第六十二話 フェニーチェの卵ゲット!
「ふ~ようやく彼らも諦めてくれたようですね」
ソージは先程までずっと後をついて来ていた妖霊族の姿が見えなくなり、ソージに攻撃するのは無駄だと分かったのか諦めて見えなくなった。
だが油断すればまた現れるかもしれないので、警戒だけは常にし続け、とりあえず身に纏っていた橙色の炎を解除する。
魔法を使い続けるのも魔力を消費するので必要で無い時は節約するのが賢い。
猫フェムと狐テスタロッサも、ソージの腕から地面へと跳び下り、自分の足で歩き始めた。
「ねえソージ、これってアナタの魔法で治せるんじゃニャいの?」
「いえ、それは無理ですね」
「え? どういうことニャ?」
「どうやらその変化は魔法で治すことはできないようでして」
実は以前にもフェムたちと同じように動物化してしまった者を治そうとしたことがあるが、得意の緑炎でも人型に戻すことはできなかったのだ。
「そ、そんニャ~……」
「だからこそ、多くの者たちが敬遠する場所なのでしょうね」
「…………コン」
だからテスタロッサさん、可愛らしく鳴かないでもらいたい。つい抱きしめたくなるから。ソージは本能と理性との戦いで、理性を支持して頑張っていた。
「まあ、近いうち戻ると思いますが……」
「ん? 何? もしかしてニャにかあるのニャ?」
言っていいものかどうか迷う。戻るのは完全にランダムであり、戻らない時は一日以上かかったというような話も聞く。しかも戻る時は裸になるのだ。
今ここで言えば、確実にとりあえず下山するということになる可能性が高い。そうなると、もしかしたら卵を探せずに帰ることになるかもしれない。
ヨヨの仕事は明日も別口で溜まっているので、いつまでもここでのんびりしているわけにはいかないのだ。
そう考えると、サクッと用事を済ませて下山する方が、ソージ的には良いと判断した。
「大丈夫です。害は無いはずですので、今しばらくはその状態を楽しまれてはいかがでしょうか? それにそのお姿もとても可愛らしいですよ?」
「え……そ、そうニャの? ふ、ふ~ん…………ま、まあいいニャ。アタシも心が広い女性ニャし、ちょっとくらいは我慢してあげるニャ」
「さすがはフェムさんですね」
何やら顔を赤らめているが、やはり動物の姿は恥ずかしいのかとソージは思い、心の中で謝罪はしておく。
「それでフェムさん、確かフェニーチェの卵は、この先にある大木の枝にあるのですよね?」
「そうニャ。動かされてニャかったらまだあるはずニャよ」
「ではサクッと行きましょうか」
「ニャ? ニャんか急にやる気にニャったニャ?」
「あはは、気のせい気のせい!」
ソージは誤魔化すように笑いながら先を進んでいくが、疑わしそうな目つきでフェムが睨んでいることには気づかなかった。
ソージはフェムの案内のもと、ようやく卵があるとされている一本の大木に辿り着いた。大木と言うよりは巨木といった方が良いくらいの大きさである。
太い幹は、地面をがっしりと掴んでおり、台風が直撃しても揺らぐことが無いような意志を伝えてくる。それに胴回りなんて半径十メートルはあるのではないだろうか。
そして上空を見上げれば赤々と茂っている紅葉した葉が目に入ってくる。枝も一本一本が普通の木が生えていると思えるほど頑強である。
その枝には鳥の巣らしきものが数多く見受けられ、中にはどうやら幾つかの卵があるようだ。
「う~ん、あの中のどれかにフェニーチェの卵があるということですか?」
「そうニャ。えっと……どこニャったかニャ……?」
過去の記憶を思い出すように首を傾ける猫フェム。その仕草が堪らなく可愛い。ソージが撫でくり回したい衝動を必死で抑えていると、狐テスタロッサが口を開く。
「…………二時の方角。三つ目の鳥の巣……コン」
やはりさすがは《自動人形》のテスタロッサ。その記憶力は人間の比ではないようだ。彼女に言われて遠目に確認すると、確かに二時の方角に鳥の巣が幾つか点在している。そして全部で四つほどあるが恐らく幹をから数えて三番目の鳥の巣が、フェムたちが過去に卵を見つけた場所なのだろう。
「お二人はここでお待ち下さい」
ソージはそう言うと、素晴らしい跳躍で枝から枝へと駆け上っていく。そしてテスタロッサの言う鳥の巣を視界に入れた時、ギョッとなる。
何故なら確かに鳥の巣の中には卵があるのだが…………
(…………多過ぎでしょ?)
