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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第三章 再会と卵編
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第五十八話 家族の旅

「えっと…………何です皆さん、そのお荷物は?」



 今ソージの目の前には奇妙な光景が広がっていた。数時間ほど前に突然現れたフェム・D・ドレスオージェとその《自動人形(オートマタ)》であるテスタロッサ。

 彼女らの話を聞いたところ、ソージにとって興味深いものがあった。それは今話題の火の鳥フェニーチェについてである。



 ちょうどフェニーチェの復活日が近づいており、南の街ではそれを祝って復活祭なるイベントも行われているようなのだ。

 だがそのフェニーチェを実際に目視することはかなり難しく、ソージもできれば一度大空をはばたく様子を見てみたいと思っていたのだった。



 そこでフェムは、幼い頃に一度見たフェニーチェの卵のことをソージに教えてくれたのである。その卵がある場所を聞くと、ちょうどその方面に仕事の用事もあるとのことで、確認がてら卵を探すのも一興だということでヨヨが了承した。



 その場所に行くのは、当初の予定だとソージ、ヨヨ、フェムにテスタロッサの四人だけのはずだったのだが……



「……何で母さんたちも?」



 そう、ソージの目の前にはお出かけ支度を完全に整えて遠出しますよと意気込んでいるソージの母親であるカイナや、ニンテやユー、それにユーの母親であるシーまでいた。



 どうやら話を聞きつけたカイナが是非私たちも行きたいということでヨヨに申し出たそうだ。



「……よろしいんですかお嬢様?」

「ええ、別に私たちは卵が目当てで行くわけではないもの」

「え?」

「卵を探すのはソージの役目でしょ?」



 確かに実際に卵を見たいと言ったのはソージなのだが……。



「で、ではお嬢様たちは?」

「これから行くのは【シンジュ霊山】よ。今の季節、綺麗に紅葉しているでしょうから、私たちは山の麓で紅葉狩りでも堪能しておくわ。ソージは思う存分山を駆け巡って来なさい」

「はぁ……」



 別に山が恋しい野生の生き物でもないのだが、確かに一人の方が動きやすいというのはある。こんなに大勢で山の中に入られると、目が届きにくいし危険もある。



「安心なさいソージ! 案内はアタシがしっかりしてあげるから!」



 ……そう言えばフェムがいたのを忘れていた。



「……ところでフェムさん、まさか卵があるのは【シンジュ霊山】の最奥地点とか言いませんよね?」

「ん~どうだったかしらね……そんなに奥じゃなかった気がするわ。だってあそこってば鬱陶しい奴らもいっぱいいるし、奥になんか行きたくないしね」

「それならいいのですが」



 少し釈然としない回答ながらも、できれば山の中腹くらいで卵が見つかりますようにと祈る。何故なら【シンジュ霊山】には普通とは違った者たちが住まう地なのだ。

 ソージも修行の旅をしている時に、一度行ったことがあるが、面倒な場所だという印象がとても強い。



 だが確かにあそこならフェニーチェが静かに卵を産み落とせたのも納得はできる。【シンジュ霊山】の特徴は、深い森に覆われた山であり、滅多に人も入って来ないし、何より卵を狙うような生物がいないのだ。

 そこなら卵を安心して産めるとフェニーチェの判断だろう。



「噂では卵が孵るのももうすぐですよね?」

「ええ、卵が孵るのは、フェニーチェの復活日と同日だという話のようだしね」



 ヨヨはその薄い唇を震わし説明をしてくれた。

 その復活日はもう間もなくであり、つまり卵が孵るのも同様だということ。なかなかにタイミングの良い話だが、ソージにとっては幸運だった。



 ただ卵が必ず孵るとは限らない。復活日を迎えても孵らない場合は、砂のように粉々になり、そのまま土へと還ってしまうのだ。

 だからもし見つけても、空を飛ぶフェニーチェを見たいというソージの願望が叶うとは限らないが、可能性がある以上は試してみたいと思っているのだ。



「それじゃソージ、準備できてるかしら?」

「はい。馬車もご用意できております」



 実際は馬車だけカイナが用意した。皆が乗れるような馬車を頼んだようだ。



「なら行くわよ」



 かなりの大人数での遠足になってしまい、若干この先が思いやられるような気持ちでソージは軽く溜め息を吐いて屋敷の外へと出た。







 馬車は特注で用意した大きな荷台のついた巨大馬車である。それを引く馬も頑健な体躯を宿した馬が二体もいる。

 荷台は、まるでバスのような感じで左右に座る台が設置されてあり、中央には人一人が普通に通れるほどの空間ができている。天井にはしっかりとした屋根もついてあるので、万が一雨が降っても大丈夫である。



