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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第三章 再会と卵編
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第六十五話 無邪気にコロリ

「ふぅ~へへ、鳥のクセして舐めんなよ。俺は《火ノ原流》の刃悟・藤堂様だぜ!」



 そこへ彼の相棒である善慈・青峰が姿を現す。



「ま~ったく、ここをこんなにして。一応文化的に価値のある場所なのよ?」

「へん! んなもん知るか! 襲ってきたコイツらが悪い! 自己防衛したまでだ」

「過剰防衛って言われなきゃいいけど……ってあら?」

「ん? どうした?」



 善慈が何かに気づいたように刃悟の背後を見つめていたので、刃悟も同じように顔を向けると、そこには一人の少女が刃悟の方へと向かって来ている様子が映った。



「誰かしら?」

「さあな、つうか何でコッチに来てんだ?」

「知らないわよ?」 



 二人は同時に首を傾け、少女がやはり刃悟たちの方へと向かって来ていると確信し、とりあえずその場から動かずに待っていた。

 そしてその少女が刃悟の前でピタリと足を止めた。何故か彼女の身体が震えていたが、その理由は刃悟には分からない。すると突然、少女が顔をバッと上げる。その目に浮かび上がった憤怒を見て、刃悟は虚を突かれる。そして    



 パッチィィィィィンッ!



 乾いた音が刃悟の頬から鳴った。突然だったことと、かなりの威力に刃悟は尻を地面についた。



「っってぇぇぇっ!?」



 刃悟は真っ赤になった右頬を擦りながら、目を吊り上げて立ち上がる。



「テ、テメエ! このアマ! 急に何しやがんだっ!」



 すると少女はビシッと刃悟を指差して答える。



「君のせいなんだからねっ!」



 少女の言葉に刃悟は意味が分からず固まってしまった。












 真雪は怒りを抑えることができなかった。無論相手の少年は、真雪たちが《チェスモモ》を求めていることなど知らないだろう。彼が逃げ道へと選び、結果的に潰してしまったものが《チェスモモ》の木だということも知らないかもしれない。



 だがそれでも彼のせいでせっかくの《チェスモモ》の木が軒並み倒壊されて、思わず真雪は彼に怒りをぶつけてしまったのだ。

 当然少年は頬を叩かれたことに憤りを覚えていて目が吊り上がっている。しかし真雪が手を出したにも拘らず、少年は怒鳴り散らすだけで実際に手を出しては来ない。



「何が俺のせいなんだよっ! つうかテメエ誰なんだコラァ!」



 額縁通りのチンピラ言葉を吐く少年に、我に返ったようにハッとなる真雪は、叩いた手を引っ込めると、顔を俯かせてしまう。



「……ご、ごめんなさい……」

「名前言え……って……へ?」



 突如しおらしく謝った真雪に気が抜ける少年。



「で、でも……だって……うぅ……」



 彼は何も知らない。だけど許せなかった。それでもやはり叩いてしまったのはやり過ぎかもしれなかったという思いが真雪の脳内を駆け巡り混乱を引き起こす。

 考えてみれば、結構理不尽なことをしてしまったのだと思った真雪は恥ずかしさから頬を染めてチラチラと上目遣いで少年を見ながら再度呟くように謝る。



 だがその真雪の様子に何やら脳天から雷が落ちたような表情をした少年は、彼もまた頬をうっすらと染め上げて真雪を見つめている。



「カ……カワイイ……」

「……へ?」



 何やら少年が何か言ったようだが聞き取れず目を見つめる。すると少年は顔からボフッと湯気を出すと真雪に物凄い勢いで背中を向ける。



「な、何でもねえっ!」



 キョトンとする真雪の傍にセイラが駆けつけてくる。そして少年の方もまた、大柄な男が彼に近づいてきた。

 冷静になった真雪は、何故少年を叩いてしまったのか彼らに話した。少年は背中越しに話を聞き、主に聞き手役として大柄な男が受けていた。



「ん~なるほどねぇ。確かにここら辺は《チェスモモ》の密集地帯だったみたいだけど…………見事に崩壊したわねぇ」

「う……」



 大柄な男の言葉に、真雪たちの状況を聞いた少年も自分のしたことが結構大事だったことに気づきバツが悪そうな表情を浮かべる。



「し、仕方無いです。あなたたちは知らないことでしたし、それに私も勢いで叩いちゃったし……あ、あの、まだ痛みとかありませんか?」



 真雪が少年に近づきグイッと顔を寄せると、少年はかなり慌てた様子で距離を取る。



「だ、だだだだ大丈夫に決まってるだろ! あ、ああああんな攻撃で俺がやられるとでも思ってんのかよ!」

「攻撃って……何言ってるのかしら刃悟は?」



 大柄な男は呆れるように溜め息混じりに言う。



「ジンゴ?」

「あ、そうね。これも縁だし、自己紹介するわね」



 そうして大柄な男である善慈から、黒髪少年の刃悟のことを教えてもらった。そして真雪たちも、彼らが漢字を名前に使う国の出身だと聞いて、真雪たちも漢字で自分たちのことを教えた。



「へぇ、真雪・天川って言うのねぇ。ということはあなたたちも【日ノ国】出身なのかしら?」

「えっと……」



 言い渋っていると、善慈はフッと頬を緩めて答える。



「いいわ。どうやらワケありみたいだし、無理に聞こうなんて思わないから。でも同じ漢字を持つ者同士、仲良くできたらいいわねぇ」

「そ、そうですね」



 真雪は善慈を見て首を傾ける。



(何で男の人なのに話し方が女言葉なんだろう……? あ、もしかしてオカマさんかな?)



