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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第三章 再会と卵編
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第六十九話 謎の男

 今ソージは二人の少女を前にして何故か正座させられていた。



 ……え? この状況は?



 そんな思いが先程から何度も何度もグルングルンと脳内を駆け巡っている。



「それで? 卵を探しに出かけただけで、どうしてフェムの裸を見ることに繋がるのかしらソージ?」

「そうだよ想くん! 女の子の裸はそんな簡単に見ていいものじゃないんだよっ!」



 ヨヨと真雪が、知り合いでもない癖に、見事に息を合わせて突っ込んでくる。その様子を見て、フェムもさすがに悪いことをしたと思っているのか、若干狼狽(ろうばい)している。



 やはり少しからかうつもりで大げさに言ったのだと、その様子で理解はできるが、裸を見たのは間違いないので根本的解決にはならないのだ。

 真雪の連れらしい少女も真雪を止めようとしているが彼女の勢いについていけず「えぅ……」と可愛らしく戸惑っている。それにしてもあの子は誰なんだろう?



「ちょっと聞いてるの想くん!」

「え? あ、うん聞いてる聞いてる」

「もう! せっかく会えて嬉しいのに、何で想くんは女の子の裸をいやらしい目で見てたの!」

「ち、違う! いや、見てたのは違わないけど」

「じゃあ、ラッキーとか思わなかったの?」

「いや、ごちそうさまって思って……ってしまったっ!?」



 つい誘導尋問にかかってしまい男の性を曝け出してしまった。真雪は爆発するのではないかと思うくらい頬を膨らませている。



「へぇ、ずいぶん仲が良いみたいだけれどソージ? あなたは自分の立場を理解しているかしら?」

「ヨ、ヨヨお嬢様……それはもちろん……」

「ではごちそうさまって何かしら?」

「………………………………男の叫び」

「はい?」

「いえっ! 全面的にオレが悪いですはい! もうしわけございませんでしたぁっ!」



 駄目だ。ここで言い訳などしていたら一向に状況は良好に向かない。むしろ悪化するだけだ。ここは謝罪一辺倒が正しいと判断しソージは土下座を繰り返した。



「もう! 子供の頃の想くんはそんなことしなかったのに! ヘンタイさんになっちゃったとか幼馴染として嫌だよそんなの! そもそも想くんは――――――」



 というよりできれば真雪が何故ここにいるのかそろそろ確かめたいのだが、いまだにガミガミ上から言葉のシャワーが止まらないので、しばらく我慢することにする。

 下が固い地面なのでソージは膝にかかる痛みに耐えて、早く終わらないかなと思っていると、背後からこちらに向かって殺気が飛んでくるのを感じた。

 すぐさまソージは立ち上がり、目の前にいる二人を抱えてその場から脱する。



「えっ!? ソージ!?」

「な、なになにっ!?」



 二人は突然のソージの行動に理解不能の表所を宿していたが、先程まで自分たちが居た場所に細剣が突き刺さっているのを見て、ソージが助けくれたことを知る。

 他の者も仰天したような表情をしているが、ソージはすぐさま意識を集中させ殺気の正体を探る。



(……あそこか)



 右後方に存在する木の陰から僅かな殺気がまだ残っていた。



 ソージは二人から手を離すと、左手を木の方に向けると白炎を飛ばす。瞬時に生み出された白炎が目標に向かい、木ごと呑み込もうとするが、その瞬間、そこから上空へと人影が跳び上がった。

 そのまま人影が一本の木の上に立ち、ジッとソージたちを見下ろしていた。ソージはすかさず白炎を自分のもとへ戻し警戒を高める。



 相手はボロボロの赤茶色いローブを全身に纏っている。だが顔だけはハッキリと確認できる。せっかくの陽射しに生えている美しい銀髪なのに、パーマでもかけたようにチリチリに癖っ毛な様相なので、少し残念な髪型になっている。



 目つきはナイフのように鋭く、まるで自分以外の存在全てがゴミと考えているような見下した目をしている。歳の頃はソージよりは上だろう。二十代前半くらいに見える青年だった。

 額に赤いバンダナを巻いているのも白い肌と比較してよく目立っていた。



(……何者だ?)