 ソージは馬の手綱を握る役目を仰せつかっている。ソージ含めて八人の結構な大移動を行っている。

 目的地へと馬車を動かしていると、中からニンテの楽しそうな声が聞こえてくる。彼女もこうやって皆とどこかへ出かけるのは初めてらしい。



 流れる景色に感動を覚えてユーと一緒にワイワイはしゃいでいるようだ。ヨヨは本を読みながら自分の世界にいる。酔わないのだろうか……? するとカイナも外の情景を見ながら、



「はぁ~こんな時、花酒(はなざけ)でもグイッといきたいわね~」



 おいこら母親よ、少しは息子と代わろうと思わないのかとソージは密かに思うが、それは無いんだろうなと自己完結する。



「ふふ、でもこうやって陸を旅するのも久しぶりですわ」



 シーが頬に手を当てながら懐かしげに微笑んでいる。



「へぇ、そうなんだ。まあ、たまにはのんびりしないとね~」



 おいこら母親よ、あなたはいつものんびりしているがと言いたいが、手綱に集中しなければならないので突っ込むのは止めておいた。

 するとそこへユーがニンテとソージの方へ近づいてきた。



「ねえ、おにいちゃん、どれくらいでつくの?」



 ユーが目的地にかかる時間を聞いてきた。



「そうですね、この調子だと四、五時間といったところでしょか」

「ふわ~結構かかるんです?」



 ニンテの問いには頷きを加えて答える。



「ええ、ですからゆっくり風景でも楽しんで下さい。あと、お花を摘みたくなったら言って下さいね」

「え? 何でお花なんです? ユーちゃん、分かる?」

「……たぶん、おにいちゃんはおハナずきなの」



 二人の言葉にどう答えていいものか思い悩んでいると、



「そんなことも知らないの? お花摘みというのは、用を足すという隠語よ」



 フェムが二人に向かって説明している。そして「ようたし?」や「いんご?」など二人が首を傾けるのを確認すると、フェムは「しょうがないわね」と言って丁寧に説明してあげている。



(へぇ、結構面倒見が良いんだなぁ)



 フェムの意外な部分を発見し感心げに唸る。そこへテスタロッサが、ソージの隣にチョコンと座った。



「…………えっと、何です?」



 何も喋らずただ座られたことに動揺してしまう。



「…………助手」

「へ? じょ、助手? あ、ああ~もしかして交替で手綱を握って下さるということですか?」

「…………共同作業」



 共同作業はまたちょっと違うような気もしたが、どうやらソージ一人では大変だと思って手伝おうとしてくれているようだ。

 人形だからか、感情は読みにくいテスタロッサだが、こうした気遣いもできるとは素晴らしいとソージは素直に思った。



「お心遣い痛み入ります。ですが大丈夫です。五時間程度で根を上げるような鍛え方はしていませんので」

「…………驚愕執事」

「あはは、私にとってはテスタロッサさんこそ驚愕ですよ?」

「…………?」

「だって、《自動人形(オートマタ)》なのに、物凄く人間らしいですから」

「…………否定。テスタロッサは人間ではない」

「ええ、ですがあなたには心があります」

「…………心?」

「そうです。人を想い、気遣える人は、普通の人間にもそうはいません。誰もが自分優先で考えますからね。特に今の世の中では。ですがテスタロッサさんは違います。とても純粋で、真っ直ぐ人を見て、気を遣える方です。それがとても人間らしいのです」

「…………理解……不能」



 テスタロッサは若干俯きがちに顔を伏せる。



「すみません、困惑させてしまって。お気に障ったのでしたら謝罪します。馬鹿な執事の妄言とでも思って下さい」

「…………不愉快ではない」

「あはは、それは良かったです。あ、ほら、あなたの御主人様がどうやらお困りのようですよ?」



 見れば、次々と質問を投げかけるニンテたちに戸惑っているようだ。彼女もまたそれに応えようと必死なのが微笑ましいが、きっと答えにくい質問や分からない「なんでだろう?」を尋ねられたのだろう。得てして子供はそういう質問を良くするので、ソージも困ることがある。



「行ってあげて下さい」

「…………疲れたら言う」

「……分かりました」



 本当に心優しい人形だなとソージは心が温かくなるような気持ちがした。



「ねえ~ソージィ~、何かおつまみとお酒無い~?」



 ああ、分かってる。これが自分の母親だって。泣いてはいない。泣いてはいないぞ。ただちょっと目頭が熱くなっているだけなのだ。

 温かさに触れた直後、実の母親から氷山に埋められるような気持ちになったソージだった。





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