も英傑のそんな申し出を無下にできず、あっさりと了承したようだ。

 用意された部屋に戻った真雪とセイラは、しばらく沈黙を続けていた。そんな沈黙を破ったのはセイラだった。



「と、ところでこれで元の世界に戻れるのですよね!」

「…………」

「統率者を倒すまでに、ラキさんが元の世界に戻れる方法を見つけて下さると仰っていたので、きっともうすぐ……」



 セイラは努めて明るく振る舞い、いまだに黙り込んでいる真雪を気遣っていた。しかし真雪の表情はずっと何かを考えているように固まっていた。



「……ま、真雪さん? 先程から一体どうされたのですか? やはり皆さんに嘘をつくのは辛いとか……でしょうか?」



 真雪が元気無いのは、自分たちが統率者を倒したわけではないのに、勘違いした国民からチヤホヤされることに疑問を感じているからだろうかと思っているのか、不安そうにセイラが尋ねると、ようやく真雪が口を開く。



「ううん、そうじゃないよ。……それもあるけど、私が気になっているのは統率者を倒した人のこと」

「え……あ、そう言えばあの方はどなただったのでしょうか? とても強そうでしたが」

「…………」

「……真雪さん?」



 すると真雪はポケットからあるものを取り出しセイラに見せる。



「ミサンガ? あ、切れていますね?」

「うん、ねえセイラ、ミサンガって願い事が叶えば切れるんだよね?」

「まあ、そういう(いわ)れはあるようですね」

「そう……願い事が叶えば…………切れるんだよ」

「……っ!? ……まさか真雪さん、何かお願い事が叶ったのですか?」



 セイラはハッとなって聞く。



「…………言ったでしょセイラ。私の、ううん、私たちの願いはただ一つ」

「あ……で、ですがそれは……えぅ」



 セイラは瞬間的に陰りを表情に宿す。だが真雪は続ける。



「……ねえ、もし、もしもだよ。本当に願いが叶ったかもしれないって言ったら……どうする?」

「……え? あの……ど、どういう意味でしょうか?」



 真雪はジッと困惑気味のセイラの瞳を見つめる。



「あのね、あの赤い髪の人の声…………似てたんだ。ううん、似てたなんてものじゃない。……同じだったんだ」

「お、同じ……?」

「そう…………同じだった……同じ声だった…………想くんと」

「っ!?」



 セイラは吃驚して口を開ける。



「それでね、その時、このミサンガが切れたの」

「え、でも……え?」

「うん、自分でも何言ってるのか分かってるよ。そんなことはありえないって。でも……でもね、何か感じたんだよ。あの人は…………きっと私の知ってる人だって」

「真雪さん……」



 ミサンガを強く握りしめながら両手を震わせている真雪を見つめるセイラ。



「分かってる。分かってるよ。想くんは死んだんだもん。ましてやこの世界に居るわけがない……分かってるけど」



 そしてポタポタと真雪の両眼から涙が零れ落ち、ミサンガに落ちる。



「やっぱり会いたいよぉ……想くんに……」



 今まで堪えてきた思いが、爆発したように涙となって溢れ出てきた。そんな真雪を見て、セイラは何かを決意したように小さく頷く。

 そして真雪の手に自分の手を重ねる。



「では確かめてみましょう」

「……え?」

「あの方が本当に朝倉さんなのかをです」

「だ、だってそんなわけ……」

「だから確かめるのです! 幸いまだラキさんも送還について発見していないようですし」

「……そ、そんなことしてもいいのかな?」

「いいのです! だって今やセイラたちは英雄です。確かに統率者は倒していませんが、それでも結構お国のために貢献したと思います! 少しくらいの我が儘は許されていいはずです!」

「それじゃ国王様に頼んで?」



 しかしセイラは首を横に振った。



「いいえ、あの方は仰っていました。自分のことは忘れて下さいと」

「そう言えば……」

「そしてすぐさま逃げるように出て行かれたことからも、恐らくあの方は自分の行いを公にしたいとは思っていないと思われます」

「な、なるほど」

「ですから、その方にも迷惑をかけないためには、セイラたちだけで動く方が良いかもしれません。国王様にお頼みすると、どうしても大げさになりそうですから」



 それはそうだ。何といっても英雄が探している人物だ。頼んでしまったら大々的な捜査になってしまうかもしれない。秘密裏にと頼んだとしても、その人の素性は調べ尽くされ、その人の迷惑になってしまうかもしれない。



「……すごいねセイラ、やっぱり頭良い」

「えぅ……照れちゃいます」



 セイラは頬を染め上げて照れ笑いを浮かべる。



「うん、でもありがと! セイラも手伝ってくれるの?」

「もちろんです! もし本当にその方が朝倉さんなら、セイラの本懐でもありますから」



 そう、彼女もまた会って助けてもらった礼をしたいのだ。



「……うん、分かった」



 真雪は力強くミサンガを握ると、セイラを顔を合わせて両者ともに頷いた。



「見つけましょう真雪さん! そして確かめましょう!」

「うん、そうだね。違う人……かもしれないけど、可能性はゼロに近いだろうけど、私はあの人にもう一度会わなきゃいけない気がする!」



 パーティが終わってメイドが真雪たちの部屋に様子を見に来ると、そこはもうもぬけの殻であり、一枚の書置きだけがあった。



『私用のため、出かけてきます』



 その紙を見たラスティア七世と二ノ宮和斗は愕然としていた。





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