 ソージは反射的に皆がいる場所を把握することに努める。誰が狙われても対処できるようにしておくつもりである。

 冷ややかにこちらを見下ろしている男にソージが声をかけようとすると、



「…………さま」

「え?」



 ソージの耳に微かに届いたフェムの声。思わずそちらに意識を集中してしまった。すると男から何かがソージに向かって放たれてきた。それは数本のナイフだ。しまったと思ったソージだったが、



「――――――――召樹!」



 バキィッと地面を貫いて一本の樹が、ソージの眼前に姿を現し、ナイフ全てを防いだ。見ると真雪が地面に手をついていた。



「真雪、お前魔法が!?」

「うん! これでも【英霊器】だからねっ!」



 【英霊器】という言葉にソージとヨヨは二人して反応をしたが、今は真雪のことよりも目の前のわけの分からない脅威だ。

 すると確かに男から呟きが届く。



「……【英霊器】? なるほど合点がいった。これが噂の《樹の覇王(ジュピター)》だったか」



 確かめるように真雪が創り出した樹を睨みつける男。そしてその視線がソージの方に向く。



「だが貴様は何だ? 俺の人形をああも簡単に消し去るとは……まさか貴様も【英霊器】? いや、そんな力を持つ英傑は過去にいなかったはずだ」



 ブツブツ自問自答しているようだが、ソージは男を放置しておけない人物と断定して左手を向ける。



「何だか分かりませんが、人を殺そうとした以上、殺されることは覚悟してもらいましょうか?」



 ソージの発言と迸る殺気に真雪は目を見開いている。そして悲しげに瞳を揺らす。



「喰らい尽くせ、白炎」

「……少し分が悪いか。貴様とはまた今度だ、赤髪」



 そう言うと、男の背後の空間に亀裂が走る。驚くことにその亀裂に吸い込まれるようにして男が消失した。ぶつけた白炎も空を切っただけで、手応えは一切感知できなかった。



「……逃げられましたか」



 魔力を感じたので魔法で逃げたのだろうが奇妙な魔法だった。だがとりあえずヨヨの脅威が去ったことで安堵した。



「皆さん、お怪我は……」



 ソージが背後にいるヨヨたちを案じて言葉をかけようとすると、一人だけ明らかに普通ではない様子の者がいた。……フェムである。

 顔を青ざめさせ、小刻みに身体も震わせていた。そして小さな声で「生きてた……生きてたんだ……生きてた……生きてた」と呪詛のように何度も繰り返している。



 その様子にただならない関係があると推察はできたが、とりあえず落ち着かせることが第一だった。ソージは楽々収納能力の紫炎を創り出し、そこから一つの水筒を取り出す。

 カポッと蓋を開けて、その蓋に中の液体を注いでいく。静かにフェムに近づくと、微笑みながら蓋を差し出す。



「このような場所で飲むハーブティも、結構オツなものですよ?」

「あ…………ソージ」



 ソージは黙って軽く頷く。すると強張っていた彼女の表情がスッと緩み、蓋を両手で掴んだ。



「あ、ありがと……」



 ズズズッと喉を潤すフェム。そして頬を少し上気させながら温かい息をゆっくりと吐いた。



「落ち着かれましたか?」

「え、ええ……悪いわね、気を遣わせちゃって」



 眉を寄せて所在無に苦笑を浮かべるフェム。



「いえいえ、あんなフェムさんもまた一興ですよ?」

「…………ソージ、アナタやっぱり性格悪いわ」

「あはは、よく言われます」

「……はぁ。…………聞きたい?」



 彼女は上目遣いでそう言う。



「話して頂けるのですか?」



 フェムは溜め息をもう一度吐くと、顔を上げて二、三歩前に進む。だがすぐに顔を俯かせてしまう。



「……もう少し、待ってもらっていい?」



 どうやらかなり込み入った事情がありそうだが、ソージはヨヨの判断を仰ぐだけだ。ヨヨの方に顔を向けると、彼女はフェムに対して口を開いた。



「別に構わないわ。このようなところで話すような無いようでもなさそうだし、屋敷に帰ってからでも問題無いわよ」

「……悪いわね」



 ここで強制するようなヨヨではないことは知っていたが、やはりヨヨの判断はソージにとっても嬉しいものだった。人を気遣える者は、この世界では珍しいのだ。

 貧富の差が激しいこの【オーブ】では、そういう人の温かさなどが失われつつある。だからこそ、ヨヨの温かさを知るとやはり穏やかな気分になるのだ。



 これで一つの問題は保留にできたが、ソージにとって最大の問題がまだ残っている。ソージはようやくゆっくり会話ができると思い、懐かしい幼馴染の顔をじっくりと見つめる。



「お前のことも聞かせてもらうぞ真雪」

「うん。でも想くんのこともね!」



 彼女の言い分も尤もだろう。日本で死んだ想二が、何故異世界でソージになっているか気になるのは当たり前だ。いろいろ疑問に思うことがたくさんあるが、とりあえずここに乗ってきた馬車へと皆で向かった。




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