 別にだからといって拒絶するつもりも差別するつもりも真雪にはない。それどころか初めて見るオカマに興味を注がれた。



「でもごめんなさいねぇ。そういう事情だったなんて知らずに、刃悟が暴れちゃって」

「あ、いえ、それはもういいです。それにあの状況なら仕方無いとも思いますし」

「へん! そもそもあの野郎が卵なんて俺に渡さなきゃこうなってなかったってんだよ!」



 刃悟が思い出したように地面をガシッと踏みつける。



「あ、あの……」

「ん? どうかしたかしら?」

「あの野郎って……誰か他にいたんですか?」

「ええ、ちょっと前にね。ここには仕事に来たんだけど、その子に物を先取りされちゃったのよ」

「ああ、今思い出しても腹立つぅぅぅっ! 次会った時は必ずぶっ飛ばしてやる!」



 刃悟は拳を高く突き上げて高らかに宣言している。真雪は何となく、刃悟をイラつかせている人物が気になった。刃悟が手玉に取られるほどだから、かなり強いと思われた。

 そこで善慈にどんな人物なのか聞く。



「そうねぇ。結構良い男だったわね」

「へ、へぇ」



 何やら目を輝かせて危ない雰囲気を醸し出す善慈にさすがに頬を引き攣らせてしまった真雪。



「それと、多分どこかの使用人よねあの子。ねえ刃悟?」

「ああ? 知らねえよ。俺たちはこの大陸に来たのも初めてだしな。ここらの金持ち事情に明るいわけねえし」

「そうよねぇ。何者なのかしらね、あの赤髪少年くんは」



 善慈の言葉に真雪は弾かれたように顔を善慈へと向けた。「え? なに?」といった感じで善慈は目を見開いていたが、真雪だけでなくセイラまでもが驚愕の表情をしていたので、再度善慈が「どうしたの?」と聞く。



「そ、そ、その赤髪の人って……執事でした?」

「へ? あ、ん~どうかしらねぇ。確かに燕尾服は来ていたけど」



 善慈は首を傾げながら思い出すように発言する。真雪は心臓が高鳴るのを感じている。心の中で「まだだ」と「まだ確証は無い」と言い聞かせてはいるが、もう感覚では確信めいたものを持っていた。



「そ、その人の……な、名前とか……し、知ってますか?」



 真剣な瞳を向けられて善慈も嘘が言えない雰囲気を感じているのか、その迫力にゴクリと喉を鳴らしながらゆっくりと口を動かす。



「ソ、ソージ・アルカーサとか言ってたわよ?」



 繋がった―――――――――真雪はそう感じた。



 そしてすぐさまセイラの方に顔を向けると、彼女もまた目を潤ませ大きく頷いてくれた。

 そう、ここに、近くにいるのだ。探し求めていた人物が。しかも刃悟と善慈がソージと会ってからそう時間は経っていないという。



 今から下山すれば、もしかしたら会えるかもしれない。しかしここで感情のまま行動するわけにはいかないのだ。



 何故なら真雪たちにはミルとの約束である《チェスモモ》探しがあるのだから。だが頼りだった場所ではどうやら手に入れられない。何とか別の方法を探さなければならないのだが、ソージにも会いたいし、《チェスモモ》も見つけたいしで、真雪は困惑していた。

 そんな時、刃悟が「……あ」と小さく声を漏らすと、



「《チェスモモ》ってのがどんなのか分からねえし、売ってる場所とか他に成ってる場所とか知らねえけどよ、山の麓に商売関係に強い情報屋が現れたって話は聞いたぜ。なあ善慈?」

「え? ああ、そういや聞き込みした時、そんなこと聞いたわねぇ。何でも物凄いやり手の美少女お嬢様らしいわねぇ。は~アタシと身体を交換してくれないかしら」



 善慈の最後の呟きには思わず突っ込みたくなるが、それよりも刃悟の言葉が気になり、彼の顔を見ると、彼はビクッとして頬を染めるとそっぽを向きながらも続きを話してくれた。



「い、いや、もしかしてだけどよ、商売に強え情報屋なら、その《チェスモモ》のことだって知ってんじゃねえかな……とか思っただけなんだけど……な」

「刃悟さんっ!」

「うぇぇぇっ!?」



 真雪は彼の両手をガッシリ自分の両手で包み込む。刃悟は盛大に口を開けて驚愕している。



「あ、ありがとうございますっ! 今すぐその人に会って情報を聞いてみますね! 本当にありがとうございます!」



 満面の笑みを浮かべる真雪をチラチラと目だけを動かして刃悟は見つめる。



「い、いや、そのよ、俺がここの木をぶっ潰さなきゃ、もしかしたら簡単に手に入ったかもしれねえし、その詫びもかねてよ」

「いいえ! 本当に嬉しいです! ありがとうございます!」



 真雪は腰を折り精一杯頭を下げる。刃悟は恥ずかしそうにポリポリと頬をかくと、おほんと一つだけ咳払いする。



「あ、あとな」

「はい!」

「その……だな。俺には敬語は別にいい。歳も近いみてえだしよ」

「……うん、分かった! じゃあこれからは刃悟くんって呼ぶね!」

「はうっ!?」



 突然刃悟が胸を押さえて蹲ったので、真雪は心配になり声をかけるが、震える手を上げて「何でもねえ……」と言ってきた。善慈の方を見るとやれやれといった感じで肩を竦めて「本当に大丈夫よ」と言ったので気にしないようにした。



 そして真雪とセイラは、一刻も早く下山して山の麓にいる情報屋を探すべく行動することにした。もう一度刃悟たちに手を振り、



「また会おうね刃悟く~っん! 善慈さ~んっ!」



 セイラもまた一礼して、二人同時にそこから去って行った。






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