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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第三章 再会と卵編
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第七十五話 通すべき筋

 真雪が胸を隠して怒鳴ったので、理由が分からず声を上げてしまったソージ。



「フェム、こっち来て! ほら、セイラも!」

「あ、はい!」

「ちょ、ちょっと引っ張らないでよマユキ!」



 三人が部屋から退室していった。途中洗面室はどこですかと真雪がメイドに聞いている声が聞こえたので、どこに向かったのかは分かる。



「う~ん、何でオレは怒られたんでしょうか?」



 本気で分からず首を捻るソージ。だがヨヨは呆れたように溜め息を吐く。



「大方、《覇紋》が刻まれているのが、男性には見せにくい場所なのでしょ? それくらい紳士なら察しなさいソージ」



 咎めるような言い方だが、確かにそれなら理由に説明がつく。真雪が胸を隠したことからも、恐らく彼女の言う《覇紋》は胸周辺に刻まれているのだろう。



「反省します。ところでお嬢様?」

「何?」

「《覇紋》は十傑それぞれ違うらしいですが、刻まれる場所もそれぞれ異なるんですか?」

「そうよ。かつての英傑が生まれながらにして身体に刻まれていた奇妙な紋様。それが《覇紋》よ。そしてその魂を受け継ぐ【英傑器】もまた、その場所に紋が刻まれるらしいわ」

「なるほど……」



 それでは真雪のあの豊満過ぎる胸のどこかに……



(左か? それとも右? もしくはた、谷間……とか? いやいや、おっぱいの下に隠されているということも考えられるか……是非見てみた……い)



 ヨヨから異様な雰囲気を感じて視線を向かわせると、明らかに軽蔑したような瞳を向けられていた。



「まさかソージ? マユキの《覇紋》を直に見たいとか思っていないわよね?」

「も、もちろんじゃないですか! 嫌ですねお嬢様。私は紳士ですよ? それに執事長です。いかがわしいことに時間を割いているわけには……」

「あら、いつも家族にはオレと名乗るのに、何故今は私と言ったのかしら?」



 数秒前のオレのバカ! 何さらっと失敗してんだよ!



 そんな叱咤を心の中で叫んでいると、部屋に真雪たちが戻って来た。



「あら、お帰りなさい。どう? あったかしら?」



 ヨヨの意識が真雪たちに移動したのでホッと胸を撫で下ろしたソージ。



「ええ、二人とも確かにあったわ。驚いたわよ、まさか本当に【英霊器】だったなんてね」



 フェムは大げさに肩を竦めると席に座った。そして今度はソージをジ~ッと見つめてきた。



「な、何です?」

「でもソージが転生者とかいう話はいまだに信じられないわね」

「あら、うちのソージが嘘をついているとでも?」



 反論したのはヨヨだった。



「むぅ……そうじゃないけど……だってねぇ……」



 彼女が訝しむのも無理はない話だ。誰だって証拠もなくソージの話を信じることはできないだろう。カイナだって最初は全く信じていなかったのだから。だがヨヨがソージが嘘をついていないことを教えた。



 ソージもまた嘘をついていないかヨヨの『調律』魔法を使ってでも調べてもいいと言った。しかしすでにヨヨはソージが告白する前にソージが前世の記憶を持ち合わせていることは知っていたのだ。



 それは何故か? ソージにヨヨが初めて『調律』魔法を使った時、その時にソージの意識とヨヨの意識は交わったのだ。

 その時にソージの持つ記憶もヨヨへと伝わった。ソージは気づいていなかったが、ヨヨはその時からすでにソージが前世の記憶を持っていることに気づいていたのだ。無論詳しく覗いたわけではないから細部までは分からなかったらしいが。



 だがその話を聞いた時、さすがのソージも驚いたものだった。だがだからこそヨヨが証明にもなってカイナも信じることができたのだ。



「ま、まあ転生者であろうとなかろうと今はどうでもいいですよ。ここにいる私が私ですから」



 ソージはニコッと笑顔を作ると、フェムもまた「それもそうね」と気軽に答えてくれた。こういうさっぱりとした彼女の気質には好感を抱く。



「さて、ソージとマユキたちの繋がりについてはいいわね。それでソージ? 彼女たちをここに連れてきた理由を聞きましょうか?」

「はい。お嬢様ならお察しだと思いますが、彼女たちはこちらで働きたいとのことなのですが」

「やはりそうなのね」



 ヨヨは日本人のような黒い瞳を真雪とセイラに向ける。二人もまた目を逸らさずにジッと見返していた。そしてふとヨヨが視線を切る。



「……いいわ」

「お嬢様……」



 許可してくれたヨヨにソージは笑みを溢すが、ヨヨが人差し指を立てる。



「だけど、聞けばあなたたちを追って【ラスティア】の者が来るらしいわね。そのことについてはどう考えてるのかしら?」



 ヨヨの言う通り、そこは放置しておけない問題でもある。【ラスティア王国】にとって【英霊器】はステータスだ。それも膨大な利益を生む存在。早々手放すつもりはないはずだ。



