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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第三章 再会と卵編
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第五十七話 チェスモモを目指して

 ソージが住む【モリアート】の街から数キロ離れた場所に【ブラッシュ】という町に天川真雪と星守セイラの二人がいた。

 彼女たちはこの世界に英傑として召喚された日本人である。セイラは外国人のハーフなのだが、二人とも日本に居た時にこちらの世界である【オーブ】に召喚された。



 召喚された理由は、この世界にいる魔族たちの横暴を嘆いた皇帝の勅命を受けた【ラスティア王国】が優秀な召喚士に彼女たちと、少年を一人召喚させたのだ。

 しかし魔族を討伐するために彼らの住む大陸である【ゾーアン大陸】へ向かった三人だが、すでに討伐すべき魔族がある少年一人に滅ぼされていた。



 その正体がもしかしたら真雪の幼馴染である朝倉想二ではないかと思った真雪は、置き手紙を国に残してセイラと二人で旅をしているのだ。

 優秀な情報屋に二人が会った少年の外見をしているソージ・アルカーサという人物の居場所を聞き、ソージが住む【モリアート】に向けて進んでいたのだ。



「ねえセイラ、聞いた?」

「へ? 何をですか?」



 真雪が歩きながら隣で歩いているセイラに声をかける。真雪は黒く艶光りする綺麗なストレートヘアーを持っていて、笑顔がとても良く似合う美少女である。身長は146センチと結構低いのだが、女性の象徴である二つの膨らみは、男性の注目を浴びるほどの豊かさがあり、歩く度にプルンプルンと揺れる。



 セイラの方は、茶髪でウェーブがかったショートヘアーを持つ。彼女の瞳は碧眼であり、外国人の血を色濃くその瞳に宿している。二人とも、まだ十代の少女であるが、間違いなく美少女のルックスを備えている。



「何でもさ、もうすぐ南の街で祭りがあるんだってさ」

「へぇ、何のお祭りなんですか?」

「何か有名な鳥の復活日らしいよ」

「鳥? 復活日? それって何ですか?」

「ん~なんだろうね! 分かんないや!」



 陽気に笑う真雪を見てセイラも釣られたように笑みを溢す。



「そんなことよりアレだね! もうすぐ会えるね、例の人に!」

「はい!」



 二人は目標が段々と近づいていることに浮かれながら道を歩いていると、ふと真雪の目に一人の少女が映った。



 その少女は一人の男性に食ってかかるような勢いで何かを話している。だが男性は首を振るだけで少女はガックリと肩を落としている。すると少女は諦めたようにその場から離れていく。