そう、大きな鳥の巣の中にはそれこそ十個以上はあった。しかも一つ一つが十キロの米袋と同等の大きさなので持つだけでも一苦労しそうだ。
しかも全部が同じ卵の色と形をしている。何でもフェニーチェの卵は産み落とされた瞬間、そこにある景色に同化するかの如く変色するというのだ。一種の擬態である。
今回はたまたま近くに卵があったのでその卵の色に成り変わったのだろう。しかも他の卵も同じ大きさなのでこれは見分けがつかないなとソージは嘆息する。
ソージはとりあえず鳥の巣の中に入り直接触ってみる。どれもほんのりと温かく、生命の息吹を感じさせるようだ。
「とりあえずどれがフェニーチェの卵か確かめるしかないか」
そう思い、ソージは右手を左手を前に突き出し、
「記を映せ、青炎」
その両手から青い炎が噴出し、卵を覆っていく。この炎はそこに刻まれた記憶を炎に映し出すことができる効果を持っている。
ソージの前に出現した青い炎に卵たちの過去が映し出される。無論見るのは産み落とされる瞬間である。そこを見ればフェニーチェの卵がどれかはハッキリする。
何個か目の卵の時、青い炎にとても美しい紅蓮の羽毛で包まれた鳥が現れる。
(フェニーチェだ!)
ソージは映像なのに、その姿に興奮する。まるで日本で見たフェニックスのような凛々しく美麗な姿である。思わずゴクリと喉が鳴るほど見入ってしまう。
映像はそこで終わり、ソージは一つの卵にゆっくりと近づく。それは確かによく見れば他の卵より少しだけ大きいような気がする。ソージはそっと手を触れる。
もうフェニーチェの復活日はまもなくだ。この卵が孵化するかはどうか分からないが、ソージの手を伝って確かな命の脈動を感じる。
ソージは橙炎を創り、卵を優しく抱え込むとフワッと浮かせる。そしてそのままソージは炎を動かしながら下にいるフェムたちのところへ戻った。
「それがフェニーチェの卵ニャの?」
どうやらあまりフェムは興味が無いようで淡々とした物言いだった。
「あれ? フェムさんは一度見たことがあるのでは?」
「あるニャ。けどニャ、その時はまだ擬態していニャい卵ニャったニャ」
なるほどとソージは思った。恐らく彼女が卵を発見したのは、フェニーチェが産み落としてまだ間もない時だったのだろう。だからまだ卵は擬態をせずにフェニーチェの卵だと判断できたのだ。何故なら元々フェニーチェの卵は、まるで炎のような紋様が入った火の鳥に相応しい美観をしている卵なのだから。
「…………識別。フェニーチェの卵と断定……コン」
「…………そう言えばテスタロッサさんは卵の識別ができたの忘れていました」
わざわざ青炎で調べなくてもテスタロッサを連れて行けば事足りたということだ。しかしソージは映像だけだがフェニーチェの姿が見れたので良しとした。
「さて、お嬢様のところへ帰りましょうか」
ソージがその場から足を動かそうとした時、
「―――――――――待ちな」
ソージの足を止めたのは、一人の男性の声だった。