「さすがに国と事を構えるのは嫌よ。今のところはね」



 ヨヨが答えを求めるように真雪に視線を向ける。真雪とセイラは顔を見合わせ確かめるように頷く。



「それは、ちゃんと話します。迷惑はかけません」

「…………もし無理矢理にでも連れ去ろうとしたら?」

「その時は、きっぱりがっつり拒否します!」

「……そんなことできるのかしら?」

「できます! だって想くんの傍にいたいもん!」

「真雪……」

「セイラだって言ってくれた……ようやく会えたんだもん。離れたくなんかないよ。ね、セイラ?」

「はい。セイラだって朝倉さんにはお返ししてもし切れない御恩があります」

「星守さん、それは気にしなくてもいいんですよ?」 



 ソージは元々気にしてはいないのだから。しかしセイラはブンブンと頭を振る。



「いいえ! セイラがお返ししたいのです! それではいけませんか!」



 ウルウルと瞳を潤ませる少女を否定することなどソージにはできない。



「その御恩をお返しするまでは元の世界へは帰れません!」



 セイラの強い意志は本物だった。気弱な少女の印象が強かったが、どうも反論しても無意味だとソージは悟った。

 その中、ヨヨが静かに口を開いた。



「……子供ね、あなたたち」



 真雪とセイラに向けられた言葉は辛辣なものだった。



「確かに問答無用で召喚された立場であるあなたたちにも理はあるわ。だけど、一度あなたたちは国に忠誠を誓ったのではなくて?」



 そう、真雪たちは召喚されてから、国のために働くこと、つまり魔族の統率者を倒して平和を手に入れることを誓っていたのだ。



「それなのに勝手に出てきて、事情を何も知らない国の手の者が来たら追い返すだけ? それはあまりにも短絡で幼稚な回答よ」

「だ、だって!」

「聞きなさい」

「あ……」



 真雪に言葉を挟む余地を与えないヨヨ。



「別にここにいてはいけない。住んではいけないと言ってるわけではないわ。これからもね」

「え……?」

「ただ、筋を通しなさいと言っているの」

「す、筋?」

「ええ、もう魔族の統率者はいない。【ラスティア王国】に課せられた任務も終わった。だけどそれでもまだあなたたちは国の従者ということになっているのよ」

「…………」

「もしここに住み続けるのであれば、国の手の者が来た時に一緒に帰って、国を出る許可を得てきなさい。ちゃんと話すということは、そういうことよ」



 ヨヨの一部の隙もない正論に真雪とセイラは何も言えず顔を俯かせる。確かにヨヨの言う通り、ただ追い返すだけでは第二、第三の追っ手がやって来る可能性は大。もし勢いで戦闘にまで発展したらそれこそ大事である。

 ここは国王と話をして、ケジメをつけることが筋なのは間違いないだろう。



「国王もあなたたちを誘拐した手前、無理は言えないはずよ。簡単には納得しないでしょうけど、そうなった場合、私からも身元引受人証明は申請しておいてあげるわ。もしそれでも向こうが力を以てあなたたちを拘束するようなら……」



 ヨヨがチラリとソージの顔を見る。



「恐らく、ソージが動くと思うわ。そうでしょ、ソージ?」

「ええ、大切な幼馴染を悲しませるなら、そんな国ぶち消しますよ」



 にこやかに怖いことをさらりと言い放つソージ。



「想くん……」

「朝倉さん……」



 二人は感動しているのか嬉しげにソージを見ていた。そんな熱い視線を見られるとさすがに照れるソージだった。



「だからあなたたちは、安心して国へ戻りなさい。もちろん、国の手の者が来るまでは自由に過ごしていいわ。あ、もちろん仕事はしなさい」

「「は、はい!」」



 二人が返事するとヨヨは誰もの目を引くような綺麗な笑みを浮かべて、「良い返事ね」と言った。



「では、仕事はカイナに聞いてちょうだい」

「あ、カイナっていうのは私の母ですから」

「そ、想くんのお母さん!? ど、どんな人!?」

「えっと、会ったことあると思うぞ? 【シンジュ霊山】でも一緒だったし」

「あ~!? まさかあの時の赤い髪の綺麗な人!?」

「まあ、綺麗かどうかはともかく、酒好きサボり好き、ぐうたら好きのダメな母親ではあるぞ?」

「ん~誰が酒好きでサボり好きでぐうたら好きのダメな母親なのソージ?」

「か、母さんっ!?」



 突如として背後に現れた女性。その人物こそがカイナその人だった。



「もう! ソージったら! こ~んないつまでも若くて美人な女を捕まえて、まるでオッサンの解説みたいな紹介やめてくれる?」



 プンプンと頬を膨らませるカイナだが、確かにオヤジには見えない。見た目は二十代後半のイケてる女性なのは間違いない。



「あ、あのあの! 想くんのお母さんですか!」

「うん、そ~よ~! あ、だいじょ~ぶよ! 話は聞いてたから! きゃ~あなたも可愛らしいわねぇ~!」

「ええっ!?」



 突然カイナが真雪を抱きしめる。そしてその視線がセイラにもいく。



「ん~あなたも何だか透明感のある美少女って感じで可愛いわ~!」

「えぅっ!?」



 セイラにも抱きつきだした。ソージは頭を抱えるしかなかった。



「母さん、少しは自重して下さい」

「ぶ~いいじゃないのよ~! 可愛いは正義なのよ~! それにこれから一緒に働くんでしょ? スキンシップは大事だと思うの? どうかしら? ね? ね?」

「えっと……は、はい」

「えぅ……えぅ……」



 カイナの勢いに負け、二人は成す術もなく撃沈してしまった。実はカイナは娘も欲しかったようなのだ。しかし残念ながらソージ一人しか子供はいない。

 だからこそ、女の子、特に可愛らしい子には目がないのだ。



(真雪、星守さん、これから大変だろうけど……頑張れ)



 心の中でソージは二人にエールを送った。




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