 気になった真雪は、少女の背中を申し訳なさそうに見つめている男性に近寄ると、



「何かあったんですか?」

「え? き、君は?」



 当然男性は突然話しかけられたことに驚く。



「あ、すみません。私は真雪って言います。さっきあの子とやり取りしてたのが気になって」

「あ、ああ……実はね、あの子の母親が厄介な病気にかかってしまっているらしくてね」

「はぁ……あ、もしかしてお医者さんなんですか?」

「え? そうだよ。一応町医者を務めてるんだけど……」



 どうやら少女はこの医者に薬の処方を頼みに来たとのことだ。だがその薬は扱っておらずそのことを告げたら少女は今すぐ取り寄せて欲しいと頼んだらしい。

 しかしたとえ取り寄せたとしても、少女が必要としている薬は結構珍しいものであり、取り寄せるのにかなりの時間を有する。



 それを聞いた少女は、それでは母親は間に合わないと言い、他の街にも行ってみると言っていたそうだ。



「え? そんな……だってあんな子一人で外に出るのは危険だよ!」



 町の外は危険な生物や賊だっているのだ。下手をすれば命を失うことだってある。真雪は急いで少女を追いかけて行く。



「あ、真雪さんっ!」



 セイラは男性に軽く頭を下げてから真雪を追いかけた。



 すぐに少女に追いついた真雪が彼女に声をかける。



「ねえ、ちょっと待って!」

「……!?」



 少女は後ろを振り向き真雪を視界に捉える。その大きな栗色の瞳からは大粒の涙が流れ出ていた。

 真雪はいきなり声をかけてきたことで困惑している少女に優しく問いかける。



「お母さん、病気なの?」



 少女は黙ってコクンと頷く。



「話、聞かせてもらってもいいかな?」



 真雪は追いついてきたセイラとともに少女から詳しいことを聞くことになった。





 真雪が少女から聞いた話はこうだ。

 少女の名前はミル。ある日、ミルの母親が倒れたという。母子家庭であり、いつも夜遅くまで働いている母親に疲れが溜まったのだろうと医者は判断した。



 数日休養していれば時期に良くなると言われ、ミルも安堵していたのだが、一日、二日、そして三日が経っても症状は良くならない。それどころか熱が上がり体中にも発疹が出始めた。しかも通常赤く腫れる発疹だが、何故かくすんだ青色をしていたのだ。



 再度医者が調べてみたところ、これは非常に珍しい病気であり『青風邪(あおかぜ)』と呼ばれているものだった。大昔はこれにかかる者が大勢いたそうだが、時代を越える度に次第に鳴りを潜めていき、今ではほとんどかかる人もいない病だった。



 だからこそ薬を常備している者もおらず、こんな小さな町の医院の薬ストックの中にも用意されてはいなかったのだ。

 大きな街や、国に常駐する医者や治癒士ならば治せるかもしれないが、残念ながらこの町にはいないのだ。



 この『青風邪』だが、症状は三段階に分けられる。まず最初、風邪のような症状が出始め、三日経つと体中に青い発疹が出始める。するとそこから急激に体力が減っていき、意識が混濁し始めるのだ。



 そしてさらに三日後、今度はその発疹が体中を埋め尽くすように広がり、肌の色が真っ青に染まっていくのである。そしてその後は、早ければ数時間後に死に至るという恐ろしい病なのだ。



「そんな……えぅ」



 セイラは唇を震わせて恐々と呟く。それほど怖い病気だとは思っていなかったのだろう。真雪は真剣な表情で顔を俯かせているミルに言う。



「お母さんのところに案内してくれる?」

「え?」

「いいでしょ、セイラ?」

「も、もちろんです!」



 ミルは二人の顔を見上げながら戸惑いを隠せないようだ。真雪は安心させるように努めて笑顔を絶やさない。



「もしかしたら私たちにお手伝いできることがあるかもしれないからさ!」



 その言葉に希望を見出したのか、ミルはぱあっと表情を明るくする。



 それからミルの案内の下、真雪たちは町を歩き、一つの家に辿り着く。日当たりも良く立派な石造りの家だった。母子家庭ながら頑張っているのだろうとミルの母親を尊敬する真雪。



 中に入ると、左手にキッチンが現れ、そして右側に行けば簡素ながらもベッドが二つあった。その一つに女性が横たわっていた。

 布団から出ている顔を確認するが、まだそこまで発疹が広がっていないのか、まだ顔色は熱のせいで赤いままだった。しかしミルが布団を少し持ち上げて、母親の腕を見せてくれた時、二人は言葉を失った。



 その腕はまるで生気を感じさせないような青だった。よく打ち身をすると青たんができたりするが、それが腕全体に広がって血の気を感じさせない。凍傷していると言われても納得するほどだ。



「何か分かるセイラ?」



 真雪はセイラの《深視(ハイビジョン)》に頼った。彼女の瞳は、透視することができ、視るだけで大体の状態を把握することができる。だから今、ミルの母親がどれだけ危険な状態にあるか視てもらっているのだ。



 セイラもまた真雪に言われる前に行動していたようで、黙って観察していた。そして静かに彼女は口を開く。



「これは……確かに厄介な病気のようです」

「そうなの?」

「はい。体中の生気が微弱で、血の巡りも悪いようです。この方には《魔核》はありませんから、魔法の暴走というわけではないようです。本当にただの病だと」

「なるほどね……セイラの能力で治すことはできない?」

「えぅ……すみません。セイラの力は傷などは治せますが病気は無理なのです」



 申し訳なさそうにシュンとなるセイラ。セイラもそうだが真雪もそれぞれに特殊な力を体内に宿している。それはこの世界に来た恩恵とも呼べるのだが。



 【英霊器召喚】でこの【オーブ】に召喚された彼女たち。彼女たちは、その身にかつて世界で活躍した英傑の魂である【英霊】が宿っている。そしてその【英霊】が行使した力を真雪たちも使えるというわけだ。

 セイラの《深視(ハイビジョン)》もその一つだということ。



「そっか、んじゃやっぱり薬しかないんだね」

「うん、だからおっきな街にいけばあるかもしれないから、今からいこうって思って……」



 ミルの選択は正しい。それしか方法が無いなら追い求めるべきだろう。だが幼い彼女一人で外に出るのは危険過ぎる。それほど【オーブ】の治安は良くないのだ。

 貧富の差が激しいこの世界では、今も多くの賊が闊歩している。その者の多くが魔法を使えない者たちであり、魔法士が優遇されるこの世界ではそういった現況が広がっているのだ。



「ん~でもその薬が本当に街にあるかどうかも分からないんだよね?」

「え? そ、それはそう……だけど……」

「その薬の名前は?」

「おくすり……というかトッコウヤクになる食べ物があるの」

「食べ物? それはどんなやつ?」

「《チェスモモ》ってやつだよ」

「……知ってるセイラ?」

「あ、はい。城に居た時に本で読んだことがあります」

「それ本当? いつ?」

「えっと……というか一緒にお勉強したと思うのですが……」



 どうやらセイラはこの世界に来て、常識を学ぶために教育を受けている時に勉強したことを言っているのだ。セイラはその時、本でその名前を目にしている。



「あ……あはは、だ、だって勉強って苦手なんだもん」

「た、確かに真雪さんはいつも寝ていらっしゃいましたね……」



 呆れるように溜め息を吐くセイラに、あっちゃ~っといった感じで頭をかいている真雪。



「そ、それでその《チェスモモ》ってどんな食べ物なの?」

「果物の一種ですね。確かこの【ドルキア大陸】に成っている木の実だったと」

「そうなの! そんじゃあさ、街に探しに行くよりも、その木を探した方が確実なんじゃないの?」



 真雪がミルにそう言うが、彼女は暗い表情を浮かべる。



「ど、どうしたの?」

「真雪さん。その《チェスモモ》、確かに見つけることはできるかもしれませんが、さすがに彼女一人では無理なんです」

「え? どうして?」

「その《チェスモモ》の木が生えている場所が問題だからです」

「問題? ど、どこに生えてるの?」

「ここから北にある【シンジュ霊山】と呼ばれる場所です」

「へぇ、こっから近いの?」

「急げば一日でも着くと思われますが……」

「よしっ! そんじゃ行こ!」

「ええ!? い、いいのですか!?」

「うん! だってミルのお母さん、この症状を見るに、猶予はあと三日くらいなんでしょ? だったら急がなくちゃ!」

「で、ですがその……朝倉さんの件はいいのですか?」

「困っている人優先だよ!」

「…………ふふ、真雪さんらしいです。分かりました」



 真雪の押しにすっかりと負けてしまったセイラ。そしてミルはいまだに呆気にとられたように固まっている。



「ねえミル、私たちがその《チェスモモ》を獲って来るから待っててくれる?」

「え……で、でもその……いいの?」

「いいのいいの! 子供は遠慮なんかしちゃダメなんだよ!」



 太陽のような笑顔を浮かべる真雪を見て、ミルは涙を浮かべ始める。



「おっ……お……おにぇがい……じます……」



 真雪は彼女の頭をそっと撫でると、



「うん、急いで戻って来るからさ。それまでお母さんのこと目一杯看病しててあげてね」

「う、うん!」

「よし!」



 ミルの良い返事に真雪も嬉しくなりグーサインを返した。



「そんじゃ行くよセイラ!」

「分かりました!」



 そうして二人は【シンジュ霊山】に《チェスモモ》を目指して急いだ。





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